術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第43話

 

八峡義弥の肉体は本来、洞孔は約一割程の展開だった。

左腕を中心にした矮小な展開度。

祓ヰ師として劣等と称させる状態だ。

だが、今の八峡はその肉体に余す事無く洞孔を展開している。

 

「う、ラァア!!」

 

地面に突き刺さる刀身を抜く、それを使い、天積を切る為に立ち向かう。

 

「言った筈だッ!」

「この領域は」

「俺の腹の中ッ!」

「俺の世界なのだと!!」

 

天積が八峡の握る刀身を認識すると切っ先から灰色の炎が点火し、刃を包んで八峡義弥へと向かっていく。

 

それを認識した八峡義弥は赤黒い稲妻を洞孔の穴径から放出。

刀身を包み込み、灰色の炎を飲み込んだ。

 

そして刀身は黒くなり赤き葉脈の様な痕が刀身に広がる。

 

「(ッ俺の道理が呑まれたッ)」

「(馬鹿な、そんな筈はッ! くッ!)」

 

振り下ろされる刃。

天積は自らが握る煤の刃で応戦。

刃と刃が重なり合い。

 

強い衝撃が掌に響き、八峡義弥の握る刀身が砕ける。

 

「ッ」

「(なんだコイツは)」

「(これが先程までの)」

「(弱者の姿だと言うのか)」

 

闘気を剥き出しにする八峡義弥を見て天積は、数歩後退し、自らが震えている事に、気が付く。

 

「(馬鹿な)」

「(そんな筈が無い)」

「(この、この俺が)」

「(この男、などに)」

 

牙を剥いて天積は二振りの刀を握り締めて、後退した分の距離を一歩で詰め。

 

歯を食い縛り煤の刀身を振り下ろす。

八峡義弥はその一撃を目視して、即座に回避する。

 

一撃、二撃。三撃。連撃

弾丸すら切り捨てる天積の攻撃を八峡義弥は回避して傍に刺さる刀身を二振り握り締めて。

 

赤黒き稲妻を刀身に帯びさせるとそれを使役して天積と鍔迫り合いを行う。

 

「ぐ、うぅッ!」

 

「あ、あぁあァあ!!」

 

鋭利な刃先が磨り潰される互いの力技。

軋む鋼の音が耳奥を引っ掻く。

 

「が、ぁあぁぁああッ!!」

 

そして。押し負けたのは天積。

両手に握る煤の刀身を弾き即座に二振りの刃を振るうが。

 

「ッ!」

「(刃が通らねぇ!!)」

 

その甲冑は正しき太刀筋で無ければ決して通る事の無い代物。

剣術など嗜まぬ八峡義弥には決して通る事の無い絶対領域。

 

それでも。

八峡義弥は拳を握り締めて赤黒い稲妻を迸らせながら天積の甲冑ごと、殴り飛ばす。

 

「がッ、ぐ、フッ、ぅ!」

 

甲冑に刃が通らなくともその衝撃は甲冑を通して天積の生身へと通過する。

 

内臓を掻き回された様な感覚。

即座に、肉体を走る痺れまたもや、指先が震えている。

 

「(まさか)」

「(まさか、そんな筈が無い)」

「(コイツが)」

「(この、男が)」

 

断じてあり得ぬ。

そう断言しながら双剣の煤の刀身。

その片割れを捨て両手持ちにする。

八峡義弥は再度天積に立ち向かい真横に剣を振ろうとする。

決して、剣術など呼べぬ粗末な太刀筋。

 

「(一の太刀は受ける)」

「(後手にて脳天から)」

「(股先まで切り捨てるッ)」

「(それで終わりだッ!)」

 

上段の構えのまま天積は八峡義弥の一撃を待つ何の遠慮も無く横薙に振るわれる刃。

それを受け止めれば後は、天積の行動によって終了する。

その筈だったのに、彼の感覚がそれを受けてはならぬと告げる。

咄嗟に天積はその攻撃を後ろへと避けると同時。

 

八峡義弥の振るう刃。

その切っ先が剣術以外を通さぬ甲冑を切り裂き、彼の腹を破る。

久々に感じる痛覚、赤く染まる目の前。

瞬時に自らが切られると知り、よろめきながら天積は自らの腹部に手を添える。

 

「(また、この、感覚)」

「(この、俺が)」

「(この俺が)」

「(こんな男に)」

「(この様な男に)」

 

血が付着した手を口元に添える。

そして両の頬を指で挟む。

 

しかし、八峡義弥はその男の表情を伺る。

天積は笑っていた。

 

「(この様な、男に)」

「(期待、しているのか)」

「(この弱者が)」

「(俺の、この濁り切った世界に)」

「(終止符を打つ男であると)」

「(そう言うのか)」

「はッ、ははッ」

「酔狂な……」

「だが……」

 

酔い痴れてみたい。

そして生涯に一度の夢が見れるのならば、この男を最期の肴として永遠の眠りに付いてみたい。

 

「良い」

「お前が俺の死となるならば」

「長年、待ち侘びた存在であると言うのならば」

「踊り狂い、狂喜乱舞と洒落込もう」

「……貴殿、名を、なんと言う?」

 

天積は甲冑を外し、煤だらけ、火傷だらけの素肌を晒す。

八峡義弥に甲冑を破られた以上それはもう、枷でしか無かった。

天積の問いに八峡義弥は牙を剥いて言う。

 

「名乗る名前なんざ」

「何一つありゃしねえ」

「手前は、名前も知らない」

「どこぞの奴に負けて」

「そんで死んで逝け」

 

刀身を強く握り締める。

その言葉、覇気を感じ、天積が握り締める刀が震える。

 

それは自らの腕の震え。

武者震いであった。

唯一無二の死。

それが八峡義弥であるのならば。

 

「ならば」

「赤く、黒く」

「激しく、轟きを隠さぬ」

「動乱たる雷鳴よ」

「俺の炎を掻き消せるか?」

 

笑みを隠さず。

天積は、煤の剣を構える。

終盤の闘争が始まる。

 

その術式は、恐らく、誰もが知り得る術式。

五十市依光は天性の才能を持つ存在だった。

 

元来。

一般人が祓ヰ師になる、そんな事自体が異例な話。

 

例えそれが真であったとしても。

古来より続く、由緒正しき正統な祓ヰ師よりも実力が上など、あり得ない。

御三家に値する程の術式。

五十市依光はたった一代で成り上がったのだ。

 

故に神童と呼ばれた彼であるが、その術式に対する情報機密の緩さ、誰も彼もと自らの術式を話す為に五十市依光の情報は簡単に漏洩していく。

だからこそ、その途方も無い才能と術式に、誰もが五十市依光に憧憬し、嫉妬した。

 

「そう、誰もが知る」

「その術式は」

「一年後から入学した」

「ボクらでさえも知っている」

 

その術式は八峡義弥の様に赤黒い稲妻では無く青白い流水と、相違点はあるが。

 

それでもその本質はまったく同じ。

 

「〈侵蝕(しんしょく)術式(じゅつしき)〉」

 

それは放出する神胤を物質や肉体に通す事で洞孔を築き上げる術式。

その力を駆使すれば如何に洞孔の展開率が低くとも自らの術式によって肉体のほぼ全体に洞孔を作り上げる事が可能。

そして、それを物質に通せば全ての物質は士柄武物の様に成り得る。

最も危険であり最も凶悪とされる、この侵蝕術式は他人に神胤を通せば一般人でも一流祓ヰ師の様に洞孔を広げる事も可能であり、逆に神胤を通す事で他者の洞孔を侵蝕し洞孔・神経を不能にさせる事も出来る。

士柄武物でさえも超常の力を宿す武器でさえも侵蝕術式によって神胤を通せば如何なる武器も支配し、制覇出来る。

八峡義弥はその術式を使い自らの体に洞孔を張り巡らせ、龍の様に渦巻く炎を大地に神胤を侵蝕させる事で道理の領土を己が色に染め上げた。

 

五十市依光は過去に。

転生者二人と、救世主を一人、撃破している。

そのうち、転生者に対して展開された道理を、侵蝕術式によって撃破している。

それが、この領土侵蝕による不可侵地帯の生成。

 

道理は己の世界であり、その世界に侵入するものは異物。

 

しかし。

その世界に対して、己の領土を展開する事で道理の影響下を失わせる。

 

転生者と転生者による。

道理の衝突以外。

道理から逃れる術は、極めて少ない。

 

だが、五十市依光は。

その極めて少なき、対処法の一つとして存在していた。

 

中世派の祓ヰ師は五十市依光が死亡した事で仄かに胸を撫で下ろした。

祓ヰ師を作る事が出来る祓ヰ師など今まで築き上げた均衡が崩れてしまう恐れがある。

だから、五十市依光が死亡した事は中世派の連中にとっては不穏分子が切除されたと思うだろうが。

今、この瞬間を以て八峡義弥が侵蝕術式を引き継いだ事で彼らはまた、悪夢を見る事になる。

 

失われたと思われた侵蝕術式、それが今、八峡義弥の術式として活動しているのだから。

 

 

 

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