術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話 作:三流木青二斎
九重花久遠は八峡義弥と天積の戦闘の最中。
物静かに、物思いに耽る。
この戦いで八峡義弥が勝利すれば転生者集団「
これ以上の犠牲者を出す事は無く生き残った者は生還した事に喜びを覚える。
また、未来ある明日に向けて、幸せに歩いて行けるだろう。
しかし、九重花久遠だけは何時もと変わらない、後に訪れる不幸を待ち侘びる日々を過ごすだけ。
今ここで八峡義弥と共に死ねたのならば幸せな日常を噛み締めて幸せなままに死ぬ事が出来る。
陰陽師などに嫁ぐ事は無く大切なものと共に生涯を終える。
それはどれ程、素敵な事なのだろう、不幸のまま生きるのではなく、幸せに包まれたまま心中する。
愛する者を最後まで愛し切って生を終える事が出来る。
それが、彼女の願う最善の幸福だった。
「(けれど)」
そうはならない。
八峡義弥は覚醒した。
だからその様な未来は訪れない。
ある種。
八峡義弥が生存する事は彼女にとっての不幸と繋がっていく事になる。
八峡義弥こそが、九重花久遠の想いを踏み躙っていると言い換えても良い。
「(八峡、さま)」
「(必死になって)」
「(私達を、守ろうと、して、くれて、います)」
「(あなたと、共に、死を願った)」
「(醜い、私、すらも)」
九重花久遠は八峡義弥の姿を直視出来ない。
死を願った彼女が八峡義弥と共に居る権利は無いと。
そう感じてしまった。
「(……私は、愚か、だったの、でしょう)」
「(心の、弱さが)」
「(八峡さま、との自死、を望んで、しまった)」
「(申し訳、ありません)」
「(私は、貴方の傍に)」
「(お仕えする、価値すら、ありません)」
種を出す。
それを遠くに投げる。
神胤を込めた種は発芽して士柄武物を生み出した。
「(せめ、て)」
「(八峡、さまの、為に)」
「(出来る、ことを)」
「(今の私が、出来る)」
「(ただ一つの、やり方)」
それは九重花家の術式。
八峡義弥の助けとなる士柄武物を作り出す事。
〈
嘗て不従万神を封じ、封契神とする為に使役された木剣。
神に対する絶大な特攻属性を宿す。
神の血を啜り成長した樹木、その種を改良した代物。
九重花久遠が作り出す士柄武物にて最大級にして最上級の神剣。
それを八峡義弥の前に出す。
八峡義弥は即座にそれを九重花久遠が贈るものだと理解しそれを握り締めて天積との闘争を繰り広げる。
「(どうか、どうか)」
「(勝利を、八峡、さま)」
「(そして)」
「(私に)」
「(さよ、なら、を)」
「(言わせて、下さい……)」
強く願う。
強く、強く、希う。
それが彼に対する死を願った。
己自身に対する罰として彼女から託された士柄武物。
薙剣を握り締めて八峡義弥は天積に殴り掛かる。
神剣に該当する士柄武物だけあって真剣と斬り合っても傷一つ付かない。
「は、す、ゥッ」
八峡は空気を吸う。
摂取した空気を臨核が分解し、神胤を生成して八峡義弥の力に変わる。
空の手を振るう。
掌から赤黒き稲妻が放出。
地面を侵蝕しながら、敵である天積に稲妻が向かう。
「──—ッ」
煤の剣を構えて八峡の稲妻を認識し、紙一重で躱すと同時。
一呼吸で八峡義弥との間を相殺。
一気に駆け寄ると同時に煤の剣を振るう。
八峡義弥はその一撃を神胤を洞孔に循環。
超高速で神胤を流す事で肉体の強化を行い煤の剣の切断を肉で食い止める。
「ぐ、うぅ! ッ」
鋼の様な感触。
肉と骨を斬るつもりだった天積は目測を誤った。
一旦退避して煤の剣を構える。
「(人間の体ではない)」
「(斬撃は不可能)」
「(ならば刺突に切り替える)」
「(肺か心臓、首、急所に)」
「(其処でも硬ければ)」
「(眼球を抉り)」
「(眼窩から脳髄を掻き回す)」
八峡義弥をどう殺害するか。
天積は考えて笑みを浮かべる。
真剣勝負。
如何に相手よりも手数を増やしどう殺して勝利をするか真剣に悩んでいる。
その悩みが溜まらなく嬉しく感じている。
「すぅー……かはっ」
「(……空気を吸っても)」
「(神胤の生成量が少なくなってきやがる)」
「(空気から神胤を生成する臨核の機能が)」
「(低下していやがる)」
「(早々に決めなきゃ)」
「(押されて負けて死んじまうな)」
八峡義弥は構える。
息を吸い、息を吐いて木剣を構えた。
「(神胤が流れる)」
「(稲妻の様に迸る)」
「(この循環を)」
「(力に変えて)」
「(一気に片を付ける)」
「(肉体が破裂しても良い)」
「(速く動けよ、俺の体ッ!)」
八峡義弥は神胤を超高速で循環させ身体能力を格段に上昇させる。
肉体に負荷を掛けてしまう程の神胤の循環は天積の反応を一瞬遅らせる程に即と動いて。
天積の隣に立つ。
「(速いッ──―!)」
天積が刺突の構えから斬り合いの構えに変えようとするが。
八峡義弥は既に木剣を振るい、天積の腹に鈍い一撃を喰らわせる。
「がぁッ! ぐっ!」
骨が砕ける音が聞こえた。
肉が蠢き腸が揺れ動く。
天積は激痛を食い縛り我慢をするが。
「ぉ、オぉ、おォぉおおぉおぉお!!」
八峡義弥は木剣を振るう。
その全てが強力で天積を殴り倒す。
激痛が体中の到る箇所から響き出して。
「(くッ、は!)」
「(は、ははは!!)」
「(あぁ、久しいッ)」
「(痛みを感じるなどッ)」
「(俺の死が近づいている)」
「(俺に死が与えられようとしている)」
「(逃れる術はなく)」
「(逃れる気も無い)」
「(これを待ち侘びていたのだ。俺は)」
意識が遠くなりながら。
八峡義弥の攻撃を、まるで恋人の愛撫の様に悦に浸る天積。
「(このまま終わりたい)」
「(絶命を迎えたい)」
「(だが、まだだ)」
まだ、天積は。
力の全てを出し切っていない。
全てを出し切らずに死ぬなど、それは彼が最も忌むべき行為。
「(さあ、終盤だ)」
「(赤黒き雷鳴よ)」
「(足掻いてみせろ)」
「(俺を超えてみせろッ!)」
地面を強く蹴り、後方へと下がって木剣の殴打を回避して。
「〈
彼の道理。
その終幕へと向かい出す。
炎が渦巻く道理の世界は。
一気に色素を失い、白と黒が交じり合う。
灰の世界へと転じる。
「──—〈
何処までも濁り切った、炭と灰の世界が広がる。