術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話 作:三流木青二斎
天積。
修羅道より派生された世界。
捨羅道の住人。
彼の住む世界は戦が絶え間なく繰り広げられ死しても死なぬ戦狂いら殺し合っていた。
修羅道の者は不死に近く、殺しても再び復活し、戦地にて争いを続ける理。
唯一殺す事が出来る手段は死した肉体を燃やす事のみ。
如何なる傷も如何なる病も、死した屍があれば何度でも蘇る。
ならばその肉体が無ければ、死した肉体を燃やす事で不死の戦狂いに真なる死を与える事が出来る。
天積の道理はその特性を持つ。
燃え尽きぬ限り永遠に活動し続ける事が出来る。
逆を言えば火に晒され、その肉体が灰燼に帰してしまえば天積は永劫の死を迎える事が出来る。
〈
不死を殺し続けた炎の術理。
天積が不死の戦狂いを殺し炎で燃やし尽くした執念の炎。
〈
天積が殺した不死の戦狂いを標す術理、彼が握る全ての剣は不死を断つ属性を秘める。
そして天積の終局、その極地。
〈
天積もまた、炎と剣によって捨羅道を去った。
その最後がこの道理に組み込まれていき、この道理に存在する捨羅道の住人のみが肉体が灰に変わり果て、如何なる物理も彼の前には無力となる。
この道理に立つ捨羅道の住人は天積ただ一人、決して死なぬ不死の戦狂いに天積は成った。
劔を振るう。
八峡義弥の一撃は天積の体が灰と変わり、その攻撃が通過する。
「はぁッ、はッ、クソッ!」
「(攻撃が当たらねえ!)」
「(いや、攻撃が擦り抜けちまうッ)」
「(無敵かッ、コイツッ!)」
天積は地面に煤の剣を突き刺し地面に向けて語り掛ける。
「纏え」
「不死の戦狂い共」
「俺の道理に棲む者共よ」
「
「ならば
「戦狂い、その執念を」
「この益荒男に見せてやれ」
ず、ず、ずずッ。
地面から灰色の炎が噴き出す。
嘗て天積に殺された不死の戦狂い。
殺したい、戦いたい。争いたい。
彼の道理に棲む戦狂いが煤の剣に乗り移り灰炎の剣が完成する。
「赤黒き雷鳴よ」
「貴殿は俺を殺すに値する」
天積は八峡義弥を認める。
この男の手ならば死んでも良い。
好敵手と認める程に、だからこそ手を緩める気も簡単に殺される気も無い。
「逝け、不死の戦狂い共」
遠距離から灰炎の剣を振るう。
拭き溢れる炎が太刀筋に合わせ、八峡義弥を悠に超える軌跡を作り出す。
「けッ」
「別段恐ろしい事じゃねぇや」
「ただ射程が伸びた」
「そんだけだ」
八峡義弥は地面を蹴る。
最早空気から神胤を生成する事は出来ず、持ち前の神胤を消費して最後の一戦に駆け出る。
「来い」
「言われるまでもねぇ!!」
天積は上段の構えで八峡義弥を迎える。
八峡義弥は駆ける。体中から赤黒き稲妻を発し、木剣に力を籠める。
天積も灰炎の剣に力を込めて炎を滾らせる。
「おぉおおおおおおおおぉおおお!!」
そして、天積は自らの道理すら焼き尽くす、遍くもの一切を焼却する断絶の剣を振り下ろす。
その一撃を八峡義弥は躱し赤黒き稲妻を発する木剣を彼の心臓に貫く。
「ぐッ、がはッ」
「(……その体が)」
「(灰に変わろォが関係ねぇ)」
「(俺の、五十市さんの)」
「(侵蝕術式は灰すらも侵蝕する)」
「(洞孔を展開させた肉体は)」
「(実体を捉える)」
心臓を貫かれた天積は口から血を吐いて満足そうな笑みを浮かべた。
地面に灰炎の剣を突き刺し八峡義弥に向けて首を垂れる。
「……美事」
「赤黒き雷鳴よ」
「……この言葉を」
「唱える日が来るとは思わなんだ」
「あぁ……」
笑みを浮かべて。
八峡義弥にその首を差し出して、敗北を認める言葉を口にする。
「──―参りました」
天積は充足に満ちている。
全力を出した。その上で八峡義弥が上回った。
今回、この人生に、悔いは無いと思える程に。
「この満ちた心と共に死を迎える」
「なんと、心地好い事か」
「赤黒き雷鳴よ」
「首を刎ねるが良い」
「その灰炎の剣にて」
「俺を完全に殺すのならば」
「俺の道理で殺す他無いぞ」
如何に実体を捉えても天積は死んでも再び生き返る。
彼の道理以外では天積を殺す事は出来ない。
「そうか」
八峡義弥は灰炎の剣を握り締めて。
赤黒い稲妻を発し、灰炎の剣を侵蝕して支配する。
そしてその刀を握り締めて。
「……一つ」
「言う事がある」
八峡義弥は天積と言葉を交わす。
「なんだ」
「お前とは二度と戦いたくねぇ」
それは八峡義弥の本心、それを聞いた天積は。
「…………ふ、はは」
「その言葉」
「誉め言葉として」
「受け取っておこう」
「(……さらば、人間道よ)」
「(さらば、赤黒き雷鳴よ)」
八峡義弥は天積の首を刎ねる。
炎が天積の肉体を燃やすと、道理は崩れていき八峡義弥たちは。
現実世界へと、戻っていく。
「……終わった」
道理が崩れていく。
天積の世界が消えていく。
八峡義弥と争った男。
その全てが灰となり消えていくが、八峡義弥の握る灰炎の剣。
これだけは、消え入る事は無かった。
八峡義弥が支配した剣。
それは天積の道理から乖離し、八峡義弥の所有物と化していた。
道理が死に。彼らを照らす太陽が見える。
「(そうか)」
「(これが、勝ちか)」
確信した八峡義弥は現実世界へと戻って来れた。
何時の間にか空を覆う黒の檻は無い、三人の幼女を斃したのだろう。
「……おい」
「イヌ丸。サルちゃん」
「大丈夫か?」
八峡義弥が二人に近づく。
永犬丸も猿鳴も、かなりの深手ではあるが。
「傷は深いが、大丈夫だ」
「おれも、たぶん、だいじょうぶ」
二人の安否を確認して。
九重花久遠は、花天禱の元へと向かっていた。
「花天、さん」
「……あぁ、久遠様」
「転生者、斃したんすか?」
彼女は虚ろな瞳でそう言った。
九重花久遠は頷いて。
「八峡、さまが」
「倒し、まし、た」
それを聞いた花天は馬鹿にするような笑い声で。
「あいつがすか」
「はっ、存外役に立つじゃないすか」
「……久遠様」
花天禱は手を伸ばす。
彼女の腹部から血が零れている。
「多分、死にますよ、私」
「いいえ、そんな、事は」
「いま、治癒を……」
種を持つ。
神胤を放出しようとする彼女に花天は、それを止めた。
「止して下さいよ」
「私は生き永らえる気はないすから」
「どうせ生きてても」
「私の運命は決まってる」
花天禱はこの先。
自らが幸せになる未来は無い。
それを知っている。
だが決して生きる事を諦めた訳では無い。
「どうせ死ぬのなら」
「一つ、思い出話でもしましょうか」
彼女は苦しみなど感じぬ表情で九重花久遠に。話を行う。
「私が久遠様と初めて出会った時」
「貴方に初めて世界を見せた時」
「私は貴方の希望に満ちた表情が好きでしたよ」
箱入り娘だった彼女が、初めての世界に触れて。
絶望よりも先に感嘆に近い喜びを抱いていた。
「絶望に浸る表情も、中々好きでしたけど」
「貴方の笑顔は、とても綺麗で……」
「幸せなんてものを」
「感じてしまいましたよ」
九重花久遠の喜びの表情を見る。
それだけで、彼女は自らの趣向を忘れて。
その笑顔に幸せを感じる事が出来た。
それは、この死の直前で。
ようやく理解した事だった。
「…………何故か、目は見えませんが」
「久遠様、今、どんな顔をしてますか?」
花天の手が九重花久遠へと向かう。
その手を取って頬に当てて。
「……貴方の、好きな」
「笑顔を、浮かべて、います」
そう言ったその表情は困り眉をして笑みを浮かべて。
涙を流している目の見えぬ彼女は。
「嘘吐かないで下さいよ」
「泣いてるじゃないすか」
頬から滴る涙に触れて。
困った様な表情を浮かべる。
「(どうせ、死ぬから……本心を言ってやりましたよ)」
「(貴方の絶望も希望も、私が大好きだったもの)」
「(そして最後に……ざまあみろ)」
「(私は)」
「(私を想い絶望する貴方を想って死ねる)」
「(私が死んで絶望する貴方を想って悦んでいる)」
「(き、ひひ……)」
「(下種で結構……私は、満足だか、ら……)」
心の内も消え失せる。
花天禱は。
永遠の眠りに付くのだった。