術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第46話

八峡義弥は花天を見守る彼女を傍から見て。

 

「久遠」

 

花天の遺体を持ち上げる。

このまま彼女を置いておく事は出来ない。

 

「地下施設に運んでいくぞ」

 

花天を抱く八峡義弥は彼女を地下施設へと運んでいく。

地下施設には医療施設の他にも死体安置所や火葬場も配備してあった。

 

「は、い……」

 

今もなお、涙を流す九重花。

ゆっくりと八峡義弥と共に行く。

そんな八峡義弥たちの前に。

 

「待て」

 

立ち憚る複数の祓ヰ師。

花里崎含める、十数人の九重花家関係者だ。

 

「お前は此処で殺す」

 

最早、九重花久遠の前で猫を被る暇も無かった。

花天禱が死んだ事は。

 

彼らもその不穏さを感じ取っていた。

例え彼女が死んでしまったとしても八峡義弥を殺すと言う任務がある以上。

彼らも引く事が出来なくなっていた。

 

「退いてくれよ」

「手が空いたら相手をしてやる」

 

八峡義弥は極めて冷静にそう言った。

彼らの顔など見ておらず、花天禱の顔だけを延々と見続けている。

 

「駄目だ」

「逃げるかも知れないからな」

 

その気は毛頭ない。

しかし、意地でも逃すつもりは無いらしい。

 

「なら、良い」

「もう頼まねぇからよ」

 

そして八峡義弥は花里崎の事など眼中にも無いように。

ゆっくりと歩いて横を通り過ぎようとする。

 

「ッ」

「俺に背を向けるかッ」

 

花里崎は絡繰機巧〈鴉〉を起動させる。

八峡義弥に向けて〈鴉〉を向かわせて背後から攻撃しようとした刹那。

 

「……」

 

八峡義弥は背中から赤黒い稲妻を迸らせ。

攻撃態勢に移る〈鴉〉に神胤を這わせた。

洞孔が〈鴉〉に展開されて、花里崎の指弦では動かす事が出来なくなる。

 

「な、う、動かん」

「俺の、鴉がッ」

 

指を必死に動かすがそれでも、鴉は動く事は無かった。

 

「今日くらいは静かにさせてくれよ」

「コイツが安心して、眠れないじゃねぇか」

 

そう八峡義弥は口にして九重花家の関係者を見る。

狼狽する花里崎を見た祓ヰ師たちは攻撃すべきかどうか躊躇していた。

 

「皆、さま、どうか」

「攻撃は、おやめ、下、さい」

「今日、だけは」

「どうか、お願いします」

 

九重花も頭を下げる。

祓ヰ師たちは彼女の行動によってようやく、攻撃する意志が殺がれた。

 

「………」

 

歩き出す八峡義弥はある日の事を思い出す。

 

「お前が、最初に言ったんだ」

「イヤなら逃げれば良いって」

「お前のさ、その言葉」

「結構、救われたんだ」

「俺はよ」

 

贄波阿羅との訓練で常に殺されてきた八峡義弥は。

ある日、花天禱と出会い愚痴る様に八峡義弥に言葉を口にした。

八峡義弥は彼女の言葉で逃げる選択を選んだ。

彼女がそれを言わなければこの様な世界線に到達する事は、無かっただろう。

そして、八峡義弥は彼女を、地下施設へと送って行った。

 

地下施設へのエレベーターに乗る。

九重花久遠と共に降りて、八峡義弥が花天禱を死体安置所へと送り。

 

九重花久遠は花天禱の傍から離れる事は無く、八峡義弥は一度その場から離れて地上に戻る。

永犬丸統志郎や猿鳴形を医療施設に送る為だ。

 

八峡義弥もかなりの怪我を負ったが治療を受ける事無く、永犬丸統志郎と猿鳴形を医療施設に送ると、九重花久遠の元へと向かっていた。

このまま治療を受けて彼女の傍から離れてしまえばもう二度と、彼女と会えない、そんな気がしたからだ。

彼女は死体安置所で床に座っていた。

八峡義弥はそんな彼女の隣に座ってただ、何も言わずに時間を浪費し続けた。

 

「……」

 

彼女に掛ける言葉は無い。

大切で身近な人間が死んだのだ。

その精神的ショックは計り知れない。

 

だから八峡義弥は何も言わず彼女の傍に居続ける。

 

「……っ」

 

九重花久遠は唐突に泣き出した。

花天禱との思い出を反復させたのだろう。

 

楽しい記憶、嬉しい記憶、優しい記憶。

それらはもう築き上げる事は無い。

花天禱は死に、全ての記憶は過去のもの。

 

もう二度と、彼女との思い出は更新されない。

手の甲で涙を拭う、それでも涙が枯れる事は無い。

 

彼女は立ち上がり。

その場所から離れていこうとした。

そんな彼女に対して。

 

八峡義弥は彼女の手を取っていた。

もしもこのまま彼女を行かせてしまえば。

九重花久遠は八峡義弥の元へと戻ってこない。

少なくとも八峡義弥の知る彼女ではなくなってしまう。

 

そう思ったから。

八峡義弥は彼女の手を握り締めて強引に彼女の体を引き寄せて、強く抱き締めた。

 

「………」

 

彼女は、八峡義弥の腕から。

逃れようと少しだけ藻掻いたが、そんな彼女の藻掻きを八峡義弥は無視をして強く抱き締める。

九重花は決して離さない八峡義弥の強さに必死の抵抗は止めて、八峡義弥の抱擁を受け止め、そのまま彼の腕の中で泣き続けた。

八峡義弥は、彼女を守りたいとこの時、強く願った。

九重花久遠は、自らの内に感じる不安が解消されていくのを感じた。

時間が永遠に感じる程に二人だけの時間を過ごして、暫く、沈黙が続く中。

 

八峡義弥が、口を開いた。

その内容は、突拍子もなく。

 

「何処か」

「誰も知らない場所に」

「二人だけで、行くか……」

 

と。

八峡義弥は彼女との逃避行を口にする。

それに対して九重花久遠は涙で腫らした顔で。

 

「……はい」

「何処までも、お傍に、居ます」

 

二人は、そう決心をして。

後日。

学園から、この街から、二人の姿は消えていた。

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