術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第47話

 

ガタン、ガタンと汽車に乗る、八峡と九重花。

二人は誰とも知らぬ大地へと向かう。

 

突発的な行動だったが、逆に計画的に行えば他の人間に知られる可能性もあった。

 

そうなれば、誰かが八峡らを追跡する可能性もある。

その為に、逆にその行動が、他の祓ヰ師の目を欺いたとも言える。

 

八峡義弥の席、その隣には着物姿の九重花久遠が。

 

彼の肩に頭を乗せている。

明朝からの逃避行。

少し、眠気があった様子だ。

安心する様に八峡義弥に凭れ掛かっている。

 

「………」

 

八峡義弥は窓から外を眺める。

全ての立体は線と変わり、秒を跨ぐ度に別の光景が移り変わる。

 

森林が見え、トンネルを超え、海原が見えて、駅が止まる。

何時間も乗り続ける八峡達は何処か、別世界の様な町へと到着した。

 

「久遠」

 

八峡義弥が肩に眠る彼女を起こす。

九重花久遠はゆっくりと目を覚ますと其処に八峡義弥が居るのを確認する様に彼の手に指を絡めた。

 

「降りるぞ」

 

小さめに八峡が言って彼女を連れて外へと出る。

秋頃の季節、曇天の空が涼しげだ。

 

「八峡、さま」

「ここ、は」

 

彼女は駅から町を見て言う、蒸気が漂う街。

多くの店が出揃うが人の影が少なく、多くの店が閉店していた。

 

「温泉街」

「前に来た時よりかは」

「随分と萎びてるけどな」

 

そう言って八峡義弥は彼女と共に温泉街へと入って行く。

 

「……以前」

「此処に、来た、事が」

「あるの、です、か?」

 

久遠が八峡に聞く、八峡義弥は、はぐらかそうとしたが。

 

「……あぁ」

「七年前か、八年前」

「もしかすりゃ」

「十年も前だろうな」

「来た頃の歳を忘れる程だが」

「それでも、活気立っていた」

「それだけは」

「何となく覚えている」

 

昔、一度だけ。

両親と日帰り旅行に行った事がある。

千円を渡されて此処で好きな物を買えば良い、そう言われた八峡だった。

 

「(結構離れた場所なのに)」

「(この温泉街に来たのは)」

「(俺を捨てる為だったけどな)」

 

嫌な思い出である。

それでも此処に来たのは、美味しそうな料理や、暖かそうな温泉、それらに一瞬でも目を奪われたからか、今も心象に残りつつあった。

しかし、今来てみればその心象すら掻き消す程の閑古鳥が鳴くゴーストタウン。

思い出は所詮、思い出だった。

 

「そう、なのです、か」

「どこか、泊まれる」

「場所、などは」

「あるので、しょうか?」

 

「温泉街だからな」

「旅館くらいあるだろ」

 

この人通りの少なさならばいきなり旅館に尋ねても予約なしで通れるだろうと八峡義弥はそう思っていた。

旅館の部屋を借りる事が出来た八峡、荷物は無く、ただ財布だけの彼は。

 

「なんか買いに行こうぜ」

 

そう言って彼女を外に連れ出すのだった。

財布の中身は潤沢としていた。

 

厭穢との戦闘で手にした報酬が彼の銀行カードの中に詰まっている。

暫くは働かなくとも良い程だ。

 

「何を、買い、ましょう、か?」

 

彼女は八峡に聞く、温泉街のストリートを歩く八峡義弥は。

 

「取り敢えず服」

「服を買おうぜ」

 

彼女の着物姿を見てそう言った。

 

「服、です、か?」

 

「あぁ、服だ」

「その恰好じゃあ」

「色々と目立つからな」

 

彼女の着物は、良い所の出だと一目で分かる高級な着物服だ。

 

「洋服店あったかね」

「なかったら」

「大型デパートにでも行くか」

 

温泉街には生憎と洋服店は無い。

あるとすれば土産コーナーのイラスト入りTシャツくらいだ。

 

「服……」

 

「不服か?」

 

八峡義弥は自分で言って笑った。

彼女はそれに気が付かず少し深刻そうな表情をしている。

 

「いえ、そうい、う、訳、では」

「ただ、私は、着物、以外は」

「来た、事が無い、です」

「この着物、それ、以外を着る、のは」

「……少し、怖い、です」

 

九重花久遠は狭い世界で生きて来た。

急に広い世界を知った所でそれに適応出来るとは限らない。

なによりも彼女は自分自身変わる事を恐れていた。

 

「どんな姿でも」

「お前は綺麗だからな」

「大抵なものは似合うだろうが……」

「挑戦しなきゃ、意味がねぇだろ」

「心配すんな、俺が居る」

「まだ、お前に」

「教えたい事が沢山あるからよ」

 

八峡義弥が手を伸ばす。

彼女は、その手を取るかどうか迷った。

 

「(八峡、さまと、共に、居る事は)」

「(なんと、幸せだと、思える、事)」

「(なのでしょう、けれど)」

「(私は、この幸せが)」

「(無くなるのが、怖い)」

「(花天さんを亡くした)」

「(あれ程の、胸の苦しみを、味わうのならば)」

「(私は……)」

 

そして、重苦しく彼女は表情を暗くする。

しかし八峡義弥は、彼女の手を強引に取って。

 

「未来なんざ、見んじゃねぇよ」

「今は」

「お前の前に居る」

「俺だけを見てろ」

「お前のこれからは」

「俺が何とかするから」

「お前は、ただ傍に居てくれるだけで良い」

 

彼女の不安を払拭する様に八峡義弥は言う。

最強に近い術式を手に入れた。

 

例え刺客が来ようとも迎撃出来る程の力を持つと思える程に。

 

「(そう、でした)」

「(今は、未来、など)」

「(関係、ありま、せん)」

「(私の、前には)」

「(八峡さまが、居ます)」

「(もう、私は)」

「(八峡さまと、共に)」

「(生きる、その選択を、しました)」

「(もう、未来に、恐怖など)」

「(覚えなくても、良い)」

「(傍に。居ても、良い、のです)」

 

二人の逃避行。

二人だけの逃避行。

彼女は八峡義弥の手を強く握り締めて、八峡義弥はタクシーを呼んだ。

 

 

 

 

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