術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話 作:三流木青二斎
ハーメルンでは初心者ですのでよろしくお願いします。
六つの分家の一つ、花天家の娘。
現在では九重花久遠の付き人として活動している。
花天禱が九重花に近づいて誰も居ない校門の奥を見る。
「へぇ、久遠さまが会ってたの」
「あの八峡すか」
知った様な口ぶりで彼女は八峡義弥の名を口にする。
「知って、いる、のですか?」
花天が八峡義弥の事を知っていた事に九重花は驚いている様子だった。
久遠にとって彼女、花天禱は他人に興味を持つ様な人間では無いと認識していた為だ。
「知ってますよ」
「そりゃもう、嫌なくらいに」
花天禱と八峡義弥。
彼女の口振りからして関係があると思うが実の所、そこまで喋った事は無い。
会話をしたのも精々三回も無いだろう。
だが八峡義弥を知っていると言う花天。
それは彼女が、一方的に趣味として八峡義弥の動向を探っているからだ。
花天禱と八峡義弥の出会い、それは一年生の頃から延々と続いている。
グラウンドで何度も教師に殺される最中。
それでも諦めずに立ち向かう八峡義弥を見て花天禱は腹の底から煮え沸く苛立ちを覚えたものだ。
曰く、仕方なく頑張っている人間を見ていると嫌々ならば頑張らなければ良いと思ってしまうらしい。
言動と行動が噛み合わない矛盾した人間が嫌いで、その根底には『頑張れば夢は叶う』などと思っている、希望に満ち溢れた存在を嫌悪しているのだ。
八峡義弥はそれと同じ人種であると思った花天は贄波教師との戦闘で沈んだ八峡に対して『嫌々やるならやめれば良い』『その気になれば逃げだせるのに』『逃げ出さないと言う事は自分は出来ると思ってる』『努力は必ず成功が実ると言う思考』『そんな主人公補正みたいな展開は見ていてイラつく』
と、その様な発言をしたら、八峡義弥は我に返る様に頷いて。
「逃げる選択肢があったか」
その様に納得した。
後日八峡義弥は贄波教師から逃走する手段に打っていた。
他の人間とは違う八峡。
少なくとも花天が思うような人種ではない。
その日から花天は八峡を影ながら監視していたと言う。
「八峡、さまは善い、人です」
「私の、為、に恋を、教えて、下さります」
「無知の仔、である私、の為、に…」
「とても、有難い、事、です」
九重花久遠は八峡義弥を感謝する様に言う。
「久遠さまがそう思うのなら」
「それで良いのでしょうね」
「(私から見ればアイツは多分)」
「(私と同じ人間だと思いますけどね)」
八峡義弥を監視して花天が下す結論がそれだった。
「(まあ今のところは黙っておきましょうか)」
「(時が来たら久遠さまに教えてあげましょう)」
「(八峡がどんな人間かそれを聞いたら良い表情が見えそうすから)」
そう内心に彼女は嗤う。
他人の不幸が好きな花天は主である九重花の絶望の表情を思い浮かべて醜悪な笑みを浮かべるのだった。
話はさておき、九重花久遠は本題に入る事にする。
「花天、さん」
「私、に、用事、で、すか?」
九重花久遠は彼女に対してそう聞いた。
元から監視役である花天禱が用事が無ければこうして出る事は無い。
それを聞かれて花天はわざとらしく。
「あぁ」
「言うの、忘れてました」
花天禱はそう言った。
その口ぶりは何処か棒読みで事実を伏せていた事が瞬時に理解出来る。
九重花は少し表情を曇らせて、恐る恐ると彼女に聞く。
「もし、や、家に、来ている、のですか?」
彼女の不安そうな表情を見て内心、涎を垂らす程に喜々とする花天。
涼やかな表情を取り持ちながら彼女の不安を刺激させる様な事を言う、
「はい、来てますよ」
「許嫁である
その言葉を聞いて彼女はより一層、表情を曇らせる。
―――祓ヰ師と呼ばれる存在は、ある職業から派生した存在に過ぎず。
上位種であるその存在に、決して頭が上がる事は無い。
全ての術に対する源流…世界と対話する力を持った生命。
嘗て古き名で呼べば―――陰陽師、と呼ばれる存在であった。
間人家は三大陰陽師の内の一角。
九重花家は、陰陽師から直伝の術式を得た祓ヰ師であり、五行の一角を受け継いだ木行の家系なのだ。
彼らの存在は力が退化して尚も祓ヰ師の上位的存在として扱われ、敬われている。
「今日は、お会いに、なられるとは」
「聞いては、いません」
困り果てた様子で九重花は言った。
少なくとも許嫁がやって来ると聞いていれば、八峡義弥と約束はしていない。
「唐突に来た感じっすねぇ」
「まあ、何時もの事ですよ」
九重花久遠は俯き、八峡と共に選んだガラケーを強く握り締める。
「何時頃、から」
「来られて、居ますか?」
「今が三時なので」
「彼是三時間は居ますよ」
「ご立腹ですねぇ」
花天禱は他人事の様に言う。
内心では主人の焦り具合を見て喜々として笑っていた。
「……早く、行かねば」
「なりま、せんね」
本当は行きたくない。
それでも、九重花家として、間人家に嫁ぐものとして。
彼女は向かわなければならない。
そう決心した彼女は、困った表情は止めて。
爽やかと、凛とした表情を浮かべる。
そして、花天禱の方に顔を向けては。
「ありが、とう」
「ございま、す」
「花天、さん」
そう言って彼女は頭を下げる。
本来ならばお付きである彼女が早々に伝えていれば態々相手を待たせる事は無かったが。
「私の、時間を」
「優先して、下さって」
九重花久遠は花天禱が八峡義弥と共に居る時間を優先してくれた。
そう勘違いをしていたのだ。
九重花の中で花天禱は。世界の広さを教えてくれた人物であり良き理解者、と言う認識であるらしい。
お礼を言われて花天禱はぶっきらぼうな表情を浮かべて、心底面白くなさそうな表情で。
「構いませんよ」
「えぇ、構いませんとも」
恩着せがましく、そう言い放つのだった。