術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第50話

 

バス停で待機していた二人は何も言わずに時間を待つ。

九重花久遠は頬を赤く染めていた。

 

「(なんだよそんな日もあるって)」

「(もっと他に言う事あるだろうが)」

「(イカした言葉を言えよ俺)」

「(クソッ、熱くて頭が回んねぇッ)」

 

八峡義弥の体は熱が籠る。

それを八峡義弥は風邪だとは思わない。

暫く沈黙が続く中、ふと、雨の先からバスがやって来る。

八峡義弥はそれを見て。

 

「お、バスが来た」

 

と、何かを誤魔化す様にそう言った。

九重花久遠も、八峡義弥の言葉に便乗する。

 

「は、はい、来、ました、ね」

 

そう言って二人はバスに乗り込む。

幸いにもこのバスは温泉街の前まで運んでくれるらしい。

誰も居ないバスの中、席は空いているが。

 

雨に濡れた八峡義弥はシートを濡らす訳にも行かぬ為にそのまま立っている。

 

「はぁ……」

 

八峡義弥は吊り手を掴みながら窓の先を眺めている。

そしてふと、自らの唇に手を触れる。

彼女との口づけはこれが初めてだった。

 

「(……ヤベぇな)」

 

彼女の行動は八峡義弥の性欲を渦巻かせる。

 

「(いやいや)」

「(今は違うだろ)」

 

八峡義弥はそう思うが。

九重花久遠は既に八峡義弥ならば良いと思っている。

押せば倒れる。それ程に。

 

「(取り敢えず薬局、いやコンビニに……)」

 

準備を行おうと考える八峡義弥だが、ふと、後ろを振り向いた。

誰も居ない筈だったバスの中。

何故か一番後ろの席に髪の長い水に濡れた女が座っている。

ポツポツと水を滴らせる女ほのかに感じる嫌な気配。

 

「……厭穢か」

 

まさかこのバスの中で出会うとは思わなかったが、八峡義弥はジーンズのポケットから硬貨を取り出した。

 

「面倒臭ェけど」

 

赤黒い神胤を放出。

硬貨に洞孔を張り巡らせて神胤を滞留。

一時的な士柄武物化させると、指先に神胤を流し込み指の力を強化させる。

 

硬貨を弾き、その厭穢に指弾を見舞う。

垂直に飛ぶ硬貨が厭穢を貫くと奇声を上げて八峡義弥へと向かう。

 

「……八峡、さま?」

 

久遠が何かあったのか、後ろを見ようとした最中。

 

「ん?」

 

そう相槌を打つと共に接近する厭穢に、神胤を放出させた腕を真横に振る。

赤黒き雷鳴は神胤を半端に加工したエネルギーだ。

 

神胤と厭穢は対極の存在。

負の集合体である穢厭に、正のエネルギーを与えるとダメージを受ける。

それが、祓ヰ師が厭穢を祓う事が出来る方法。

 

そして、その赤黒き雷鳴は肉体に侵蝕してしまう代物。

ダメージを与える神胤が厭穢の体に張り付く。

 

そうすると、厭穢は、神胤の滞留するダメージを受け続けて、もだえ苦しみ、そして消滅する。

 

この厭穢も、赤黒き雷鳴に侵蝕されて苦しみながら、消滅した。

 

「これで、良し……」

 

厭穢を消滅された八峡義弥は、何故か視界が揺らいでいた。

 

「ぁ、れ?」

 

意識がぐらつく八峡義弥は床に尻を付いて。

 

「あ、ヤベェ、これ……」

「八峡、さまっ!?」

 

彼女が八峡義弥を抱き支える。

 

「(あぁ……あったけぇ)」

 

彼女の温もりを感じながら八峡義弥は、意識を失う。

 

 

旅館へと戻る九重花久遠。

八峡義弥は雨に濡れた事と神胤を消耗した事で体調を崩してしまった。

 

本来、神胤を消耗するだけでこの様な事態には陥らないのだが解呪した祓ヰ師が術式を獲得する事例などそう無い。

体調を崩してしまう事も情報が少ない為に分からない状態だった。

 

布団を敷いて濡れた八峡義弥の服を脱がせて九重花久遠は八峡義弥の額に濡れたおしぼりを置く。

 

「こ、れで」

「大丈夫、なの、で、しょう、か?」

 

彼女は心配する様に言う。

これはタダの風邪では無い。

 

「(学園に、連絡を)」

「(入れた、方が、良い)」

「(の、でしょう、か)」

 

彼女は心配する様にそう思った。

学園に電話をすれば八峡義弥の状態が分かるかも知れない。

 

けれどもし連絡を入れたら八峡義弥との旅もこれで終わってしまう。

 

「(八峡、さまの)」

「(事を、思えば……)」

「(どちら、を選ぶ、なんて)」

「(わか、りきった、こと)」

 

彼女は立ち上がる。

バッグの中に入れた。

携帯電話に連絡を入れようとして。

 

「や、」

「やめ、とけ」

「けほっ、ケホッ」

 

そう、八峡義弥が後ろから、顔を向けて。

九重花久遠に電話をするのをやめる様に言った。

 

「風邪」

「多分、拗らせた」

「それ、だけだ……」

「心配するようなことじゃ」

「ねぇよ……」

 

顔を真っ赤にして八峡義弥は彼女にそう言った。

九重花久遠は八峡義弥の体調を見て大丈夫だとは思えなかったが。

 

「……分かり、ました」

「です、が」

「明日、様子を見て」

「それでも、治らなけ、れば」

「学園に、電話、を、します」

 

と、その様に条件を取り入れる。

九重花久遠にとって大事になのは八峡義弥の命。

 

「……あぁ」

「それで、良い」

「気合で、治すからよ」

 

そう言って汗を噴き出しながら八峡義弥はそう言った。

 

「……」

 

彼女は汗だくの八峡義弥を見て洗面所に向かい、濡れたタオルを持ってくる。

 

それを使って、八峡義弥の額を優しく拭いていった。

 

「……」

 

「はぁ……はぁ……」

 

八峡義弥の意識は朦朧としている。

九重花久遠は、八峡義弥が早く治る様に看病をする事になる。

 

八峡義弥が意識を失って布団の中で眠る中。

九重花久遠は一人、八峡義弥の為に看病をする。

 

温くなったおしぼりを取り換えて早く良くなるように九重花家の術式で生成した薬を飲ませたりして八峡義弥を献身的に看病する。

 

「………」

 

九重花久遠は黙々とその作業を進めていく。

決して簡単な事では無い。

つきっきりの看病は精神と肉体を消耗させる。

それでも九重花久遠は八峡義弥に尽くせる事を幸せに思っていた。

 

 

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