術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話 作:三流木青二斎
八峡義弥は彼女からの返事を待つべく、同時に熱の火照りを冷ますべく旅館の外を歩いていた。
まだ、外は明るく秋頃である事から涼しい風が吹いている。
何処か肌寒いとも思える程に八峡義弥は温泉街を歩いてふと、思い詰める様に考えていく。
「(俺なりの告白な訳だが)」
「(これで外したら)」
「(マジもんの墓穴だな)」
苦笑しながら彼女に告白を断られたらどうするかを考える。
彼女の行動を鑑みて決して、その様には思えないが。
「(万が一もある)」
「(久遠の熱が急に冷める事もあるし)」
「(……不安の最中)」
「(断られる事もあるだろうな)」
彼女の不安。
それは八峡義弥にとっての不穏。
「(まあ)」
「(何が起きても)」
「(俺は、アイツの為に………)」
「………」
「……はっ、マジか」
八峡義弥は目の前に立つ男の姿を見て微かに笑みを浮かべた。
なんとなく、その男が。やって来そうな予感はあった。
それは、八峡義弥の勘であり、祓ヰ師としての直感とも呼べる。
「他の男との旅行に」
「嫉妬でもしに来たかね」
「陰陽師の末裔さんよォ」
八峡義弥の目の前に立つのは陰陽師の末裔。
九重花久遠の許婚。
間人胤護。
そしてその従士が二名。
間人の傍に立っている。
「俺の
「体はまだ、綺麗なのだろうな?」
「あ?いきなりヤッたかどうか聞いてくんのか?」
「気持ち悪い野郎だな」
「ここ、一応公道なんですけどォ」
八峡義弥は煽る様に言っていく。
この男を傍目から見ていたが気に入らない存在だった。
自分の事しか考えない、自分至上主義の男。
まるで、自分を見ている様でそれはある種の同族嫌悪。
八峡義弥と間人胤護は何処か似ていた。
「久遠が不安に思う事があるなら」
「その存在がお前だ」
「手を引けよ」
「どうせ女なんざ」
「誰でも良いと思ってんだろ?」
間人胤護に好みの女など居ない。
全ては自分、自分以外の存在など、どうでもよいし、どうにでもなれと思っている。
「あの女は」
「俺の子孫に良い影響を与える」
「何よりも五月蠅く無い」
「丁度良い存在だ」
その言葉が八峡義弥の反感を買う。
「あー良いわ」
「もう喋るのも面倒臭ェ」
「つか喋んな黙ってろ」
「二酸化炭素撒き散らし過ぎなんだよお前」
「環境破壊か?」
八峡義弥の煽りは止まらない。
間人胤護は依然として余裕の笑みを崩さない。
代わりに、従士が動こうとして。
「止せ」
「俺がやろう」
間人胤護が止める。
一騎打ちを望んでいる。
八峡義弥もそれを望む。
「喋んなって言ってんだろ」
「お前舌洗ってねぇだろ?」
「息が臭ェぞ?」
煽りに煽りまくり八峡義弥と、間人胤護が九重花久遠を懸けて、戦う。
〈侵蝕術式〉。
神胤を浸透させる事でその物質や肉体に対して洞孔を展開させる異例の術式。
五十市依光はそれを地面に展開させる事で大地を支配し、自由自在に動かした。
五十市依光は大気に神胤を流す事で天候や空気を操った。
それが出来るのは五十市依光が膨大な神胤の総量を持っていたからだ。
臨界点突破を経験した八峡はその肉体に多少の神胤を貯め込む事は出来ても五十市依光の様に戦う事は出来ない。
故に八峡義弥は八峡義弥なりの戦い方で相手に挑む。
指を構える、侵蝕術式を発動する。
赤黒き稲妻が発生する。
それを間人胤護に構える。
そして稲妻を放つ。
垂直に放たれる稲妻は間人胤護の元へと向かっていき。
「ふん」
間人胤護に直撃する事無く地面に稲妻が刺さる。
「……」
「(軌道が明らかに逸れたな)」
「(コイツの術式か?)」
八峡義弥は考える。
考える時間を稼ぐ為に。
「コレならッ」
ポケットから硬貨を掴む。
侵蝕術式によって洞孔を築く。
神胤を放出。
それを間人に向けて放つ。
弾丸と同等の速度で放たれる硬貨。
それを間人胤護は手を翳すだけで硬貨の軌道を捻じ曲げて八峡義弥に向かって来る。
それを八峡義弥は神胤を体内に循環させて肉体の強化を図る。
硬貨の謀反を肉体で受け止めて掠り傷を作りながらも。
「(軌道を捻じ曲げる術式)」
「(流石陰陽師)」
「(インチキな術式だわ)」
八峡義弥は間人の持つ術式は軌道を曲げる術式だとそう予測して一気に駆ける。
肉弾戦に打って出た。
「(殴り合いなら)」
「(俺の方が強い)」
曲がりなりにも厭穢討伐や贄波阿羅との訓練を短期ながら積んで来た。
その実力は鍛え抜かれたアスリートにも通用する。
何よりも、神胤で全身洞孔と化した八峡。
その能力はこの世界の人類最強を軽く超える。
それ程の力を宿している。
八峡義弥の拳はしかしながら、間人胤護に当たる事無く間人胤護の顔面を前に空回る。
「ケッ」
しかし八峡はそのまま周囲を回転して裏拳を間人胤護に見舞うが。
「ッ」
「(これもか)」
間人胤護に直撃する筈だった裏拳は間人胤護の頬の前で急停止する。
「こんなものか」
間人は笑みを浮かべたままにその様に言った。
「お前がな」
微かに八峡義弥の足から神胤を放出させて地面に侵蝕。
過少な領土を作り上げてその大地を変動させ大地の槍を作り上げる。
それを、間人胤護が気付かぬ様に背後から背中を刺そうとするが。
「……見えている、いや、理解している」
その攻撃は間人胤護に直撃する寸前で停止する。
「大方、何かしらの術式と思っているのだろうが」
「陰陽師であるこの俺が」
「お前らの様な劣化品と同じ訳が無い」
指を八峡義弥に構える。
その指を折り曲げると。
八峡義弥の両腕が無造作に折れた。
「がッ、あぁああぁあ!!」
ボキボキと。
前腕の骨が砕けて腕が背中の方で結ぶように絡まる。
「ははは」
「お前、五月蠅いな」
先程の煽りを返す様に間人胤護がそう言うと。
「取り敢えず」
「跪いて、首を垂れておけ」
その言葉の通りに八峡義弥の体が動いてしまう。
「(な、なんだ、こりゃ)」
「(俺の筋肉、神経が動いている訳じゃない)」
「(外部から押さえつけられるように)」
「(動かされている訳でも無い)」
「(これは……ま、さかッ)」
「臨核は誰が作ったと思う?」
「神胤は誰が見つけたと思う?」
「全ては陰陽師」
「俺の末裔だ」
「それを操るなど」
「造作も無い」
陰陽師は特別な術式など持たない。
代わりに、神胤を操る。
どれ程優秀な祓ヰ師であれど。
むしろ、優秀であればあるほどに陰陽師に逆らう事は出来ない。
臨核、神胤を操る限り八峡義弥は。間人胤護には敵わない。