術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第57話

それは酷い怪我だった。

間人胤護に顔を剥ぎ取られた八峡は病院に運び込まれて顔を縫われたが、以前の様な美麗な顔とは程遠い傷だらけ、縫い痕だらけの容姿が八峡義弥の顔に乗っている。

 

「初めてお前と出会って」

「恋を教える役目を引き受けた時」

「俺はその理由を聞いたよな?」

 

あの頃。

九重花久遠は何気なく八峡義弥の顔を見て容姿が整っているからと八峡義弥を選んだのだ。

 

「俺はもう」

「あの時の俺じゃない」

「お前が好きだった顔は」

「もう、何処にも無いんだ」

 

喉を鳴らす。

八峡義弥は緊張している、その言葉を口にするのに覚悟を決めている。

 

「………なあ、久遠」

「こんな俺でも」

「こんな気味の悪い俺でも」

「お前は」

「俺の傍に居てくれるか?」

「俺と一緒に」

「人生を」

「未来を」

「歩んでくれるか?」

 

八峡義弥は九重花久遠に尋ねる。

この様な顔でも八峡義弥として愛せるかどうか。

 

「(その、様な、事)」

「(私は、それでも……八峡、さまを)」

 

愛している。

其処で九重花久遠は八峡義弥を理解する。

 

そうだ。

そうなのだ。

彼女がどの様な顔に変貌した八峡義弥であろうとも、九重花久遠の愛に変わりが無いように。

八峡義弥も九重花久遠がどの様に汚れようとも、八峡義弥の愛に変わりは無い。

それに気が付いて、九重花久遠は身を震わせて瞳から、一筋の涙を流すと。

 

「わ、私、私はッ!」

「八峡さまが、どんな顔でもッ」

「どんな、姿でもッ!」

「私は、八峡さまを、お慕い、していますッ」

「ずっと、ずっとッ……!」

「私はッ!八峡さまと、一緒に、いたいですッ」

「八峡さまと、共に、人生を歩んで行きたいッ」

「私はッ」

 

九重花久遠は声を荒げて泣きじゃくる様に八峡義弥に向けて叫ぶ。

 

「八峡さまと」

「未来を、生きたいッ」

「生きたいんですッ!」

 

彼女の言葉を本心を聞いて八峡義弥はほっと、安心する表情を浮かべて。

包帯を巻き直すそして、彼女の元へと向かうと。

 

「お守りだ」

「持っててくれ」

 

八峡義弥は銘釼・灰燈灼を九重花久遠に渡して。

 

「これが終わったら」

「お前の答えを聞かせてくれよ」

「そんで、その後は」

「お前の全てを教えてくれ」

「俺が、お前の全てを受け止めてやる」

「そして」

「俺の全てを教えてやる」

「お前が受け止めきれない程に」

 

そう言って。

九重花久遠が刀を握ると次第に、灰の世界が崩れて九重花久遠を包み込む様に灰の炎が、彼女を取り囲む。

 

「はい……」

「お待ち、しております……」

「八峡さま」

 

彼女は八峡義弥を想って八峡義弥を願って八峡義弥を見送る。

 

「捨羅道の怨霊ども」

「不死の戦狂いども」

「間違って焼くんじゃねぇぞ?」

 

その言葉と共に灰の世界が消失すると目の前には。気に入らぬと牙を剥く間人胤護の姿が、其処にある。

 

「よォ」

「汚い真似しやがって」

「けど」

「もう久遠は動かせねぇぞ?」

「炎が包み込んで」

「動かせねぇからなぁ?」

 

その炎は九重花久遠が操作されない様に彼女を封じる、炎の封壁だった。

 

「んじゃ」

「そろそろ」

「終わらせるか」

 

そう言って八峡義弥は間人胤護に近づく。

その悠々とした態度に間人胤護の怒りが爆発する。

 

「黙れ……クズがッ!」

 

手を向ける。

 

「―――ッ」

 

それは神胤を操る陰陽師の力。

術師である以上、その力に抗う事は不可能。

八峡義弥の体は、それを見て動かなくなる。

 

「ふぅーッ、ふぅーッ」

「これが、俺とお前のッ実力の差だッ!」

「お前の様な祓ヰ師が」

「陰陽師である俺に盾突く事すら許されないッ!」

「許されないのだァ!!」

 

動かない八峡義弥に向けて握り拳を振るう。

八峡義弥は、その拳を視認して吹き飛ばされる。

 

「が、はっ……?」

 

間人、胤護の方が。

そのまま尻餅を付く間人胤護は何が起こったのか、理解出来なかった。

八峡義弥が咄嗟に動いて間人胤護のパンチに合わせて握り拳を、間人胤護に当てた。

間人胤護は、鼻から血を流して、そして、脳をフル稼働させて。

この現象に理屈を求める。

数秒ほどの時間を空けて間人胤護はある結論に至る。

 

「まさか……貴様ッ……」

 

馬鹿な、ありえない。

そう思っていながらも。

しかし、そうとしか考えられない。

 

「貴様……神胤を」

「臨核を、捨てたのかッ!?」

 

八峡義弥は間人胤護の言葉を聞いて。

口を引いて歪んだ笑みを浮かべる。

 

「やぁーっと」

「分かったか」

「バァーカッ!」

 

中指を突き立てる。

八峡義弥は臨核を捨てた。

つまりは祓ヰ師を捨て人間に戻ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

贄波阿羅は斃れる祓ヰ師の上に座りゆっくりとスキットルを煽る。

祓ヰ師との闘いは、粗方終わった様子だ。

 

「先生、お疲れ様です」

 

飫肥壱が近づく。

彼が先生と呼ぶのは学生時代から、贄波阿羅は教師だったからだ。

飫肥壱が十五の時には贄波阿羅は二十二歳。

 

若かりし頃の贄波阿羅を飫肥壱は知っている。

 

「疲れた」

「もう帰りたい」

 

言いながらも帰ろうとする素振りを見せる事は無い。

飫肥は、贄波の傍に立ちながらも少し、疑問を浮かべていた。

 

「すいません先生」

「少し伺っても?」

 

飫肥壱がそう聞くと贄波阿羅はスキットルを彼に渡した。

 

「あ、すいません……」

 

そう言うが飫肥教師は口を付けようとはしない。

単純に、酒が飲めないのだ。

 

「何故俺が」

「八峡義弥の手助けをしているか」

「それを聞きたいのか?」

 

贄波阿羅は飫肥壱が聞きたいことを言い当てる。

飫肥壱は頷いた。

 

「はい」

「正直」

「先生の性格から」

「八峡くんに手を貸すとは」

「まったく思いませんでした」

 

「何度も言うが」

「俺はアイツと取引をした」

「だから手を貸している」

「それだけだ」

 

「……その」

「取引の内容は?」

 

飫肥壱が聞く。

それ以上、贄波阿羅は口を開く事は無い。

 

記憶を反復させる。

八峡義弥との会話を思い浮かべる。

 

『俺の臨核を捧げます』

『その代わり』

『力を貸してください』

 

八峡義弥はそう言った。

それはつまり祓ヰ師としての絶対条件を捨てると言う事。

贄波阿羅は理解が出来ない。

 

『女の為に』

『力を手放すか』

『五十市依光の術式を』

『お前は要らないのか』

 

その問いに。

 

『……最強の力』

『そりゃ凄い』

『それがありゃ』

『どんな敵でも蹂躙出来る』

『世界を渡り歩く事が出来る』

『もしかしたら』

『権力も、地位も』

『思うがまま』

『けど』

『それだけっすわ』

 

八峡が欲するものは最強の力では手に入らない。

最強の力を以てしても大切なものに手を伸ばす事が出来ない。

 

『どれ程強くても』

『アイツが傍に居なきゃ意味が無い』

『九重花久遠が居なければ』

『俺の人生に価値は無い』

 

『………どうでもいい』

『だが、五十市依光の術式』

『それを宿す臨核か』

『なら』

『手を貸す程の価値はある』

 

其処で八峡義弥と贄波阿羅は契約をしたのだ。

 

『あ』

『ついでに』

『体も動かせるように』

『して下さいよ』

 

『……契約するの』

『やめようかな』

 

ついでに八峡義弥の肉体を契りを結ぶ事で治癒させる。

 

「まあその結果」

「俺は神胤が使えなくなった」

「まったく割りに合わない契りだ」

 

そう贄波阿羅は溜息をつくと。

 

「さて」

「もうひと踏ん張りするか」

 

ゆっくりと立ち上がって。

 

「よっこいしょ」

 

そう贄波阿羅は言う。

飫肥壱はそれを聞いて。

 

「なんだか」

「年老いましたね」

「先生」

 

飫肥壱は、そう言った。

 

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