術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第61話

 

八峡義弥は深い深い闇の底へと落ちていく。

光から闇へと。

 

……闇は心地良い。

気分が良い。

静かで涼しくて何も感じない。

 

永遠にずっと居続けられる。

八峡義弥は全てを投げ出して。

 

闇の底へ行き。

光が完全に見えない所まで向かおうとして。

唐突にその手を引っ張られる。

その手は光の先から闇へと落ちてきて。

 

八峡義弥の手を掴むと同時光の方へと押し上げた。

急速に光へと向かい出す。

 

眩い光が目を焦がしそして、八峡義弥は。

見慣れた公園へと戻って来た。

 

「が、はッ」

「は、はっ……」

「(ぁ……危ねぇ……向かってたら)」

「(死んでた……)」

 

地面に膝を突きながら。

八峡義弥はあれが死である事を悟る。

そして、それを押し上げてくれた。

その人間の姿を見て、驚いた。

 

「あんた馬鹿なんすか?」

 

その罵倒も今となっては懐かしい。

白髪に巫女服を着込む紫陽花が似合う女が。

八峡義弥の前に立っている。

 

「久遠さま」

「置いて行くなんざ」

「私が許しませんから」

 

八峡義弥の前には九重花久遠の付き人。

花天禱が立っていた。

 

「お前……」

 

「死んでますよ」

「それ以上つまらない事」

「言おうとしたら殴ってやりますから」

 

そう言って花天禱は八峡義弥に近づくと。

 

「しゃあッ!」

 

「ぐぁッ!!」

 

八峡義弥の頬を思い切り殴る。

 

「え……えぇ……?」

 

殴られた頬を抑えながら八峡義弥は花天禱を見る。

花天禱は殴った方の手を確認して。

 

「うらぁッ!」

 

「ぐぶッ?!」

 

今度はもう片方の手で八峡義弥の頬を殴る。

 

「お、お前、なぁ!」

「なんで殴るんだよッ」

 

八峡義弥は叫ぶ。

花天禱は多少のすっきりした表情を浮かべる。

 

「……ふぅ」

「すっきりしました」

「これで」

「久遠さまを」

「泣かした事への罰は」

「済ませた事にしてあげますよ」

 

花天禱が八峡義弥を殴ったのは九重花久遠を泣かせた罰だった。

 

「………いや」

「泣かせる気は無かったんだけどよぉ……」

 

「はいはい」

「言い訳は無しっすよ」

「つか、さっさと生き返れって」

「私のモノを使わせてあげてるんすから」

 

花天禱は言いながら肩を揉んでいた。

苦労が絶えないと言いたげに、だ。

 

「あ?」

「そりゃ」

「どういう意味……」

 

唐突にチャイムが鳴りだした。

それは夕方の六時を知らせる音だ。

しかし歪な音程で聞いているだけで不安になる。

 

「……もう時間すよ」

「さっさと現世に帰って下さい」

「そんで」

「二度と久遠さまを」

「悲しませるんじゃないんすよ」

 

花天禱はそう言いながら光の粒子へと変貌していく。

八峡義弥は五十市依光と同じ状況の彼女を見て、消えるのだと確信した。

だから八峡義弥は彼女に言葉を残していく。

 

 

「……あぁ」

「絶対にしねぇよ」

「………お前は」

「良い女だな」

 

八峡義弥は消え行く花天禱にその様に褒めた。

 

「へ、えへへ」

「褒めたって」

「なんも出てこないすよ」

 

花天禱は唐突に褒められてその様に照れて笑った。

 

「マジで良い女だ」

「ありがとな」

「お前の言葉で」

「……俺は救われた」

 

彼女は八峡義弥に逃げる選択肢を与えてくれた。

それがあるからこそ八峡義弥の現在は存在する。

 

「……貸し一つっすから」

「この貸しは」

「久遠さまを幸せにする事で」

「帳消しにしてあげますよ」

 

「幸せにするのは当たり前だ」

「………じゃあな、ハナイノ」

 

「………」

「八峡」

「ハナイノって言うな」

 

その言葉を最後に八峡義弥は笑いながら公園を抜ける。

全速力で駆けて光が指し示す場所へと向かいそして。

八峡義弥は病室にて、目が覚める。

 

 

 

「奇蹟だな」

「花天禱の臨核蟲が無ければ」

「八峡義弥は絶命し掛けていた」

「臨核による治癒力と」

「九重花久遠の木統咒術式による」

「薬による一時仮死状態と」

「肉体治癒のお陰と言えるだろう」

「しかし肉体が再生しても」

「魂が無ければそれは植物人間でしかない」

「八峡義弥、お前は本当に」

「悪運の強い男だ」

 

 

「……さ、ま」

「本当に、ありが、とう」

「ござい、ま、す」

 

「いえ、娘も」

「未来の旦那様を救えて」

「嬉しく感じているでしょう」

「……私も嬉しく思いますよ」

 

 

様々な声がする。

八峡義弥が目を開くと其処は見慣れた場所だった。

白い天井。アルコールの匂い。

 

此処は地下施設の病室。

天井に吊るされた電灯が八峡義弥には眩しく感じた。

 

八峡義弥が体を起こそうとして背中に激痛が走る。

 

「痛ッ!」

 

その声によって八峡義弥の手を握る。

細い指が微かに動いた。

 

そして。

八峡義弥を看病していた九重花久遠が、顔を上げる。

 

「……や、かい……さま?」

 

九重花久遠は目を腫らしながら八峡義弥の顔を見る。

 

ずっと、泣いていたのだろう。

彼女は、八峡義弥の顔を見て顔を歪めて泣きだそうとして。

 

「泣くなよ……」

「アイツに怒られる」

 

そう言って八峡義弥は九重花久遠の頬に触れる。

 

「泣いて、いません」

「決して、泣いて、ません」

 

八峡義弥の言葉を守る様に彼女は涙を流しながらそう言った。

 

「これ、は」

「嬉しい、から」

「喜ばしい、から」

「それで、泣いている、の、です」

 

頬を触る八峡義弥の手を握り、頬ずりをする九重花久遠。

 

「なら……」

「大丈夫、か」

 

八峡義弥は花天禱の顔を思い浮かべて背中に蠢く様な感覚を覚える。

 

「……そうか」

「そういう、事か」

「ハナイノ」

「お前が俺の臨核になったのか」

 

花天禱の臨核は花天家が開発した寄生臨核蟲と呼ばれる。

臨核と同じように背中に寄生する臨核蟲を飼っている。

この臨核蟲は宿主が死なぬ様に肉体に半ば強制的な治癒を施す。

 

本来ならば花天禱はその臨核蟲によって治癒をされる筈だったが。

それを邪魔したのは天積の道理である不死殺しの太刀による一撃だった。

彼女の治癒も不死の能力と判断された為に治癒を施す事が出来なかった。

 

その後。

臨核蟲は花天家の当主に摘出されてこの地下施設にて保管されていた。

学園へと運ばれた八峡義弥を回復させる為に臨核を移植した。

しかし、臨核を持つ者ならばこの移植は叶わなかったが。

八峡義弥の臨核は贄波阿羅との交渉材料として摘出されたばかり。

それゆえに花天禱の臨核蟲を移植する事が出来た。

 

全ては、偶然であり。

全ては、必然のこと。

 

八峡義弥が生存出来たのも全ては積み重ねに過ぎない。

 

「八峡、さま」

「大丈夫、で、しょうか?」

 

九重花久遠は八峡義弥を心配する様に見ている。

 

「あぁ」

「大丈夫だ」

「臨核蟲が効いてる」

「そんな感じがする」

 

八峡義弥はそう言うが彼の顔は依然、包帯が巻かれたまま。

それは、臨核蟲の治癒を以てしても回復する事は無いだろう。

既に、八峡義弥の顔は回復した状態になっているからだ。

 

「……花天、さん」

「八峡さま、を」

「助け、てくれ、て」

「ありがとう、ござ、います……」

 

もうどこにもいない花天禱に対して九重花久遠はそう言った。

 

「……良い女だよ」

「あいつは、まったくよ」

 

惚れ惚れしそうな程に八峡義弥は彼女を褒め称える。

そして八峡義弥は体を起こして九重花久遠の手を引いて彼女との距離を縮める。

 

「勿論、お前もな」

 

九重花久遠に顔を近づけて彼女の唇を貪る八峡義弥。

九重花久遠は驚きつつもそれを拒む事無く、受け入れる。

 

「ん……やふぁひ、さふぁ………」

 

「……っふ」

「もう、二度と」

「他の男には触らせねえ」

「久遠、お前は」

「俺だけのモンだ」

 

痛みは感じるが。

それ以上に八峡義弥は生の実感を得ようと彼女をベッドに押し倒す。

九重花久遠は頬を赤く染めながら。

 

「あの、八峡、さま」

「その………優しく、お願い、します」

 

彼女は八峡義弥を受け入れて。

 

「あ?」

「そりゃ無理だ」

「俺はお前に抱かれた男」

「その全てを上書きする覚悟だからよぉ」

「激しくしてやんねぇと」

「過去の男なんざ忘れられねえだろ?」

 

「……なら、激しく」

「壊れて、しまう程に」

「私に、八峡さま、を」

「教えて、ください」

 

「あぁ」

「お前に」

「俺の全てを」

「教えてやるよ」

 

八峡義弥は九重花久遠の着物を剥がして二人は、結ばれるのだった。

 

 

 

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