術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話 作:三流木青二斎
時は過ぎる。
陰陽師との闘いから七年が経過していた。
十六歳だった八峡義弥は現在では二十三歳となり。
八峡義弥は八峡では無くなっていた。
「九重花さま」
「お時間でございます」
従士の一人が木刀を振り回す。
傷だらけの男にそう言う。
「おう」
「今行くわ」
そう言って彼、九重花義弥は稽古を切り上げて汗を拭う。
八峡義弥は九重花家の婿養子となり、八峡ではなく九重花の性を得た。
八峡義弥が九重花の名を掲げる事に対して認めぬ祓ヰ師も存在したが八峡義弥は九重花久遠から授かった〈
この二つの武器を扱い悉くの祓ヰ師を黙らせてきた。
最早八峡義弥を九重花家の人間として認めない者は居なかった。
廊下を歩く。
従士は多くの荷物を持っていた。
それは、三日分の衣服や生活用品が入っている。
廊下を歩き玄関前まで行くと。
「とーとっ!」
義弥の足に小さな少女が抱き付いてくる。
義弥はその少女を抱き抱えると。
「よぉ
「お父ちゃん」
「これからお母ちゃんと旅行に行くからよ」
「統一と志鶴の事」
「頼んだぞ?」
そう言って、義弥は愛娘に対して笑みを浮かべると祈廻と呼ばれる九重花家の長女は。
「きひひひっ!」
と、義弥の顔を見て笑い出した。
傷だらけの義弥の顔が彼女にとっては面白いらしい。
「んじゃ」
「三日間」
「家を空けっから」
「何があっても」
「呼ぶんじゃねえぞ?」
従士に対してそう念を押して義弥は靴を履きながら外へ出ると。
「義弥、さま」
彼女、九重花久遠は生まれたばかりの赤子をあやしていた。
すっかりと母親の笑みを浮かべている彼女は義弥にも同等の笑みを見せる。
「形子は」
「もう眠ったか?」
母親の手に抱かれてすやすやと眠りに付く三女を見つめながら。
八峡義弥は愛おしそうに笑う。
「はい」
「形子、三日ほど」
「母は、離れます、が」
「元気に、して、いるの、ですよ?」
眠りに付く赤子にそう言って額を合わせる。
今日はどうしても外せない旅行であった。
「それ、では」
「私、たちの、子を」
「お願い、します」
従士に、子供を預けると玄関の奥から嘗ての、六弁花の人間が現れる。
「久遠さま」
「ご心配なく」
「ウチらが見ときますんで」
花古屋華雪が長男の統一を抱き締めながらそう言った。
「えぇ」
「ごゆっくりと」
「旅行しとくといいね」
花良治伏籠が祈廻を肩車しながら言う。
「当主殿」
「くれぐれもっ」
「ハメを外さぬようっ」
「お願いします」
花里崎刈連は依然、義弥に対する不服を感じながらも双子の片割れである志鶴をあやす。
彼ら六弁花が居るから二人は安心して屋敷を開ける事が出来る。
「じゃあ」
「行くか」
「久遠」
「はい」
「義弥、さま」
そして二人は遠くへと出かける。
二人の思い出の場所、温泉街へ。
温泉街は七年前とは違い活気立っていた。
と言うのも去年辺り、テレビの温泉特集で大々的にこの温泉街が紹介され。
老若男女に愛される国民的俳優、アフロ十蔵が紹介した為に一気に観光客が来たのだ。
その結果。
毎年温泉街に来ている義弥らは予約をしなければならなくなり予約は今日から三日間しか取れなかった。
しかし毎年来てくれる常連客と言う事もありこの三日間だけは、貸し切りにしてくれた。
それも、九重花家による温泉街に対しての援助金があったからこそだろう。
寂れた温泉街が今日まで生き残れたのは九重花家が裏から手を回したからだ。
二人は温泉旅館へと到着して荷物を置くと。
まずは温泉へと浸かる事にする。
七年前は混浴は閉鎖されていたが根回しの結果か。
混浴が解放されていた。
二人は、共に服を脱いで、白く濁る湯へと浸かる。
「はぁ……」
「心地、良い、ですね」
二人は、安堵の息を漏らしながら。
温泉を楽しむ。
既に、四人の子を産んでいる彼女だが。
その肉体は、今も瑞々しく、潤っている。
その裸体を見て、経産婦だとは、誰も思わない。
それ程に、彼女の体は美しかった。
これは昔、間人家へと嫁いだ時。
肉体の若々しさを保つ為の秘薬を飲まされた為に彼女の体は、何時までも皺の無い張りのある体であった。
「義弥、さま」
「お身体は、どう、ですか?」
彼女は傷だらけの義弥の体を見てそう言った。
先月。
義弥の存在を良く思わない祓ヰ師に奇襲を受けた際に受けた袈裟切りの傷。
その傷は既に塞がっていて義弥の体に、新しい傷が出来ていた。
彼女は、義弥の新しい傷跡を指で優しくなぞっていく。
「やっぱ温泉は良いわ」
「今日は面倒な事全部忘れて」
「ゆっくりしようぜ?」
そう言って八峡義弥は温泉に浸かり、体を温める。
部屋に戻り、暫く二人だけの時間を過ごして夕食が運ばれてくる。
その夕食を見て。
「お、おぉ……」
「なんだこの」
「精がつく料理は」
テーブルに並べられた料理はその殆どが精力に繋がる食材で作られている。
隣に座る九重花久遠が八峡義弥にそっと近づいて恥ずかしそうに頬を赤らめながら。
「私、が」
「お願い、し、ました」
「義弥、さま」
「私、は」
「五人目、が」
「欲しい、です」
上目遣いで九重花久遠が義弥にお願いする。
それに対して。
「仕方ねぇな」
「今夜は寝かせねぇかんな?」
そう言って出された料理を義弥は食べ始める。
そして、夜となり。
二人は、子作りに励む為に夜を過ごす。
愛する者。
その全てが愛おしい。
九重花久遠はその体に義弥の愛を感じながら。
同じ布団。
その隣で眠る義弥の顔を見て儚げな笑みを浮かべつつあった。
彼女は。
義弥と出会い。
義弥と結婚し。
義弥との子供を産んで。
義弥との人生を歩んでいる。
彼に出会った時から。
彼女が感じる暖かさをどう形容すれば良いのかまるで分らなかった。
しかし。
義弥との生活を続けて共に生きる喜びを噛み締めて。
そして今、彼女は。その暖かさがなんであるかそれを理解していた。
「……ん」
「あれ……もう昼か?」
明朝まで続いた彼らの共同作業。
コトを終えて先に眠っていた義弥は三時間の眠りの後に目が覚めている。
「いえ、義弥、さま」
「まだ、朝で、ござい、ます」
彼女は。裸の義弥の腕に眠りながらそう言うと。義弥は欠伸を掻いて。
「なんか十時間眠った様な」
「爽やかさがあるわ」
「眠気が吹っ飛んだっつうか」
「分かるか?」
義弥は九重花久遠に尋ねると久遠は笑みを浮かべてゆっくりと頷く。
「はい」
「分かり、ます」
「そっか」
「ならどうする?」
「もう一回するか?」
八峡義弥はいやらしい笑みを浮かべて彼女に口付けをする。
「それで、も」
「私は、構いま、せん」
「義弥、さまの」
「お好きに、私は」
「全てを、受け入れ、ます」
彼女は布団を剥いで義弥の上に跨る。
「ん? そういや」
「ずっと起きてたのか?」
義弥は彼女と目があった時、久遠が起きていた事に疑問を覚える。
そして義弥は、久遠にそう聞いた。
「はい、少し、考え事を、してました」
「考え事か」
「俺でも分かる事か?」
義弥はそう伺うと彼女は首を縦に振った。
「はい」
「昔の、事を」
「私は」
「義弥、さまと、出会って」
「この、心に」
「感じる、ものは」
「なんなの、かを」
「思って、ました」
そしてようやくそれがなんであるか彼女は理解出来た。
義弥は彼女が理解したものを瞬時に理解して、理解した上で彼女に聞く。
「なんなんだ?」
「そいつは」
そう聞かれて九重花久遠は笑みを浮かべて義弥に体を預けながら。
「義弥さま」
「これは、幸せです」
「そして、この幸せ、は」
「誰より、も」
「過去の、私、より、も」
「今の、私は」
「──―幸せを、感じて、います」
……嘗て、無知の仔と呼ばれた久遠は。
不幸な人生を、絶望に満ち溢れた生涯を生きるとそう思われた。
しかし、今はもう誰も彼女を不運など言う者は居ない。
誰よりも幸せに満ち溢れた彼女は義弥や、子供たちと共に。
「義弥、さま」
「お慕い、して、おります」
未知に溢れた。
未来を生きるのだ。
これから先、ずっと。
ずっと、ずっと…………、
明けましておめでとうございます。
さよなら