術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話 作:三流木青二斎
九重花久遠からメールが来た八峡義弥は百円駄菓子のスルメを齧っていた。
「うまいうまい」
あさがお寮と呼ばれる学生寮に住む八峡義弥は、その寮の住人たちと一つの部屋に集まって暇を潰している。
友人の一人である遠賀秀翼が八峡義弥の部屋に沢山の駄菓子を持って来ていた。
『任務先で旧い駄菓子屋があってな』
『「本日を以て閉店」と書かれていたから』
『色々買い込んでやった』
との事である。
そんなわけで八峡義弥の部屋には大きな紙袋に包まれた沢山の和菓子の山が出来ていた。
野郎どもが集まって、お菓子に喰い付きつつあった。
そんな時に、八峡義弥の携帯電話が振動する。
「あー?」
「『しりたいです』?」
彼女から届いたメールの内容を確認すると、文脈の無い文字で書かれている為に一瞬の理解が遅れるが。
「(あぁ)」
「(漢字を使えるようになりたいから)」
「(その意味で知りたいって打ったのか)」
即座に理解する八峡義弥。
しかし彼女の想いとは裏腹に解釈していた。
「(明日……後で……教えてやる……)」
「っし、送信」
携帯電話を閉ざして、八峡義弥はスルメの包装をゴミ箱に捨てた。
「しりあいか?」
肉体が絡繰機巧で出来た人造人間、猿鳴形が水あめを割り箸で巻きながら言う。
「ん?あぁ」
八峡義弥は空返事をしながらクッキーを一つ掴んで齧った。
「なんだ八峡、
幽霊遣いの術式を所持する眼帯を付けた遠賀秀翼がガムを噛みながらニヤついてそう言う。
「かのじょか?」
遠賀秀翼の言葉を聞いた猿鳴形が八峡義弥に向けてそう聞いた。
すると八峡義弥は猿鳴形の頭を触れて。
「お前にゃまだ早い」
そう言って猿鳴の質問を躱す。
友人たちに九重花との関係を話しても良いが純粋無垢である猿鳴形に恋愛の話は難しいと、八峡は勝手に判断した為だ。
「しっかし、こりゃ喰い切れねぇな」
テーブルの上に積もる駄菓子。
一日で食すには多すぎる。
「やかいでもむりか?」
猿鳴形がそう聞いて来るが八峡義弥は苦笑いで言う。
「八峡でもって」
「普通に八峡さんには無理だろうが」
そう言って八峡義弥は部屋から出ようとする。
「応援呼ぶわ」
八峡義弥は隣の部屋に向かう。
彼の親友である美青年・永犬丸統志郎を呼び寄せる。
部屋に訪れた永犬丸は大量の駄菓子を見て。
「これはすごい」
そう他人事の様に言う。
「消化すんの手伝ってくれよ」
八峡がそう言うと永犬丸統志郎は駄菓子の山から確認する。
「肉系は無いのかい?」
「カルパスがある」
じゃあそれでと。
永犬丸統志郎はビニール包装を解きながらカルパスを喰らう。
「しっかし」
「勿体無いわこれ」
「殆どが賞味期限今日までなんだろ?」
閉店間近な駄菓子屋が少しでも売り上げを得る為にビニール袋にどれだけ入れても十円と言うゲーム方式を行ったらしい。
遠賀秀翼は三百円分、箱の中にあった駄菓子を詰めるだけ詰めて持って帰ったのだと言う。
しかし今になって賞味期限は今日中なのだと知った。
だから遠賀秀翼は急いで駄菓子を消化する為に友人である八峡義弥に駄菓子を持ってきたのだった。
駄菓子を貪る四人、ただ無心に駄菓子を食べ続ける。
「それでやかい」
猿鳴形が口を開いて八峡義弥に伺う。
「だれからなんだ?」
先程のメールの相手。
猿鳴形は未だに知りたがっていた。
「そんな知りたいのかよ」
八峡義弥は煎餅を貪りながら仕方なく教える事にした。
「九重花、知ってるか?」
その名前を口にすると、永犬丸統志郎が目を丸めた。
「九重花、と言えば」
「咲姫の事かい?」
八峡義弥は永犬丸統志郎の言う人間が誰を指しているのか一瞬だけ分からなかったが。
「久遠の事か?」
八峡義弥が聞くと永犬丸統志郎はカルパスを食べながら首を縦に振って頷く。
独特な呼び方は永犬丸の癖であった。
「名前で呼び合う仲なのかい?」
「少しだけ妬いてしまうね」
その様に冗談を口にする永犬丸。
そんな事はどうでも良いと、八峡義弥は前置きして。
「んで」
「何か知ってんのか?」
八峡義弥は永犬丸統志郎に伺う。
「九重花家と言えば」
「有名処だろうね」
「まだ祓ヰ師が存在する前の時代」
「陰陽師と言う源流が怪異の相手をしていた」
「彼ら陰陽師は祓ヰ師とは違い」
「世界との対話を行う事が出来た」
「話し合いによる交渉によって」
「あらゆる事象や法則を定める事が出来たとも言われる」
「けれど、世界は人類と言う存在に」
「諦観や怒りを覚えつつあったから」
「後に人類を滅亡を決定された為に」
「人間側に属する陰陽師は」
「星との対話を拒絶され」
「万物と共存する力を失ったらしい」
「けれど」
「技術や知識」
「それらは人間の知識として残っていたんだ」
陰陽師。
昔は世界と交渉出来る逸材だった。
けれど世界は人間を滅ぼす事に決めた為、人間側である陰陽師との交渉を打ち切った。
世界を動かす力を失った陰陽師だが、今まで培った世界の動かし方は知識として残っている。
「それが」
「
「陰陽師はこの知識を残す為に」
「弟子らに夫々の知識を分け与える事にした」
「自らの知識を丸々一人に写すのも可能だったけど」
「それをすると、人間は知識量に耐える事が出来ず」
「死んでしまうから」
「一人に付き最低限の知識を与えたんだ」
「そしてその中でも」
「九重花家は」
「陰陽師から直々に術式を伝授された名家なんだよ」
五行大系〈木行〉を、九重花家が伝授している。
その他の家系よりも、九重花家は上位に属する家系。
名家中の名家と言っても良い。
永犬丸統志郎から重要な事を聞く八峡は駄菓子を貪りながら。
「長い」
「簡潔に頼むわ」
話の半分以上聞いて無かった。
永犬丸統志郎は少し悲しそうな表情を浮かべて。
「つまり」
「九重花家は凄い家」
「そういう事だよ」
簡潔に永犬丸統志郎が言う。
それを聞いて八峡義弥は理解出来た。
「へー」
「じゃあ凄いんだな」
とにかく、凄い。
それだけ分かれば十分だった。
「すごいな」
猿鳴が後に続く様に言う。
「ヒュゥ!
遠賀秀翼も、頭痛が痛い、と言った具合の英語モドキで言う。
「うん、凄いね」
永犬丸統志郎も頷いて見せた。
駄菓子を貪り再び沈黙が訪れる。
そして八峡義弥が口を開くと。
「そんな凄い奴と知り合いって」
「ヤベェな」
知り合いの知り合いが凄いレベルの言葉だ。
「やばい」
「
「やばいね」
相槌を打つ様に四人はただ馬鹿みたいにやばいと連呼しつつあった。
駄菓子を延々と食べても、まるで減る様子はなかった。
結局食べ切れぬ駄菓子は八峡義弥の部屋に置かれる事となった。