ーーー真央霊術院。
死神になるのならば必ず通らなければならない道。通う者は皆同じ場所を目指している。ここで良い成績を残せば、将来護廷十三隊に入隊した後、昇進しやすくなるだろう。
........思えば私は、ほんの少し前まで流魂街のはずれで占いをしていたはずなのだが、死神の........名は確か京楽と言ったか。とにかくその死神に言われたのだ。私の霊圧は高すぎる、と。
他人とは違う何かを自覚していたものの、それが一体何なのか分かっていなかった私にとって、それは自分自身について知るチャンスだった。思わずその場の勢いで了承の返事をしてしまったが........これはつまり、死神になれということだろうか。
「............最悪。」
今から死神を目指す学校に通う新入生の言葉とは思えないが、どうか許して欲しい。なにせ、私は流魂街の出身。死神という職業の良さがこれっぽっちも分からないのだ。............虚との戦闘には興味があるが。
........しかし、ここまで来てしまったものは仕方がない。腹を括り、私は霊術院への一歩を踏み出した。
「...........予想通りすぎてつまらないわね」
壮大な建物や庭に植えてあった大きな桜の木には圧倒されたが、式典での教師からの言葉も同級生の志願理由も、教科書に沿ったお手本のような言葉ばかりで非常につまらない。
「これからこのつまらない日々を過ごすことになるなんて........。ほんと、あの時軽い気持ちで返事をしたのが運の尽きね........。」
ため息をつきたくなるようなブルーな気持ちに蓋をして、急ぎ足で寮に戻る。こんな日は早く寝るに限る。
........だというのに、何の神の悪戯か、曲がり角で人とぶつかってしまった。急いでいたとはいえ、こんなミスをするとは........。どうやら私は、自分が思っていた以上にイラついていたらしい。
「すまない、僕の不注意だった。立てるかい?」
「ええ、ありがとう。けれど、不注意だったのは私も同じよ。気にしないで。」
私がぶつかったのは、少し癖のある茶髪の、長身の男だった。式典にいた覚えがあるし、私と同じ新入生だろう。
ただ一つ、気になることがあるとすれば........。
「...?どうしたんだい?僕の顔に何かついているのかな?」
「そんなことないわ。ジロジロ見てしまってごめんなさいね。...........ただ、そうね。仮面を被って人と接するのって、疲れないのかと思っただけよ」
ピクリ。ほんの少し、一瞬だけだが、彼の顔は確かに引き攣った。確証もなくただカマをかけただけだが........どうやら当たりだったらしい。
「........どうして、そう思ったのかな?」
「あら、別に隠さなくってもいいのに。ここ一帯に人の気配は無いし、バレる心配は無いわ。」
「........そうか。ならば、遠慮なくそうさせてもらおう。」
ゾクり、と、背筋を凍らせるような。しかしそれに違和感はなく。...........ああ、そう。そうよ、この感じ。ゾクゾクするような、刺激されるような。私の求めていたもの。
「驚いたよ。今まで本当の私を見抜いた者はいなかったからね。なぜ分かったんだい?」
「あなた、目に現れる感情と言動が一致しないのよ。初めは気のせいかと思ったけれど......ふふ........あははははは!」
突然笑い出した私に怪訝な顔をする彼。四六時中自分を偽っているようだったから、表情もあまり変えないのかと思っていたけど、どうやら違うようだ。そこもまた、興味深い。
「フフ........。ごめんなさいね、突然笑ったりして。だからそんな気味の悪いものを見たような顔をしないで?私はただ嬉しいだけなのよ。あなたという、興味深い存在に会えたことにね。...........ああ、そうだ。目を見て分かったとは言ったけど、それは私がこの間まで占い師をしていて、必然的に人の本質を見抜くことが得意になっただけのこと。一般人にはバレっこないわ。」
長々と話す私だが、彼は始めこそ驚いていたものの次第に薄く笑みを浮かべていた。そう、まるで、興味が湧いてきた........とでも言いたげな。
「........成程。君のその着眼点は面白いね。目を見れば分かる、か........。たしかに君の言う通り、基本見抜かれることはないとは思うが、裏を返せばそれは、君のように人間観察に慣れている人物は気づく可能性が高いということだ。........違うかい?」
「そうとも言えるわね。まぁ、何か対策を講じることをおすすめするわ。........あら、結構な時間話していたようね」
「そうだね。お互い、そろそろ寮に戻った方が良いだろう。...........君とは、話が合いそうだ。僕は藍染惣右介。君の名前を聞いても?」
「鈴蘭。紫藤鈴蘭よ。ありがとう惣右介。あなたのお陰で退屈な学生生活から抜け出せそうよ。」
惣右介の目に、並々ならぬ野望が宿っていることには気づいていた。しかし、それがどうしたというのだろう。
彼の歩む道、成し遂げる事、彼の選択...........その全てに、私はとても興味があるのだから。