ナルトを狙い両親の体を貫いた爪は、シャナのゴーグルまで届いていた。
ビキビキとひび割れていくゴーグル。シャナは、一歩下がって距離をとる事でゴーグルから爪を抜いた。
(お父さん、お母さん)
「お、と、さ、おかあ、さ」
串刺しになった両親の姿に、シャナは震える。ぽたりぽたりと二人の血が爪を伝って、シャナの抱くナルトに血が滴り落ちる。二人は、血みどろになりながらも、ナルトとシャナが無事なことに安堵していた。九尾の爪が突き刺さった状態で、ミナトは印を結び、小さな蝦蟇を口寄せする。クシナが再び封印に力を入れたことで九尾は再び身動きが取れなくなる。
そして、伝言を彼の師である自来也に伝えるよう告げた。告げられた蝦蟇は、すぐにその場から消える。
「ぐふ、シャナ来てくれるか?」
「(う、うん)」
串刺しの両親に呼ばれ、シャナは近寄る。そして、ミナトが指先でシャナの額に術を施した。その際、自分のチャクラとクシナのチャクラを少し組み込んだ。
「これは、ナルトの封印の鍵だ。もしナルトの封印が緩んだ時、封じられるよう術を、組み込んだ。自来也先生に聞けば、使い方がわかる」
シャナに与えられた術式は、すぐに消える。ミナトは封印の鍵を九尾をコントロールできる可能性がある娘に託したことを後悔はしていない。写輪眼と鍵があれば、ナルトが九尾に乗っ取られる心配もない。
「クシナ…、もう命がもちそうにない」
あとは、八卦封印だけとなるが、自分やクシナの命が風前の灯火となったため、ミナトはクシナに言葉を頼んだ。
「そろそろ八卦封印をやるよ。オレのチャクラもナルトに少し組み込みたいんだ。当分は二人に会えなくなる。今のうちに子供達に言いたい事を言っておこう」
クシナはシャナに伝えた言葉を思い出す。だけど最期となり、涙を流しながら本当に伝えたい言葉を発する。
「ナルト、好き嫌いしないで、シャナも甘いもの食べ過ぎないようにね。
お風呂には毎日入って温まる事。シャナは女の子だから、髪の手入れも頑張ること。それと、夜更かししないでいっぱい寝る事。
それと姉弟だもの、喧嘩することもあるだろうけど、仲直りは絶対しなさい」
胸に次々浮かび上がる言葉を娘と息子に伝えていくクシナ。母として二人の未来を案じるが故の言葉。
「それから、お友達を作りなさい。シャナは人見知りだしそこは少し心配。でも本当に信頼できるお友達を数人でいいの」
人柱力と青い写輪眼を持つ姉弟。差別を受けるかもしれない。けれど、二人には友達と過ごせるような人間になってほしい。
「母さんは、苦手だったのだけれど、勉強や忍術もたくさんやりなさい。もしナルトがわからないことがあったら優しく教えてあげてね。でも我儘言ったら怒ってもいいわ」
頭のいいシャナなら、きっと大丈夫。ナルトも安心して任せられる。
「それと大切なこと、忍びの三禁について。特に、お金の貸し借りには気をつける事。任務金はキチンと貯金すること。シャナは買い食いが好きだから特にね。ナルトが可愛いからって、お菓子ばかり食べさせちゃだめよ」
容易に浮かぶ。ナルトの我儘に甘々な姉が、お菓子を買い過ぎて、ご飯が食べられなくなる光景が。
「お酒は、20歳になってから。飲み過ぎては体に障るから程々にすること」
この子たちはどんな大人になるんだろう。一緒にお酒を飲んだりもしたかった。
「それと三禁で問題なのは女ね。母さんは女だからよく分からないけど、とにかくこの世は男と女しかいないから。好きになるなら母さんのような人を見つけなさい。
逆にシャナは、変な男に騙されちゃだめよ。貴方は可愛いから、色んな男性のアプローチを受けると思う。けど誠実な人に勝る物はないわ……」
「そこは、オレみたいな人っていわないんだ」
「ふふ、そうね。それと三禁と言えばもう1つ、自来也先生には気をつけなさいってばね」
クシナの言葉をシャナとナルトは一つ一つ受けていく。
「2人共、これから辛い事、苦しい事いっぱいあるかもしれない、けど自分をちゃんと持って。
そして、夢を持って! そして、夢をかなえようとする自信を持って!!」
二人の未来以外望むものなんてない。夢を持ち叶える子供達の姿を浮かべる。
「もっともっともっともっともっと……色々なことを一緒に教えてあげたいのに、もっと一緒にいたいのに!!!
二人と同じ時間を歩いて行きたいのに。色んな所に一緒に行きたかった、いろんな体験をさせてあげたかった!」
クシナの感情が爆発する。止めどない涙と共に言葉が出てくる。だが最後に伝えなければいけない言葉があった。
「私は二人を愛してる。誰よりも、貴方達を愛してる!」
滝のように涙を流しながら、シャナとナルトに触れる。この言葉だけでも伝えられてよかったと、安堵する。クシナが言葉を終えミナトも話し始める。
「父さんの言葉は、母さんと同じかな。クシナ、そろそろ八卦封印を施すよ」
「グァアアアア!!!!!!」
ナルトに九尾を封印しようとクシナのチャクラを封印に組み込もうとしたとき、九尾が鎖を引きちぎって暴れ出す。
「「くぅう!」」
「おんぎゃあ、おんぎゃあ」
逃がしはしないとクシナが鎖で腕をからめとるが、複数の尾が自由となって周囲の森をなぎ倒す。尾だけでも自由になった事で全ての尾を4人に向けて突き刺そうと振るった。その抵抗にクシナとミナトは止める力がない。
九尾の狐の咆哮にナルトが大きな声で泣き出す。
―――――――
どうしよう。こんな感情初めてだってばね。いや、確か村で、村人たちに思ってた感情がこれだってばね。どうしよう。ナルトも泣いちゃったし、お父さんとお母さんが死んじゃう。
体中から力が抜ける。大切なものが根こそぎ奪われ、黒い暗い感情が全身を包み込む。心が震えず、何も感じなくなっていく。
どいつもこいつもシャナから奪っていくのだ。仮面の男や九尾の狐。これらが両親の命を奪い、殺した。
さらにナルトの命まで奪おうというのか。
どうして私は奪われるの。私の大切なものは、絶対に私から離れていく。もうナルトしかいないのに。
ナルトしかいない。弟しかいない。私の大切な人は、この子しかいない。この子を奪われたら、私には何が残るの?
何も残らない。だから、私は私であるために、この子(ナルト)を守らなければいけない。どんな存在からも、だから力がいる。私はいつも、奪われたのは何故。
私が弱いからだ。守りたい、守りたい、守りたい、どんな手を使ってでも、この手に残った弟だけは!!!!
だから私から奪うやつは殺す!
「ア、アァアアアアァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
シャナのゴーグルが砕け散り、シャナの青い写輪眼が姿を現す。その表情は、怒りに歪み、青筋が浮かび上がる。殺意と怒りに染まった表情のシャナの写輪眼が変化する。
三つ巴の文様が両目とも歯車の文様へと変わり、シャナの潜在能力から膨大なチャクラが全身の細胞から噴き出す。
それは写輪眼を持つものが稀に開眼するといわれる万華鏡写輪眼そのものだった。シャナの万華鏡写輪眼を見た九尾の狐は、その瞳術によって瞳を青く変え、ピクリともできなくなる。
喉から血が出るが、それでも声を荒らげる。
九尾を操ることのできる写輪眼、それが万華鏡写輪眼なのだ。両親の死が決定したことで、大切な人の死を感じ取ったことから開眼したそれ。
(う、うごけん!!!! この目、忌々しい写輪眼め)
九尾は何とか抜け出そうとしているが、シャナはナルトを抱いたまま、憎悪に満ちた目で睨み付ける。
「化け狐」
膨大なチャクラが、巨人像となってシャナを包み込む。最初は骨だった巨人が、瞬時に形を変える。それは、巨大な阿修羅像のような形となり、6本の腕と怒りの形相を現していた。
九尾よりはるかに大きいチャクラの阿修羅像を生み出したシャナは、両目と口から血を吹きながら「ころす!」と宣言する。
シャナの言葉で動いた阿修羅像から、2本の腕が伸びて九尾の右腕を優しくもがっちり固定する。両親に負担を掛けないシャナの優しさだったが、残った4本の腕は、その剛腕を容赦なく身動きできない九尾の狐の胴体へと叩き込む。
周囲に地震のような衝撃が起こり続け、巨人のラッシュは目にも止まらぬ速度で続けられる。一撃一撃が地形を変える破壊力を持ち、その攻撃力で九尾を殴り続ける。やがてラッシュが止まる。
「ぐぅう」
地面にめり込み、憎しみを込めた目でシャナを見上げる九尾。それを見下ろすシャナは「うるさいってばね」と一蹴。強烈な一撃がズタボロな九尾の顔面を地面にめり込ませる。
(あのめ、まちがいない、あの男の)
虫の息になった九尾は、自分を見下ろすシャナの目を見て、記憶に深いある人物と被った。だが目の持つ闇に関しては、シャナのほうが深く感じた。
「なんとかいえってばね」
さらに理不尽な一撃がシャナの指示で振り下ろされる。一方的に叩きのめされた九尾。意識を失い、完全に伸びてしまった尾獣をシャナの操る青い阿修羅像は持ち上げる。
ピクリとも動けない九尾にシャナは、ようやく力を解除する。
「お父さん、お母さん、はやく、して、ってばね」
写輪眼を解除したシャナは、ナルトを台座へ寝かせ、両親の前で仰向けに倒れる。
瀕死になっていた両親は、シャナの使った謎の力と、豹変した様子に手も足も出なかったが、「さすがは私たちの子」「さすがオレの子だ」と娘の親孝行に助けられたと喜んだ。
そして、八卦封印で気を失い大人しくなった九尾をナルトの中に封印した。そこでミナトは力尽き、その生涯を終えた。
残ったクシナは、シャナを抱きしめる。
「ありがとう。私たちの娘になってくれて、私とミナトをお父さんとお母さんにしてくれて」
「……お父さんとお母さん、大好きだってばね」
涙を流し抱擁するシャナの手の中でクシナもその命を終えた。
ーーーーーーーーーー
「大丈夫か!?」
すべてが終わった後、三代目火影と忍達が駆け寄ってくる。彼らが見たのは、亡骸となったクシナとミナト。そして赤ん坊を抱いてこちらに這ってくるシャナの姿だった。体中がチャクラで火傷しており、痛々しい姿だった。
「生存者あり! 医療忍者を早くつれてくるのじゃ!!」
シャナと赤ん坊が生きていると分かった猿飛ヒルゼン。彼の裾を掴んだシャナが「おとうと、ナルト、おねがい」と伝える。
「ナルトか。この子の名前じゃな。わかった、じゃから、もう喋るな」
ナルトを受け取ったヒルゼン。そして、ナルトを預け安心しきったシャナは気を失った。
シャナが目覚めたのは、その事件から2か月ほどたった後だった。無理をし過ぎたシャナは、何度も死と蘇生を繰り返し、どうにか命を繋いだ。
九尾封印、ここで一区切りですね。次回からは、少年編(前章)ですかね。感想なども頂けるようになって、嬉しいです。