朝早くの火影の執務室。そこには、部屋の主である五代目火影とシズネ。そして、任務のために呼び出されたはたけカカシが待機していた。
「雪の国、の護衛ですか」
「そうだ。木ノ葉の中で雪の国での任務経験があるのはお前だけだ。そこでお前達第七班が選ばれたというわけだ」
「なるほど。ですが、護衛となると、最低フォーマンセルが基本です。今、第七班は」
うちはサスケが抜けて以降、七班の人員は一人欠けている。護衛対象が居る以上、基本である人数は確保したいというカカシ。それを見越してか、綱手が時計を確認する。
窓を見る綱手。
「来たか」
「嫌だったけど、来てやったってばね」
時間通り窓枠から侵入してきたのは、うずまきシャナ。絶対に火影室には扉から入らない彼女の行動に順応しつつある綱手とシズネ。褒められた行為ではないが、シャナは忍としては有能であり、任務もすべてこなしてきた経歴を持つ。
上層部はシャナの素行と忠誠心の無さを問題視するが、元は綱手も跳ね返りである。彼女に臍を曲げられるよりは、任務に大人しく従事してもらう方が得策だろう。
「綱手様、何故シャナが?」
「そいつが4人目だからだ」
「何の話だってばね?」
顔に疑問が浮かぶシャナにシズネから説明が入る。シャナは第七班の助っ人であり、護衛任務に就いてもらいたいという。ナルトやカカシと任務なんてやったことがない。
「何故私なんだってばね。中忍やそれこそ下忍だって、手の空いてるやつはいるってばね」
己惚れている訳ではないが、うずまきシャナの実力は木ノ葉でも有数。中忍であるものの、護衛任務は主に大名などの要人ばかり。少なくとも下忍が選抜されるような任務の護衛には過剰戦力だ。
「特に理由がないなら、私は」
「最近、雪の国で不穏な動きがあるらしい。かなりの危険人物が出入りしているらしくてな。そのタイミングで雪の国の依頼が来た。木ノ葉としては、護衛対象が有名な人物であるため、最善を尽くして護衛をしたい」
因果関係は不明だが、きな臭い事には、変わりない。カカシが居たとしても第七班では力不足の可能性があるという事だ。そんな任務にナルトを向かわせる事自体反対なシャナ。だが反対するなら自分で守ってみろと言う綱手の視線に腹が立つ。
それに危険人物と言うのが気になるシャナはその人物について尋ねる。
「いい質問だ。その人物は、海を渡った先の大陸で国際指名手配されている女だ。つい最近、忍五大国にも手配書が届いた。主に略奪と殺戮を生業としている傭兵でな。名をグライアという。姿などは、まだ調査中だが、噂が真実なら、とてつもない脅威となるだろう」
シャナは綱手の口から出た名前に、心当たりがあった。女傭兵グライア。ゲレルの石事件の際に戦った強敵ラビリンス。彼女が戦った事のある強敵であり青い写輪眼を持つという情報を聞いていた。
シャナ、コダマ、ラビリンスに次ぐ青い写輪眼の持ち主。それが雪の国にいるという。ラビリンスの話から実力はラビリンスと同等。
ならばシャナが同行するのは、必然ともいえる。もしかしたら、シャナの出自に関する答えを持っている可能性もある。
「当然、杞憂の可能性もある。だが、お前にとっても悪い条件じゃないはずだ」
「なんで?」
綱手が得意げに任務の詳細を伝える。護衛対象のリストを見せた所、グライアについて深刻な顔になっていたシャナが満面の笑みになっていた。
「これ本当だってばね? 嘘じゃないってばね!?」
「あぁ、今回の護衛対象は、風雲姫の映画撮影班とキャスト達、そしてお前に頼みたいのは主演女優の」
「富士風雪絵だってばね~!! やったー! やったやった。これサインとかもらっても良いってばね? いいってばね? ミッチー、キンちゃん、ヒデローもいるし。それにマキノ監督もいるってばね!」
嬉しさのあまり子供のようにはしゃぐシャナ。大の映画好きであり、風雲姫シリーズの大ファンであるシャナ。今回の護衛はその風雲姫シリーズの撮影グループなのだ。憧れの女優や俳優、そして監督など、興奮が尽きないのか、今まで誰にも見せたことのない位、足踏みしながら喜ぶシャナ。
忍びやってきてよかったと本気で思っていた。
「想像以上の喜び方だな」
「シャナ、まだ綱手様が話してるから、落ち着きなさいな」
「とりあえず、任務は受けるという事でいいな?」
「うん。私、五代目のこと勘違いしてたってばね。滅茶苦茶嬉しいってばね」
なんと現金な奴だと呆れる面々。出発は今夜の船だと伝えられ、カカシとシャナは火影室を後にした。これまでで一番愛嬌よく、扉から出ていったシャナ。
手まで振って退室した彼女を見ていたシズネがポツリと感想を零した。
「なんというか、意外ですね。あの子にあんな一面があるなんて」
「良くも悪くも自分に素直なんだろう。好き嫌いがはっきりしているから、態度に出るんだな。自来也の言っていたことが少しわかったよ」
綱手の知るシャナと自来也の知るシャナには大きな格差がある。それをシャナを可愛がっていた自来也のフィルターだと思っていたが、善意には善意を、悪意に悪意で応える彼女故の格差だったのだ。
木ノ葉が嫌い、大人が嫌いだという思いは、それだけ傷付けられてきたシャナなりの仕返しなのだと。逆に愛情を注ぎ、優しく接してきた自来也は、シャナからも信頼され、愛着を持たれている。
「この任務が終われば、ナルトと自来也は木ノ葉を離れる。だから、あの子を木ノ葉に繋ぎ止めるのは、キチンと向き合う必要があるな」
「そうですね」
――――――――
火影室から出た二人。昔馴染みだが、個人的な接触はなく、今回は久しぶりに会話を行っていた。
「お前と同じ任務は初めてだな」
「そういえばそうだってばね。……カカシは、まだお墓参り行ってるんだってばね?」
「あぁ」
オビトとリンの死後、カカシは毎日墓参りに行っていた。シャナも何度も墓参りに行っている。だがうちは一族に預けられ、ナルトと共同生活するまでは疎遠になってしまった。
だが、日を見ては両親の墓参りと同時に墓参りしているシャナ。そのたびに添えられた花がカカシの用意したものだと知っていた。
生き残ってしまった自分を罪人のように思い、償うように墓に足を向けるカカシ。彼を否定することは出来ない。
「この任務が終われば、ナルトは自来也様と旅に出ると聞いているが、お前は平気なのか?」
「平気だと思う?」
どう考えても平気じゃないだろと睨むシャナ。許可を出した手前止められないが、本心では、行ってほしくない。けれど、男の子には、女にはわからない考えがある。そして、ナルトの人生を決めるのはシャナではない。
シャナと言う檻の中にいては、ナルトは大空に飛び立てない。
「せいぜい、私のありがたみを知りながら枕濡らせばいいと思ってるってばね」
「ふっお前らしいな」
「そういえば、任務だけど、そのグライアって奴が本当に出てきたら」
全ての戦闘を自分に任せろと言うシャナ。援護しようと思わず、護衛対象の安全だけを考えてほしいと願うシャナ。カカシは強いが、慣れない共闘などして、勝てそうな相手ではない。
何事も起きないのが一番だが、妙な胸騒ぎを感じているシャナ。これが俳優や女優に会える興奮でない事は、彼女が一番理解している。
「それは隊の隊長に対する進言と取るべきか?」
一応、カカシを部隊長としている為、シャナの上司と言う形になるカカシ。シャナの発言は、任務を遂行する上で我儘ともとれる。
彼女の実力は理解しているが、独断先行を許す事はリスキーである。部下であるナルト達の手前、そんなことを許可することは褒められたことじゃない。
「幼馴染のお願い?」
「……場合による。だが、前向きに考えておくよ。俺はこの後ナルト達に任務を伝えに行くが、お前はどうする?」
「決まってる。サイン色紙買いに行くってばね!」
真面目な空気が消し飛んだ。なのにシャナは至ってまじめだという。
その後、本当に色紙を買いに走っていったシャナの後姿を見送ることになったカカシだった。
雪姫忍法帖編です。後、登場してない劇場版はロストタワーとROAD TO NINJAですかね。他の作品は、多少なりとも出した気がします。