雪の国に向かう船は、突然目の前に現れた氷山によって進路を塞がれ、立ち往生していた。巨大な氷山が目の前にそびえたつ姿は、何とも幻想的でありながら、吹き抜ける風は冷たく彼らを拒んでいるようでもあった。
そんな絶景を見た監督は、映画の神様が舞い降りたと、このシチェーションを利用しない手はないと、上陸を決定。船の上から降りた撮影班は、それぞれが準備を行い、ナルト達は周辺を警戒しながら撮影を眺めていた。
寒さにも負けず、撮影に取り組む彼らを見ながら火遁で焚火を起こしているシャナが居た。シャナが手軽に火を起こせると知ると、スタッフたちが火を求めて群がっていた。
「撮影に、護衛に、火種って大忙しだね、お前」
「寒い寒い寒い。もっと着込みたいけど、この衣装の上からはおれないんだってばね」
寒さと格闘し、カカシがスタッフから貰ってきたココアを口にするシャナ。初めての極寒に心底震えている。
「風邪ひかないようにね。お前、風邪引くと一気に動けなくなるってヤマトから聞いてるから」
「ヤマト、余計なことを」
シャナと組むにあたってヤマトと偶然出会ったカカシは彼から、シャナの手綱の握り方を聞き出していた。基本的には自由にやらせる事、どうしても必要がある場合は、理由も添えて簡潔に伝える事。そして、シャナの体調不良についてだ。
年に一、二回ほど任務中に体調を崩したシャナ。体調を崩すと悪化しやすい体質なのか、いつも重病化してしまう。故に体調管理は、何よりも大切にしているという。第四班は、もう一名も虚弱体質が居たのでなおのことだろう。
「無理はするなよ」
「わかってるってばね。あ、ナルト! こっち来て」
「うあぁ、急にくっ付いてくるなってばよ。姉ちゃん!」
寒さに堪えきれなくなったシャナは、ナルトを招き、彼を後ろから抱き締める。ナルトはスタミナの塊であり、その影響か体温が高い。故にナルトを天然の湯たんぽにしてしまったシャナ。当然ナルトは抵抗するが、万力のような力でしがみ付くシャナを引きはがせない。
体温と同時に弟を補給する傍ら、シャナは空を見上げていた。
未来視が発動したわけではない。だが、妙な胸騒ぎを覚えたのだ。
「姉ちゃん?」
突然シャナが黙り込み、空を見ているせいで、ナルトも心配になって声をかける。だが弟の声が聞こえないほどシャナの胸に込み上げる不安。何かが来るとシャナの第六感が警鐘を鳴らす。そして、それを裏付けるように、シャナの未来視が自動で発動。
何かの襲来を予知した。
「来る。カカシィ!!」
シャナの叫びとほぼ同時に、氷山から視線を感じたカカシが起爆札付きクナイを投擲。爆発に撮影スタッフたちが唖然としている。
「何してんだあんた!?」
「全員下がって! 敵襲です」
カカシの警告と同時に爆発の中から、白い忍装束を纏った忍者が現れる。
「ようこそ雪の国へ」
「お前は」
現れた雪忍の男、狼牙ナダレの顔を見たカカシは、過去に彼と戦った事を思い出す。そして、一段と警戒を強めるが、雪忍は、彼だけでなく大柄の男性や女性も姿を現す。
「歓迎するわよ、小雪姫。六角水晶は持ってきてくれたかしら?」
「小雪姫だと?……ナルト、サクラ、雪絵さんを守れ、全員船に戻って!!」
雪忍の女性が何かに酷く怯えている雪絵を見てそう呼ぶ。その名に覚えがあり驚くも、冷静にナルト達に指示を飛ばす。スタッフたちも事の異常さに気が付いたのか、船への退避を始める
シャナにも命令を下そうとしたが、既にシャナは飛び出している。高台にいる雪忍の女性に狙いを定めている。その手にはクナイが握られている。
衣装のせいで忍具を携帯できなかったシャナは、傍にいたナルトから拝借した武器を手に先制攻撃を仕掛ける。
「火遁・鳳仙花の術」
「こいつ、役者じゃないのかい!!」
印を結び火遁で先制攻撃をするシャナ。炎は、雪忍の持つチャクラの鎧が発生させる障壁によって相殺される。だが写輪眼でチャクラによって障壁を作っていると見抜いていたシャナは止まらない。
まっすぐ向かってくるシャナと距離を取ろうと女性は、鎧の背部にある翼を展開して空に飛びあがる。上空に飛ばれたことで攻撃が空振りする。
「氷遁・燕吹雪」
「銅輪転生爆」
空に飛びあがった雪忍、鶴翼フブキは、印を結んで燕型の氷を発生。それを用いてシャナに襲い掛からせる。上空にいるシャナは、攻撃を回避できないと思われたが、泡遁の印を結んだシャナ。燕の群れと泡の弾幕が衝突。
空中で爆発が起こる。
「奇妙な術を使うじゃないかい」
見たこともない系統の術にフブキは興味を引かれるが、空中と言う圧倒的優位に立っている彼女からすれば、シャナのあがきも無意味だと思っていた。しかし予想は大きく外れる。
「粒遁・天空(てんくう)」
粒遁の粒子を集束し翼のように変化させ空を文字通り飛んだシャナ。天翔による高速移動はあくまで直線に進むだけだが、天空は、長期の空中戦を可能とする術。コダマの飛行能力をモチーフに秘かに開発していた術で、空中の吹雪に接近。虚を突かれた彼女に接近戦を仕掛ける。チャクラの障壁によって粒遁の翼は消え去るが、ゼロ距離に接近したシャナに翼は必要ない。
蹴りを叩き込み、体術は有効だと確認。続いて回し蹴りで敵の脇腹を蹴り、その反動を利用して一回転し反対側から殴り、相手の上に回り込んで腹部にクナイを突き刺したうえで、クナイの柄に回し蹴りを叩き込んだ。
「獅子連弾!」
「ごはぁ」
サスケの体術奥義をそのままコピーし、フブキを地面に叩きつけ、その命を奪う。クナイで腹部を突き刺されたことが致命傷となり、そのまま命を落とす雪忍。シャナは返り血で顔を赤く染めるが、本人は無傷である。
「よくもフブキを!」
「止せ!」
突然仲間の命を奪われたことで激昂し、巨大アームの付いた大男が殴りかかろうとするが、ナダレに止められる。噂通り規格外の戦闘能力を誇るシャナを前に悪戯に攻撃を仕掛ける訳にはいかない。
そして、加勢しようにもナダレには、はたけカカシが襲い掛かってくる。その相手に追われ、シャナの相手までして居られない。接近してきたカカシとクナイでぶつかり合うナダレ。
「くっ、随分と威勢のいいのを仲間にしたようだなカカシ」
「運良くな」
クナイで何度も火花を散らせながら雪絵から遠ざけられる。それがカカシの狙いであり、主戦力のシャナとカカシで敵の殲滅、および味方が逃げる時間稼ぎをする腹積もりだった。残った大男も雪絵をガードするナルトとサクラ、そしてシャナを前にして前に出れない。
奇襲したつもりが、一気に追い込まれているのは雪忍たちなのだ。忍術に関してはチャクラの鎧で防げるが、シャナは接近戦も得意とするスピードタイプ。雪で足がとられるとはいえ、パワータイプの冬熊ミゾレでは、動きを見切れない。
だが、彼らにも威勢のいい仲間はいるのだ。
「フブキのお姉ちゃん早速死んでるやん。だから、言うたのに」
「また変なのが増えたってばよ」
氷山の天辺から飛び降りてきた将校姿の女性。彼女は帽子を深くかぶっており、表情が見えないが、シャナの足元に転がるフブキを見て嘆いていた。左手に謎の武器を持っているが、それが何かわからない。女性は、ザクザクと雪道を少しづつ下りながら、ナルト達に接近してくる。
女がニヤリと歯を見せた段階で、ナルトが動く。
「多重影分身の術!」
20人近くに影分身を行い、女に向かって一斉に走り出す。ナルトが得意とする影分身での攻撃と様子見だ。ナルトの影分身達が自分に迫ると、女は深くかぶっていた帽子を空高く放り投げた。紫で赤のメッシュが入った特徴的な髪が露になり、何よりも彼女を特徴づける青い写輪眼がナルトを捉えた。
(え、これって姉ちゃんの)
青い写輪眼は、姉しか見たことがないナルト。まさか2人目が居るとは思わず虚を突かれてしまう。その隙を見逃す相手ではない。女性は手に持った銃器をナルトの頭部に向け容赦なく引き金を引いた。
ピストルランチャー型の宝具から発射されたチャクラ砲は、ナルトの頭部を吹き飛ばし、背後にいた影分身達を貫通。実体を保てず煙になって消える影分身。
残った影分身達が手裏剣やクナイを投擲するが、彼女の身にまとうマントによってすべて弾かれ、秒間10発に近い連射で放たれるチャクラ砲で数秒で撃ち抜かれる。写輪眼によって正確無比に撃ち抜かれ、次はお前だと本体であるナルトに銃口を向ける女。人相手に撃つ威力ではない上に、弾速も速く、連射も利く武器に狙いをつけられれば、回避は忍でも難しい。
女は無慈悲に引き金を引き、銃口からチャクラ砲が発射される。
「粒遁・天刃」
メインウェポンであるチャクラ刀を持たないシャナは、ナルトから借りたクナイに粒遁のチャクラを流し、仮の武器とする。そして、粒遁の刃でナルトに向かって発射されたチャクラ砲を正面から一刀両断してみせた。
シャナが弟を狙われたことに腹を立てながら、同じ青い写輪眼を睨むが、女は連続で十発もチャクラ砲を連射し、シャナとナルトを襲う。
ナルトとサクラそして雪絵を守るために前に出たシャナは、粒遁の刃でチャクラ砲を斬って弾いていく。連続で発射されたチャクラ砲を捌き切る姿に女は感心している様子だった。
「これで終わり?」
「へぇ。やるやん自分」
シャナと女は相手の出方を探りながら、次の手を考えている。
「あんたも綺麗な目をしてるねんな。あの女にも似てるし、不愉快やわ」
「片腕持ってかれたんだって?」
女の言葉にかぶせるように、義手である彼女の過去を語るシャナ。その言葉を聞いた瞬間、女の表情が一変する。
「あの女とおうたんか? あのくそ女剣士はどこや?」
「さぁ」
銃口を向けながらシャナを脅す女。シャナは瞬き一つせずに、一歩一歩女へと歩み寄っていく。
「力づくで聞きだしてみればいいってばね。ラビリンスに勝った私に、勝てればの話だけどね」
シャナが宿敵の名を告げた瞬間、引き金を引いた女。銃口から発射されたチャクラ砲を首を数センチずらす事で回避し、踏み込んでいく。やがてシャナの間合いになり、銃を持つ女の不利な距離となる。
限界まで距離を詰められ、首に刃を当てられる。だが、女は嬉しそうに笑うのみ。
「あんたがラビリンスに勝った? 冗談は程々にせなあかんで。お前には無理や」
「グライア。お前に無理でも、私には出来たんだってばね。あいつの雷牛彗星」
首に刃を向けながら、耳元でそう囁くシャナ。シャナらしくない相手への煽り。明確に悪意を持ってグライアに接する。対するグライアの目にも明確に悪意が宿る。
特にラビリンスの名が出てから機嫌が悪い。
「あの技の名前も知ってるってことは、本当にあの女に会ったんか」
「少し前に」
「ということは、あたしらの関係も聞いとるんやな?」
「だから?」
青い写輪眼持ちの不思議な繋がり。ラビリンスの繋がりを見る目によって紡がれた運命。5人の瞳術使い全員にある、血の繋がり。経緯はどうあれ、青い写輪眼使い全員は、姉妹という事になる。それぞれが持つ能力から、別腹の可能性が高いとは聞いていた。
そして、長女であるラビリンスの勘だが、次女グライアと三女シャナの相性は最悪だという事だ。
それを聞かされていたシャナは半信半疑だったが、グライアと出会ってみて理解した。
自己肯定感と全能感にあふれ、何よりも負けず嫌い。執念深く、恨みはどれだけの時間が経とうと忘れない。目を見ればわかる。
こいつは、似たタイプだという事が。
(だからこそ、気に入らない。私は此奴が嫌いだってばね)
(むかつくわぁ。事実か確認する必要はないけど、ラビリンスに勝ったって言うんやったら、手加減はいらんな)
銃を下したグライアの様子を窺っていたシャナ。だが、自動で発動する未来視によって、自分の胴体が吹き飛ぶ未来を見て、顔色が悪くなる。銃使いのグライアに有利な距離を取ったと思ったのは間違いだった。
本能からくる回避行動によって後ろに大きく飛ぶと、シャナの立っていた位置を刃渡り3m、幅1mの壁のような剣が通り過ぎた。
人の扱うサイズではない剣を義手による怪力で振り回したグライア。更に銃を持っていた左手には、鞭のような武器が握られている。それらの武器は口寄せの術によって彼女の手元に現れていた。
これまで戦ってきた青い写輪眼使いは、全員特殊能力による戦法を主にしていた。だが、グライアは違うようだ。
(こいつは、忍術を使う、忍者相手の戦い方を知ってるやつだ)
自分と同じ忍術使い。それがグライアだ。元々は忍術のない文化圏育ちだが、雪の国に来たことで、数日で忍術について理解し、会得してしまった。自分の欲に貪欲であり、知識欲を満たすために、修行なく忍術をマスターした。
それがグライアを国際指名手配前よりも遥かに成長させる原因になっていた。
「自分、名前は?」
「シャナ。うずまきシャナ」
巨大な剣を振り上げ、鞭を構えるグライア。彼女を正面から迎え撃つべく粒遁の刃を通常の二倍近い刃渡りにするシャナ。
「私がお姉さんやろうからな、妹に先手は譲ったるで」
「姉面すんなってばね」
グライアの挑発に乗り、シャナが駆け出す。