NARUTO 先見の写輪眼   作:ドラギオン

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雪姫忍法帖12

 

 雪山の頂上でぶつかり始めたグライアとシャナ。シャナは両手にチャクラ刀を持って、グライアの銃から放たれるチャクラ砲を切り裂いていく。

 

「逃げんとよう来たな。正直、逃げられることも視野に入れてたねんけど」

「お姫様が行くって言ったから」

 

 激しい弾幕を掻い潜りながら、シャナがずんずんと接近して来る。前回と同じく複数のプレートを展開し、蛇腹剣も構えている。だが、一度攻略した手札がシャナに通用することは稀だ。

 

 間合いを把握し、性質を理解したシャナは、臆することなく向かってくる。それを理解しているのか、グライアはプレートと蛇腹剣を口寄せの応用で仕舞い、別の武器を取り出した。

  

「は?」 

 

 その武器を見たシャナは思わず間抜けな声を出してしまう。

 

「潰れろや」

 

 グアイアが持っているのは、人間一人よりも大きいサイズのハンマーだった。それを軽々と片手で振るい、シャナを叩き潰そうと振り下ろす。シャナが間一髪で横に置避けたことで攻撃は地面に命中する。

 

 シャナが避けたハンマーの一撃は、触れた雪の積もった大地を衝撃だけで吹き飛ばし、回避したはずのシャナも振動でバランスを崩す。

 

 その重量は明らかに見た目以上であり、それを軽々と振り回すグライアの猛攻は続く。自分より大きいハンマーを高速で振り続け、当たるどころか掠るだけで体が吹き飛ぶような攻撃を連打してくる。

 

 シャナもチャクラ刀でグライアの隙を狙って攻撃を仕掛ける。だが、チャクラ刀はグライアのチャクラ障壁によってかき消され、ただのダガーとしてしか機能しない。

 

 そんな状況下で縦横無尽に振るわれるハンマーの前に、シャナも思い切った接近が出来ない。

 

「ちょこまかと」

 

 近接戦を仕掛けるグライアだが、シャナが距離を取り始めれば万華鏡写輪眼の瞳術、黒炎を発生させる天照を順次発動してくる。

 

「逃げ場無くなっていくで、シャナ」

「わかってるってばね!」

 

 徐々に黒炎が周囲を覆い始めシャナの逃げ場を奪っていく。一撃必殺の天照だったが、シャナは未来視で常に発生個所を予知している。だから命中することはない。だがグライアは、シャナの素早さを封じる目的で天照を発動し続けており、いずれ回避不可能な瞬間が訪れる。

 

 グライアの狙いはそれなのだ。そして、周囲に天照の炎が展開しているせいでシャナの十八番である粒遁・天門が発動できない。通常の飛雷神の術と違い、粒子を目標に跳ぶためマーキングを施す必要のない術だが、粒子すら燃えてしまう炎が周囲に散らばっている状況では、飛んだ瞬間に、天照に突っ込むことになりかねない。

 

 だから、正面戦闘を行うしかなく、遠距離戦も不可能。なのに凄まじい力でハンマーを振るうグライアの周囲に近寄るのは、竜巻に飛び込むのと同義。

 

(こいつ、本当に隙が無いってばね)

(必死に隙を探してるようやけど、そんな時間も与えへんで)

 

 徹底的なインファイトを選択するグライア。徹底的に前に出る彼女の表情は、好戦的かつ扇情的だ。グライアの好戦的な性格と生半可ではない強敵と戦い、そして攻めに徹する自分のリズム感が合わさった事で、歯止めの利かない暴力の嵐がシャナに襲い掛かっている。

 万華鏡写輪眼で随時シャナの動きを観察しながら、乱舞を繰り返すグライア。シャナも先見の写輪眼では既に対応できず、先見の万華鏡写輪眼に切り替えては、相手の動きを観察している。

 先見の万華鏡写輪眼の使用は、シャナの脳にダメージを与える代物であるが、一撃貰っただけで頭が吹っ飛ぶような攻撃を前に出し惜しみは出来ない。

 

「シッ!」

 

 振り下ろされたハンマーを回避し、シャナがダガーをグライアの首目掛けて振るう。彼女は体をのけ反らせることで直撃を回避するが、首に一筋の切り傷が浮かび上がっている。自分が切られたと気が付いたグライアは、横に薙ぎ払うようにハンマーを振るうと、ハンマーを投げ捨てる。

 

「次はこれや」

 

 笑いながらグライアは、レイピアを口寄せしシャナの目を狙って刺突を繰り返す。シャナは両手のダガーで刺突を弾いていくが、刺突を正面から受け止めてしまったタイミングで、グライアが笑う。

 

「爆ぜろや」

「ぐ、く」

 

 レイピアの先端で受け止めた瞬間、触れた部分が爆発した。突然の爆発だったが、先見の万華鏡写輪眼で奇跡的に予知できたことで後ろに飛んだシャナ。爆発を体で受ける事はなかったが、シャナの大切なダガーが砕けてしまった。

 咄嗟に万華鏡の瞳術で時を巻き戻そうとしたシャナだが、そんな時間もチャクラの余裕もない。触れた部分を爆裂させるレイピアがシャナに迫る。

 

(よくも!)

 

 宝物を破壊された怒りからか、シャナはレイピアを屈んで回避しながら前進。グライアのチャクラ障壁の中に潜り込む。しかし、一度それを食らった彼女が何の対策もしていない筈がなかった。

 レイピアを持つ右手に対して、左手には小型の盾を装備していた。奇襲で術を発動されても、それを受け流せる特殊な防具だった。

 

「見えてるってばね!」

 

 一撃も直撃を貰っていないが、先見の使い過ぎで鼻血を流すシャナが、グライアの無防備な顎を蹴り上げた。全く予想外の動きと、自分の盾で視界を塞いでしまったことが災いし、クリーンヒットした一撃は、シャナより背の高いグライアの体を宙に浮かび上がらせるには十分だった。

 そして、飛び上がったグライアの背に追従するようにして影舞踊を行う。

 

「獅子連弾!!」

 

 そして繰り出したのは、うちはサスケが中忍試験で編み出した体術奥義。写輪眼持ちとはいえ背後からの攻撃全てを見切ることは不可能。最初の回し蹴りでグライアの脇腹を蹴り、その反動を利用して反対側から殴りかかる。それには義手でガードが間に合ったグライア。しかし、シャナが上に回り込み腹に回し蹴りを叩き込む動作までは読めなかった。

 

「ぐふ」

 

 腹を蹴られ、地面に叩き落とされたグライアは、吐血しながらシャナを睨んでいる。そして天照を発動し、シャナに強制的に距離を取らせた。

 そして、すぐに起き上がった彼女は、口を拭いながら追撃を思案しているシャナに殺意の籠った目を向ける。

 

「ごほ、ち、体術って奴かいな。けど、それで勝負は決まらへんで!!」

 

 すかさず天照が発動。黒炎がシャナに向かって飛んでくる。シャナは、当然のように黒炎の発生場所を予知していたので回避できたが、内心嫌な想像をしてしまう。

 

(おかしい、どうなってる)

 

 天照を回避したシャナを追いかけるように、連続して天照を発動するグアイア。さらに須佐能乎まで発動し、須佐能乎の持つ三又鉾をシャナに投擲してくる。

 

「須佐能乎!」

 

 須佐能乎の攻撃に対して、シャナも須佐能乎を発動。飛んできた三又鉾を6本の腕で掴み取る。だが、次から次にグライアの三又鉾の投擲が始まる。それらを的確に須佐能乎の拳で弾いていくシャナだが、当然ながら須佐能乎は、ノーリスクで使える術ではない。

 チャクラの消費も激しく、細胞にダメージを与えながら発動し続けるシャナ。それに対して一切勢いが劣らないグライア。

 

(なんで、こいつのチャクラは、減らないんだ) 

 

 シャナの予感はまさに的中していた。連続で発動し続ける天照、須佐能乎、そしてグライアの使用する武具は全て多大なチャクラを消費する代物だ。シャナは、グライアのチャクラ量を写輪眼で観察した結果自分と同じくらいだと予想を立てていた。

 だが結果はどうだろう。永遠と大技を連打し、勢いの衰える事のないグライア。

 

 チャクラを間違いなく消費しているのにもかかわらず、彼女のチャクラ量に一切変化が訪れていない。最初は、彼女の口寄せする特殊能力を持った武具からチャクラを抽出しているのかとも思ったが、そのどれもが使用時に莫大なチャクラを奪う代物だと、シャナの写輪眼は見抜いていた。

 

 何かカラクリがあるのだ。だが、その事実にたどり着くのが少し遅すぎた。グライアのペースに合わせて術を発動していたシャナだったが、今明確にチャクラの総量に差が出てしまう。

 

 長期戦に持ち込まれれば、シャナのスタミナが先に尽きてしまうのは明白だった。 

 

(一体どこからチャクラを吸収してる?)

 

 シャナの未来視、巫女のチャクラ。コダマの読心、形態変化。ラビリンスの繋がりの可視化、ゲレルの石。これまでの青い写輪眼持ちは、特殊な能力を持っていた。グライアにも特殊な能力があってもおかしくはない。だがその正体を洞察するには、グライアの情報が少なすぎる。

 

「ごふ」

 

 須佐能乎の反動が、ついに内臓まで傷付け始める。そのせいで吐血したシャナ。だがグライアの攻めは一切緩むことはない。

 須佐能乎と須佐能乎の対決だが、シャナに続いてグライアも吐血を始めている。どうやらグライア自身も代償を克服は出来ていないのだろう。

 だが、血を拭いながら、深呼吸をするグライアの様子をシャナの写輪眼は見逃さなかった。

 

 グライアが大きく深呼吸すると、チャクラ量が回復し、あろうことかシャナが与えたはずの打撲の跡や傷が回復し始めていたのだ。

 

(まさか、自然界にあるチャクラを吸収しているってばね?)

 

 まるで以前自来也が使っていた仙術のように、自然界からチャクラを吸収しているという仮説を立てたシャナ。だが、自来也の話で聞く仙術とは、チャクラの吸収速度が違い過ぎる。さらに、傷が回復していくのも不可解だ。

 

 このままでは謎を解く前に時間切れが来てしまう。今このタイミングでの決着は、不可能と感じたシャナは、須佐能乎内で火遁の印を結ぶ。

 

「火遁・業火滅却!!」

 

 口からグライアの須佐能乎ごと周囲を包み込む火炎を噴き出す。その炎に飲み込まれたグライア。須佐能乎の耐久力の前に火炎は意味をなさないが、視界から姿を隠すことは出来た。

 

「また目くらましか。けど、今度は……あ?」

 

 再び奇襲攻撃が来るのかと警戒していたグライア。業火滅却が周囲で燃えていた天照の黒い炎に燃やし尽くされたことで、視界が開ける。

 しかし、シャナの姿はどこにもない。

 

「逃げたんか」 

 

 警戒心を緩める事はないが、少なからずグライアの攻撃の射程範囲にシャナの姿がない事は確信した。須佐能乎を解除し、シャナが立っていたであろう場所に目をやる。

 

 シャナが立っていた場所から足跡が一切ない事から、瞬間移動のような術で逃げたのだと推測できた。

 

「便利な術持ってるな。けど、次は逃がさへんで、シャナ」

 

 シャナの逃走に対し、若干腹を立てながらも不利になれば、引くことができる相手の冷静さは評価したグライア。雪の国にいる以上、シャナとの決着の機会はすぐに来るだろうと、自分を納得させたグライア。そんな彼女はマントを翻しながら、雇い主の元に戻る。グライアが万華鏡写輪眼を解除すると同時に、周囲を飲み込みかけていた黒い炎は消え去り、其処には何も残っていなかった。 

 

 

―――――――

 

 一方、撮影班の車両内に設置していたチャクラ粒子を入れていたランプへと粒遁・天門で飛んだシャナ。非常用に脱出先を用意しておいて正解だったと思いながら、急に現れたシャナに驚く撮影班を他所に、ひと悶着あったらしきカカシ達と合流した。

 

 カカシ達によると雪忍達の戦闘車両が線路より現れたという。三太夫が応援として呼び出した雪の国のかつての家臣たちによるクーデター派が手助けに現れたものの、人数も戦力も圧倒的に劣る彼らは、ドトウ達によって壊滅。

 三太夫も残念ながら敵の攻撃の前に命を落としてしまったっという。さらに一瞬の隙を突かれ、飛行船に雪絵が攫われ、それを追ってナルトが飛行船に飛びついて行ったというのだ。

 一方でシャナもグライアと戦闘があり、相手の危険度がシャナの想定以上かもしれないと報告。ナルトが無茶をしたというのに、意外と冷静なシャナの様子をサクラが疑問に思っているが、シャナは別段心配はしていなかった。

 

 もしナルトに命の危機が迫るのなら、シャナの予知能力が発動したはずだからだ。だが、それがないという事は、痛い目にあっても命に別状はない。雪絵の救助に出て、捕らえられたのだろうと想像するシャナ。

 だが、雪絵が誘拐された段階で彼女が殺されている可能性があるのではと、質問するサクラ。だが、シャナが首を横に振りながら、ポケットに隠していたあるものを取り出す。

 

 それは、雪絵が持っていた水晶のネックレスだった。

 

 

「相手の狙いは、雪絵さんではなく、この六角水晶だって言ってたってばね」

「お前、何故それを」

「保険だってばね。保険」

 

 シャナは、雪絵との話し合いで、彼女の命を守るための保険として六角水晶を預かっていたのだ。そして、雪絵にはある物を手渡していた。それは土遁で作った水晶の偽物ともう一つの保険だった。

 

 その保険が雪絵の手にあり、六角水晶をシャナが持っている以上、相手は迂闊な事は出来ないだろう。

 

「奴らも偽物に気が付いて、二人に手荒なことはしない筈だってばね」

「そうだとして、どうやって奪還するつもりだ? 例の国崩しは、お前の手にも余ったのだろ?」 

 

 カカシが痛い所をついてくる。グライアとシャナの戦いは二度にわたって決着がつかなかった。仮に空所作戦を決行したとしても、成功確率は高くない。

 むしろ下手すれば、雪絵やナルトの命綱である六角水晶を奪われかねない。 

 青い写輪眼の使い手は、どれもこれも化け物揃いである。全員が初戦では、決着をつけられなかった。むしろ、強さで言えばシャナより上位に位置している可能性がある。

 

「次で決着がつくってばね。そして、私が勝つ。だから心配するなってばね」 

 

 未来視を使ったわけではない。だが、シャナは、自分が負けるとは微塵にも思っていない。シャナは、本質的には分析型の忍である。強敵と戦う際、徹底的に相手を観察し、相手の出方や手札を出させた上で攻略する。故に初戦よりも、連戦を得意とする傾向がある。未来視も合わさり、相手からすれば出す前に手札を知られている状態に陥る恐怖の存在。

 これまでも強敵との戦いはそうやって制してきた。だが、グライアも偶然か同じタイプだった。徹底的に武装を使い分けながら相手の出方を見つつ、有効な武器をチョイスしては攻め方を変化させる。戦えば戦う程、手強くなるタイプだった。

 

 シャナは回避に重きを置き、グライアは防御力に重きを置くという違いこそあれ、相手の手札を枯らすスタイルなのだ。次に戦えば、シャナのあらゆる手段を封じてくるつもりだろう。

 

(どんな手段を選ぼうが、アイツの想像を超えてしまえばいいだけだってばね) 

 

 冷静に救出作戦について考えを巡らせながらも、興奮を隠しきれていないシャナ。サクラは、カカシと話している最中にふと、シャナの顔に浮かぶ喜びの表情に鳥肌が立った。明らかに状況は最悪なのに、強敵との再戦に打ち震えるようなシャナの顔。

 この人は、何処か壊れているんだろう。それがサクラの感想だった。だけれど、それゆえに強く眩しいのだろうかと考えてしまった。

 

 この人が大丈夫だと言えば大丈夫なのだろうと納得してしまう。

 そして、シャナとカカシの救出作戦について、傍観しているしかなかったサクラもある役を買って出ると言い、作戦が纏まったのだった。

 奪還作戦は、今夜に決まった。

 


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