ナルト達が戦いを終えた頃、グライアとシャナの戦闘も佳境に差し掛かっていた。
莫大なチャクラを用いて体が壊れる事すら躊躇しないグライア。対峙するシャナは、手裏剣術による牽制で隙を見出そうとする。
「いくら逃げても、ウチを振り切れると思うなやボケ」
「化け物が」
超人的な再生能力を持つグライアは、シャナの投擲する手裏剣の雨を全身に受け止めながらも、最短距離で接近する。
破壊そのものとなった彼女の拳は、大地を砕き、蹴りは空を切る。そんな兵器の攻撃を紙一重で回避するシャナ。幸いな事に、シャナのチャクラコントロールや未来視は、忍術を無効化するフィールド内でも問題なく使用できる。
猛烈な勢いで攻撃を仕掛け続けるグライアにカウンターで裂傷を与えていく。
「今更、クナイなんぞで」
突き出された拳を横に回避しながら、腕の腱を切断する。だが、グライアの斬られた腕は煙を上げながらすぐに動き出し、シャナの髪の毛を掴もうとして空を掻く。
(腱を斬っても数秒も止まらない。それどころか回復速度や膂力がうなぎ上りしてる。こいつ、無敵だってばね?)
術を使えない状況下で、グライアを殺す方法が思いつかないシャナ。先見の写輪眼を使っている今、グライアの攻撃を貰うことは皆無だが、それには限りがある。
距離を取って仕切り直す事も出来ず、一方的なデスマッチを挑まれる。
「は、は、は、は、ぐぅう」
(あいつ、なんで、いや、もしかして)
シャナは、全神経を集中してグライアを観察していると、ある事に気が付いた。その考えは瞬く間にシャナの中で吟味され、一つの結論にたどり着く。何度も何度も攻撃を仕掛けるうちに、全身から湯気を立ち昇らせるグライア。
その表情は切羽詰まっており、動きが早くなるのに比例して荒くなっていく。
まるで、爆発寸前の火山のようだとシャナは考えた。そして、そのエネルギーはどこから来ているのかと思案すると、心当たりが一つあった。
(こいつの無限にも近いチャクラの供給源。ようやく確信が行った)
シャナの人生の中で、グライアと似たようなことをしていた人物が居たのだ。巨大な瓦礫が投擲され、それを飛んで回避。両目でグライアを深く観察し、笑みが浮かぶ。
「ぜぇ、ぜぇ、何笑ろてんねん」
肩で息をしながらグライアがシャナを睨む。
「グライア。お前の能力、一つだけ解読できたってばね」
「あ?」
「お前は、自然界のチャクラを燃料にしてるな?」
シャナの指摘にグライアの表情が少しこわばる。シャナがグライアの正体に照らし合わせたのが、自来也の仙人モードだった。自然界のチャクラを取り込み、自身のチャクラと混ぜ合わせる事で仙術チャクラを生み出す技術。
それならグライアの怪力や頑丈さにも納得がいく。自来也からの説明と一度しか見たことがなく、紐づけに遅れたが、確定だ。
だが仙人モードとの違いは、グライアは自然のチャクラをそのまま吸収し、それを利用しているところだろう。その吸収速度は、仙術の比ではない。けれど、グライアは、仙術チャクラを練れていない。故にコントロール出来ているとは言えない。
彼女の戦闘スタイルは、無駄にチャクラを浪費する火力のごり押し。それが戦法ではなく、吸収したチャクラでパンクしないための策だとすれば、納得がいく。
「そして、お前の一見無敵のような力、けれど、それがお前の弱点だってばね」
「ほう」
「お前、その無限のチャクラを自分の意志で放出できないってばね? お前は強くなってるんじゃない。爆発しそうになってるだけだってばね」
シャナの指摘は正解だ。
グライアは、自然界の莫大なチャクラを肌を通じて吸収する特異体質。正確には、”龍脈”を通じて無制限にチャクラを引き出せるのだ。
シャナが鬼の巫女の血を引くように彼女の血には、特殊な一族の血が流れている。龍脈の時すら超えると言われるチャクラを扱える彼女だが、大きな欠点が存在した。
龍脈からチャクラを吸収は出来ても、それを自分の意志で制御できないのだ。それ故に彼女は自分の居た国を焼いたのだから。忍術で多少は消費できるが、それはダムの水を蛇口で抜くようなもの。忍術は、チャクラだけあったとしても集中力や苦手なチャクラコントロールが必要。忍具は全て、失敗作や欠陥品で、とにかく自分の体のチャクラを抜く性能が求められた。
吸収量は、彼女が望もうが望むまいが日に日に増大していく。それは、グライアの武器でもあり命を脅かす毒でもあった。
そして、今現在、義手以外の忍具は機能を停止。義手のチャクラ消費だけでは追い付かなくなったグライアは、自滅寸前だったのだ。
「だったら、私はお前が自滅するまで待てばいいってばね」
相手が自滅まで秒読みだというなら、ここでシャナの目的は時間稼ぎに変わる。そうすれば、シャナが自動的に勝つ。完全に王手だと確信したシャナ。だが、そこで、ふと脳裏にコダマやラビリンスの顔が浮かぶ。
敵対し殺し合い、それでも和解できた。そんな前例があったのだ。
「グライア、ここまでだってばね。私の勝ちだ。だから、もう」
(何を言ってるってばね私は!?)
突然、グライア相手に休戦を告げてしまう。先程まで、命のやり取りに昂りを感じ、何があろうと殺そうという絶対な殺意があったのにもかかわらずだ。
グライアさえ抵抗しなければ、シャナは彼女の暴走するチャクラを抑え込んでしまえると考えてしまった。
好敵手であり、自分の全力を出しても壊れない相手だからか。いや違う。
「なんや、急に。おまえ、もしかして、同情しとるんか?」
シャナの言葉に酷く傷ついたような顔をするグライア。シャナも自分が何故こんな感情を抱くのか理解できない。だが、シャナの中にある感情が、思考を鈍らせてしまう。
”殺したくない”
「ラビリンスも、同じような顔しとったわ。ウチの腕を切り落とした後にな。けどな、ウチを……、舐めるなよ小娘」
シャナの同情心からくる停戦に腹が立ちすぎて、憎悪に染まるグライアの心。心臓が高鳴り、グライアの写輪眼が青から深紅に染まる。そして、”誰か”の声がグライアの心を支配した。
「お前、あの声か!?」
グライアの赤い写輪眼と向き合った際、ラビリンスとの戦いで向かい合った彼女たち姉妹の中にいる誰かがグライアを支配したと理解した。頭の中で聞こえる男の声。それに身を任せたのだ。顔はグライアなのに、気配や威圧感が別物となっている。
そして、話し方が一気に変わるのだ。
「お前が何を言っているか知らないが、この体の持ち主である小娘は、停戦なんぞ望んでいない。求めるのは血で血を洗う命のやり取りだ」
自分の胸を指さすグライア(を乗っ取った人物)。そう宣言するなり、トップスピードでシャナに拳を振るう。先見の写輪眼で不意打ちを見ていたシャナは、一発目は回避。だが、グライアにあるまじき洗練された体術が、連撃として迫る。
一発貰っただけで致命傷になりかねない怪力でありながら、一発一発が正確で、明確な殺意を持って振るわれる。
シャナが耐えきれずクナイで反撃をするも、掌でクナイを受け止めるグライア。
「この体のコントロールに慣れていないとはいえ、俺の体捌きを見切るとは。良い目を持って生まれたな」
「あぐ、ああああ」
掌で刃を受け止めたグライアは、そのままクナイを握るシャナの腕を掴み、逃げられなくする。そして、上半身にガードを行ったシャナの動きを見て、下半身狙いにシフト。ローキックで右足をへし折られてしまう。
折られた足を押さえながら、シャナがグライアを見れば、足を振り上げていた。両手と片足で後方に跳び、蹴りを回避したシャナ。そんな彼女に追撃を入れようとグライアが不気味に迫りくる。
「戦場では情けは命取りだ。そんなことも教わらなかったのか小娘?」
明らかに自分を格下だというような目線。人格が変わるだけでこうも戦闘力に影響が出るとは思わなかった。シャナ自身も頭に響く声に耳を貸せば、力が手に入るかもしれない。
そんな甘い考えに行きつきかけた。
「まぁいい。お前を始末したのち、他の連中も皆殺しすればいいか」
グライアの口からそんな言葉を聞いた時、体が動いていた。城の瓦礫の中に埋もれていた刀を掴んでいた手がグライアの左足首を切断した。
「お?」
足を切り落とされ、バランスを崩したグライアに、刀を投擲。刀はグライアの肩を貫く。
「いい目だ」
片足を失ったグライアだが、既に体が再生を始めている。しかし、傷の再生速度が上がっているという事は、もう限界なのだろう。グライアの体が発火し始める。
「どうやら、臨界点を超えたらしい。今の一撃が引き金となったか。こうなっては、俺でもコントロール出来ん」
偶然の反撃。仲間を弟を殺すと発言された段階で、シャナの殺意のスイッチが入った。思考するより早く体が勝手に動いただけだったが、それがグライアの体を追い込んだ。
体中から炎が上がり、グライアは諦めたかのように立ち尽くす。もうこの状態になれば身動きすら取れないのだ。
「ぐ、ウチの体で勝手すんなや。ふふ、この戦いウチの勝ちや」
ギリギリになってグライアの意識が戻ったのだろう。足を折られたシャナでは、グライアの自爆からは逃れられない。故に勝利だと確信したらしい。
グライアの自爆は、辺り周辺を炎と爆風が襲う大規模なもの。ちょうど、ドトウの城くらいの敷地なら、吹き飛ばす規模である。そして、自爆はグライアにとって死ではない。
死にたくなるような苦痛と苦しみを味わうが、活性化した彼女の体はそんな地獄の中でも死ぬことを許してくれない。瀕死にはなるが、何度も生き延びてきたのだ。
ただ、自爆するたびに、苦痛は強くなりグライアの寿命を大きく削るデメリットがあった。
「じゃあな、シャナ!! うあああああああああああああああああああああ!!!!」
グライアが吸収したチャクラで豪炎と共に吹き飛ぶ瞬間、シャナは折れた足で立ちながら印を結んでいた。チャクラ障壁によって術が使えない中でも、先見の写輪眼は、勝機を見出していた。
チャクラを練り、術が発動できないだけで、忍術を発動寸前にまで持っていく事が出来る。
そして、爆発に巻き込まれる寸前、グライアの義手が遂に悲鳴を上げ、忍術を封じるフィールドが消え去る。
まさにコンマ一秒。その時間を見逃さないのが未来視である。
「粒遁・天翔!!!」
忍術が使用可能となったシャナは、自身の体を粒子に変え上空へと亜音速で移動。爆発に巻き込まれることなく空へと逃げ延びた。
「粒遁・天空(てんくう)」
上空に跳び落下し始めたシャナは粒子の翼を纏って滞空。右手に螺旋輪虞を形成する。そして、炎が収まるところを見計らい、一気に急降下。
爆心地へと強襲をかける。
「くそ、生き延びたんか?」
全身に致命的な火傷を負いながらも、意識を失っていなかったグライアは、息も絶え絶えで上空から接近するシャナに銃を向ける。自分の炎で焼け焦げているが、チャクラ銃として機能はするようで引き金と同時に、チャクラ砲がシャナへと発射される。
「粒遁螺旋輪虞!!」
翼を携えたシャナは、右手の螺旋輪虞で砲撃を弾きながらグライアに必殺の一撃を叩き込んだ。満身創痍のグライアにシャナの攻撃を防ぐ術はなく、螺旋輪虞を受けて吹き飛ばされた。だが、砲撃によって螺旋輪虞のリングが砕けていたので、斬撃を負うことはなかったのが幸いか。
勢いよく吹き飛ばされたグライアは、氷壁に叩きつけられ、崩れてきた雪と氷に埋もれてしまった。
シャナは、自分の折れた足を万華鏡写輪眼の瞳術、御年神で随感を巻き戻す事で治療。グライアが復帰してくる可能性も視野に入れ、警戒する。
しかし、いくら待ってもグライアは氷から這い出てこない。
「死んだってばね?」
恐る恐る、グライアの埋もれている個所に足を運べば、シャナはがっくりと尻もちをついた。
「しぶとすぎるってばね」
既にそこには、彼女はいなかった。だが、氷壁を掘削したのか、かなり奥深くまで抜け穴が出来ており、逃走したのは間違いないようだ。完全に螺旋輪虞を当てたというのに、瞬時に劣勢を察して敗走したらしい。
あの女を殺したくないと思ったのは事実だが、完全な決着はつかなかった。
今回の事で、ラビリンスと同じく、グライアのターゲットになってしまったのは明白だった。
「あー、しんど」
雪に寝転がり、シャナは強敵との戦いからくる疲労感に、目を瞑った。
龍脈使いがグライアの正体です。ちなみにグライアの顔は、ロストタワーのヒロインそっくりです。