「口寄せの術!! 口寄せの術!!」
木ノ葉隠れの里、うちは一族の修練場で、ご飯を食べる事すら忘れ、ひたすらに術の練習をしているシャナが居た。
汗まみれになりながら、もう何時間術の練習をしているのかわからない。右手の指はもう血まみれになっている。
何故シャナが口寄せの術を練習しているかと言えば、昨日の任務が原因であった。
「これしか方法がないってばね!」
シャナは、昨日の任務の際に、ものすごく大きなショックを受けた。任務で久しぶりに第四班で組んだのだが、敵の忍達が口寄せの術を駆使する集団であり、八雲がシャコガイ型の巨大な口寄せ動物【七宝】を呼び出して応戦。
相変わらず口寄せ動物にあこがれのあるシャナは羨ましがっていたが、現状口寄せの術は八雲しか使えないとして我慢していた。
「口寄せの術」
そう思っていたのに。なんとトルネが初めて口寄せの術を披露した。トルネが契約した生き物は、炎を纏った巨大な百足【羅刹】。かなり強い口寄せ動物なのか、敵の口寄せ動物を八雲の七宝と共に蹴散らし、あっという間に制圧してしまった。
「あれ、シャナは?」
「見ていない」
そこで二人がシャナが戦っていないことに気が付いて、周辺を探すと、シャナが三角座りで岩の上で拗ねていた。
どうやっても契約できない自分に対する当てつけだと勝手に怒り、里に帰るなり絶対に口寄せを使ってやると修行に打ち込んでいた。だが、契約できない彼女が口寄せ動物を口寄せできるはずもなく、無駄に時間が流れてしまっていた。
くたくたになり、地面に座るシャナ。
(こればかりは無理だってばね)
どうしようもない。時間の無駄だと分かっているのに、自分にだけ出来ないことがあるのが耐えられない。他の事に努力の時間を割くべきだと頭でわかっているが、プライドが邪魔をする。
「後、一回だけやって帰ろ」
明日は満月。そうなれば、トネリが木ノ葉に来るかもしれない。全神経を集中し、印を結んでいくシャナ。最後だからとチャクラをふんだんに練り込み、地面に手を置く。
「口寄せの術!」
シャナの術の発動と共に、シャナの姿は、その場から消えてしまった。
ーーーーーーーーーー――
「? え、暗。何処だってばね」
突然真っ暗な空間に飛んでしまったシャナ。流石に何が起こったのかわからず、困惑している様子だった。だが、明かりが欲しいと粒遁の印を結んで、暗闇を照らす粒子を放出する。光り輝く粒子が彼女の掌から空間に広がり、其処が密閉されたドーム状の空間だと判明する。
岩や木の根で構成された空間。人工的に作られたのか自然にできたものなのかは不明だが、空間の中心に聳え立つ巨大な大木が目に入った。光一つない空間なのに、立派に育った大樹。
不思議とその大木に手を触れてしまった。
「チャクラが!?」
木に触れた瞬間に、シャナの体からごっそりチャクラが持っていかれる。すぐに手を放し、後ろに跳んだシャナ。警戒しながらクナイを取り出す。
【驚かせて済まなかった】
突然大木から声が聞こえ、目を凝らせば大木の中に全身真っ白な赤ん坊のような生き物がいた。大木に覆われるように一体化しており、不気味さが増している。だが赤ん坊の表情自体は温和で、シャナを歓迎しているようににこやかに笑っている。
「何者だってばね。それに私のチャクラを奪ってどうするつもりだってばね」
【吾輩は、チャクラがなくては動けない生命体なのだ。だが、ある日この大木と融合した際に、分離できなくなってな。そして、災害によってこの木は埋もれてしまい、最低限のチャクラすらなく何百年もこの場所に幽閉されていてな。偶々私に触れた新鮮なチャクラに思わず食いついてしまったのだ。
しかしお前のチャクラを食ったおかげでこうして話せることが何よりの幸福だろう。吾輩は、他人に寄生してチャクラを吸い取りそのチャクラ性質となって、その人物に成り代わる事も出来る生物であってな。その特性から、チャクラを奪う能力を持っているという訳だ。だが今の一瞬では寄生は出来ないし、チャクラを少しもらっただけなので気にしないでくれ。
それにしてもこの、明かりは何なんだろうか。特殊なチャクラで構成されているのか? 君の術か何かかな?
実に美しいものだ。光なんてものは、ずっと拝めなかったからな】
赤ん坊は、飲まず食わずでも生きていける生命体であるが、光合成などの最低限の栄養確保ができなければ動く事も出来ないという。そして、赤ん坊を捕らえているのがこの大木。この大木は、植物や大地と一体化できる赤ん坊が偶然融合した植物なのだが、特殊な細胞を持っており、赤ん坊は身動きが出来ないという。
分離できなくなった赤ん坊は、何年も脱出の手段を考案したが、無駄に終わり、やがて深い眠りについていたという。
そこに偶然現れたシャナのチャクラを食らうことで、活動が可能になったという。とはいえ、長年木と融合したせいで、運動能力は無くなり、こうして話す事しかできない生命体だと自嘲する。だが孤独が長すぎたのか、他者との話にも飢えているのかものすごくしゃべる。なんかいろいろと凄い話を聞かされ、嘘をついているのかと訝しむシャナ。世界中の植物と融合し、あるものを探すために世界を監視するために活動したなど語り続ける。本来は、主である怪物を復活させるのが目的だったが、さすがに今はどうでもいいと吐き捨てている。
一体何歳なのか不明だが、巨大な木と一緒に長き時を過ごしたという発言から、果てしなく高齢なのだろう。
人と話せるチャンスを逃すまいと、ずっと話し続ける赤ん坊。
【そして、名前を聞いていたか】
「うん。30分も前に聞いた質問だってばね」
聞き疲れて、地べたに座りながら話を聞いていたシャナ。ようやく質問に答える事にした赤ん坊。だが名前を考えた段階で、固有の名がないと発言した。
「どういうことだってばね?」
【ゼツという名はあるのだが、これは吾輩の種族を表すものであり、固有の名はない。それにこの木と融合し、吾輩はゼツとは違う生命体となっている。だから、どう名乗るべきなのか。そもそも名前とは本当に必要なのだろうか?
いや流石に呼び名があった方が君には呼びやすいのか。そういえば、私は私を一人の個体として認識したのは今日が初めてだったりするのでな。やはり名前はあった方がいいな。固有の名を与えられてこそ、吾輩は一つの生命体として確固たる存在になれるだから】
「良くしゃべるから、ジョウゼツ(饒舌)なんてどうだってばね?」
名前を勝手に決めるシャナ。その名づけに赤ん坊は、にっこりと笑う。
「気に言ったってばね」
【ジョウゼツ。吾輩に相応しいと言える。そういえば、君の名は何だったかな】
「シャナ。うずまきシャナ」
ようやく自己紹介が終わった二人。今度はシャナの事を聞きたいというジョウゼツ。シャナが根負けして自分の事を話し始める。そうして、ジョウゼツの会話に付き合っていたシャナだったが、さすがに時間が経過し過ぎている。
そろそろ帰らなければいけないと告げると、ジョウゼツは少し寂しそうな顔をした。
【そうだな。吾輩のお喋りに付き合ってくれてありがとう。君の事は誰にも漏れる事はないから、安心したまえ】
「……また、動けなくなるの?」
正解だ。ジョウゼツは他者にチャクラを貰わねば、活動できない。不老不死に近いが、恐ろしくか弱い生物である。
【そう憐れまないでくれ。君のような奇跡がまた起こると信じている。君が吾輩に希望をくれたのだから、これはそのお礼だ】
ジョウゼツが、残り少ないチャクラで、自分を拘束する大木から花を生やした。こんなことしかできないがと言ってのけるジョウゼツ。その花を受け取ったシャナだったが、其処である違和感にたどり着いた。
「待つってばね。お前しれっと木遁使ったってばね」
【木遁? これは、アシュラという小僧が使っていた術のはずだが。今の世では木遁と言うのか。新しい知識が増えた。感謝するよ】
シャナは、自分が此処に飛んできたのは、こいつとの対面が運命であるのではないかと考えていた。口寄せの師であり、蝦蟇使いの自来也もシャナと同じように、口寄せ契約せずに口寄せを使い、妙木山に飛ばされ、そこで蝦蟇達と契約を結んだという。
偶然に起こる現象。自来也はそれを運命だと説明していた。だからシャナにもいつか契約できる機会が起こるかもしれないと慰めてくれた。
それが今なのでは、ないか。
そう考えた時、シャナの脳は、ジョウゼツが語った特性にたどり着く。
―――吾輩は、他人に寄生してチャクラを吸い取りそのチャクラ性質となって、その人物に成り代わる事も出来る生物であってな。
シャナは、無生物や自分のチャクラなら、口寄せできる。契約が出来ないだけで、口寄せの術は使用できる特異体質。一方、ジョウゼツは、寄生した相手のチャクラを吸い取り、そのチャクラ性質をコピーできるという。
寄生、チャクラ性質のコピー、口寄せ。いろいろな要素がシャナの頭の中で、噛み合い始める。そして、全てのピースが揃った時、シャナの脳裏に浮かぶのは、ウラシキと戦っていた時に、両肩に蝦蟇を乗せ、圧倒的な戦闘能力を誇っていた自来也の背中。
にやりとシャナの口角が上がる。
「ジョウゼツ。お前、私に利用されてみないってばね?」
【……ほう】
シャナの提案を、ジョウゼツが了承したかは謎である。だが、その日木ノ葉に帰ったシャナは酷くご機嫌だったという。
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その日から、約3年の月日が流れたのだった。
少年編は以上です。次回からは疾風伝になっていきます。少年編だけで130話になりました。読んでいただけ、感想も頂けて、どうにか少年編完結できました。ありがとうございます。