なんでどいつもこいつも、そんな目で俺を見るんだ。
夕方の木ノ葉の里を歩いていた少年は、大人達から向けられる敵意の籠った目に、強い不満と怒りを感じていた。物心ついたころから、自分だけが嫌われ、避けられ、批難される。
(誰も俺を認めないってばよ)
少年は、先程、屋台で美味しそうな串焼きを眺めていたら、店主と思われる男から「なにしてやがる! ここはお前の来るところじゃねぇ、どっかいっちまえ!」と心のない言葉と共に串焼きを投げつけられた。
少年に当たった串焼きは地面に落ち、ソースを服と地面に吸わせていた。
少年は当然怒った。けれど、周囲の大人たちは少年の味方をしなかった。
気味が悪いだの、早くどっかいけばいいのに。そんな陰口が聞こえた。
まるで自分がここにいるのが間違いのような気がして、気が付けば涙を流しながら走っていた。でも、どこに行っても人の目は彼を否定する。
この里に自分の居場所なんかないんだと感じた。
「ちくしょう。ちくしょう! いって」
走りながら、ふと目線に歴代火影の顔が彫られた火影岩が目に入る。その瞬間、大きな何かとぶつかった少年は地面に転がってしまう。少年がぶつかったのは中年の木ノ葉の忍だった。木ノ葉の忍特有の緑のジャケット姿の男性は、ぶつかってきた子供に「お、わるい」と謝ったものの。
「あ、てめぇは!?」
「え、あ」
ぶつかってきた子供が、金髪碧眼で頬に髭の文様がある少年だと分かると、態度を豹変。少年の襟首をつかみ上げ、激しく揺さぶりながら「財布でも取ろうってか!? あぁ!!」と怒鳴り散らす。
急に持ち上げられた少年は、恐怖から固まってしまい、襟首を締め上げる木ノ葉の忍の為すがままになる。男は酒を飲んでいたのか、顔が赤くなり正常な判断力を失っている。酔っ払いが子供に絡んで騒いでいる。普通なら止められるべき事態、でも誰も少年を助けようとしない。
少年も一度は周囲に助けを求める目をしたが、すぐに「いい気味だわ」「いい気味だ」といった目線に歯を食いしばって耐えるしかない。
「なんとか言えやこら!?」
ついに拳を少年に振るい始める。男は忍者であり、その力加減を忘れた拳を幼い少年が食らえばどうなるか。大怪我では済まない。
殴られる。そう思い目を瞑る少年。
………あれ? 痛くないってばよ。
少年は、来るはずの痛みが来ないことに疑問に思い、目をゆっくり上げる。
「なんだ、お前は」
「黙れ。その子を離せ」
酔っぱらっていた木ノ葉の忍は、突然背後から現れた暗部の忍と思われる人物によって拘束されていた。片手を捻られ、首筋に特殊な形のクナイを当てられ、首筋から血が流れていた。
「ち」
男は、少年を掴んでいた手を離す。少年の体が支えを無くして落下する。だが尻もちをつく前に暗部の忍が少年を支える。少年は自分を支えてくれる人物を見上げた。仮面で素顔は見えないが、仮面の覗き穴から青い瞳が少年を見ろしていた。
(俺と一緒の目だってばよ。でも、なんでだろ)
少年は、初めて自分に敵意以外の感情を向ける目を見たかもしれない。それは喜びか、悲しみか、どんな感情かはわからない。けれど、里の大人達とは大きく違うのだけはわかった。
謎の暗部と酔った忍が睨み合っていると、居酒屋から2人の忍が出てくる。彼らはクナイを構える同僚を見て、駆け付ける。
「なんだ、テッカ、そいつにやられたのか」
「そうだ! 因縁付けてきやがったんだ」
「暗部だか知らねぇが、ぼこぼこにしてやるよ。それになんだ、此奴あのクソガキじゃねぇか。その疫病神を庇うんなんざ、可笑しな奴だ」
「ぶっ殺しちまうか、ガキもこいつも」
酔っぱらった忍達は仲間だったのか、少年を背に守る暗部の忍にクナイを向ける。暗部の忍は、少年を3人の男たちから守るため前に出る。
周囲の人間も、さすがに忍同士の戦闘になれば巻き込まれると、我先にと消えていく。
誰も居なくなった所で3人の忍達が3方向から取り囲む。
「やる気か。俺ら三人は、上忍候補なんだ、蛮勇は身を亡ぼすぜ」
「疲れている。さっさと来い」
暗部の忍は、言葉の通り疲弊していた。少年を庇う背中が、肩で息をしているのは明白。まるで一日中走り回った後のように声も枯れていた。
掛かって来いという言葉に堪忍袋の緒が切れた忍達が、一斉に襲い掛かる。
「危ないってばよ!?」
「心配しないで。一瞬で終わらせる。粒遁・天刃」
暗部の忍は、手に持ったクナイから光の刃を展開。中忍~上忍クラスの忍達の攻撃を全て紙一重で回避。回避と同時に、粒遁のチャクラ刀で男達の忍具をバターのように切断。さらに遅いと言わんばかりに溜息を吐きながら、男たちの両足の腱を切断する。光の刃は、男たちの腱を焼き切り、激痛を与えながら、無力化する。
「な」
「ぐ」
「あ、足が!?」
次々に立てなくなり、地面に倒れる3人組。地面に倒れ、必死に手で体勢を立て直そうとする彼らを暗部の忍は許さない。自分を見上げる形になった忍達が術を使うより早く、両手の腱を斬った。当然抵抗する者もいたが、その場合は腕ごと切り落として無力化した。
3人の絶叫が響き渡る。
「え、あ」
少年は目の前で起こった現象に言葉を失う。とんでもない強さに言葉を失ったのか、残虐な行為に言葉を失ったのかわからない。
「血は出ないから、長く、いつまでも、苦しめる。さぁ次は舌か? 目か? 選ぶってばね」
少年からは見えない位置で、暗部の忍は彼らに殺気に満ちた目を向ける。その強さと恐ろしさから、戦意喪失した男達。だが足の腱と腕を斬られ、逃げる事が出来ない。瞳からは涙が流れ、生命の危機を全身の細胞で感じる。
追撃しようとする暗部の忍を止めたのは、意外にも虐げられていた少年だった。
「や、やりすぎだってばよ」
「……そう。ごめんだけど背中に乗って。はやく!」
暗部の忍は、あっさりチャクラ刀を解除。特殊なクナイを胸にしまう。ただ、何かを感じ取ったように少年に背中を向ける。暗部の忍に急かされたため、少年はその背中に飛び乗ってしまう。
少年は、背中に乗ると、感触に違和感を感じた。思っていたより背が小さく感じるのだ。
だが、暗部の忍は少年をおぶったまま、素早く屋根を飛び、木ノ葉の里の森へと駆け込んだ。
「ぜぇ、ぜぇ」
「大丈夫?」
会った当初から息切れしていた暗部の忍だが、森に入るなり限界が来たと言わんばかりに仰向けに倒れる。その姿は、先程の冷酷な忍者から掛け離れていた。
「なんでこんな山奥に来たんだってばよ」
「騒ぎを嗅ぎつけて……忍が集まる。それに、怪我してるでしょ?」
「ほんとだってばよ。さっき、こけたときに」
暗部の忍は、懐から消毒と包帯を出すと、少年の怪我している手に消毒した後、包帯を巻いていく。
丁寧にまかれた包帯を見て少年は「なんで、たすけてくれたんだってばよ」と尋ねる。
「そう、約束したから」
「約束? ふーん」
特に理解していない少年。息を整えた暗部の忍は、少年の目を見ながら「いつも、こんな生活しているの?」と尋ねる。
少年は、近くに倒れてあった木に腰かける。そして自分の包帯を巻かれた手を見ながら答えた。
「そうだってばよ。なんでかしんねぇけど、里の奴らは、俺の事を認めてくれねぇんだ」
「辛い?」
「しんどいってばよ」
しょんぼりしている少年の頭を同じく木に腰かけた暗部の忍が撫でる。急に頭を撫でられて顔を上げた少年は、自分を慈しむ目と目があった。
「姉ちゃんは、俺の事……姉ちゃん?」
少年は、暗部の忍が女性であると思い、そう声をかけた。すると女性は急に泣き始めた。ぽたぽたと仮面の奥から涙が流れ落ちる。
「え、なんだってばよ、腹痛いのか? 姉ちゃんって」
「なんでもない。大丈夫だってばね」
少年が本当に心配する中、女性は、ナルトの肩を掴んでこう尋ねた。その目は、強い覚悟を宿していた。
「君は、木ノ葉の里を出たくない?」
彼女の質問は、少年の未来を大きく左右するものだった。少年の言葉を待つのは、仮面の奥で青く輝く先見の写輪眼だった。