18年ほど前。楼蘭の前女王陛下は、戦乱により旦那と生き別れたものの、第一子であるサーラ姫を産み落とした。その年から各国は休戦状態になった事もあり、楼蘭にも一時的に平和な期間が訪れた。
彼女は愛娘を抱いて楼蘭の中枢である龍脈の封印されている施設へと足を運んでいた。それは楼蘭の新たな女王の誕生を先祖へと知らせる儀式でもあった。
そんな儀式の最中だ。本来なら王族しか足を運ぶことのできない場所から、赤ん坊の泣き声が聞こえたのだ。だが女王の娘であるサーラは彼女が胸に抱いている。ならば誰の泣き声なのかと疑問に思った女王だったが、一時の母となりたてであり、娘のサーラと似た泣き声を聞いて冷静ではいられなかった。
女王は急いで声の主を探した。そして、泣き声の正体は龍脈の封印の石碑の横に横たわっていた。
横たわっていたのは、異国の服装に包まれた産まれて間もないような赤子だった。
誰がこんな場所に赤ん坊を放置したのかと怒りの感情が生まれた女王だったが、異国の服に包まれたままでは苦しいだろうと赤子を取り上げた。
すると、胸に抱いていた娘と瓜二つな赤ん坊の姿にも驚いたが、何よりも驚いたのが右腕がなかったことだろう。障害を持って生まれたから捨てられたのだろうか。自分の胸で生きようと必死に泣く赤ん坊。隣に抱いているサーラも赤ん坊の泣き声につられるように大泣きを始める。
彼女は二人を抱きしめながら、臣下の元へと戻り、正体不明な赤ん坊を養子にすると言ったという。サーラ姫を抱いて封印の間に行った女王がもう一人謎の赤ん坊を抱いて戻ってきたので城中の人間が困惑したが、女王の命令により受け入れざるを得なかった。
そして、ラーナと名付けられた少女は、成長後もサーラと瓜二つに育った。女王は二人に愛情を注いで育て上げた。何故か同じ教育を受けているのにラーナだけ言葉遣いが変に育ってしまったが。
双子と言って差し支えない二人は、お転婆ながらも仲良く過ごしていた。だがある日、楼蘭に侵入者が入り込み、サーラとラーナの両名を亡き者にしようとした。
凶刃が二人の体に触れる寸前、ラーナの目が青い光を放つなり、襲撃者たちは黒い炎に包まれ焼け死ぬことになった。そこでラーナの持つ特異な能力が発覚した。ラーナは類稀なる、それどころか稀代の戦闘の天才だった。
それからも何度も忍や野盗などが女王やサーラを襲いに来たが、全てを焼き払ってしまった。
その才能を眠らせる事は出来なかった。
国を挙げてラーナの戦闘能力を伸ばし、他国に対する抑止力にするよう臣下に求められた。平和な人生を送ってほしかった女王の意思と反するようにラーナは戦闘行為を好んだ。
酷く暴力的で人の命を奪うことを何とも思わない精神性を持っていた。けれども、妹のようなサーラに対する慈愛は本物であり、そういった情緒を育むことを忘れなかった。
その甲斐あってか、凶暴性は鳴りを潜めた。そして、女王となるサーラの補佐をし、護衛をすることが自分の役割だといい、侍女となる道を選んだ。
戦えない妹の為の盾であり刃となったのがラーナと言う少女なのだ。
女王が亡くなった後もラーナは、忠実にサーラの影となり尽くしていた。
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サーラが自分とラーナと呼ばれる少女との過去を話した。作り話にしては、妙にリアルで所々、サーラの失敗談なども出てくる。
「王女様の話、君はどう思う?」
「私はグライアと何度か争う事があっただけで、人間性的な部分は、あまり詳しくないってばね。けど、あの戦闘手段や能力は、どう考えても」
「ですから他人の空似でしょう。同じ顔をした人間はこの世に三人いると言いますし」
自信満々に自分の姉妹であり侍女であるラーナと国崩しのグライアの関連性を否定するサーラ。
「これは平行線だね。とりあえず、ラーナがグライアかという問題は置いておこう。問題は、やはりサーラ女王が命を狙われている事だろう」
「っ」
そうラーナがだれであろうと関係がない。今はなすべき問題はサーラが公衆の面前で暗殺されかけた事。そして、それは国の摂政であるアンロクザンの仕業の確率が高い事。
それはサーラも判っているだろう。けれど、何度も楼蘭を危機から救い、経験未熟な国の長である自分を支え尽くしてくれた彼を疑いたくないのだ。
「でしたら、私がアンロクザンに直接問いかけましょう。それで彼の身の潔白を証明できれば」
「殺されに行くようなものですよ」
「それは彼が犯人の場合でしょう? もし違うなら王宮が一番安全な場所なのです」
どうやらサーラは納得するまで譲らないらしい。
護衛対象が自ら危険を冒そうとするのを黙認すべきかミナト達は頭を抱えていた。そのリスクとメリットが釣り合うのか、それらを思案しているとき。
「それが手っ取り早いってばね。直談判に勝る探りはないってばね」
アホが居た。
「でしょう」
「いやいやいや、お前たち話聞いてたのか!? 敵は、王宮を根城にしているアンロクザンの可能性が高いんだぞ。なのにみすみすそこに飛び込むってのか?」
サーラとシャナが話の方向性を定め始めたので、チョウザが止めに入る。
「無謀だな。それに敵はアンロクザンだけでなく、あのメイドも」
「彼女が敵なわけありません!! そんな荒唐無稽な話は私たち王家に対する侮辱と見做します!」
サーラが本気で怒りながら油女シビに掴み掛らんとする。シャナはすぐにその手を止めたが、サーラは家族を侮辱されたことにご立腹の様子だ。興奮するサーラを抑えながらシャナは静かにミナトを見つめる。
何故か絶対の信頼を置くような瞳で見つめられたミナトは、少し思案したのち肩をすくめる。
「ん。そうするべきかもね」
「「ミナト?」」
「女王陛下。どのみち、一度はアンロクザンを問い詰めねばなりません。相手からすれば、あなたが直接訪ねてくるという状況は、正体を現すに足る理由となるでしょう」
しかし、問題はミナト達よりも強いかもしれないメイドの事である。
「僕らは罠の可能性が高いため、別行動で。だからこそシャナ。君が女王陛下をお守りするんだ。何があっても」
メイドのラーナと唯一対抗できるシャナを護衛に付けるしかない。最悪の場合、アンロクザンとラーナの二人を相手取ることになるとしても。
父から信頼を寄せられることに感動の様なものを覚えたシャナ。一度手合わせをし、彼に実力を認められ、頼られることが何よりうれしかった。
「承知しましたってばね」
シャナは流れるような仕草で片膝をついて胸に手を当て、はっきりと承諾する。
「え」
まるで火影からの勅命を受けるかのような姿に全員が唖然とする。シャナは、元の時代では一度たりとも上層部の命令を快く受けたことがない。絶対反抗しながら、渋々任務を受けるのが常だ。それは里の大人達に対する憎悪からくる反抗心が殺せないからだ。
けれど、実際は礼儀知らずという訳ではない。だからこそ、木ノ葉で礼儀を払うべき2人のうちの一人、四代目火影の命を礼を尽くして受けたのだ。
「女王の安全は命に代えても」
「なんか、気持ち悪いです」
はねっかえりという表現がぴったりなシャナが礼儀正しくミナトに接している。ほとんど初対面なサーラですらシャナが猫を被っているのが一目瞭然だった。
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ミナト達が立ち去るとシャナは、少し寂しそうな表情をしていた。
「じゃ行こうってばね」
シャナはサーラに手を差し出す。一番手っ取り早い方法で、この楼蘭の異変を解決することになった。