シャナとラーナの激闘に横やりを入れたサーラ。彼女の持っている短銃から煙が立ち上り、彼女がラーナを撃ったのは明白だった。そんな彼女の傍には、楼蘭の女子供達が居た。
「ラーナ。彼女たちに全てを聞きました。そして、全てを見てきました」
「姫さん、いや、サーラ姫様」
先ほどまでの戦闘による興奮が完全に冷め、須佐能乎も解除してしまったラーナ。彼女を問い詰めるサーラの目を見て、酷くやり場のない感情が顔に現れている。
「民を搾取し、違法に労働力として使用し、苦しめていたのですね」
「それは、アンロクザンが」
「では、その事実を知っていても、私に何も言わずに隠していたのですね。そして、私が何の役にも立たない女王だと言って、嘲笑っていたの? なんとかおっしゃい!!」
怒声と言えるほど感情のこもった声がサーラから発せられ、ラーナが怒気に押されて言葉が籠ってしまう。
その反応を見る限り、ラーナがアンロクザンの行っていた悪性を黙認していたのは明らかだった。明らかに狼狽えているラーナの姿をシャナは観察し続けていた。
【このまま攻撃してしまえば勝てると思うが、どうして攻撃しない】
「……なんか今攻撃して勝っても、スッキリしないってばね」
【非効率的だな】
シャナとジョウゼツが攻撃をするか否かを思案している間も、サーラの問いは続く。
「ち、違うんや。ウチは、そんなことしたくなかったんや」
「では、何故、家族を帰してほしいと懇願してきた民を貴方は、力づくで排除したのですか。言っている事とやっていることが違うではありませんか」
「それは、それは、……全部、サーラ姫様のためn」
ラーナの頬をサーラの放ったチャクラ砲が通り過ぎる。容赦なく引き金を引いたサーラ。
「これのどこが私の為だというのです!!」
直撃させるつもりはないが、敵意を隠すつもりのないサーラ。元々戦闘能力のなかったサーラにラーナが自衛用に渡した拳銃。その腕前に関しては、ラーナよりも上になってしまった。サーラ自身もラーナと同じく龍脈につながっている人間であり、彼女と同じくチャクラ砲を放つ拳銃の使い手となっていた。
「や、やめてや、サーラ姫様。ウチは、こんなん望んで」
何か事情がありそうだが目を背けるばかりで、説明をしないラーナ。その態度にサーラが激怒、何度も引き金を引いていく。発射されたチャクラ砲がラーナのチャクラ障壁に阻まれるが、威力が高すぎるためか、ラーナの体が少しづつ後ろに押されていく。
どう見ても形勢は明らかだった。
「ウチは、ウチは」
明らかに後ろめたいことがある様子。もはや親に本気で叱られている子供のように見えてきたシャナ。何故か助け舟を出そうか悩み始めている始末。先程までの戦闘の高揚感や緊張感が、薄れてきてしまっていた。そんな状況下でも仙術チャクラを練り続けて、時間を無駄にしていないのは実戦で鍛えられた戦闘スキルのたまものだろうか。そうしていると、サーラの護衛に行っていた影分身が駆け寄ってきた。
「任務完了だってばね」
「ごくろうさまだってばね」
シャナの労いを聞いて、影分身が消える。すると影分身の経験がシャナに流れ込み、状況を理解させる。サーラは、訪れたのは楼蘭の地下に会った強制労働施設だった。見るからに劣悪な環境下で疲れ切っていた国民を見てサーラが激怒したらしい。
そして国民の言葉は、アンロクザンの悪行とそれに加担したラーナの存在を証明した。
その怒りもあってか、彼女はラーナを攻撃していた。明らかに苛烈な方法で。
(それにしても、女王様のチャクラ量も馬鹿げてるってばね)
何発もチャクラ砲を発射しているサーラだったが、常人なら指一本動かせないほどチャクラを消費しているにもかかわらず、疲れた素振りすら見せていない。
【恐らく、グライアと同じく楼蘭の龍脈に接続されているのではないか?】
「そうか。まぁあれだけ似てれば、同じ一族の血を継いでるのは確定。もしかしたら、サーラの従姉妹とかになるのかな」
グライアの素性を考察していると、辺り一帯に男の声が響き渡る。
≪どうやら、全て知ってしまったようですね。サーラ女王≫
「この声は、アンロクザン。出て来なさい」
《怖い怖い。どうやらほとんど知ってしまったようですねサーラ女王》
サーラの声に応えるように上空からチャクラ糸を足場に現れた中年の男性。彼こそがこの楼蘭を支配する親玉。そして、その顔を見たシャナは、未来でシャナ達が追っていたムカデ本人であると確信した。
無数の傀儡を引き連れ、空からサーラを見下ろすアンロクザン。
その表情は、取り繕うのを止めた欲にまみれた男のそれだった。サーラは、勇敢にも銃を彼に向けながら尋問を始める。
「その顔と言動、どうやら私が見て聞いた事は、間違いではないのですね」
「ええ。貴方に代わり、この楼蘭を支配していたことですかな? ふふふ、はははは。今更になって気が付いたところでもう手遅れですがね。既に私の目的は達成されています」
「何を言っているのです」
「わかりませんか? 貴方のような操り人形はもう不要だと言っているのです」
その言葉にサーラは酷くショックを受けたようだ。その言葉に腹を立てたのか、さっきまで大人しくしていたグライアが吠える。
「アンロクザン! 姫様に何を言うてるねん! ふざけたこと言うとると」
「お前もご苦労だったなラーナ。お前のおかげで楼蘭を乗っ取る手はずは整った」
アンロクザンの表情は、悪辣に歪み始める。
「そこでどうだろうか。今後も私の下で働こうとは思わんか? お前の腕は買っている。今後の事も考えれば、手元に置いておきたい戦力なのは間違いない。その操り人形亡き後の楼蘭の女王として君臨させてやってもいいだろう」
「うちがなんでそんなことせなあかんのや!」
「おや? お前はもう慣れっこだと思っていたがな。私の命ずるままに邪魔ものを消してきたお前なら」
アンロクザンとグライアの間には明確な上下関係が築かれているようだった。
「うちは、そないなこと」
「何を言うのかと思えば。これまで何度も手を下してきただろう。それに、先代女王を殺したのが誰か忘れたとは言わせんんぞ」
「っ!?」
アンロクザンの言葉に詰まるグライア。しかし、その言葉に無いよりショックを受けたのは、サーラだった。言葉の意味を考えながら、彼女はふらふらとグライアを見る。
「お母さまを殺したとはどうい事ですか……まさか、、そんな」
「ち、違うんや! うちはそんなこと」
グライアは戦闘状態を解除してサーラに駆け寄ろうとした。だが、サーラの目を見た瞬間、前に進めなくなる。彼女の目に浮かぶのは失望と深い憎しみ。
「どう信じろというのですか。今のあなたを、私を裏切ってきた貴方を!?」
「ちがう、うちは、そんな目でみんといてや、ウチは、ウチが、どんな、おもいで、いや、いやや」
母を殺したのが姉だと思っていたグライアだと知らされ、それが完全な冤罪ではない様子を見て、サーラの中にあった姉妹に対する愛が憎しみに変わった。母は事故でなくなったはず。だが、それを裏で手引きしていたのが、ラーナとアンロクザンだとすれば、彼女は二人を許すことなどできるはずがない。
何より信頼していた二人の裏切りという結末にサーラの心は大きく軋んだ。
次の瞬間には、これまでとは比べものにもならない威力のチャクラ砲がサーラの持つ中から発射され、その一撃をチャクラ障壁で受けたグライアの体は吹き飛ばされ、壁に激突した。
「次はあなたですアンロクザン。民を国を、裏切った貴方を女王として裁きます」
「ふふふ。しかし少し遅かったですな女王。既に私の目的は達成されたと言ったはずです。この楼蘭は既に私のものになったのですよ。貴方達二人を研究した結果、龍脈を操る術を手に入れたのです」
彼の返答と同時に、サーラが引き金を引く。そのチャクラ砲が彼に迫る中、彼の周囲の建物が突如変形。それらが彼を負い隠し、全長で50mはあろうかという土偶のような傀儡が誕生する。
傀儡は、強力なチャクラの障壁を発生させ、サーラの攻撃を受け止めた。そして、巨大な腕を振るい、彼女を押しつぶそうとした。
「危ないってばね!」
咄嗟にシャナがサーラを抱えて回避するが、それを追うように巨大な傀儡の背中から雨のようにチャクラ糸を纏った棘のようなものが飛来。全てが誘導されるようにシャナ達を襲う。
「きゃあああーーー」
「舌噛むから閉じてろってばね」
シャナはサーラを抱えて回避行動を続ける。そして、建物の裏に隠れようとしたが、巨大な傀儡が近づくと建物自体が変形し、傀儡の装備となってしまう。
「この街全部が傀儡なのか」
「アンロクザンの政策で、楼蘭の防衛のために、街を傀儡に変えていきました」
サーラの解説で事態を理解したシャナ。非常に厄介な事になっていた。
「そう。街全てが私の手の内であり、今や龍脈をも我が手中に置いている。故にあなた方王族は、用済みなのですよ」
「そんな」
明確な敵意と殺意を持って襲い来る巨大傀儡。その攻撃をサーラを抱えたままで回避する事は難しい。一度影分身を行い、二手に分かれようとした時、黒い炎が巨大傀儡を飲み込んだ。
「ぐぅうう。おのれラーナ! だが無意味だ」
「やかましい!!」
攻撃を仕掛けたのは、サーラの攻撃で壁に叩きつけられていたグライアであり、背中に巨大な炎の翼を纏っていた。追撃に灼熱を操る術でもってアンロクザンを攻撃していた。だが、攻撃を受けた巨大傀儡は、強力なチャクラの障壁で身を守り、その攻撃を耐え抜いてしまう。
しかし無傷ではないのか、至か所が燃え尽き、溶けていた。だが、龍脈からチャクラを取り込むことで損傷がすぐさま修復していく。
その様子を見て、グライアが更に手数を増やそうと巨大な須佐能乎を発動。巨大傀儡となったアンロクザンとぶつかり合う。その激突の激しさから、大地が揺れ、周囲の建物が崩壊を始める。
(無茶苦茶やってるってばね)
怪獣同士の戦いに楼蘭の民たちも逃げ出すが、子供が一人、転んでしまう。その真上に崩落した瓦礫が降りかかる。
「危ない!」
「いやーー」
逃げ惑う民たちの悲鳴が響き渡る中、シャナに抱えられた状態のサーラが静かに照準を合わせていた。極限状態の中でも自分のなすべきことを悟り、引き金を引いた。
サーラの放ったチャクラの奔流が瓦礫を吹き飛ばし、子供は無傷で助かる。さらにサーラが大きな声で指示を飛ばす。
「私達についてきなさい! 龍脈の近くに安全な場所があります!」
「は、はい!」
サーラは、龍脈に纏わる場所で、母との思い出の場所を思い出す。そこは、特殊な領域であり龍脈のチャクラが介入できない。そこなら巨大な傀儡も入ってこれないと考えたのだ。
勇敢なサーラの指示に、大人達は子供を抱えながらシャナとサーラを追って避難を始める。
「どこ行けばいいんだってばね!?」
「あっちです」
サーラの指さしにしたがって、移動を始めるシャナ。グライアとアンロクザンの戦いの隙を突いての移動は、比較的上手くいった。だが、シャナは移動しながら一つの気がかりがあり、先程呼び出した影分身にサーラを預け、自分は激戦区へと向かうのだった。