シャナとグライアの両名は、静かに見つめ合いながらお互いに武器を構える。グライアは、蛇腹剣を構え、シャナはチャクラ刀を一本だけ構えている。
二人とも対極螺旋丸の余波だけで、すでにズタボロである。シャナは、左腕に力が入らない状態でグライアと戦う事を余儀なくされる。
一方でグライアも武装の数々を使い切り、オーバーロードするまでチャクラを龍脈から吸い出したためにしばらくの間チャクラを吸い出せなくなった。故に再生能力も無制限のチャクラも失っている。
お互いに負傷しながら、戦うしかないのは、お互いに戦う明確な理由があるからだ。
「おと、師匠は女王を連れて離れててほしいってばね」
「しかし、今の君よりもオレが戦った方が」
「これは、私達。未来から来た者同士のケジメだってばね……、お願い信じてほしいってばね」
シャナに真っすぐと見つめられたミナトは、彼女の言葉を信じようとサーラを抱えて距離をとる事に決める。ミナト達が離れた後、シャナがグライアに話しかける。
「お前の考えてることは分かってる。お前は、未来を変えるつもりだってばね」
図星だったのか。グライアはバツが悪そうな表情になりながら、シャナを忌々し気に睨み付ける。その表情を見て、シャナは少し笑う。
「自分も同じとちゃうん? このまま龍脈を封印すれば、私らが来た事実は消え、この世界は元に戻る。そしたら、楼蘭は滅びる運命や。そして、姫さんは確実に死ぬ。それが未来で姫さんがおらへん理由や」
「そうだってばね。未来の資料でサーラ女王は国民を守って亡くなってるってばね」
シャナが事実を肯定すると、グライアが蛇腹剣で斬りかかってくる。それを打ち払うシャナ。二人の刃から火花が散るが、まだ両者ともに本格的な戦闘に移行していない。
「だから、ウチはその未来を変える。未来がどうなろうとしったことか!! 姫さんを、サーラを、妹を、守るためなら、何だって犠牲にしたる!」
「そんな事はさせない」
「なんでや! ウチだけじゃないやろ。過去を変えたいと思っとるのは」
グライアとシャナは鍔競り合いしながら、心情をぶつけ合う。過去を変えたいというワードに対してシャナは少し俯く。
「シャナ。お前も、家族亡くしとるんやろ。あの木ノ葉の人も未来では死んでるはずや。木ノ葉の黄色い閃光は、九尾事件かなんかで死んでる。自分のお父さんを助けたいと思わんのか!? ウチらなら出来るはずや。それとも、もう死んでる人だからどうでもええ言うんか」
「……私がお父さんを見捨てる選択を好きでしてると思ってるのか! 違う違う違う!! 私だって何もなければそうしてるってばね! けど、それは出来ない。もしお父さんが生き残る未来を選べば、弟が生まれなくなってしまう!! いっぱいいっぱい考えてたってばね!! けど、私達が未来を変えれば、大きなうねりとなって両親の大切なものを奪ってしまう。二人が命を懸けて守ったものを、私が奪う事なんてできない」
「なら、ここで勝敗をつけるしかないで」
「私がお前を止める」
互いに譲れぬと分かった以上、決着をつけるしかない。そこに明確な正義はない。譲れない思いがあるだけなのだ。
二人は剣で打ち合いながら、自分の残ったチャクラの使いどころを探る。互いに写輪眼すら発動させず、純粋な剣術で戦う羽目になっている。
何度も剣戟を響かせ、隙を伺う。シャナは途中で後ろに飛び短剣を口にくわえながら手裏剣を投擲。グライアは、剣で打ち払うも手裏剣の陰にもう一枚、手裏剣が隠れていた。影手裏剣の術を食らったグライアだったが反射神経で右腕の義手で受け止める事で攻撃を防ぐ。
だが、手裏剣が当たった箇所が悪かったのか義手が動作不良を起こしてしまう。
奇しくも二人とも片腕となり、ハンデを負ったまま戦う事になる。
(シャナは接近戦で押せないと思うと、いつも術や忍具で距離を取ろうとする癖がある。そして、切り札は相手にカウンターで合わせるはずや)
何度か戦った中でのシャナの癖を考察していた。シャナは必ず大一番のタイミングで相手の隙を作って一撃を叩き込みに来る。それを読んでグライアは、隙を一切作れないよう詰めながら、自分もシャナのカウンターに合わせる準備を始める。
蛇腹剣で延々と肉薄しながら、左腕に獄遁のチャクラを集めていく。シャナは危機的状況下で、必ず螺旋丸系統の術に頼ると踏んでいた。
だからこそ対螺旋丸用の八熱を用意しておく。この術ならシャナの攻撃を貫通して勝てる。
「くっ」
シャナは無理やり距離を詰めてくるグライア相手に次の手札を考えていた。グライアの隙を探し、どうにか一撃を入れる。それに意識を裂いて未来視を使うタイミングを見極める。シャナの残りチャクラは僅か。術も天門が一回と螺旋丸を一度が限界。
少しもチャクラを無駄にできず、能動的な未来視も数秒先の未来が限界だ。
(どうにかして。……飛雷神二の弾の応用で決める)
プランは立てた。後は、未来視で仕掛けるタイミングを見極めるだけ。そう思っていた時、未来視が警告を発した。極僅かなビジョンしか見えなかったが、映る自分の死が生存本能を刺激する。シャナは、右手に持っているチャクラ刀の柄を弄る。
するとシャナのチャクラ刀に内蔵されていた粒遁のチャクラが湧き出る。
恋人である大筒木トネリの家にあったという宝具。それがシャナの今愛用している武器である。武器そのものにチャクラの粒子を充填する事が出来るため、チャクラ切れでも一時的に使用チャクラを増やせる。今のような状況になった際に、守り刀として贈られたものだった。
しかし、内蔵しておけるチャクラはそこまで多くはない。
粒遁の刃を形成し、グライアに切り掛かるシャナ。それを身のこなしで避けるグライア。
「そこ!」
シャナは、後ろに飛んだグライア。それを逃がすまいと短剣を投擲。グライアは身をかがめる事でチャクラ刀の投擲を回避する。だが、背後にシャナの粒遁の粒子を纏った武器がある。その事実をグライアが発動した写輪眼は捉えている。
粒子から粒子に移動するシャナの術。それをここぞという瞬間に使ってくるのは必然。シャナのチャクラの流れを目で追えば、右手にチャクラを集めているのが見える。
(ここや!)
シャナが背後に瞬間移動すると踏んだグライア。背後に向かって左手から獄遁八熱を発動する。それでグライアのチャクラも殆ど空になる。写輪眼の維持も出来なくなるが、背後で粒子の拡散を見たことでシャナが瞬間移動したと確信。
振り向きながらの攻撃が、シャナを貫こうとした。
「え」
背後にシャナはいなかった。何処に行ったのかと視線で探るが、背後でバチバチと何かが光る。その光に反射的に振り返ると、其処にはシャナが居た。
粒遁螺旋輪虞でもなく、螺旋丸でもなく。右手に雷を纏い、全力で走るシャナ。チッチッチッと音を立て突き出された右腕。シャナがここぞという瞬間に選んだのは、はたけカカシの愛用する忍術。千鳥だった。カカシの千鳥を見たことが何度かあり、サスケも使用していた印象深い術である。
普段は螺旋輪虞があるため使いどころはないが、瞬間移動をしない前提であれば、最高速度での一点集中攻撃という面で優れた術である。
「千鳥!!」
振り返ったグライアが獄遁・八熱による熱のドリルを突き出してくるが、カウンター対策に取っておいた写輪眼を発動。グライアの攻撃を躱し、千鳥をグライアの胸に突き出した。
「がはっ、うちは、まけ、る、わけには、いかへん、の、がは」
千鳥はグライアの体を貫通することはなかった。だが必殺の電撃と突きの勢いはグライアの体を貫き、彼女を地面に伏せさせた。出血しながらも起き上がろうとするグライアだが遂に限界が来たのだった。
「師匠。封印してくれってばね」
「終わったのか。君も休んでおいてくれ。後は俺が封印して見せる」
気を失ったグライアを見下ろし、シャナはふらふらとしながらも踏ん張ってミナトを呼んだ。その声を待っていたとばかりにミナトが現れ、楼蘭の龍脈に封印術式を施していく。シャナは彼の傍に座り込んでその作業を眺める。もう一歩も動けそうにない。
そして最後の工程となり、龍脈に栓をするためにクナイを構える。だがすぐには刺さず、シャナを見つめる。
「君のおかげで未来は守られる。俺しか感謝する事が出来ないことが申し訳ないが、ありがとう」
「その言葉だけで十分だってばね。じゃ、おわかれだってばね」
シャナの瞳から涙が流れる。今すぐにでも抱きしめてしまいたいが、ここで未練を残す訳にはいかない。大好きだった父が目の前で生きている。そして自分に話しかけてくれている。それだけで自分には過ぎた報酬だと無理に納得する事にした。
シャナが別れを惜しんでいると、先程グライアに幻術を掛けられていたサーラが、ボロボロで動けなくなったグライアに駆け寄る。
「……意識がなくても音は聞こえていました。そうなのですね。龍脈の封印は、貴方とのお別れを意味していたのですね」
「いや、や」
人生のほぼすべてを一緒に過ごした家族との別離。それが迫っていると知った。サーラもラーナと別れたくはない。だが、彼女が本当に生きる時代は、もっと先にあるのだと。
サーラは、最後まで必死に戦ったグライアの頭を優しく撫でて、彼女の前で涙を流しながら優しく微笑む。
「私は一人でも大丈夫です。貴方は元の時代に帰るべきです」
「けど、ウチが、かえったら。姫さんが、未来で死んでまうんや」
サーラの未来での結末を知っているグライアは、それだけは嫌だとサーラの手を掴む。だがサーラは、その手を優しく握り返し、二人の体温がそこから伝わる。ポロポロと涙を流すサーラ。
「ずっとあなたと一緒に育った私が、そう簡単に死ぬ訳がないじゃないですか。楼蘭が滅んでも民は、私が守り抜きます。貴方が守ってくれたものは、私が必ず」
「サーラ」
「だから、もう休んでよいのです。お姉ちゃん」
サーラがそういうと、ついに限界を迎えたグライアが完全に気絶する。それを見ていたミナトは、クナイを龍脈の制御術式に突き刺し、それを封印した。
封印が成就すると、シャナとグライアの体が薄く光り始め少しづつ身体が光となって消えていく。
「シャナ。貴方にも深く感謝を。楼蘭を救ってくれて、ありがとうございます」
「成り行きだってばね。今後大変かもしれない。けど、強く生きてほしいってばね。私とそいつが此処までボロボロになるまで戦ったんだから」
「えぇ。必ず」
もうほとんど消えかけていた時、シャナは隣でこちらを見ているミナトを見て微笑んだ。
「身体に気を付けてほしってばね」
「君も。無茶はしないで体には気を付けるんだよシャナ」
ミナトの言葉にシャナは最大限笑って姿を消した。残ったグライアもサーラの膝の上で消滅しかけている。サーラは姉の寝顔を眺め頭を撫でながら、彼女が未来に帰る姿を見送った。
グライアが消えた後、後悔と深い孤独感から涙が流れ落ちるが、ミナトは彼女の肩に手を置く。
「これから激動の時代が来ます。それをどう乗り越えるかが、彼女たちの居た未来にきっとつながるはずです」
「わかっています。それにこれはお別れではありません。少し離れて暮らすだけなのです」
サーラの言葉に、ミナトは静かに頷いた。