ナルト誘拐事件から2年の時が過ぎた。
うちはシスイとその両親とシャナが暮らす一軒家。シスイの部屋に訪ねてきたシャナが、シスイに向けて忠告をしていた。
「シャナ今なんて言ったんだ?」
「だから、シスイ、死んじゃうよって」
「え、マジ? 予知?」
「予知」
シャナはその日の夜に未来視の能力が働いた。遠くない日にシスイが死に、うちは一族が滅ぶ未来を。かなり鮮明に見られたことから、かなり決定的な未来だということも。
シャナの能力を知っていたシスイは、彼女の忠告を真剣に、聞いていた。
なぜなら、シスイ自体、命に関わる使命を果たそうと考えたのが、昨日だったからだ。それが原因となれば、シスイの策は失敗することが確定的となる。
「どうやって死ぬ?」
「誰かははっきり言えないけど、暗部だと思う。クーデター関連かな?」
あくまで予知夢として見たため、シスイ以外の人物が乱れていた。だが、最期の姿は、満足げだったと伝える。その言葉を聞いたシスイは、少しだけ悩んだのち、「そうか」と言って納得していた。
「いつも子供のお前に、苦労かけるな」
「もう、止まらないのかな?」
シャナは、シスイと仲良くしていた。彼は信頼に値すると感じたからこそ、未来視についても教えた。彼も信頼の証に自分の万華鏡の能力【別天神】も説明していた。二人の目的は共通していた。
うちはのクーデターを止める事。
シスイとシャナは、うちはフガクにより里へのクーデターを知らされていた。だが、二人そろってそれを止めるほうに思考を傾けた。
シスイは、里を愛しており、里の為。
シャナは、クーデターの計画に九尾の狐を使う可能性が出てきたため。
(里も一族も何もかも滅茶苦茶になる)
(あの化け物を復活させる訳にはいかない。それにナルトが利用されることなどあってはいけないってばね)
シスイとシャナの反対を聞いたフガクは、それでも一族の未来を思えばこそだと、決行を譲らなかった。他の大人達もクーデターへの準備を始めており、既に止めることは難しい。
シスイは三代目火影との連携によって止められないか、シャナは未来を変えることで阻止できないかと考えていた。だが積み重なった時間と不満は、うちは一族の未来を一本のレールからはみ出させない。
あるのは、失敗と成功のみ。未来視の話をフガクに打ち明けたこともあった。だが、子供の妄想だと否定される。逆に他のうちはの人間には、話さない事だと念を押された。
半信半疑でもあったが、シャナの未来視を一族が知れば、利用する勢力も出てくる。
クーデターを起こすとしても、幼い子供は巻き込むことを許さないというのが、フガクの考えだった。
八方塞がりとなり、シスイが己の持つ万華鏡にて、クーデターを強制的に阻止しようと考えれば、シャナが未来視で死を予言する。
(だが、止まるわけにはいかない)
「もし、俺がお前の未来視通りになったら……」
シスイはシャナにある言葉を残した。それがシスイの遺言となった。その次の日、シスイが身投げしたという情報がうちは一族に広がった。
シスイの両親は悲しみ、秘かに息子を奪ったと噂される里への恨みを強くしていた。優しかった夫婦は、自慢の息子を失ったせいで、性格が変わったようだった。
今まで参加したことのなかったクーデターの集会にも積極的に参加していた。
(うちは一族は、愛情深い一族、けれど、同時に恨みに染まりやすいか)
シャナは、豹変した夫婦を見て、自分もそうなる可能性があるのかと思った。正確に言えば、シャナ自身も怨みの感情に支配されることが多い。純血ではないが、うちはの血が濃いことは明白で、両親を失った自分が自暴自棄になっていないのは、弟の存在が心を繋ぎ止めているからだ。
そして、身投げしたと言われる義兄の存在も大きかった。彼はシャナを尊重し、決して裏切らなかった。
予定調和のように死んでしまった彼のことを思い、シャナは静かに涙を流す。人に係わることで失う痛みを知っているシャナは、九尾事件以降、繋がりを求めなくなった。けれど、義兄だけは、シャナの繋がりだった。
「馬鹿、兄貴」
一度も呼ばなかった兄を、誰も居ない部屋で初めて口にした。死ぬと分かっていても里の為に身を捧げた兄に、シャナは黙禱する。その死に様に苦しみがなかったことを祈りながら。
その日からすぐに未来視で、これから起こることを識った。当然、シスイの両親には、伝えた。
「問題ない。うちはの未来は明るい」
「そうよ。シスイの恨みを晴らさなくては」
聞き入れてもらえなかった。シャナは、また一人になるのかと辟易しながら、森の修練場に作った隠れ家に身を潜めていた。
ーーーーーーーーーー
うちはの集落では、妙に殺気立つうちは一族の大人達がいた。
その数日後、うちはの集落では、大量の血が流れていた。人々の悲鳴と血潮が舞い散り、集落一帯を紅く染め上げる。
一人、また一人と、うちは一族の者たちを殺していくのは、同じうちは一族の男、うちはイタチ。彼の赤い写輪眼は夜の闇の中で一際輝いていた。
冷酷な暗殺者は、老若男女かかわらず皆殺しにしていく。
ある程度殺し終えた後、イタチは自宅に向かい、そこで自分の父と母を殺した。父と母を刀で殺したタイミングで、彼の弟が家に入ってくる。
倒れた父と母を見たサスケは、その光景に絶望の表情を浮かべる。
「兄さん! 大変なんだ、父さんと母さんが……兄さん?」
部屋の中に兄がいると知ったサスケはイタチに助けを求める。だがイタチの目はひどく冷たく、サスケに向かってクナイを投擲。サスケは反射的に避けるも、兄から攻撃された事実に戦慄する。
「愚かなる弟よ(万華鏡、写輪眼)」
イタチは弟に対して、万華鏡写輪眼を使った。イタチの万華鏡写輪眼は三枚刃の手裏剣の文様をしており、その瞳力で、サスケを幻術の世界へと引きずり込む。
彼がサスケに見せたのは、自分がうちは一族を抹殺する光景。抵抗する者、無抵抗の者、逃げる者を一人残らず刈り取っていく光景。そして最後に見せたのは両親を殺した瞬間である。
サスケはそんな光景を見せ続けられたことで悲鳴を上げながら、床に倒れ伏す。どうにか耐えた精神力を持って、イタチを睨む。
「にいさん、どうして……」
「己の器をはかるためだ」
「器? そんなものの為に、みんなを……うぁああ!! ふざけるな!!」
兄の言葉に怒りを覚えたサスケは、兄へと向かって殴りかかる。だが圧倒的実力差の前で、イタチの拳を腹に受けて、身動きが取れなくなる。
(殺される、殺される!)
再び床に沈んだ弟を見下ろすイタチ。サスケは兄に殺されると恐怖を感じ、動けないはずの体に鞭を打って、逃げだしてしまう。涙を流しながら、死体の転がるうちはの集落を駆け抜けていくサスケ。
背後を振り返る勇気はなく、ただ「死にたくない、殺さないで」と叫びながら情けなく逃げる。
サスケが無意識に逃げ込もうとしていたのは、うちは一族の修練場だった。
両親が殺され、兄に命を狙われる現状、唯一自分を助けてくれる人物が、そこにいると思ったからだ。
ようやく修練場に入ろうというところで、イタチがサスケを追い越して現れる。
「無様だなサスケ」
「ひっ……どうしてなんだよ兄さん。兄さんはこんな人じゃなかったのに」
闇の中で光るイタチの写輪眼に睨まれ、恐怖から動けなくなる。そんな弟を見てイタチは心底呆れたとばかりに吐き捨てる。
「お前が望む様な兄を演じ続けてきたのは、お前の器を確かめる為だ。お前はオレの器を確かめる為の相手になる……そういう可能性を秘めている。
だからこそ生かしてやる……オレの為に」
自分の目的の為、サスケを生かすというイタチ。彼はさらに言葉をつづけた。
「お前は、俺と同じ万華鏡写輪眼を開眼しうる人間だ。ただし、それには条件がある」
「?」
サスケの目を見ながらイタチは、邪悪に歪んだ笑みを見せる。
「最も親しい友を……殺すことだ。シスイを殺した、俺のように」
「え、じゃあ、兄さんがシスイを」
「その通りだ。そのおかげで俺はこの目を手に入れた。……南賀ノ神社本堂、その右奥から七枚目の畳の下に一族秘密の集会場がある。
そこに、うちは一族の瞳力が本来何の為に存在するのか、その本当の秘密が記されている」
イタチは、サスケに向かって言葉をつづける。
「お前が開眼すれば、俺を含み、万華鏡写輪眼の使い手は3人になる。そうなれば、お前を生かしておく意味もある」
イタチは、サスケを睨む。サスケは、殺気を向けられたことで、激しい震えと吐き気に襲われる。その様子を見たイタチ。
「ふん、今のお前など、殺す価値もない。愚かなる弟よ……このオレを殺したくば恨め! 憎め! そして醜く生きのびるがいい……逃げて、逃げて、己が生にしがみつくがいい」
イタチは再び写輪眼を万華鏡写輪眼へと変える。
「そしていつかオレと同じ"眼"を持ってオレの前に来い」
再びイタチはサスケに幻術をかける。サスケの精神を限界にまで追い込んだ事で、イタチは立ち去ろうとする。正しくは次の標的を殺しに行くところだったのだが。
「待て!!」
突如、幻術から抜け出したサスケが、修練場に突き刺さっていたクナイをイタチに投擲する。イタチは、そのクナイを刀で弾くが、不意打ち気味だったため一本だけを取りこぼす。
取りこぼしたクナイは、イタチの額当てを飛ばした。弟からの反撃に驚いたイタチを見るサスケの目は、未熟な一つ巴の写輪眼だった。
イタチは飛ばされた額当てを拾い、付け直す。そして、サスケの姿を見たイタチの目には、僅かばかりの涙が流れていた。サスケはその涙の意味を考えるより先に、力尽きて気絶してしまう。
「っ、サスケ」
涙を流しながら、倒れたサスケを心配そうに見るイタチ。先程までの冷酷さとかけ離れた姿は、何方が真のイタチなのかをわからなくする。そしてサスケに手を伸ばそうとした時、修練場の森から青い閃光が駆け抜け、イタチとサスケの間に割って入る。
サスケを庇うように現れた女性は、イタチ相手に手裏剣を投擲。イタチはそのすべてを回避し、その人物を写輪眼で睨み付ける。
「シャナ」
「イタチ。やはりこうなったってばね」
現れたのは2年間で更に成長したシャナだった。