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サスケの病室から新しい家に向かったシャナ。
木の葉の住宅街にあるアパートの入り口に立った彼女は、三代目から預かった鍵を使って中に入る。
「……カップ麺、カップ麺、カップ麺……、え?」
シャナは部屋の中を見れば、部屋は散らかっており、ごみ箱の中はカップラーメンと牛乳、パンの袋などしか入っていなかった。
あまりな食生活に絶句してしまう。掃除もあまりしないのか、空気がほこりっぽかった。
シャナが窓を開けるとベランダは、いろんな種類の花や植物が植木鉢で育成されていた。部屋の割にガーデニングが丁寧にされたベランダ。
「植物が多い部屋だってばね」
よく見れば部屋の中も鑑賞樹やらが多く、棚の上にもサボテンが並べられていた。
「ここがナルトの部屋か」
一人暮らしさせられている弟。その生活習慣は、あんまりなものだった。冷蔵庫を見れば、野菜類も用意されているが手を出した形跡がない。野菜嫌いなのだろうか。部屋を眺めていると、壁にシャナが昔渡した父ミナトのクナイが吊り下げられていた。
今は無き実家にもこのクナイが吊り下げられていたなと、懐かしくなる。
自分の大事にしていた忍具を大切にしてくれているようで、嬉しくなった。
「スーパーで食べ物買ってくるってばね」
「だああらあああ!!」
新生活の為、弟の健康状態の為、外に出ようとした時、金髪の少年がシャナにタックルを決める。タックルを受けて倒れたシャナを少年が怒りながら縄で縛り、叫ぶ。
「この泥棒め! ってあれ?」
「ふふふ、うふふふ、あはは」
縛り付けられたシャナが煙となって消え、少年は唖然とする。そして、冷蔵庫の影に隠れていたシャナがひょこっと現れる。
「変わり身だってばね。不意打ちするなら、叫んじゃだめだってばね」
「誰だってばよ! 人の家に勝手に……てばね?」
「覚えてないってばね? 2年前そのクナイをあげたんだけどな」
大きな声をあげて攻撃してきた少年の行動にツボってしまったシャナ。馬鹿にしてるわけではないが、天然な子だなとしみじみ思っていた。声の大きい所なんかは母さんにそっくりだと感じる。両親の子供であり、両親の特徴をしっかり引き継いでいる存在。
「2年前って……あ、その青い目」
「お」
シャナの青い写輪眼を見つめる、同じく青い目の少年。シャナの言葉に、どうやら過去を思い出しているようだった。
「あの時は、変化してたからね」
「じゃあ、あの時のつえー姉ちゃん! え、でもなんでここに?」
シャナは、少年の両肩を掴んで、目線を合わせる。少年はシャナの目を見て、変な文様のある目だと感じた。
「今日から、私が君と一緒に暮らすことになったんだってばね」
「一緒に? なんでだってばよ」
確かに突然言われても理解できないだろう。シャナは言いたくて仕方なかった言葉を遂に、ついに口にしたのだった。
「信じられないと思うけど、私はね、あなたのお姉ちゃんなんだってばね、ナルト」
「姉ちゃん?」
ナルトの問いにシャナは頷く。ようやく伝えられた事実に、シャナの目からはまた涙が流れる。ずっと言いたかった、迎えに行きたかった。約8年にも及ぶ待ちに待った姉としての再会。
伝えたいこと謝りたいことが多すぎて、思考が纏まらなくなってくる。
「ずっとずっと会いたかった。それに、ずっと一人にしてごめんってばね」
「ほんとうに、ほんとうに、俺の姉ちゃんなのかってばよ?」
「本当に本当だってばね! この日をどれだけ待ったことか……」
急に現れた姉の存在。今まで天涯孤独だと思っていたナルトに突然できた家族。ナルトは、シャナに抱き締められる。またあの時のような温もりを感じた。
「しんじられないってばよ……」
「そうだってばね。仕方ないってばね」
シャナだって逆ならそう感じるはずだ。シャナにとっては待ちに待った再会でも、ナルトにとっては突然姉と名乗る女性が現れたに等しい。それは再会ではなく、ナルトの世界に対する侵略ともいえる。受け入れてもらえるとは思っていなかった。
だが伝えずにも居られなかった。
「だってさ、だったら、なんで、俺はずっと独りぼっちだったんだってばよ!? 辛いときも悲しいときもずっと一人で!! 一人で!! 皆に嫌われてる時だって!!! なんでそんなときにいてくれなかったんだってばよ!!」
「……会いに行きたくても、いけなかったってばね」
言い訳だと分かっている。自分に怒っているナルトの気持ちは痛いくらいに分かる。孤独とは本当につらいのだ。
姉だと名乗ったシャナは、ナルトの辛いときや苦しいときにそばにいなかった。一人他所の家で生活をしていただけだった。ナルトの苦しみを何一つ理解していなかった。
「そんなことしんじられるわけないってばよ!?」
「そうだよね、そうだってばね」
なんて重い言葉だろうか。ずっと想い続けていた弟に、認められないとは。だが甘んじて受け入れよう。この子の味わい続けた地獄の少しでも、受け入れよう。
「俺ってば、おれってば、ずっとずっと一人だと思ってたんだってばよ」
「ごめんねナルト。本当にごめんなさい」
シャナは、感情を爆発させるナルトに謝り続ける。幼く、大人たちの都合で捻じ曲げられた人生。非はなかったというのに、ナルトの怒りに謝り続ける。
会いたいという気持ちが強くなるにつれ深くなっていたのが罪悪感だった。ナルトに対する罪悪感がシャナを蝕んでいたといっても過言ではなかった。
ぼたぼたと大粒の涙を流し始めたナルトを受け止めるシャナ。
「もう、よくわかんないってばよ……いっぱい言いたいことあるのに」
「……」
「じゃ、姉ちゃんは俺の母ちゃんや父ちゃん知ってんのか?」
ナルトの質問。確かにそう思うのが普通だ。
だが、シャナは三代目火影との取り決めを思い出し、「知らない」と答えた。
「なんでだってばよ?」
「私も小さかったから、覚えてないの。ただ、死んだということだけ教えられてきた」
嘘だ。二人の顔は一瞬たりとも忘れたことはない。ただ、三代目火影と交わした約定が、ナルトに情報を与える事を封じている。
【両親の事を決して話してはいけない】
【九尾の事を話してはいけない】
どちらも里の大人達と同じ規律だった。もしやぶれば、シャナとナルトはまた離れ離れになる。それだけは嫌だった。だから誤魔化すしかない。
気にくわない。けれど、九尾の事をナルトが知ったらどう思うか、ましてや父と母の仇を封印されているのが自分だと知ったらどうだろうか。だから言えない。今の幼いナルトには特に。
「ごめんね。私は何もしらないんだってばね」
「そっか」
ひどく残念そうな顔をするナルトに、真実を告げたくなる。
「姉ちゃんの名前、なんていうんだってばよ」
「?」
「俺ってば、本当の姉ちゃんってのよくわかんねぇけど、2年前にも聞きたかったんだ、名前」
ナルトにそう言われてしまえば、シャナに断る理由はない。
「うずまきシャナ。それが私の名前だってばね」
「シャナ、シャナ姉ちゃんって呼べばいいのかってばよ?」
「何でもいいの。姉ちゃんでも、お姉さまでも、姉貴でも、好きに呼んでほしいってばね」
ナルトは考えた末に「姉ちゃんって呼ぶってばよ」と告げる。
シャナもそれでいいと答えた。自分もナルトも話したい事がたくさんあり過ぎて、何から話していいかわからなくなる。
お互いに少しづつ、距離感を確かめる時間が出来た。
――――――――
テーブルに座りながら、二人で好きなもの嫌いなものなど話し合った。後は、一緒に暮らす事についても、説明した。ナルトの部屋は一人暮らし用の家なので、正直言えば狭い。だから三代目がナルトの隣の部屋を借りてくれたこと。
本来なら壁をぶち抜いてもいいが、とりあえず隣の部屋どうしで住むということ。
「後ね、ナルトの部屋を見させて貰ったんだけど、カップ麺食べ過ぎで、栄養偏り過ぎだと思うんだってばね」
「えー、そんなことねぇってばよ」
「いや、ある。いきなりとは言わない。けど改善はするべきだってばね。なぜなら」
「なぜなら?」
「こんな生活してたら、一生チビだってばね」
シャナの一言は、ナルトの人生に大きな落雷を落とした。チビという言葉、確かにアカデミーでもそう呼ばれる。明らかに他の生徒よりも背が低く、いつも見上げている。
それが一生続くのは嫌だった。
何より格好がつかない。ずっとチビのまま火影になった姿を思い浮かべ、火影の衣装の裾をずりずりと擦って歩く姿は、みっともない。
気にいっている女の子と並んだ時、子供のままの自分と大人になった彼女と並ぶ光景。
ダメ絶対! がナルトの心の声だった。
「あ、あのさあのさ、まだ、背って伸びるのかってばよ」
「姉ちゃんは、野菜もしっかり食べてるから、背が高いほうだってばね。まだまだ間に合うってばね。けど、成長期に入るまでに改善していかないと」
「そんな~」
少し脅し過ぎたかとシャナが反省する。
ご飯の話をしていると、二人ともお腹が空いてきた。
「お腹減ったってばね」
「カップ麺しかないってばよ」
「スーパーに行く時間なかったし、夕飯食べに行こうか」
姉弟としての会話が楽しかった。二人ともそう感じていた。他愛のない会話でも、二人にとってはとっても重要な事だった。こうして過ごせる普通の幸せ、家族に話を聞いてもらえる喜び、頼って話してもらえる喜び、何物も捨てがたい。
二人は夕飯を食べに行くことになり、ナルトがいつも行っているラーメン屋に行くことになった。
シャナは近頃、里を歩いた経験がなくお店を知らなかったため、ナルトのおすすめを優先したのだった。
ラーメン屋に向かい歩いている間、ナルトの悪戯の武勇伝を語られるが、「帰ったら説教するってばね」という返答にナルトが固まる。
確かに面白いが、四代目の火影岩に落書きした件はしっかり叱ろうと思ったシャナ。保護者ということは、ナルトの悪戯の責任も取らなければいけないので、少し頭が痛かった。
「もうすぐだってばよ」
「誤魔化さないの」
少しナルトを叱りながらも、シャナは自分たちに向けられる目線を確認していた。ナルトには当然のように悪意の籠った目線を向ける住人達。そのナルトと仲良くしているシャナの存在も、どうやら疎ましい様子だった。
(どこまでも腐った連中だってばね)
せっかくの楽しい時間も、この目が台無しにしてくる。今ここで写輪眼の瞳術を使えばどうなるだろうか。其処ら中燃えている光景でも見せれば、蜘蛛の子を散らすように消えるだろうか。
(あーだめだめ。だめだってばね。すぐに黒い考えになるのが私の悪い所だってばね)
ここ数年で自分の悪い癖は理解していた。正しくはうちはの血に宿る宿命といったところか。愛するものの事になったら、自分を見失うのだ。感情に支配され、体を突き動かす。
愛する者の敵を許せなくなり、破壊で解決しようとする。
母は自分を優しい子だと言ってくれた。でも自分の中にはどうしようもない獣がいる。
うちはの人間を間近で見ていて知った事実だった。自分も同じように豹変する時があることを。そして、こんな感情を繰り返せば戻ってこられないという危機感も。
「ここだってばよ」
ナルトに連れられて入ったのは、ラーメン一楽というお店だった。すごく食欲をくすぐる匂いが漂うラーメン屋には、若い女性店員と中年の店主が居た。
店に入ると女性店員がナルトとシャナを見て驚く。
(この人も、奴らと同じ……ん?)
「おとうさーん! おとうさーん! ナルト君が女の子連れてきたわよ!!」
ナルトに手を引かれるシャナを見て大騒ぎした。思っていた反応でなく、殺気が行き場を失う。そして女性店員の声に振り返った店主は、ナルトとシャナを見て、嬉しそうに笑う。
「お、ナルト。女連れとは、お前も案外隅に置けないな」
「え、違うってばよ!」
「デートでラーメン食べに来たんでしょ? キャー、可愛いわね。ナルト君、こういうお姉さんがタイプなのね」
二人の店員と店主は、シャナの顔を見ながらナルトに話しかける。ナルトは顔を真っ赤にして反論しようとするが、姉だというのが照れ臭いのか言葉になっていない。
「シャナ姉ちゃんは、俺の、俺の姉ちゃんなんだってばよ!!」
「ん? 姉ちゃん? それって姉弟の姉ちゃん?」
「そうだってばよ。おっちゃん、俺とんこつ味噌チャーシューの大盛り」
席についたナルトは店主に注文をする。拗ねて頬を膨らませたナルトに「悪い悪い、チャーシュー一枚おまけするからすねんなよ」と謝っていた。
女性店員もお冷を出してくれ、シャナに注文を聞いてくる。
「ナルト君にこんなお姉さんがいたなんて初耳ね。お姉さん注文どうします?」
「あー、えっと、野菜ラーメンの大盛りで」
ふとメニューを見て、温野菜の好きなシャナはそれを頼んだ。注文を受けた店主は「お姉ちゃんのほうもナルトおまけしとくぜ」とサービスしてくれる。
この二人は、ナルトを好意的に受け入れてくれている。常連だからなのかとも思うが、ナルトが楽しそうに会話している様子から、本当にこの店主の人柄に惹かれているのだと分かった。
木ノ葉の里でナルトに好意的な人は初めて見た。ごく僅かしかいないが、弟を認めてくれる大人の存在にシャナの胸もあったかくなる。
そして、ラーメンが2つ出てきて、それを二人で食べる姉弟。店主たちもシャナの事に興味があるのか、いくらか質問される。
離れたところに暮らしていて今日から、一緒に住むと伝えると店主が言った。
「そうか。俺が言うのも変だけど、ナルトの奴があんなに楽しそうなの久々に見たぜ。ちょっと問題児だけど、根は良いやつだ。仲良くしてやってくれ」
「もう、お父さん。でも、二人でまた食べに来てくれたらうれしいです。サービスもしますよ」
二人の言葉にナルトがまた照れながら、ラーメンを啜っている。シャナも「はい。素敵なお店なんで、また食べに来るってばね」と返して、美味しいラーメンを食べた。
二人そろってお腹いっぱいになり、帰宅する。
そして、寝る時間になったシャナは、ナルトに「おやすみ」と伝えて、自分の部屋へと帰っていった。その際ナルトも「おやすみだってばよ」とナイトキャップを被った姿で返した。
ちなみに、お風呂のタイミングで「一緒に入ろうってばね」というシャナの御願いは、思春期の男の子であるナルトに却下された。
(一回くらい一緒に入りたかったってばね)
頭の中で赤ん坊のナルトの姿から、更新されていないシャナだった。
この日、うずまき姉弟は、家族となったのだった。
次回は、あとがきで シャナのプロフィール更新予定です。