木ノ葉の里が皆寝静まる夜。
火影の執務室にて、波風ミナトは、椅子に座りキセルをふかしている三代目火影、猿飛ヒルゼンへ連れてきてしまった少女について相談していた。
「クシナは相変わらず、衝動的じゃな」
「はは。すいません」
妻の評価に対して、反論できないミナト。確かに任務帰りに、突然走り出した妻の行動に一番驚かされたのは彼だった。だけれど、クシナの行動原理を愛おしく思う。
「それにしても、青い写輪眼か。突然変異か、全く別の資質なのか」
「オレとクシナは、あの子を引き取りたいと思っています」
「孤児院にも空きはあるが?」
三代目の言葉に対して、ミナトは首を横に振る。
「クシナの意志は固いか?」
「はい。それにオレも」
ミナトはクシナの事を思い浮かべる。他里から来た余所者だった彼女。当然、その人生には、差別が付きまとっていた。だが彼女は強かった。強い人だった。
だからこそ、それらに対して挫けず向き合った。
しかし、あの少女は強くなる前に、悪意に晒された。悪意に抗う術を知る前に、悪意に踏み躙られていた。
だからだろうか、クシナがあの子に構いたがるのは。
誰も守ってくれない、自分を守ることも知らない少女を助けたがっている妻。家を出るミナトを見送る妻は、既に決めている眼をしていた。
「わかった。一先ず、その子を預かることは許可する。うちは一族にも儂から連絡を入れておこう……なるべく穏便に事が運ぶよう計らおう」
「感謝します三代目」
「だが、いいのか? 四代目火影候補に上がったばかりで、ややこしい事情を抱える羽目になるぞ」
「覚悟の上です。では、クシナへの報告もあるので、これで」
ミナトが帰ろうとすると、三代目が何かに気が付いたように「待て」と声をかける。
「?」
「一先ず、名前を付けてやるべきじゃな。報告書にも必要だからな」
「そうですね。わかりました」
「……必ずクシナと考えておけ」
「? わかりました」
三代目火影は、ミナトのネーミングセンスを思い出し、すぐに防衛線を張った。それに気が付かないミナトは疑問を感じながら執務室を後にした。
ミナトが立ち去ってから、三代目火影は、椅子を反転させ夜空を眺め、呟いた。
「余計な手出しはするなよダンゾウ」
三代目の言葉とほぼ同時に、執務室の影に、木ノ葉の暗部養成部門「根」の創設者、志村ダンゾウが佇んでいた。
「何を甘いことを。昨今の情勢を考えれば、不穏分子でしかない。早めに始末するべきだろう」
「お前はやりすぎじゃダンゾウ」
「ヒルゼン。都合よく、拾った孤児がうちは一族だという状況、どう考えても出来すぎているだろう。それに本当にうちはだとすれば、虐待を受け続け、既に写輪眼まで開眼している齢3つにも満たない小娘が、拾った木ノ葉に感謝してくれるとでも思ったか? 逆だ。そいつは、憎悪に満ちた怪物となるだろう。あの一族は、心に闇を抱えやすい。かつての、うちはマダラのように破滅的な思想に目覚めるやもしれん。
お前に決断できぬというなら、ワシがやるしかない」
「止さんか……一度しか言わん」
タカ派のダンゾウと意見の合わないヒルゼンだったが、ドアから出ようとした彼を殺気を込めて睨み付ける。これ以上動けば殺すと伝えられたダンゾウは、握ったドアノブから手を放す。
「……ワシが、小娘の存在が木ノ葉への災いになると言ったこと、忘れるな」
ダンゾウはそう言い残して、執務室から出て行った。誰も居なくなった執務室で、ヒルゼンは深く息を吐いていた。
ーーーーーーーーーー
夜が明け、朝日が差し込む時間帯。波風家のベッドの上。
そこには、クリーム色の髪をした少女が、目隠しをされた状態のまま、眠りについていた。
「っ……?……?」
突然、部屋の空気にいい香りが漂い始め、慌てて飛び上がる。目隠しをしているため、周囲を見られないが、聴覚と嗅覚を総動員して今どこにいるのか考える。
だが、村の中の何処でもない香りと音に少しだけフリーズする。だが、徐々に昨日のことを思い出す。
村で殺されるはずだった自分を、二人に救ってもらい、家に連れてきてもらったと寝ぼけた脳で思い出す。
住み慣れた蔵なら、自由に動けるが、知らない場所では物の配置がわからず、恐る恐る壁を伝って歩いていると、扉の開いた音が聞こえる。
「ん! おはよう。起きてたんだね」
ミナトが少女と同じ目の高さに屈む。そして、不安にさせぬよう手を差し出す。
「一緒に朝ご飯を食べようか。怪我するといけないから、手をつなごう」
少女が手を握るとミナトが手を引きながら、リビングへと案内する。リビングに入ると、美味しそうな香りが漂っており、ぐーっと少女のお腹が鳴る。キッチンで料理していたクシナが「おはよう」と出迎える。
「……ごめんなさい」
しかし、少女はお腹を押さえながら、怯えて部屋の隅に走ってしまう。前が見えないため棚に激突しそうになるも、手を握っていたミナトが体を抱き上げて阻止する。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
少女はガチガチと震えながら、消えそうな声で謝る。少女の居た村では、彼女が腹を空かせるたびに「無駄飯食らい」と殴られていた。なので、悪いことだと思い込んでいたのだ。
しかし、少女に危害を加える者はいない。
「お腹が鳴るのはね、あなたの体が大きくなりたいって言ってるんだってばね。それはとても良いことなのよ」
テーブルに朝食を並べたクシナが、少女の頬にやさしく触れる。クシナとミナトの仕事は、少女に植え付けられた恐怖を取り除くことだった。
ここには敵はおらず、心落ち着ける場所だと理解させてあげたかったのだ。
ミナトは、クシナの膝の上に少女を座らせた。
「「いただきます」」
「?」
二人が急に同じ言葉を言ったので少女は首をかしげる。
「はい、あーん」
「……」
「食べていいの。むしろ、これからはお腹いっぱい食べなきゃ」
「あー」
クシナが少女の口元に箸を持っていき、少し悩んだ少女だったが、口を開けて食べさせてもらう。とても美味しい食事に夢中になりながら、少女は口元に出されるご飯を食べ続ける。
栄養失調寸前だった少女の体が、食欲を加速させていた。その食べっぷりにクシナとミナトも少し安心した表情をしていた。
「むぐもぐ…ぐす、もぐ、ぐす。ぐす」
食べながら、目隠しの隙間から涙が流れる少女。いろいろな感情が渦巻き、自分でも何故泣いているかわからない。わからない。そうわからないのだ。
嬉しい。美味しい。楽しい。それらの感情を教えられなかった故に、わからない。
ミナトとクシナの二人は驚きながらも、二人で頷く。
「泣くほど美味しかったってばね?」
ミナトが少女の涙を拭き、クシナが頭を撫でていた。その光景は、本当の親子のようで、慈愛に満ちていた。泣きながらも生まれて初めてお腹一杯になるまで食べられた。だが、お腹よりも胸が何故か満ち足りるような感覚に戸惑う。
「食べ終わったら、こうして手を合わせて、ごちそうさまっていうんだってばね」
「がち、そうさま?」
「ごちそうさま、だよ。食べる時はいただきます。食べ終わったら、ごちそうさま」
聞き覚えのない言葉。
「どちらも感謝の言葉だよ。作ってくれた人、食材を作ってくれた人、食べ物になった生き物や植物たちへの感謝の言葉だ」
「……ごちそうさま」
「えらいってばね。お腹、いっぱいになった?」
少女はクシナの問いに、頷く。少女の食事が終わると、ソファーへと座らされる。そして、ミナトとクシナの二人は、ちゃぶ台を挟んで少女と向き合う。
ーーーーーーーーーー
「君のことが決まったんだ」
「?」
「今日から、オレ達は家族になる」
家族とは何だろう。村人達がそうで、私だけが違ったあれだろうか。
「私がお母さんで、ミナトがあなたのお父さんになるってことだってばね」
「お父さん……お母さん……」
そんなはずがない。自分にはいないのだ。だから呪われた子だったはずなのだ。そう少女が考えてしまうのは、育った環境故。
「……」
「もしかして、嫌?」
クシナが恐る恐る尋ねるが、少女は自分の衣服を握りしめたまま動かない。立ち上がろうとするクシナをミナトが制止する。
「ゆっくり決めてくれていいよ」
あくまで選ぶのは少女だからと、クシナへ伝える。
「……、いいの?」
「ん?」
「わたし、ここにいていいの? じょうずに家族できないと思う……」
「そんなことない。そんなことないってばね」
家族をするものだと考えてしまった少女。この少女の価値観の違いをクシナは強く否定する。
頭の中で、少なすぎる経験のせいか、思考がぐちゃぐちゃになる少女。
「だって、わからないんだもん……」
「そうだね。君は知っていくことから、始めなきゃいけない。オレとクシナも」
「?」
「オレとクシナも判らないことだらけなんだ。だから、オレ達と一緒に、家族を始めないか? 少しづつ、色んなことを勉強していこう。皆で」
ミナトの言葉に少女は、「ほんとうに?」と問う。
「本当だってばね」
「本当さ」
「…………………………、………………………………………………うん………………………」
そこで少女は生まれて初めて、人を信じることを決めたのだった。恐怖心と不安でいっぱいなのに、初めて胸が満たされた気持ちを求めたのだ。
それを人は、愛情と呼ぶ。
「なら、君の名前を……昨日徹夜で考えたんだ」
「名前?」
「そうそう。ミナトったら、初めての贈り物になるからって、悩みまくってたのよ」
そう笑うクシナとミナト、よく見れば目元に薄い隈があった。変な名前を考えるミナトに対して、クシナが何度も却下を下し、二人で頭を悩ませ続けたのだ。
そうしてようやく納得のいく名前が決まったところ、朝日が昇っていた。
二人は、反応を待つ少女に、初めて名前を呼んだ。
「あなたの名前は」
「君の名前は」
「「遮那(シャナ)」」
暗い世界に閉じ込められた少女。だが、やがては人々を優しい光で照らすようになってほしい、そういう思いからつけた名だった。
「しゃな?」
「そうだってばね。波風シャナ、それがあなたの名前だってばね」
「……ありが、とう。わたし、シャナ、うん、わかった」
「今笑った? もしかして笑ったてばね? かわいい、ほんとうにかわいいってばね!」
「クシナ、シャナがつぶれるよ」
名前をもらった少女、波風シャナ。現在、クシナに揉みくちゃにされ、パニックになり固まっている彼女が初めての家族を得た日だった。
名前 波風シャナ
忍者登録番号 なし
誕生日 12月24日(推定)
星座 魚座
血液型 O型
身長 76.5cm(2歳)
体重 10.9㎏(2歳)
好きな食べ物 おにぎり(梅干し)、稲荷寿司、温野菜
嫌いな食べ物 納豆
趣味 夜の散歩
闘ってみたい相手 近所の猫(おもちゃを盗られた)
好きな言葉 家族