試験時間になり、ヤマトが修練場に戻ると3人はいなかった。
完全に気配を消しており、うまく隠れている。
(この地面の感じ、罠も用意してるね)
姿勢を低く地面に手を当て、周囲を探るヤマト。
「さて、そろそろ探しに行こうかな」
「火遁・鳳仙花の術!!」
「えぇ?」
潜伏している三人を探そうとしたヤマトだったが、突然飛び出してきたシャナが火遁の術を発動。ヤマトの周囲を炎が包み込む。ヤマト本人ではなく、ヤマトを囲むように炎が燃え上がり、その輪の中にシャナが入ってくる。
タイマンの形になったヤマトとシャナ。シャナは両手に持ったクナイから粒遁の刃を伸ばして、二刀流の構えを取る。ついでにと写輪眼で幻術を掛けようとするが、ヤマトはシャナの目を見ない。
写輪眼対策はしているようで、安心するシャナ。
「君さ。ちょっと変わってるよね。なんていうのか、大人しい子かと思ってたのに、やり方が豪快過ぎて」
「面倒事が嫌いなんだってばね」
(チャクラ刀か。この年で使いこなす子は珍しいな。それにあの切れ味、斬るというより焼き切ってるんだね)
自分の木遁を切り裂いた切れ味は、人体ならたやすくスライスするだろう。
暗部の先輩であるカカシから聞いていた情報もあり、シャナ相手に油断はできない。だが本気で行くことも出来ない。
「木遁の術」
ヤマトの周囲から木材のような木が生え、それらが急成長し、シャナ目掛けて襲い掛かる。シャナは、粒遁の刃で迫りくる木遁の術を斬っていく。だが質量で押してくる無数の木に追いやられ、横に躱す。
「木遁・黙殺縛りの術」
「粒遁・天輪」
ヤマトが先に細い糸のような木でシャナを拘束しようとするが、シャナも粒遁の粒子砲を頭上で溜め、ヤマト目掛けて発射する。発射された粒子砲がヤマトの胴体を消し飛ばすが、それは木遁の分身。バラバラになった木遁分身から枝が生え、シャナを捕まえる。
木遁分身を出した本体は、自分の出した枝を足場に木遁のコロシアムから脱走する。
「写輪眼でも見切れないってばね」
木遁分身は厄介だなと感じるシャナ。枝を再び粒遁の刃で切断し、火遁のコロシアムから抜け出したヤマトを追う。だが足止めに木遁の檻が作られ、閉じ込められる。完全に隙間なく密閉された暗闇で、青い写輪眼だけが光る。
足止めがうますぎるだろうと、シャナがいら立った。
(あの術の威力、僕が分身じゃなかったら、肉片も残らなそうだ)
シャナの術の威力はどれも一撃必殺級のもの。故に大味と言わざるを得ないが、最大限警戒しなければいけない。何故ならシャナは、鈴を取るという目標を忘れていそうだからだ。
(絶対僕の命を取りに来てるよな。合格なんて言うんじゃなかった)
慌てて森に入り姿をくらませようと考えた時。森の方からクナイと手裏剣10本が飛んできて、ヤマトは立ち止った後に跳んで回避。すると、森からトルネが現れる。
「君も出てくるのか」
「先生は殺す気で来いと言いました。だから、俺は俺の出来る事をします」
トルネが自分の手袋を外す。その掌は、紫に染まっており、通常の皮膚とは言い難かった。
「動けなくなったら抵抗しないでくれ。解毒しなければ死ぬ」
トルネが体術の構えをする。そして、彼の皮膚が手から腕まで紫に染まっていく。それは、油女一族で彼だけが持つ特異な虫。燐壊虫といい、ナノサイズに近い毒虫であり、ひとたび生物が触れれば、瞬時に感染して激痛と共に全身の細胞を破壊する術。
つまり彼の体術の一つ一つが必殺の一撃となりうるのだ。
「君も鈴じゃなくて命狙ってくるの? どうなってるんだこの班」
「どうしても忍者にならなければいけない理由が出来た。覚悟」
トルネが飛び出す。速度は平均より早い程度で、アカデミーに通っていない割には、いい身のこなしだと感心する。だが一撃も貰えない以上、手加減はできない。全力で相手するしかない。
「はぁ!」
「おっと」
何度も拳を繰り出すトルネ。ヤマトはすべてを見切り、当たらないように回避。
足をかけ、体勢を崩したトルネの首筋に手刀をお見舞いしようとするが、当たる直前に彼の首も紫に染まる。
ギリギリで触れなかったヤマト。トルネは体勢を立て直し、息を整える。手のひら以外に虫を広げるには、チャクラの消耗が激しいらしく、息が乱れるのだ。
「はぁはぁ、まるで当たらない」
「はは、見るからにヤバそうだからね。でも今のガードはうまいと思うよ。ただ近付けないとなると、忍術しかないね。木遁の、おっと!?」
トルネを木遁で拘束するために印を結ぶヤマト。しかし、そのタイミングでクナイが頭目掛けて飛んできたため、木遁を防御に使用。角材の盾を作り出してクナイを防ぐ。
(八雲だな。援護に徹してるのか。確かに体力に問題があると資料に書いてたからな。けど、あの子にはあれがあるからな。まぁ近距離でなければ効果の薄い術だと聞いてるから、森から出てこない限りは安全か)
シャナ、トルネ、八雲の資料に目を通していたヤマトに油断はない。ただ問題があるとすれば一つだった。
(全員命取りに来てるな、これ。どうする、本気で殺しに来てるよこの三人)
本来は、模擬戦の中でチームワークを見せてもらい、協調性やそれぞれの特質を見せてもらう予定だったのに、誰も鈴を狙わず命しか狙ってこない。普通は鈴を取れば合格なのだから、上忍相手を殺すより、鈴を狙うのが定石だろう。
なのに、三人共鈴の事を忘れているかのように、急所狙いが続く。
「八雲! 援護は任せる」
前線で戦うと宣言したトルネ。返事はないが、森の中で忍具を構えているであろう八雲。そして、木遁の檻を切り裂いて脱出したシャナが全身から青い光を迸らせながら合流する。
「あれ? カウンターの毒蟲はどうなったんだってばね」
「直前でばれた。すまない」
「上忍は、伊達じゃないってことだってばね。私も一緒に戦う」
シャナは、片手に粒遁の刃を迸らせたクナイを持って、トルネの横に並ぶ。だがトルネが心配そうにシャナを見る。それは彼の戦闘スタイルが仲間との連携に向いていない故だろう。触れれば感染する毒虫は、不慮の事故で味方に被害を与える場合がある。
「今からは、私は無敵だってばね。好きなように動け、私が合わせる」
「本当だな。いくぞ」
トルネとシャナが同時に飛び出す。それに示し合わせたように森から手裏剣がヤマトに向かう。手裏剣に追いつくように急加速したシャナが、手裏剣を受け止めていた木遁の壁を両断。後ろに飛んでいたヤマトに肉薄する。
何度も刃を振うが、ヤマトが攻撃を見て回避する。シャナは、足を集中的に狙う。そのせいで動きが鈍くなったヤマトに追いついてきたトルネが拳を振るう。
「はぁ!!」
「危ない危ない」
トルネの拳を回避できないと知ったヤマトは、自分の腕を木遁で木に変え、木のグローブでトルネの拳を受け止める。直接触らなければ、防げると踏んだヤマトだったが。
「木遁は、生命を生み出す術だったな、シャナ」
「そう。私の目がそう判断した」
「嘘だろ!?」
トルネの拳の触れた木が、彼の毒蟲に感染。徐々にヤマトの体へ伸びていき、ヤマトはたまらず手を木から切り離す。トルネの毒に感染した木遁の術は、紫に染まり、そして朽ちていく。
木遁の術にまで感染する毒虫の威力に、ヤマトの顔がこわばる。
彼の想像以上に攻撃的な術の使い手が、目の前に二人いる。片方は火力が非常に高く、もう片方は毒性が非常に強い。
「畳みかけるぞ」
「わかったってばね」
再び二人が飛び出す。ヤマトは接近させてなるものかと木遁の術を発動。二人を襲うように地面から角材が生え、彼らに襲い掛かっていく。無数の木材を前に止まらないトルネ。彼の前を走るシャナが、次から次にチャクラ刀で木材を切断していく。
シャナの取りこぼした木は、トルネが殴りつけ、無効化。トルネの背中を足場にシャナが飛び上がり、トルネは姿勢を低くかける。地面で合流した二人は、木々を互いにカバーしながら、突き進んでいく。
(この二人初対面だよね。連携の息が合い過ぎてる。……シャナが宣言通り、合わせてるのか)
徐々に距離を詰めてくる二人に、大人げないと思いながらも、ヤマトも本気で迎撃する。
「木遁の術!」
30を超える木々が、シャナとトルネを襲うが、突然二人の姿が煙のように消える。
(何?)
煙のように消えた二人は、突然、ヤマトの背後から現れる。
「どうやって」
しかし、自分の体から木を飛び出させたヤマト。奇襲のつもりだった攻撃だったが、再び当たる直前で存在が掻き消える。状況が理解できず、木遁の術で自分を覆い隠し、防御に徹しようとする。
だが、ヤマトが発動した木遁の術は、ヤマトの足元から生えた木々が彼の両手両足を拘束するように成長する。
自分の術に身動きを縛られたヤマト。幻覚にしては、リアルすぎ、実際に木に縛られているように感じる。
(これは幻術か。木の感触や香りまでするのに、いや、痛みまで)
成長を続ける木遁に、体中が締め上げられ、骨がきしむ。その痛みが本物のように錯覚している。自分を拘束する木をどうにかしようと全身から木遁の術を発動。体から生えた木々が拘束する幻の木遁をはねのけ、拘束から抜け出すことに成功する。
だが、今度は地面が割れ、巨大な地割れとなってヤマトの体は落下する。
実際に浮遊感を感じて、慌てて体勢を立て直そうとする。
木を伸ばして地割れでできた谷に橋を架け、体勢を整える。だがこれが幻術か土遁か判別が出来ず、すぐに幻術返しを行う。
「解! え?」
自分のチャクラを乱し、このひどく精巧な幻術から抜け出す事が出来た。
「その命貰うってばね」
「覚悟!」
どうにか幻術から抜け出せたヤマトだったが、地割れはやはり幻術で、地面に横たわったヤマトは自分が出した木で地面に縫い付けられ、身動きがとれない。
その状況下で、目に入ったのは、先程、ヤマトの木遁分身を木っ端微塵にしたチャクラ粒子砲をチャージしている体勢のシャナ。トルネは、毒手でヤマトの喉を掴もうとしている。
自分の木遁で身動きの取れないヤマトは、どうあっても死んでしまうだろう。木遁でガードしてもトルネの毒蟲に感染する。
「まいった! 参った、降参する!」
ヤマトが降参を宣言した。降参宣言を聞いたトルネは、手袋を装着して毒虫を封じる。シャナは、降参したヤマト目掛けて粒遁・天輪を発射しようとして、トルネに冷静に止められる。
「なぜ、撃とうとしてるんだ」
「どうせ木遁分身だってばね」
「本体だよ!」
シャナは、写輪眼の瞳力でも見切れない木遁分身に、プライドを傷付けられた。負けず嫌いのシャナは、何度か木遁分身を見切ろうとしたが見切れず、腹が立っていたのだ。
ヤマトは腹いせに殺されてはかなわないと、本体だと主張する。
トルネも流石に降参した後に、反撃はないだろうとシャナを止める。
「試験は合格だよ。全くもう、とんだ目にあったよ」
自分の木遁の術から抜け出したヤマトは、肩を落としながら地面に座る。くたびれたと言わんばかりの様子に、シャナも流石に術を解除した。
落ち着いたヤマトは、二人を見て、八雲が居ない事に気が付く。
「そういえば、八雲はどこにいるんだい? さっきの幻術も、何処からかけたんだか」
「ここです。シャナちゃん、トルネ君、助けて、崩れてきたの!?」
八雲の声が聞こえた先は、先程シャナを閉じ込めるために作った木遁の檻だった。八雲は、ヤマトのチャクラがなくなり崩れそうになっている檻に閉じ込められていた。
呼ばれた二人は、慌てて八雲の救助活動を始め、すぐに彼女を救助することに思考する。
助けられた八雲、助けたシャナとトルネは、ヤマトに質問攻めにあっていた。
「あの檻に入ってたのかい?」
「はい。シャナちゃんが反対側にも穴をあけて、私を設置しました」
「設置?」
あんまりな言い方にヤマトが疑問を覚えるが、それにはシャナが答えた。
「八雲の幻術は、相手との距離感が大事だってばね。だから八雲をこの場所に隠して、いつでも幻術にかける準備をしてもらった。後は影分身を森に配置して、八雲が森にいると勘違いさせたんだってばね」
「俺は、シャナと一緒に八雲の幻術までの時間稼ぎと、ヤマト先生の足止めをしてたんだ」
「即席でよく考えたね。そんな戦術」
八雲の幻術でヤマトを封じる作戦。それは八雲の持つ幻術が、通常の幻術とは違うから選ばれた選択肢だった。八雲の幻術は、脳を支配し、五感全てを欺くことが出来るというものだった。
鞍馬一族自体が幻術に突出した一族だったが、八雲のそれは別次元であり、彼女の幻術内で怪我をすれば、脳が騙され、実際に痛みと機能不全を患う。炎に包まれれば、体に火傷が発生し、焼け死ぬこともある。心臓を突き刺されれば、実際に心臓が突き刺された際と同じ症状が起こる。
つまり幻術で人が殺せるのだ。
今回はそれを採用したのだ。唯一の欠点は、幻術使いの八雲との距離が近いほど、効果が強まるが離れれば効果が弱まるところである。
「確かに僕は、八雲は森にいるから大丈夫だと思ってたけど、実際は傍にいたから、術中に嵌められたってことか。見事な陽動だったよ」
「私は、本気で首狙ってたってばね」
「やっぱりそうだよね。君だけ攻撃が殺意に満ちてたよ。よく考えたら森からの手裏剣も君じゃないか!?」
実をいうと、シャナの提案で、八雲も幻術でヤマトを最悪死亡、再起不能、にするつもりだったので、3人共鈴なんか狙っていなかったのは内緒である。
生物兵器並みの毒虫使い、五感支配の幻術使い、写輪眼と血継淘汰使いの3人組。バラバラながら、恐ろしいスキルを持った彼らが、意外と良いチームワークを発揮している事に、ヤマトは認めるしかなかった。
「君たち、全員合格だよ。後日また、ミーティングするよ」
この日より、隊長ヤマト。うずまきシャナ、油女トルネ、鞍馬八雲を班員とする。第四班。通称、死の班と呼ばれるフォーマンセルが誕生した。
ヤマトが報告の為に、一度火影の元に向かうと言っていたので、班員の三人は、帰り道を一緒にしたのだった。
一撃必殺の忍術。一撃必殺の体術。一撃必殺の幻術。
殺意の高い班生まれました。八雲が一番やばいまである。アニオリなので情報少ないですが、この小説では、距離感で効果が変わると設定します。