NARUTO 先見の写輪眼   作:ドラギオン

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前回の話の少し前になります。


初めての仲間

 下忍昇格試験の準備期間。

 ヤマトに置いて行かれた3人は、互いに気まずい空気を醸し出していた。

 全員初対面な上に、全員がアカデミーなどの施設に通えず、コミュニケーションの取り方を測りかねていた。

 

「……面倒な試験だってばね」

「確かにな」

 

 シャナのつぶやきにトルネが同意する。彼もこの試験が面倒だと感じていた。

 

「で、でも、これに受かれば、忍者になれるんだよね」

 

 トルネとシャナがめんどくさそうにしている中、八雲だけが真剣な表情で、試験について考えていた。 

 彼女の追い詰められたような表情に、シャナとトルネは「偉くやる気だな(だってばね)」と口に出す。

 

「だって、私にはこれしかないから……これに受からないと……受からないと」

 

 八雲のあまりに必死な様子に座って話をしようとトルネが提案。軽い気持ちで考えていたシャナは、彼女の様子に「まぁ落ち着くってばね」と宥める。

 緊張のあまり顔色の悪くなる少女に自販機から飲み物を買ってきたトルネ。

 飲み物を飲んで落ち着いた八雲は、どうしても試験に受かりたい理由を話し始めた。

 

「私は、鞍馬一族の為に、忍者になりたいの」

「鞍馬一族って、聞いたことないってばね」

「……そう」

「俺はあるぞ。幻術に特化した一族だったか」

「あ、ごめんってばね」

 

 シャナのずばずばとした物言いに八雲は暗い表情になるが、トルネがすかさずフォローを入れる。

 八雲もシャナに悪気がないと分かったのか「ううん、いいの」と答える。

 

 八雲の一族は、元々は名家であり、多くの優秀な忍を輩出してきた。だが昨今になり一族から上忍を輩出することが出来なくなり、徐々に衰退していったという。だがそんな中で、一族史上最強の幻術を持った八雲が生まれた。

 一族は八雲に一族の未来を懸けるようになったが、八雲は体が弱かった。 

 体力に難があり、アカデミーに入学できなかった。現在の当主が、八雲を幻術使いにするために、三代目火影に掛け合った。

 そこで専門教師をつけてもらえたが、八雲は忍に向いていないと言われた。

 

「でも、そんなときに今回のお話があったの」

 

 特別に下忍になれる試験。八雲には文字通りこれが最後のチャンスなのだ。一族の期待を背負いながらも、応えられなかった。だから、何をしてでも受からなければいけない。しかし、その気負いが彼女の体調を悪化させる結果につながる。

 

「顔色が悪い。少し落ち着け」

「先生を殺しちゃえば、合格だってばね。私がやってあげるから、心配しないでいい」 

 

 鈴の存在が頭から消えているシャナ。冗談抜きで、仕留めようと思っていた。先見の写輪眼を使った4分間なら問題ない。あまりに気負い過ぎている八雲の様子に、少し同情もしていた。

 彼女の話は嘘ではなく、藁にも縋る思いで此処に来たのは承知した。

 

「こ、殺しちゃだめじゃないかな?」 

「合格するためには、殺すしかないってばね。相手も覚悟の上でああいったってばね」

 

 鈴の事は忘れているシャナ。ふざけて居る訳ではなく、本気でそう発言している。

 

「そうなの、かな(どうすれば幻術にかけて、仕留められるんだろう)」

 

 折れる八雲。既に頭の中でどうやれば仕留められるか思案していた。常識のある彼女だが、一族復興のために非常識に身を置くことに躊躇はなかった。

 そして、アカデミーに通えなかった彼女にとって、初めての同年齢のシャナの言葉は、刺激的だった。

 その言葉が正しく思えてしまう程に。

 

「だが、実際どうするつもりだ。相手は上忍。命のやり取りとなれば一筋縄ではいかない(合格条件は他にもあるのだがな)」

「私なら勝てるってばね」

「もしそうだったとしても、お前しか合格にならない場合もある」

 

 トルネの指摘に、シャナは少し考えた。確かに彼の言う通り、シャナしか合格しない場合、八雲の願いは叶わない。それは少し可愛そうな気がした。

 

「仮に俺や八雲が一人でやった場合も、同様の可能性がある」

「……私は、誰かと組んだことないってばね。足手纏いが居れば、動きにくくなる」

「俺も同じだ。そして俺の術は、仲間との連携に向いていない」

 

 シャナは同年代の子供と話したことすらない。そして、誰かと一緒に戦うなど、考えたこともなかった。集団戦闘のノウハウがないシャナは、戦力の大幅な低下を覚悟しなければいけない。

 そしてトルネも同じだった。誰かと組む経験は皆無。そして彼の持つ毒虫の術は、味方を巻き込む可能性があり、大変危険だった。

 二人とも共闘は望まない。だが、二人は自然と、3人で合格する方法に思考がシフトしている。自分一人さえ受かればいいという発想が出ないのは、八雲の話を聞いた事もあるが、どちらも面倒見が良く、優しい所がある故。

 当然だが、八雲にも共闘の経験などない。 

 

「全員で合格するなら、共闘は必須」

「でも、皆共闘は苦手っぽいってばね」 

「とりあえず、皆で何が出来るか話し合ってみる?」

 

 八雲の提案。それは当然と言えば当然だろう。お互いの手札を知らなければ共闘などできない。三代目の言っていた特異な力というのが、互いに気になりはした。

 

「そうだな。まずは俺から話そう」

 

 トルネは自分の毒虫について、説明した。その毒性と即効性、威力などを傍にあった木で実演する。結果は、二人の少女からの拍手だった。

 素直にすごい術だと感心した二人に拍手されたトルネは、意外な反応に驚いている。

 本来なら気味悪がられ、避けられる類の能力。差別を受けてしかるべきだった術だが、二人はすんなり戦力として受け入れていた。

 何故かと言えば、二人の少女も彼に負けず劣らずの、特異な力を持っていたからだ。

 

「私は、まず写輪眼を持ってるってばね」

「青い写輪眼? 俺の知っているのは赤い写輪眼だ」

「私は、見たことはないけど、青いんだね」

 

 自分の目をよく見ろと指示し、色は違うが写輪眼だと説明する。体術、幻術、忍術を跳ね返すと言われる瞳術を持っており、もう一つ能力があると説明する。

 未来視について、教えようかと迷ったシャナだが、これまでの経験から信じてもらえないと思い避けた。

 

「もう一つは、チャクラを粒子状にして、好きに操れるってばね」

「粒子?」

「血継限界なのか?」

 

 百聞は一見に如かずだと、シャナは術の実演をする。両掌を合わせ粒遁・天輪を発動する。頭上にチャージされたチャクラ粒子は、集束し雷遁で加速された状態で発射され、膨大な熱と運動エネルギーを持って空に向かって発射された。

 空に向かって発射した粒子砲は、空中で空気に触れながら拡散。何も壊すことなく霧散する。

 だが、その速度と威力は、見ただけでわかる物であり、八雲が凄いと拍手し、トルネも冷や汗をかきながらシャナを見ていた。

 

「写輪眼と粒遁が私の手札だってばね」

「粒遁、恐ろしい威力だな」

「威力を上げるには、時間が必要だってばね。即席だと、十分の一位になるってばね」 

 

 毒虫、写輪眼、粒遁、手札がそろい始め、最後に残された八雲に目が向く。

 八雲は、少し緊張しながらも両手で印を組み、自分の能力を披露する。

 

「魔幻・奈落の術!」

「な!?」

「えぇ!?」

 

 八雲の術と共に、トルネとシャナは、急に空に体が打ち上げられた後に、地面にぽっかり空いた底の見えない大穴に落下を始める。幻術だというのはわかっているが、浮遊感や落下最中の風を肌に感じ、本当に落ちているように感じる。

 そして、奈落の底に落ち続け、底が見えた時、そこには無数の剣がこちらを迎えていた。

 これに刺さったら死ぬ。そう感じ体を動かすが、いつの間にか縄で縛られており、身動きできない。体に食い込む縄の感触ときつく縛られた痛みは、本物のようだった。

 

 遂におしまいかと思った時、突然の上昇気流に襲われ、再び宙に浮きあがる。トルネは、再び地面に落下する感覚を味わい、悲鳴をあげそうになる。

 

(万華鏡写輪眼!) 

 

 一方シャナは、写輪眼でも看破できない幻術に、畏れを感じた。仕組みは謎だが、この幻術は普通の幻術ではない。そう思いイタチの時と同じく、最強の写輪眼を持って抵抗。

 万華鏡写輪眼になった事で、ようやく幻術世界での主導権を取りもどした。奈落の底に落下する最中に、巨大な阿修羅像を召喚し、6本の腕で大穴の壁に突っ張るようにして体を支えた。それはシャナ自身が自分に幻術を掛けたからできた芸当だった。

 幻術の中で幻術を使用し、幻術世界で主導権争いが起こり、シャナの瞳力が勝利する。

 

 シャナは谷の底を万華鏡写輪眼で覗くと、そこには黒い鬼のような怪物が見えた。 

 

(何あれ?)

 

 シャナのそんな疑問を他所に、幻術が解除された。

 

「うああああああ」

 

 幻術を自力で解除したシャナ。彼女が見た光景は、全力で集中して幻術を掛けていた八雲と幻術の世界で落下し続けるトルネだった。トルネはその場で苦しみながら声をあげていた。だが体は実際に縛られているように身動き一つできないでいた。

 シャナはトルネが哀れになり、八雲の肩を叩いた。

 

「は、え? あ、シャナちゃん」

「すごい幻術だったってばね。けどトルネがヤバいってばね」 

「集中し過ぎた。ごめんトルネ君!!」

 

 すぐに八雲が術を解除すれば、トルネが全身から汗をかきながら、吐きそうになっていた。幻術にしては、強力過ぎるそれ。精神が限界まで追い詰められたトルネの背中を摩っている八雲。やった本人が心配しているとシャナは思った。

 恐ろしい幻術もさることながら、シャナはトルネの腕に縄の跡があるのを見た。 

 

「え、縄は、幻術じゃないのかってばね?」

「く、なに、何故縛られた跡が」

 

 トルネも自分の体中が鬱血しているのに気が付いた。それは縄に縛られた箇所だった。

 

「私の幻術は、五感を操れるの」

 

 八雲の説明を受け、彼女の幻術の凶悪性は、二人に強く印象付けられた。特にトルネは二度と食らいたくないと懇願していた。脳を騙し、実際に痛覚を与え、体にも傷を負わせる。幻術を直接攻撃の領域に特化させたのが八雲なのだ。

 精神攻撃と身体攻撃の両立。

 

(一番ヤバい術の使い手だってばね)

(彼女を忍者にしない理由があるか?)

 

 二人は背筋が冷えるのを感じた。この少女の潜在能力は、条件付きとはいえ、高水準に存在する。幻術に関しては、木ノ葉で彼女の右に出る者はいないだろう。

 しかし、そんな彼女が術に集中し過ぎたのは、シャナが原因だった。

 

「私の全力の幻術を簡単に破ったのは、シャナちゃんが初めてだよ。紅先生だって、解けなかったのに」

 

 術に抵抗されたことで、それを抑え込もうと躍起になり、トルネが犠牲になっていたのだ。徐々に過激になる術にシャナも抗ったせいで、歯止めが利かなくなっていたのだ。

 結果的にシャナの方が勝ったが、負けていた場合、トルネ以上に追い詰められたことだろう。

 

「幻術には、強いんだってばね」

「うんうん。本当に強かったよ」

「吐きそうだ……、少し休ませてくれ」

 

 気分が悪いトルネが回復するまで待ち、そこからお互いの持ち札を使い、木遁使いのヤマトを仕留める計画を立てたのだった。作戦立案は、八雲が行った。トルネが白兵戦担当、シャナは遊撃担当、八雲は幻術担当。それぞれ役割分担をした。

 

 唯一鈴を覚えていたトルネも、八雲の幻術で頭から鈴の勝利条件が飛んだのは運命の悪戯だった。

 

 それが試験での作戦の裏側だった。

 

 





八雲の術って、時間の感覚以外なら、月読クラスなんですよね。五感騙せるって。
シャナは、写輪眼だと幻術に勝てなく、万華鏡では、八雲の幻術を抑え込めます。

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