朝早くから家を出たシャナ。今日は、第四班で初めての里外任務の日だった。
任務の内容は、火の国の大名家の令嬢の護衛。湯の国に観光に出かけていた彼女だったが、帰りの際に護衛が大怪我をしたため、木ノ葉に護衛依頼を出した。下忍で新設の第四班に依頼が届いた理由は不明。
現在湯の国で立ち往生している大名家の令嬢を無事火の国に送り届けるのが任務だった。
本来なら上忍を派遣してもおかしくない任務だったのだが、指名依頼だったため彼らになった。
集合場所である湯の国の国境に向かう前に第四班で集合し、里を出る事になった。
「おはようシャナちゃん」
「おはようだってばね。皆」
「あぁ、おはよう」
「時間通り来たね。なら行こうか」
ヤマト隊長を先頭に、3人は追従して走り出す。かなり朝早く出発したのは、第四班で体力に問題のある八雲のペース配分の為だ。任務終わりに修行を行い、少しでも体力をつけようとしているが、あまり向上はしていない。
それでも少しの間なら追従できるくらいにはなった。瞬発力は適性があり、持久力のみ課題となっていた。
ある程度の距離を走り、崖を登っていく際、息が切れて動けなくなってしまう。
その様子を見ていたトルネが下りてきて、八雲に手を差し出す。
「大丈夫か? もし辛いなら、ペースを落とすように隊長に」
「ありがとう。でも私頑張れるから」
「しかし、顔色が」
任務も始まっていないのに、足を引っ張りたくない。そんな思いでトルネの手を取らなかった八雲。自分の力で登る八雲の姿を見上げるトルネ。
(大丈夫、大丈夫、今日は調子がいいんだから)
先に登ってしまったシャナとヤマトは、先で待っているだろう。八雲が二人にも迷惑をかけたくないと、無理に飛んだ時、着地先が崩れ、バランスを崩してしまう。体勢を立て直せないまま落下する八雲。
しかし、八雲の体は地面に落下する前に、下から飛んできたトルネに受け止められる。八雲の体を抱いたまま、崖を飛び越えたトルネ。彼に地面に下ろされた八雲はトルネの顔を見る。
「俺の毒蟲が怖いのはわかっている。だが素手で触れなければ感染はしない。だから、辛い時は言ってくれ。俺たちは仲間だからな」
「ちょ、ちがうの」
「いいんだ」
八雲が手を取らない理由が自分のせいだと思い込んでいるトルネ。彼女が否定するより先に、ヤマト隊長に休息を願いに行ったトルネ。二人が遅れている事に気が付いて引き返してきたヤマトとシャナ。
「少し休憩を取れませんか? 思いの外張り切ってしまって、疲れてしまいました」
「そうかい? まぁ時間には余裕があるし、休憩にしようか」
トルネは、八雲の体調ではなく自分の都合で休息を願った。その願いを隊長であるヤマトは認め、全員で木陰で休息をとる事になった。
ヤマトとトルネ、シャナと八雲というメンバーに自然と分かれ、木陰で横になる面々。
八雲は、自分を助け庇ってくれたトルネの背中を見ていた。彼の手を取らなかったことで彼を傷付けたのではないかと。気遣いをしてくれ、手助けをしてくれた彼に礼を言えていないことが、心に重く伸し掛かってくる。
そんな彼女の顔を覗き込んだシャナ。青い写輪眼は、いつ見てもきれいだと思うが、嫌に顔が近く「な、なに?」と尋ねた。
「なんか、ずっとトルネのこと見てるから、何してるのかと思ったってばね」
「そ、そう? 気が付かなかったなぁ。あはは」
「さっき嫌がらせでもされた? 私が一発ぶん殴ってこようか?」
袖をまくり上げ、恩人に殴りかかりに行こうとするシャナを慌てて止める。トルネが八雲に嫌がらせなどありえないだろう。彼は紳士的で、人をよく見てくれている。厳しいアドバイスは何度かあったが、全て八雲の事を思っての事だった。
人から避けられてきた彼は、それに慣れてしまいながらも、人にやさしくすることを忘れない人なのだ。それは彼の強さであり、魅力であろう。
「そんなんじゃないから」
「じゃ、どんなのだってばね?」
「もう。シャナちゃんは、私の渡した本読んでるの?」
「全巻読破済みだってばね。ただ、全然わかんない」
すでに渡された本は読み終えている。物語としては面白いが、感情面の描写がいまだに理解できないシャナ。それを聞いて、今度は映画見に行こうねと誘う。映画なら、本よりも恋などについて理解できるはずだ。鈍感、情緒面三歳児のシャナであっても、八雲の今の気持ちがなんであるかわかってくれるはず。
そこまで考えた八雲は、自分が考えたこと、感じていた感情がなんであるか、理解してしまう。
一度意識すると、それしか頭に浮かばなくなってくる。
(いやいや、待って。何を考えてるの私? 今は任務だから、そんなこと、いや、任務じゃなかったら何なの?)
どんどん思考の渦から抜け出せなくなる。顔も耳まで真っ赤になり、頭を抱える。やがて自分の使命を思い出し、一族の為に上忍にならなければいけないと自己暗示を繰り返す。
(それに、素顔だって見れたことないのに。でも声は素敵だと思うし……って違う)
シャナは、目の前で真っ赤になっている八雲の額に手を当て、ヤマトの所に歩いて行く。
「ヤマト」
「隊長ね。なんだいシャナ」
「八雲、熱あるってばね」
「ないよ!!」
突然の発言に八雲が手を大きく振って否定する。確かに元気そうだとヤマトが、「体調が悪くなれば言うんだよ」と告げる。あやうく恥をかきそうになった八雲はシャナを睨む。
睨まれたシャナは肩をすくめて、良く分かっていない表情をしている。
(青春してるなぁ。若さってやつかな)
まだ20代のヤマトは、なんとなく八雲の雰囲気を察してそうしみじみと考えた。
少しの休憩を終え、ようやく湯の国との国境沿いにたどり着いた。だが、国境付近に大名家の令嬢らしき人物は居なかった。
「少し早すぎたかな?」
「そんなことはないと思いますが。湯隠れの里にいるかもしれません」
ヤマトとトルネが相談していると、湯の国の山の方角から、女性の悲鳴が聞こえる。そして、爆発の音まで聞こえてくる。
明らかな戦闘が行われている。他国の戦闘に介入するのは危険だが、場所が場所であり、任務対象の事を考えると行かなければいけなかった。
「行くよ」
「私が先に行くってばね」
第四班の中で最速のシャナが斥候を買って出る。写輪眼を持ち、粒遁の移動術を持つ彼女なら、すぐに駆け付けられる。その提案を許可したヤマト。シャナが先行し、残りが追いついてフォーメーションを組む。それが作戦だった。
シャナに危険が降りかかるが、シャナ以上の適任はいない。
「粒遁・天翔」
両手を合わせ印を結び、シャナが光の粒子となって急加速。音を置き去りにして空中へと駆け抜けていった。
「僕らも追いかけるよ」
「「はい」」
第四班の初めての実戦が今始まる。
―――――――――
悲鳴を上げた女性。彼女のそばには無数の死体が転がっていた。腕利きの護衛だった10人の元忍の私兵。彼らはみな、彼女を守るため敵と交戦し、敵の放った羽のようなもので串刺しにされ、異形の腕で引きちぎられて、その場に横たわっていた。実力者ばかりの護衛達は、現れた襲撃者に瞬殺されていった。全員が一撃で殺され、護衛達の反撃は怪物相手に掠りすらしなかった。
あたり一面血まみれで、その場で生きているのは、女性と最後に残った護衛。そして、その護衛を体に似合わない巨大な腕で握りしめている、頭から翼の生えた少女だけだった。
「おに、げ、くだ、さ」
「逃げちゃだめだよ! 逃がしちゃダメ!」
「げぎょ」
護衛の最後の一人が少女の腕で握りつぶされる。肉の塊となったそれを投げ捨てた少女。彼女はまさしく異形だった。
頭から大きな翼を生やし、両腕は獣のように毛でおおわれ、鋭い爪を備えた巨大な腕。少女の体躯よりも腕の方が大きく、その腕は大人を鷲掴みに出来るほど巨大だ。
瞳は青い輝きを放っており、異形の腕と翼以外は、かわいらしい容姿をしている。それがなおのこと不気味さを増長させる。
「お姉さん、どうやって殺そうかな?」
「いや、ころさないで! お金ならあげるから」
「お金? うーん、いらないや」
「ひぃい」
少女は、巨大な腕を振り上げ、女性の頭に向かってスイングをした。怪力を誇る巨大な腕は、女性の頭を叩き潰すのは容易いだろう。怪物のような少女が女性の命を奪おうとした瞬間。
「? !?」
森の上空から青い閃光が急降下。異形の少女を吹き飛ばし、大木へと叩きつけた。
「何?」
女性は、新たに現れた人物を見る。
「任務により助けに来たってばね。私が来たからにはもう大丈夫」
うずまきシャナは、女性にそう告げ彼女を守るように、異形の少女と対峙する。大木に勢いよく叩きつけられた少女は、「もう! なんなの!」とぷんすか怒りながら、立ち上がり、襲撃者を睨む。
シャナと少女が睨み合った瞬間、お互いの瞳を見て、互いが驚く。
「「!?」」
何故なら、この世に二つとない筈の青い写輪眼同士のにらみ合いとなったからだ。
青い写輪眼同士の邂逅ですね。