審判に指定されたテンテンは、緊張した面持ちで向かい合う二人を見つめる。
「では、いざ尋常に。はじめ」
開始の合図に、走り出したのはネジだった。相手が幻術使いだと分かっている以上、時間をかける意味はない。それに接近戦タイプの彼は、速攻で勝負をつけるには近づくしかない。
印すら結ぶ暇もなく、柔拳をお見舞いする。柔拳は、チャクラを相手の体内に放出し、内臓にダメージを与える体術であり、必殺の威力がある。
下忍とは思えない動きで接近するネジ。さすがに言うだけのことはあると、トルネとシャナが彼を評価する。近付かれれば、八雲では一秒と持たないだろう。
「終わりだ」
「ふふ」
印を結びすらせず、八雲は自分の小指の指輪を外した。
謎の動きだが、白眼で全てを捉えているネジは、そのまままっすぐ進もうとして、足元に突然発生した大穴に立ちどまってしまう。
本能的に立ち止まってしまったネジだが、それが幻術だとすぐにわかる。虚を突かれた。印すら結ばずにどうやって幻術を使ったのかはわからない。だが、所詮幻術。白眼の瞳力の前には、まやかしでしかないと幻術を解除すれば、なんてことはない。穴など開いていなかった。
だが、幻術が解かれると同時に投げられたクナイがネジに接近する。
(あまい!)
いい不意打ちだが、ネジはクナイを全て見切って回避しようとした。だがその瞬間に八雲は指輪を一つ外す。そうすれば投げられたクナイが何本かは、見えなくなり、幻のクナイが無数に発生した。
幻術で数を増やすと同時に実体を持つクナイをカモフラージュするいやらしい戦法だった。
覚えていたクナイの位置から軌道を予測。幻術にかけられたままではあるが、本物のクナイは回避できた。
(あの指輪がタネか)
瞬間的に幻術を掛けてくる八雲の戦術。その仕組みはわからないが、指輪を外せば幻術が発動するのは確かだ。だが、そうと分かれば指輪を外させなければいい。
ネジはホルスターからクナイを抜いて投擲。指輪に触れていた八雲は、突然のクナイ攻撃に自分のクナイを持って弾くことで対応。
しかし、指輪に触れる事が出来ずにネジの接近を許してしまう。慌てて指輪を一つ抜いた八雲。瞬間、ネジの体を巨大な植物が拘束する。それは幻術であるが、相手の動きを縛る類の幻術であった。
だが、すぐに幻術を解除したネジは、渾身の掌底を八雲の腹部に放つ。
白眼で相手が幻術でないと見抜き、更に肉体を捉えた確かな手ごたえに勝利を確信する。
「ぐっ、が、あがは」
「横隔膜を麻痺させた。しばらく息はまともにできない」
攻撃をくらい、どうにか立ち上がった八雲だったが息が出来ず地面に蹲る。その姿を当然の結果だと断じて審判であるテンテンの方向を向くネジ。
「俺の勝ちだ。テンテン勝利宣言を」
ネジがそういうと、テンテンは驚愕した表情で何も言わない。何があったんだと白眼で周囲を観察するも、ネジと倒れた八雲だけだ。
イライラし始めたネジが「はやくしろ」と怒鳴りそうになった時。
突然背中に温もりと柔らかさを感じ、首筋に冷たく固い感触が当てられる。
「ザシュ」
耳元に小さな声で首を切った擬音を発せられた。
ネジの背中を取ったのは、八雲だった。ネジの首に手を回し頸動脈にクナイを当てている。完全に生殺与奪を握られたネジ。だが、彼の目には、倒れている八雲の姿と背後を取る八雲の二人が見える。
まさか影分身かと驚いたネジだったが、そんな考えを否定するように蹲っていた八雲が、霞のように消えていく。
そこまで見てさっき自分が倒したのは、八雲の幻術だと気が付く。
(馬鹿な。白眼で観察し、手ごたえもあったのに幻術だと)
確かに攻撃を当てたはずなのだ。幻術なら何かしらの違和感があってしかるべきなのに、それが一切なかった。
呆然と立ち尽くすネジの背後を取りながら怪しく微笑む八雲。その艶っぽい姿にロック・リーは頬を紅くし、テンテンは感動している様子だった。
「私の勝ち」
「勝者、八雲さん!」
完璧な勝利だった。勝利宣言を受けたことでクナイを仕舞い、ネジの背中をポンポン叩いた八雲。涼しい顔で仲間の所に帰ろうとした彼女だが、プライドを傷付けられ、頭に血の上ったネジが、殺意を込めて柔拳を背後から繰り出そうとした。
だが、その動きを読んでいたのか八雲が再び指輪を外そうとする。
結果的にネジの一撃は、八雲に当たらなかった。
「模擬戦は終わったと思うが、不意打ちを行うのが日向の流儀なのか?」
ネジはいつの間にか背後に接近していたトルネに腕を捻られ拘束されていた。そして、同じくネジが反応できない速度で接近したシャナがダガーをネジの首に当てており、完全に身動きが取れなくされた。
「……」
「まだやり足りないなら、私が相手になってやるってばね」
自分の目では一切追えない速度で動いた二人。トルネとシャナの両方がいつでも自分を殺せると知り、ネジは唇を噛みしめながら「まいった」と白旗をあげた。二人が駆けつけたことで八雲は「ありがとう二人とも」と外そうとした指輪を元に戻していた。
ただ自分でも対応できたのになと不満気でもあった。
もし八雲が次の幻術を使えば、ネジは精神と肉体に大ダメージを負っていただろう。それは下忍にはとても耐えきれない規模のものだ。
八雲を助けに来たシャナとネジを助けに来たトルネ。心に傷を負わせるのはあまりに酷だと、考えたトルネ。ネジの八雲を見下す態度に腹が立ったシャナは、とことん縛りを追加して屈辱を味わわせてやろうとしていたのだが、それも察知したトルネが止めた。
何年も一緒に居れば性格が掴めるというものだ。
ネジが敗北した姿を見たリーとテンテンの二人。年上とはいえ、高い実力を持った先輩方の姿に畏敬の念を抱いていた。
テンテンは、妖艶な幻術使いの八雲とクールビューティーに見えるシャナに憧れ、はしゃいでいた。二人のような、くの一になりたいですと伝えながら、握手を願っていた。
元々すごい女性の忍がいると聞いていたテンテンは、二人に会ってみたかっただけなのだ。だが会ってみればカッコいい姿に更に惚れ込んでしまった。
「トルネ先輩!」
「なんだ?」
ネジを解放したトルネに話しかけたロック・リー。
「ボ、ボク達は、先輩と同じ師を持つものです」
「ん? あぁ君がガイ先生の班員の子か」
トルネは、つい先月に体術の師匠から班員を持つため、修行の時間が取れなくなると伝えられた。元々筋が良かったトルネなら、自分の道を進めると判断したガイによる免許皆伝の試験が行われ、トルネは一人前と認められた。激戦の上で認められた後、新しい弟子に、すごい夢を持った子がおり、その子を育ててみたいと伝えられた。
「ボクも先輩のような立派な忍になってみせます!」
それがリーなのだろう。
弟弟子の登場にマスクの下の口が微笑む。そして親指を立てながらサムズアップする。
「厳しい修行だが、頑張れ。君が諦めなければ、努力は君を裏切らない」
最大級の賛辞を向けたトルネ。リーは感動しながら熱い握手を交わした。
(ガイ先生の好きそうな子だな)
師を思い出しながら新たな世代の今後を楽しみにしたトルネ。
ショックから立ち直ったネジ。
「俺はあんた達を必ず超える」
そう言い残し、リーとテンテンをつれて何処かへ去っていった。
「いやーすごい子だったね」
誰もいなくなった事で八雲が感想をのべ始める。
実際のところ、指輪がない八雲ならかなり苦戦したはずだった。
「相変わらず厄介な戦法だな」
10個の指輪は、それぞれ八雲のチャクラで練られた幻術が封印されており、はずすことで対象に効果を発揮する。
それぞれ落とし穴、植物の縛り、透明化、残像など種類があり、それを組み合わせることで相手を欺くのが八雲のオリジナル、十廻の術である。
幻術使いの苦手な接近戦でも抜群の奇襲性と応用性があり、相手が術を解いてもかけ続けることで時間を稼ぐ。
そして必殺の五感を騙す幻術、天花乱墜の術がある。こちらは準備に時間を要するが、十廻の術で時間を稼ぎ、更に相手が自分から迫ってくるため、術の効果も最大限に発揮できるのである。
現にトルネは、何度も敗北したことがあり、独自の路線を貫く八雲をすごいと思っていた。
一方でシャナも万華鏡写輪眼で対応できるが、幻術合戦になれば通常では、八雲に勝てない。
敗北したことはないが、なんどか冷や汗をかかされている。
ネジが弱いわけではない。相手が悪いのだ。
それ以来、ネジが彼らを侮ることはなくなった。そして更に時が流れ、ナルトとサスケのアカデミー卒業の日が迫るのだった。
八雲の術に名前がなかったのでオリジナルでつけました。