朝になり、日食まで2時間と言ったところ。
目を覚ましたシャナは、隣でぐーすか眠るコダマを起こして、準備を整える。風邪の方は薬がよく効いたのか7割方回復していた。
ふと、太腿に装備したダガーを見つめる。このダガーは、粒遁をクナイに流し、武器にするシャナがいつもクナイがすぐに駄目になると嘆いていたため、誕生日に第4班から送られた、特殊な金属を用いたチャクラ刀なのだ。
シャナのチャクラに反応してその性質に合わせる特殊な忍具。
思い出が、最後にならないように、これからも作っていけるようにと願掛けしながら、装備するシャナ。
体調が万全とは言えないが昨日のような醜態は晒さない。
シャナの横でコダマもストレッチをしていた。
「そろそろ、行くってばね」
「はーい……。そう言えば忘れてた! お姉ちゃん名前なんて言うの? コダマ聞いてない」
「? シャナ。うずまきシャナだってばね」
「シャナ姉ちゃんだね。一気に飛んでいくよ!」
当然のように髪の毛を翼に変えるコダマ。どんな仕組みだと手触りを確認しているが、くすぐったそうにして避けられる。
巨大化したコダマの腕に掴まり、そのまま空を飛ぶ。
――――
二人で空を飛びながら城門を目指していると、コダマから気流が乱れすぎて飛びにくいと伝えられる。
仕方なしに登山することとなった二人。粒遁・天翔で一気に上る方法も、同じく気流の関係で使用できない。
粒子が拡散してしまい、最悪死につながるからだ。そしてチャクラの消費量も多く、4つの血継限界を使える卑留呼相手にスタミナ切れは勘弁願いたい。
二人して山を登るしかなくなった。そのため、全速力で山を駆け抜けていると、卑留呼の仲間の男が待ち構えていた。
「おや? 幸運にも助かったというのに、命を捨てに来たのかな?」
「こいつ、敵?」
「通してくれないかってばね?」
「こちらにも事情があってね。通すわけにはいかないな」
「敵」
城門の前に立ちふさがり、八雲を救助する邪魔をするなら敵だ。敵である以上、殺してもかまわない。その意図を汲んだのか、両腕を巨大な獣の腕にしたコダマが駆け出す。
「口寄せ! 双頭蛇!」
飛び出したコダマに対して、無数の枝分かれする蛇を口寄せ。それらを網のように分裂させながらシャナとコダマを襲う。コダマは後ろに飛んで回避。そのコダマを拘束しようと囲うように蛇が迫る。
「火遁・豪火滅却」
男の攻撃を全て焼き払うように炎の壁がシャナから放たれ、圧倒的な制圧力を以て蛇たちを焼き払う。全ての蛇を焼き払い、男を襲うように炎が迫る。
しかし、足元に口寄せした蛇を足場に高く飛び上がることで攻撃を回避する。
シャナが火遁を解除すると、地面に降り立った男目掛けて、コダマが強襲を仕掛ける。
「私の蛇は、無限に増殖する!」
さらに口寄せを行い、数千に近い数まで分裂した蛇。その牙がコダマに迫り、コダマは鬱陶しそうに腕を払いながら対処している。コダマの読心も、面で制圧してくる相手に相性が悪いのか、上手く近づけていない。
とはいえ、コダマの防御力の前には蛇たちの牙など届かない。それをわかっているのか、蛇を盾にし巻き付き、コダマの動きを阻害することに集中している。全身を蛇に包み込まれ、コダマは巨大な蛇の塊になっていた。
弱い蛇でも数が集まれば、物量という名の暴力となる。遠距離で戦うシャナにも地面を掘り進んだ蛇たちが襲い掛かる。シャナもダガーを粒子刀に変える事で、首を切り落としているが、斬った傍から生えてくる首に苦労している。
こんな相手に時間を食うわけにはいかない。明らかに足止めを狙っている男の策略に苛立つ。
蛇を足場にし、空高くからこちらを伺っている男。
「木ノ葉旋風」
「っ」
その男の背後から、黒い影が現れ、男目掛けて蹴りを放った。突然の不意打ちに男は腕で攻撃を受け止めたが、地面に叩き落とされる。
地面にうごめく蛇たちをクッションにして衝撃を殺した男は、襲撃者を睨む。
「待たせて済まないシャナ」
現れたのは、トルネだった。
「トルネ」
「八雲を助けに来たんだろう? こいつは、俺が相手する。お前は先に進んでくれ」
トルネの言葉にうなずくシャナ。同じ班員であり、前線で戦う二人に言葉は不要。
シャナは、トルネの提案を飲んで、火遁の術で城門までの道を塞ぐ蛇を焼き払う。そして、男を横切って城門に向かう。
そして、固く閉ざされた門を前にして、大きな声で頼りになる怪物を呼ぶ。
「コダマ!!」
「はーーーーーーい!!」
巨大な蛇の塊になっていたコダマが周囲の蛇たちを吹き飛ばし、ジャンプしてシャナの横に着地する。その口を見れば蛇の体液と肉片が付着しており、彼女が蛇を食べていたことがわかる。
蛇に捕まっていたというよりは、蛇の捕食に勤しんでいたらしい。
「美味しいの?」
「美味! お腹いっぱい食べたから元気いっぱいだよ」
そう言いながら巨大な城門を獣の腕で殴り、粉砕したコダマ。明らかにパワーアップしており、食事によってチャクラ量も増加している。
変な生き物だと呆れながら、先に進もうとする二人。
トルネは、突然、湯の国の襲撃者であるコダマが現れ、あろうことかシャナの指示を聞いている光景に驚いてはいたが、彼女たちにけしかけられた蛇を高速体術で蹴散らす。
後ろはトルネに任せて大丈夫だと言ってコダマと一緒に進むシャナ。
「貴様!」
「お前の相手は俺だ。悪いが、一瞬で片をつけさせてもらおう」
コダマの存在はイレギュラーだったが、この目の前の男を仕留める事に変わりはない。卑留呼にやられた傷は、痛みはするが戦闘に支障はない。だが傷口が開き、血が流れ始める。
長期戦は望ましくない。
「一瞬だと? 見たところ体術しかできないようだが?」
「あぁ。それで十分なんだ」
無数の蛇をトルネに向かわせる男。トルネは、その蛇全てが反応できない瞬身で移動。男の虚を突いて背後に回り込んだトルネ。全身が紫に染まり、毒蟲を体中に巡らせている。
ガイにより教えられた体術の中でも禁術に位置する奥義。人間の体内リミッターである八門遁甲第一の門・開門を開くことにより身体能力を強化する。自分の意志でリミッターを外すことによる一種のドーピングのような効果を得られる技だが、トルネには八門遁甲の才能は皆無だった。
ガイが真剣に教えてくれたが、習得に至りはしなかった。
だが、トルネはある方法で八門を習得した。
それはまさに邪道ともいえる方法。彼の宿す毒蟲は、トルネの細胞を住みかとしているナノサイズの毒蟲だ。その毒蟲に無理やり八門を開かせる。それがトルネの切り札だった。
男が振り返った瞬間に、その顎を蹴り上げる。そして、尋常ではない脚力により宙に蹴り上げられた男を追うように影舞葉で背後に回る。そのまま男の胴体を腕ごと抱き締め、高速で回転。受け身の取れない男の頭を地面に叩きつけた。
男の体から飛び退いたトルネは、地面に倒れた男を見下ろす。
「表蓮華。木ノ葉の体術だ」
だが倒された男は、体中から蛇を出しながら起き上がる。ダメージは大きかったのか、動きは鈍い。
「まだだ。この程度で俺を」
「そうだな。だが俺の表蓮華には、続きがある」
「が、ぐぉあああああああ!!!!!」
トルネがそういうと、男の全身が紫に染まり、毒蟲に汚染される。無限に分裂する蛇たちも男と同じようにトルネの猛毒に汚染される。どれだけ生命力に優れようとも、分裂出来ようとも本体が繋がっている以上、トルネの猛毒の前には無意味。
苦悶の声を上げながら泡を吹いて倒れた男。
見事に撃退したトルネだが、傷口が開き始め、息を乱している。シャナに任せろと言った彼だが、満身創痍のまま戦っていたのだった。故に短期決戦を望んだ。
すぐにでも八雲を助けに行きたいが、八門のフィードバックもありすぐには動けない。
「頼むシャナ。八雲を……」
トルネは体力の回復と治療に専念することとなった。ここで終わるつもりはないのだから。
――――――――
シャナとコダマは、城門を通過して第二の城門にたどり着き、そこで戦闘を行っていた。
「ほらほら!」
今度の相手は、下半身を自分の口寄せした装甲に覆われた巨大な獣と融合した女だった。ボンデージ姿で鞭を武器にする彼女は炎を吐く獣を操りながら、鞭でシャナとコダマを攻撃していく。
だが写輪眼を持つ二人に鞭はかすりすらせず、獣の前足の攻撃も全て回避される。
「ちょこまかと!」
巨大な獣と融合したことで能力が向上したようではあるが、俊敏性は低下している。元々速いシャナと空も飛べるコダマを捕まえることはできない。
けれど巨大すぎる獣を一撃で仕留める余裕がない。並の術では効果が薄く、粒遁・天輪を使った場合、かなりのチャクラを消費してしまう。卑留呼がチャクラを吸収する性質がある以上、出来る限り節約したいのだ。
コダマも獣を殴ったりしているが、サイズ差がありすぎて、有効打にはなっても決定打にならない。
「火遁・豪火球の術」
「水遁・水鮫弾の術」
獣が口から炎を吐き出すが、シャナとコダマの両方が火遁と水遁の術を使うことで相殺する。単純な出力勝負になった時、突如地面や壁から木が生え始め、巨大な獣の体を拘束していく。コダマは驚いてキョロキョロしているが、木遁なんて使えるのは一人だけだった。
ようやく遅れてきたヤマトが追いついたのだと分かった。
「遅れてすまないね」
山道の壁に立っていたヤマトは、印を結びながらシャナに話しかけた。だが、コダマの姿を見て、コダマをも捕えようと木遁を発動する。
だがシャナが庇うように前に出たことで、彼の木遁が停止する。
シャナは真剣なまなざしでヤマトを見つめる。
「どういうことかな?」
状況がわからずヤマトが尋ねれば、説明する時間はないと言わんばかりにコダマの手を繋いで駆け出す。
城門へと駆けだしたシャナを止めようとしたヤマトだが、先に拘束していた獣と融合した女が暴れ始めた。こちらを先に処理せねばならないと意識を敵に向ける。
(後で説明はしてもらうからねシャナ)
だが卑留呼の目的である日蝕まで一時間を切っている。故にシャナを先に行かせた。あの子は自分勝手だが、無駄なことはしない子だからと。
「ええぇい鬱陶しい木だね!」
「僕からするとその獣の唸り声の方が鬱陶しいかな」
「やれ!」
「木遁・樹界壁」
女の指示で口から炎を吐いた獣。ヤマトは、木遁の術で壁を作り炎をしのぐ。
「そんな木で、私の炎が防げるかぁ!!」
女は火力を上げる。ヤマトの木遁の盾が燃え始め、徐々に崩れていく。
「木遁・黙殺縛りの術」
盾が削り切られるより先に、巨大な獣をひも状の樹木が縛り始める。地面から生えた樹木は、巨大な獣の口をふさぎ、その動きを阻害していく。増え続ける樹木についに動きが制限された獣。女も鞭を振り回すが、木に絡め取られ、身動きが取れなくなる。
僅かにしか動けなくなった女を見下ろしながら、ヤマトは印を結び直す。
「とどめだよ。木遁・樹縛栄葬!!」
「いや、いやあああ!! たすけ、たすけてぇ!!」
「ごめんね。そのつもりはないんだ」
女を縛り付けて居た樹木が急成長し、女の体や獣を押しつぶしていく。骨の折れる音や破裂する音を聞きながら、ヤマトは木に埋もれて絶命した相手を眺めた。女と獣を押しつぶして成長した木は、やがて見上げるほどの大木となった。
きちんと止めを刺したヤマト。
早速シャナ達を追おうとしたが、両足に力が入らない。卑留呼との戦闘でチャクラを抜かれた後遺症か、まだヤマトの体力は回復しきれていなかったのだ。兵糧丸でどうにか回復したチャクラも今の戦いで使い切ってしまったのだ。
「くそう。僕のせいで、く」
悔しさに顔を歪めるヤマト。現状一人一殺で撃退している、敵は残り二人。もう増援は望めないのだ。
蟲使いトルネ流、八門遁甲。そして、やるときは一番容赦のないヤマトでした。コダマの水遁の出所はあの人です。