春野サクラは、今絶望の最中にいた。
中忍選抜試験、第二試験の会場である死の森で、何よりも恐ろしい相手と対峙することとなったからだ。
突如、襲い掛かってきた草隠れの長髪の忍。その忍の放つ殺気により、サクラは身動きが出来なくなり、応戦したナルトとサスケの両名も無残にも敗北した。
名を大蛇丸と名乗った男。その力は驚異的だった。
大蛇丸と第七班の実力差は明らかで写輪眼を用いたサスケと危機的状況下で赤いチャクラに包まれたナルト。万全を超えた状態で挑みかかったが、蛇のような動きや術を使う相手の圧倒的な実力の前では無意味だった。
偶然に何発か攻撃が入りはしたが、それもダメージになっていない。やがてナルトは謎の封印術をくらい、サスケも金縛りの術で動けないところを首を伸ばした相手にかみつかれ、首元に呪印を刻まれた。
サスケも無力化し、残ったサクラには目もくれずに、封印術をくらい気絶したナルトに歩み寄る男。
「サスケ君にも印は刻んだ事だし、後は九尾の子には死んでもらおうかしら。後々厄介になりそうだしね」
大蛇丸が気絶しているナルトにクナイを振り下ろそうとする。だが咄嗟に駆け出したサクラがナルトを抱えて救い出す。だが、ナルトを抱えて逃げ切れるわけなく、蹴りを食らって抱えたナルトごとサスケが倒れる木まで飛ばされる。
「貴方には用はないのだけれど、邪魔をするなら、殺すわよ」
サクラの全身から力が抜ける。相手に生殺与奪を握られ、抵抗すら許されない。唯一出来ることは、ナルトとサスケの盾となって死ぬことだけ。
こんなに強い奴が居るなんて思っていなかった。その力も、目も何もかもが恐ろしくて仕方ない。ガチガチと震えるサクラに興味を無くしたのか、再び九尾の人柱力であるナルトを殺そうとする。
「お願い。見逃して」
サクラが口を開く。一秒でもいい、大蛇丸から時間を稼ごう。それがサクラに出来る唯一の抵抗であり、意地だった。
「それはできない相談よ。黙ってなさい」
「ひっ」
再び金縛りの術を掛けられる。もう何もできない。ただ涙を流すしかないサクラ。だが、その涙は無意味ではない。彼女が命懸けで作り出した数秒こそが、逆転の切り札となったのだから。
「ありがとうサクラさん」
絶望の中、暗い未来を照らす一筋の光が、サクラの横に降り立った。現れたのは、ナルトのお姉さん。彼女は、サクラの緊張を解くように肩に優しく触れて微笑みかけてくれる。
その顔に緊張状態と金縛りの術から解放されたサクラは息を大きく吸い込む。
なぜ現れたのかわからない。けれど、サクラの稼いだ数秒がうずまきシャナという下忍最強の忍が駆けつける時間を稼いだことに変わりなかった。
「貴方が二人の班員でよかったってばね。怖かったってばね? もう大丈夫」
泣き始めてしまったサクラを胸で受け止めたシャナは、優しく宥める。サクラの小さな体を抱きしめ、背中を撫でる。だが、その青い写輪眼は敵対者として憎悪と殺意を大蛇丸に向けていた。
隙一つないシャナの威圧感に、大蛇丸は近付けない。
第一試験では、暢気に寝ており、第二試験開始時には、自分の力を誇示する子供っぽい面があるなど、才能に溺れた少女だと思っていた。だが、目の前にいるのは、歴戦の忍そのもの。
まごうことなき強者であると感じる。伝説の三忍と呼ばれた大蛇丸が迂闊に動けば殺されると感じるほどの相手。
「サスケ君が、ナルトが、何も出来なくて、私」
「サクラちゃんの勇気に二人は助けられたってばね。胸を張って。貴方は強い女の子だってばね。今からいう事を聞いて」
シャナの言葉をサクラは、真剣に聞いていた。サスケとナルトをあしらった相手が警戒している事から、サクラは初めてシャナの力を理解できた気がする。
「あいつは私が遠くに連れて行って相手するから、隠れてなさい」
「わかりました。でも、あいつは、ものすごく強いです。シャナさん一人じゃ」
「その点については、問題ないってばね。私の方が強いから」
シャナがそう言い切った段階で、サクラはナルトとサスケを避難させようとし、シャナは瞬身で大蛇丸に急接近。シャナの動きを観察していたはずなのに、反応出来ない速度によって顔面を鷲掴みにされ大蛇丸は、力づくでサクラ達から引き離される。
一瞬で大蛇丸を連れて居なくなったシャナを見たサクラは、急いで二人と隠れられる場所に移動を始めた。
――――――
「小娘が!」
顔面を掴まれていた大蛇丸が抵抗。シャナを振り払い、木の上に着地する。その姿を腕を組み見下ろす青い写輪眼。
「さて、やっと本題に入れるってばね」
(何この子。雰囲気が変わったわね。まるでイタチのような威圧感、いやそれ以上の)
肌で感じるシャナの力。過去に敗れたうちはイタチよりも強い威圧感を感じる。シャナの瞳力は、ナルトを殺されかけた事実によりさらに闇が深くなり強くなっていた。
「弟を殺そうとしたお前は、ここで殺す」
「あら、逆鱗に触れちゃったかしらね。一つ質問なのだけれど、あなた、四代目火影の娘よね?」
四代目火影の名を出されたシャナは、動きを止める。今はほとんどその事実を忘れられているシャナ。うちは一族にいた期間が長すぎて、波風シャナであった事実は、里の上層部以外から薄れていた。
そして、何故目の前の男がそれを知っているのか。
「何者?」
「私は大蛇丸」
その名に覚えがあったシャナ。そして、サスケとナルトは相手が悪かったなと再認識する。シャナのよく知るゲコ仙人、自来也と同じ伝説の三忍の一人が此奴なのだろう。
「そう。私は四代目の娘」
「まさか、うちはだったなんてね。貴方の噂は聞いているわ」
「それで?」
シャナの質問に答えながら、大蛇丸は下半身を蛇のように変化させ、木を這いながら高速で移動する。
「サスケ君が第一目標だったのだけれど、あなたのその目、ぜひ欲しいわ!」
首を伸ばして、シャナの首元にかみつこうとする大蛇丸。名に恥じない、術だなと感心するシャナだが。彼女の写輪眼は大蛇丸の動きを洞察している。
「忍法・針地蔵」
伝説の三忍である大蛇丸の攻撃に、シャナは同じ三忍である自来也の術を披露する。シャナの髪が伸び、チャクラによって硬質化し、鋭利な蓑となる。
髪で自分を包み込んだシャナの防御を前に動けなくなる大蛇丸。
「それは自来也の」
「ゲコ仙人の術は、口寄せ以外は盗んだってばね」
一年ほど前に、里外任務で自来也と出会ったシャナは、術を幾つか教えてもらっていた。この針地蔵もそうであった。
「乱獅子髪の術」
動きの止まった大蛇丸に、髪をチャクラで操り伸ばしたシャナが髪を触手の様にして攻撃を仕掛ける。その攻撃を回避するが、シャナがクナイを投擲、大蛇丸を捉える。
回避する方向を読まれていた大蛇丸は、ガードしたものの、腕にクナイを食らってしまう。
「火遁・龍炎放歌の術」
クナイを受け怯んだ大蛇丸相手に、龍の形をした炎を飛ばすシャナ。炎はシャナの意思で軌道を変え、森を駆ける彼を追尾する。
徐々に炎に追いつかれ始めたため、振り返って印を結ぼうとする大蛇丸。だが、背後にシャナが現れ、両腕を掴んで拘束してくる。そしてそのままシャナごと火炎の龍に飲み込まれる。炎に触れた瞬間にシャナは煙を上げて消え、影分身だったと悟るがもう遅い。
炎に完全に包まれた大蛇丸を観察していたシャナ。
「死んだふりはいい。早く掛かって来いってばね」
シャナの言葉通り、大蛇丸は業火で焼かれる体から脱皮するかのように自分の口から新しい自分の体を構成、自分の体だった肉体から這い出し、シャナへと飛び掛かる。その際に口を大きく開き、喉の奥から剣を取り出していた。
炎の中を突き進み奇襲攻撃を仕掛けた大蛇丸。その刃がシャナの胸を突き刺し、勝利を確信したとき。剣で串刺しにされたシャナが霞のように消える。
そこでようやく大蛇丸は自分が幻術にかけられたのだと悟る。
「粒遁・螺旋輪虞」
幻術を解いた時には、懐に忍び込んでいたシャナの必殺技が繰り出される。螺旋輪虞を受けた大蛇丸は、巨大な木に体を叩きつけられる。だが木に大蛇丸をめり込ませながらも螺旋輪虞の破壊力は止まらない。
「ぐぅううう」
「爆ぜろってばね」
シャナが指を弾くと、螺旋輪虞の輪っかの部分が衝撃波となり拡散。大蛇丸の体ごと巨木を輪切りにし、残った螺旋回転する粒子の塊が彼を飲み込もうとする。
「うぇえ」
「キモ」
上半身と下半身に分けられた大蛇丸は、再び口から自分の体を複製。ギリギリのタイミングで螺旋輪虞から逃れる。しかし、急場しのぎの脱皮だったのか、吐き出された大蛇丸は、取り繕う間もなく冷や汗を流している。
そしてそんな彼を吐き出した上半身は、螺旋輪虞の回転に巻き込まれる形で木っ端みじんの肉片となる。
「あなた、中忍試験なんか受けてる場合じゃないでしょうに。早く上忍なりになるべきだわ」
「飛び級?」
大蛇丸は、今本気で死に掛けたことでそんな言葉を口にする。油断していたのは事実。相手を試して、あわよくば、自分の新しい肉体の候補にするつもりだった。だが考えが甘かったのだ。
元々、大蛇丸の狙いは写輪眼だった。だが最初に手に入れようとしたうちはイタチには、敗北を喫した。育ち切ったうちは一族の恐ろしさと力を体感させられた彼は、まだ未熟なサスケを手に入れる計画を実行するために、木ノ葉に来たのだ。
第一の目的は成功した。だが欲を出し、もう一人生き残った、うちはの少女に挑んだのは間違いだった。
(この子は、私よりも確実に強い。それも、あのイタチ以上に)
忍術、幻術、体術の全てが高水準であり、その写輪眼は、イタチ以上のものを感じ取れた。ここで戦っても勝ち目はない。そう思わされた。
自分には手札がまだまだあるが、そのすべてを見透かされた気がしたのだ。
恐怖を感じてしまった。
(穢土転生を使えば、問題ないでしょうけど、ここで使うのは、リスキーすぎるわね)
二代目火影の禁術を使えば、シャナ相手でも戦える。だが、シャナを相手に切り札を使ってしまえば、元々の目的が達成できない。それに勝てる保証はない。
それはよろしくない。
大蛇丸は、光玉を地面に投げつけ、その光にシャナが少しだけ怯んだすきに、逃走を始める。
「うずまきシャナ。その名、胸に刻んでおくわ」
「逃がすか。手裏剣影分身の術」
地面に同化するようにして逃げる大蛇丸。弟を殺そうとした相手を逃がすまいと、手裏剣を投擲。それを影分身させる事で無数の手裏剣の雨にするが、ギリギリのところで間に合わず、地面に手裏剣の雨が突き刺さる。
向かってくると思っていたシャナは、逃げの一手を取った大蛇丸の行動に一瞬動作が遅れてしまった。
それが彼の敗走を許した原因となってしまった。
大蛇丸が逃げてしまい、後を追うかと考えていたが、トルネや八雲が合流してきた。
あの4人を相手にしていた二人だが、手傷などは負っておらず、無事な姿にシャナも安堵する。かなり厄介な能力持ちばかりだったのだが、事前知識を生かして戦ってくれたのだろう。
「シャナ無事? ナルト君たちは?」
「ギリギリセーフだってばね。本当に助かった。ありがとう」
二人が足止めをしていた4人の相手をしてくれなければ、危なかった。もう未来視が働かない事から、ナルトの命の危機は脱したとみていい。
「そういえば、二人とも無事だったってばね?」
「正直、特殊能力には驚かされたが、お前の事前情報のおかげで、対処できた」
「結構危ない場面もあったけど、トルネ君がめちゃくちゃ走り回ってたよ。速いのなんのって」
「おもりを外しただけだ」
八雲は、不意を打たれかけた際のトルネの高速移動を思い出す。いつもの倍以上の速さで木々を駆けていくトルネの動きに4人は最大限の警戒をし、近づかれなくなった事で八雲の幻術が最大限生かされた結果。
4人の刺客全員を撤退に追いやったという。追撃も考えたそうだが、シャナの様子が心配になり駆けつけてくれたらしい。
二人はシャナにナルト達と合流しなくていいのかと尋ねるが、シャナは首を横に振る。
「ここから先は自分の実力で生き残ってもらうってばね。さっきのは、イレギュラーが相手だったから助けただけ」
「徹底してるね」
「もし森で見つけたら、予定通り狩るってばね。」
非情にも思えるが、ナルトの意思を尊重するシャナの意志は固い。ナルトとサスケの両方が動けないのでは合格も難しい。だが、手を差し伸べる事はしない。差し伸べたところで掴まないのが、あの子達なのだから。
その後、シャナ達は、多くの脱落者を量産しながらも第二試験を突破したのだった。