八雲に誘われて二人で温泉街に旅行に来ていたシャナ。
一月もナルトに会えない悲しみでボロボロになっていたシャナの心も温泉で癒されていた。
「あのさ八雲」
「どうしたのシャナ」
温泉に浸かるシャナは、体を洗っている八雲に話しかける。
「ペアチケットだったのに、トルネ誘わないでよかったの?」
「何言ってるの!?」
突然の不意打ちに八雲がひどく動揺し洗面器を足に落としてしまい、悶絶していた。八雲の貰ってきたチケットは、温泉旅館のペアチケットであり、必然的に同室なのだ。それをシャナはトルネを誘わないでよかったのかと尋ねた。
もし誘っていれば、温泉旅館で年頃の男女が二人きりになってしまうではないか。
「当たり前でしょ!?」
「でもさ、映画で温泉旅行とか定番だってばね。いくら私でも、八雲がトルネのことを好きっているのはわかるってばね」
「だとしても、二人きりで旅館は段階飛ばしすぎでしょ!?」
「意気地なし~」
「怒るよ!?」
シャナに恋愛関係で揶揄われるのは、納得のいかない八雲。すぐさま体を洗い終え、湯船につかる。
「そういうシャナこそ、相変わらず恋の、この字もないよね」
八雲が反撃に出る。この恋愛感情三歳児に負ける事はプライドが許さない。
「好きっていうのが良く分かんないってばね。ある程度歳重ねたらわかるかと思ってたんだけどね」
「結構、色んな人にアプローチされてるじゃない。その中にはいい人いないの?」
シャナは確かにモテる。容姿は端麗だし、スタイルもいい。あまり女らしくない性格も異性からはある種の親しみを覚えるらしい。シャナが15歳になった頃合いから、告白を受けたことも一度や二度ではない。だけど丁重にお断りしている。
「シャナの理想のタイプって何なの? さすがにあるよね?」
「うーん」
シャナは思い浮かべる。強さの理想は父であるミナトだ。だが、異性として好きというのは、違う気もする。カッコいいとは思うし、シャナもミナトが大好きだ。けれど父のような相手を求むかと言われると分からない。
黙り込んで考えるシャナの様子を眺める八雲。数年前ならこんな会話は出来なかったと、お姉さん気分になる。
「強い人?」
「まさかの強さ基準? まぁシャナは強いから、そう思うのも当然かな」
守ってほしい願望でもあるのかなと考えるが、おそらく違う。互いに研鑽できるような相手が欲しいだけだろう。
「カッコいいに越したことないけど。信念がある人が良いってばね」
「お、シャナにしては大人っぽい回答だね」
「気に入らない性格なら、叩き直せばいいしね」
この子本気でやりそうだから怖いと八雲は思う。ある程度ビジョンが出来始めるが、シャナは漠然としたイメージしかわかない。
自分の将来というものに全くイメージがわかないシャナ。気になれば未来視を用いて未来が見られるが、そんな中でも幸せな未来なんてものは、思い浮かばない。
まだ15歳であることも理由だが、シャナは自分の将来についてイメージがない。どうなりたいという願望がないのだ。あるのは弟を守る事、九尾と仮面の男に対する復讐だけ。
「難しいこと考えたくないってばね」
「ごめんごめん」
脳が考える事を拒否する。シャナの疲れた表情を見て、八雲が謝る。そして、二人してゆっくりお湯に浸かっていると、突然シャナが呟く。
「そういえば、今さっきから、外で誰かが覗いてるってばね」
「そっか~。……え?」
「なんか視線を感じるんだってばね。あの柵の隙間から」
シャナが言う場所を見れば明らかにのぞきあなのようなものがある。そこから視線を感じながら、何故シャナは平然としているのだろうと八雲は怒る。
「そこまで分かってるなら、もっと早く言おうよ! 覗き犯が居るんだから!」
すぐにタオルで体を隠した八雲。八雲の声を聞いてほかの女性たちも悲鳴を上げる。そこまでしてようやくシャナは、覗き魔が悪い事だと知る。覗かれてる間も気にしていなかったが、この反応からするに捕まえるべきかと思い、飛び出した。
「シャナ、服!!」
八雲の制止を振り切りバスタオルを体に巻き付け、覗き犯を捕まえようと柵を飛び越え、突然襲い掛かったシャナに驚く覗き魔に蹴りをお見舞いしたシャナ。
「ぐぉおお」
シャナの蹴りを顔面に受けたのは、ふさふさの白髪をした大男であり、彼は隣にあった樽に突っ込み、悶絶していた。シャナは自分の蹴った相手が見たことのある人物で驚く。
「あれ、ゲコ仙人?」
シャナの一撃を受けたのは、ゲコ仙人こと、自来也であった。すぐに起き上がった彼は、「痛いのぉ」
と立ち上がり、タオル一枚姿のシャナを見て鼻血を流す。思いもよらぬサービスに興奮し始める彼。
「うへ、うへへ、ピチピチお姉さ、ん? あれ、お前さんシャナか」
「なんだなんだ? うぉ、女?」
「すげー恰好」
「いかーーん!!」
だが、相手がシャナだと理解した後は、青ざめ、騒ぎを聞きつけて集まり始めた温泉客たちの前に彼女の体が晒されるのを避けるため、立ち塞がる。自分の体でシャナを庇いながら民衆を散らそうとする。
「若い娘がなんて格好しとるんだシャナ!? 早く服を着んかぁ!?」
「なんで、私が怒られるんだってばね!?」
覗き犯のくせに、シャナの格好を注意する自来也。取材として女湯を覗いていたのは事実で、実際シャナ達と気付かずにはしゃいではいたが、孫娘のようなシャナ。その子の肌が衆目に晒されるのは、ドスケベの自来也にも容認できない。
羞恥心というものがないのかと呆れる自来也。納得がいかないシャナ。
だが、服を着こんだ八雲が旅館から飛び出し、タオル一枚姿のシャナが衆目に晒されている状況を見て、幻術を使って彼らの目をそらす。
「シャナ、服、着なさい」
「はい!」
本気のトーンで話す八雲の声に脊髄反射で答えるシャナ。これは怒らせたらまずいと知っているのだ。非常に素早い動きで服を着こんだシャナ。その姿を確認した八雲は、覗き魔である自来也を睨み付け、幻術で縛りあげる。
「ぬぉお。幻術かこれ」
幻術で地面から生えた蔓に縛られる自来也。
「あぁ八雲。この人、知り合いだってばね」
「この覗き犯が?」
「この人、覗き犯じゃないよ」
「そう、そうだのォ。ワシは覗きなんかしとらんぞ。なぁシャナ」
「どういう関係?」
覗き犯が知り合いだというシャナ。その言葉に嘘はなさそうであり、もしや誤解でもあったのかと八雲が考え始める。知り合いなのは二人を見れば間違いではないが、何か怪しい。八雲の質問に、シャナは少し考えた後説明を始めた。
「ゲコ仙人とは、よく一緒にお風呂に入った関係だってばね!」
「ダウト! よくも幼気な女の子を騙して、そんな酷いことを!?」
「シャナお前!? 他になかったのか」
シャナは何も間違ってない。自来也とはお風呂に入ることが多かった。2歳半の頃の話だが。とんでもない発言に八雲は憤慨。
誤解を招く発言をしたシャナに自来也も困惑する。今のは明らかにまずかった。
詰め寄られ、どういうことかと聞きだされるシャナは涙目になっていた。どうにか幻術破りで抜け出そうとしていた自来也。彼らの騒ぎを聞きつけ、ナルトが現れる。
「あ、やいやいやい! 見つけたぞエロ仙人! あれ、八雲の姉ちゃんに、シャナ姉ちゃん」
「蝦蟇仙人だって言っとるのに、お前ら姉弟はわざと間違っとらんか?」
ナルトまで合流した事で、混乱を極めた場。
―――――――
収拾がつかなくなるかと思われたが、少しづつシャナの説明が入る。シャナは、ナルトを抱きしめながら、平静を保つ。
「この人が伝説の三忍、自来也様なの? 本当に?」
「本当。ゲコ仙人と私は昔からの知り合いだってばね」
「姉ちゃん放してくれってばよ。このエロ仙人に修行つけてもらわなくちゃいけないんだから!」
ナルトが自来也を探していた理由は、自分の修行を見てくれる相手を自来也が倒してしまったからだという。一応実力者であることはわかるので、修行をつけろと押しかけていたらしい。そして半日もの間、追いかけまわし、今ようやく捕まえたのだという。
シャナが自分が教えてあげようかと尋ねるも、速攻で断られる。姉離れが早いと八雲に泣きつくシャナ。結局のところ、覗きをしていたのは事実なので、幻術ではなく本物の縄で拘束されている自来也を八雲は、訝しげな目で見つめる。
「それで、自来也様は、どうしたいんです?」
「もっとムチムチお姉さんと胸のときめくような出会いが」
「警務部隊に引き渡そうか」
八雲の決断は早い。流石に警務部隊に知り合いを突き出すのは嫌なシャナと修業を見てくれる相手が居なくなるのは困るナルトが止める。特にナルトの必死な説得に八雲が折れてくれた。強くなりたいという思いは誰よりも理解でき、修行の相手が欲しいというのも理解できた。
人格には問題ありそうだが、伝説の三忍である自来也の話は聞いた事のある八雲。
「自来也様」
「は、はい!」
八雲の声に自来也も素直に答える。八雲の怖さは、身に染みて知っており、この女子は怒らせてはいけないタイプだと本能的に察した。まず自来也ですらコントロールできないシャナを飼い馴らしている手腕を見ればわかる。
「真面目に、この子の修行を見てくださるのでしたら、覗きの件は水に流します」
「え」
「流石、八雲の姉ちゃん!」
ナルトがひどく嬉しそうにしている。シャナは姉としての株が奪われ、酷く困惑。一方、自来也は心底めんどくさそうな条件に眉を顰める。だが八雲が「何か?」と尋ねると「いいえ! 修行に付き合います」と降参する。
(このシャナの友達の子、おっかないのォ。綱手とは違った意味で殺されそうだ)
逆らわんに越したことはないと、自来也がナルトの修行を受け入れる運びとなった。肩を落としながら、ナルトと共に修行に向かう彼らを見送った八雲とシャナ。
「なるとぉ~、中忍試験なんか早く終わればいいのに」
「後、30日は終わらないよ」
ナルト不足が深刻なシャナを励ますように頭を撫でる八雲。しかし、彼女の元に一匹のハトが舞い降りる。それは八雲の家で飼っている伝書鳩だ。八雲はその鳩の足に巻かれた手紙を読み、顔が真っ青になっている。
「どうしよう、おじいちゃんが倒れたって知らせが」
「どうも何も、帰ってあげるってばね」
「でも」
「一緒に帰ろうか?」
家族が心配で温泉どころではないだろう。だから一緒に帰ろうかと尋ねるが、八雲はシャナには、残っていてほしいと告げる。せっかくの温泉だし、シャナも楽しんでいる最中なのだからと。
シャナは特に気にしなかったが、せっかくの提案なのでシャナだけでも長居させてもらうことにした。
2人部屋を一人で使うことになったシャナ。八雲は、荷物を持ってすでに温泉街を出ているが、ふと未来視が働いたことで、シャナは影分身の術を使う。
「八雲の護衛を頼むってばね」
「了解だってばね。安全確保したら消えるってばね」
影分身のシャナが八雲を追って旅立つ。
本格的に一人っきりになったシャナは、旅館の一室で大の字になって天井を見つめているのだった。