「え、クシナ今なんて!?」
「だから、赤ちゃんが出来たんだってばね」
「本当に?」
「本当に!」
家族が病院に担ぎ込まれたと聞いて病院に慌てて駆け込んできたミナト。無事なクシナとシャナの姿を見て一息ついた後、家に帰った彼に伝えられたのは、妻クシナの妊娠だった。感極まったミナトは、自分の妻を強く抱きしめ「ありがとうクシナ」と感謝を伝えた。
夫婦で抱き合っていると、ソファーで眠っていた長女が目を覚ます。目を覚ますなり、すぐにゴーグルを装着した彼女は、父と母の様子を見て首をかしげる。
「クシナ。シャナにも説明しないとね」
「わかってる。シャナ、こっち来て」
クシナは娘の手を取ると、自分のお腹へ誘導した。手をお腹に置かれたシャナは、首を傾げながら「お腹痛いの?」と聞く。それにクシナは首を横に振り、語りかけた。
「ここにはね、シャナの弟か妹がいるの」
「? 謎」
自分より年下を知らない少女の反応に、夫婦は新しい家族ができること、少女はお姉さんになることを教えられる。はじめは理解していなかったシャナも丁寧に説明され理解する。
「おねえさん。わたし、おねえさん?」
「そう。シャナお姉ちゃんだってばね!」
「わたし、お姉ちゃんになるってばね!」
初めてできる年下の家族。その存在に胸を高鳴らせるシャナ。いつ生まれるのか聞くも、まだまだ先だと知り少し落ち込む。
「なら、好き嫌いも無くさなきゃだってばね、納豆食べる?」
「そうか。朝寝坊も無くさなきゃね」
夫婦に自分の苦手な部分をつかれ「まだお姉さんじゃないってばね」と言い訳するシャナ。どうしても納豆は食べたくないし、どうしても朝は弱いのだ。
シャナはクシナのお腹に張り付いて、音が聞こえないか確かめる。
「赤ちゃん、あいたいってばね」
「そうだね。きっと赤ちゃんも会いたいと思ってるよ」
「産まれるまでに立派なお姉さんになってるといいってばね」
「納豆は嫌なんだってばね」
…………
クシナの妊娠発覚から数週間経ち、お腹の中の子供は、順調に育っていた。
今から赤ちゃんが出来ると一番喜んでいたシャナだったが、彼女は何日もベッドの上で泣き続けるような出来事があったのだ。
木ノ葉の里は戦争中で、戦争の任務に駆り出されたミナト班の面々。戦争は益々過激となり、うちはオビトと野原リンの両名が、任務中に命を落とした。
唯一帰ってきたのは、同じく任務でオビトと共に戦ったカカシ、彼の失った左目に移植された、彼の写輪眼のみだった。
「シャナ……オビトは、死んだ。戦死したんだ」
木ノ葉の里の門でオビトを待っていたシャナにカカシがそう告げた。ミナトは深刻そうな表情を崩さず、リンは涙を流し、クシナも口元を押さえ静かに泣いた。
「? またオビト兄ちゃん遅刻したんだってばね」
オビトの死を理解できなかったシャナは、初めのうちは戦死を「遅くなるんだってばね」と思っていた。だけど待てども待てども、大好きなお兄ちゃんは帰ってこなかった。ミナトの説明を受けても、決して信じようとしなかった。
何日も何日も、オビトが帰ってくると信じて里の出入り口で待っていた。けど帰ってこない。
強い雨の日、ゴーグル越しに青い写輪眼を使っているシャナだった。今日も里の門の外を眺め続けていた。
家から身重のクシナが傘を持って迎えに来る。動けないほどではないが、少しお腹も目立ってきた彼女は、オビトの死を認められないシャナに傘を手渡す。
「シャナ。今日は外に出ちゃダメって言ったってばね」
「…………だって、だって、私見たんだってばね! オビト兄ちゃんのみらい、いきてたってばね……しんでないんだもん……」
自分の能力で予めミナト班のメンバーの未来を見ていたシャナ。彼女は、いつも任務に出る彼らを写輪眼で見ていた。4人に危機が迫る未来が見えれば、駄々をこねてでも出発を遅らせたり、ミナトの荷物を増やすなりして最悪の事態だけは回避した。未来を見る事が出来るシャナは、父と彼の部下を守る役割を自分に課していたのだ。
にもかかわらず、オビトは死んだ。4人の未来を全て見るなんてシャナにはできなかった。けれど精度を落とし、数日後の表情だけを見ていたのだ。教えられたわけではない、波風シャナという生き物が持つ当たり前の使い方だった。
オビトは怒ってはいたが、生きていたのだ。なのに帰ってこない。
クシナが迎えに来た姿を見たシャナは、彼女の前で体に力が入らず倒れた。
雨のせいで酷い風邪を引いたシャナは、自宅のベッドで声が枯れるまで泣き続けていた。自分の目を信じられなくなった。そして、リンとカカシの悲惨な表情が写った未来を見ても信じられず、風邪で動けなかった為、情報を伝えられなかった。
その後、再び任務に出たカカシ達。
結果、野原リンは、霧隠れの里との戦闘中に、殉職した。
今度ばかりは、里で報告を受けたシャナもすぐに理解して、泣きながら「ごめんだってばね、ごめんだってばね」と野原リンの墓で号泣した。短い間に2人の大切な人を亡くしたシャナ。
片方は、悲劇を止めるため最善を尽くし、片方は自分を信じられなかったが故に。
未来を見て動いても、動かなくても、大切な人達を死なせてしまったという後悔が、幼いシャナに重くのしかかる。
ベッドの上で吐きそうになるほど泣き続けた少女の青い写輪眼は、その光を赤く変える。そして、僅かばかり写輪眼の文様が変化し、すぐに元通りになる。
その日からシャナは、未来視を使わなくなった。
娘の目が、通常の写輪眼になった事に気が付いた夫婦は、娘の不安要素が一つ消えたことに安堵するも、娘の可能性を潰してしまったのではと心配する。
だが、シャナは、泣き続けるのを止め、自分の意志で立ち上がった。
シャナが立ち直ったのは、ミナトが3次忍界大戦の功績を認められ、四代目火影へと就任した際だった。火影就任で忙しくなったミナトをサポートしていたクシナだったが、彼女も妊娠していたこともあって、少し無理をしていた。
疲れが出た母の体調が悪くなった時、シャナは母親を救いたい一心で、自分の新しい家族を絶対に守ると決め、自分から心の中にある暗い檻から飛び出した。
もう誰も失いたくなかった。オビトやリンは帰ってこない。だから残った家族を大切にしたかった。
立ち直ったシャナは、元来の優しい性格から、クシナのサポート(家事)を必死に行った。
そして自分も赤ちゃんを守れる忍者になろうと修行を再開した。アカデミーの入学年齢が、終戦で引き上げられたので3歳のシャナでは通えない。だから、クシナにチャクラの扱いを教えてもらっていたのだ。激しい運動はできないが、説明や指導くらいなら出来るからだ。
ミナトも火影の仕事で忙しくなった今、シャナの手伝いはクシナの大きな支えとなっていた。
クシナのお腹に手を当てたシャナは、オビトの形見のゴーグル越しに写輪眼でチャクラの流れを見ている。
ミナトとクシナは、シャナに話していなかったが、シャナはクシナの中に膨大なチャクラがあるのを見抜いていた。そのチャクラが悪さをしないか見張っていたのだ。このチャクラが暴れるとクシナが苦しんでいるからだ。チャクラを目で見られるシャナは、クシナにチャクラを流し、母の中で暴れようとするナニカを防いでいた。幸いクシナには赤ちゃんを労わっているとしか見られていなかった。
赤ちゃんに悪影響が出ないよう、クシナに無理させないのがシャナの一番の仕事だった。
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