NARUTO 先見の写輪眼   作:ドラギオン

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温泉街事件5

 力尽き、倒れそうになったトネリを受け止めたシャナ。

 既に解毒剤を手に入れていたこともあり、すぐにそれを飲ませようとしていた。

 

 だが、トネリが口を開かず、薬を飲んでくれない。それどころか吐血し、口から血を流している。

 

「トネリ、早く飲まないと死ぬってばね」

「……」

 

 もはや、口を開く力すらないのかもしれない。シャナは写輪眼でトネリの様子を確認したが、既に意識はなく、心臓の鼓動も弱まり、肺は機能を失いかけている。

 

 神経毒とチャクラを暴走させる毒の複合毒。その効果は恐ろしく、トネリの命を刻一刻と蝕んでいる。心音が小さくなっており、トネリに無理やり薬を飲ませようとするも、飲んでくれない。

 

「飲むんだってばね! トネリ」

 

 必死になるシャナだが、トネリの体温が徐々に下がっていく。こんなときどうすればいいか、そう考えたシャナは、自分で解毒薬を飲む。そして、トネリの唇に自分の唇を重ねた。

 

 これしか方法がなかったため、咄嗟に取った行動。そして、トネリに口移しで解毒薬を与える。そうしてようやく薬を飲み込めたトネリ。だがすぐに回復はしないのか量が足りないのか、目覚めない。

 

「死なせないってばね」

 

 口移しの際、口に入った血を拭いながら、シャナは再びトネリを救おうとする。

 再び薬を口に含み、口移しで飲ませていくシャナ。シャナの心が闇に飲み込まれた際、トネリのチャクラ球から与えられたのは、不意打ちを行う合図と彼の遺言だった。

 

『君とは昨日出会ったばかりだけど、君との時間は僕の人生にとってかけがえのない時間だったと思う。   

 もっと君と話をしたかった。

 この気持ちが何かわからないが、君が危ないと思った時、既に体が動いていたんだ。この男は僕の命をかけて連れていく。だから、安心してくれ。

 シャナ、君の未来に、月の光が共にあらんことを。』

 

 そう伝え、相打ち覚悟でジゲンに術を発動したトネリ。そんなメッセージを聞かされ、見捨てる選択肢が消えてしまったシャナ。なんて馬鹿な男だろうと思いつつも、彼の作戦を利用する形でジゲンに勝利した。

 男というものは意地っ張りだと知っているつもりだったが、死に際でまで格好をつけるとは思わなかった。

 だが格好つけたなら最後まで格好つけておけと思った。

 

 一日しか共に行動していないが、シャナは彼を認めていた。性格的には、紳士然として物腰が柔らかいが、人の気持ちの分からないトネリ。一方、自分の気持ちや考えを口に出すことを厭わないシャナ。お互いに会話しているうちに、トネリは自分とは全く違う考えを持つ女の子という存在を認識する。

 シャナも自分の話を真剣に聞いてくれ、質問してくるトネリをかわいいとすら思い始めていた。

 同い年の男の子と一日中過ごすという経験はシャナにはない。唯一仲のいい男子がトルネだが、トルネとは違ったタイプのトネリは、話しやすい。

 

 トルネの事が嫌いな訳ではない。良き仲間であり、良き理解者であるが、大人っぽいトルネといると、シャナは自分の子供っぽさが浮き出てくるのだ。それで叱られるのだ。八雲もどちらかというと姉さん位置であり、二人に叱られることも多い。

 

 けれど、トネリは何と言うか、自由にさせてくれる雰囲気が心地いい。無関心かと言えばそうではなく、意識は向けてくれるが、シャナのやりたいことを察してくれているのだろうか。わからなければ聞いてきて、それを素直に答えられるテンポがいいのだろうか。

 

 人間として、好意的に捉えられたトネリ。シャナは自分の好きなものや人は何があっても守る。

 

(死なないでくれってばね)

「ん、ん?」

 

 何度目かの口移しを行っていると、トネリが目を覚ました。少しづつ解毒薬が効いて行き、意識が覚醒したのだった。だが体中に力が入らず、シャナも彼が起きたことに気が付かずに口移しを行っていた。

 

 突然迫るシャナの潤んだ魅惑的な唇が自分の唇に当てられ、何が起きているのかわからなかったトネリ。だが口に感じる柔らかさやシャナの香りを意識すると、顔が真っ赤に燃え上がりそうになる。

 

「しゃ、しゃな!」

「あ、トネリ。目が覚めたってばね!」 

 

 自分が何をしているのか知ったトネリは顔を真っ赤にしながら「離れて」と告げる。トネリの解毒が間に合った事に喜んだシャナの抱擁を受けたトネリ。

 よかったと笑うシャナに対して、トネリは酷く困惑しており、事態の収束まで少しの時間を有したのだった。

 

―――――――

 

 トネリの蘇生から1時間後。シャナはトネリの体を支えながら温泉街に戻ろうとしていた。

 

「それで、あの子のお母さんは無事だったんだね?」

「うん。影分身が山小屋を探して、捕まってる人を見つけたの。後は、病院に赤ちゃんと一緒に送り届けたってばね」

 

やることはやったのだと胸を張るシャナ。

「君はすごいね。あと少しだけ離れて貰えると」

「なんで顔真っ赤なんだってばね」

 

それは君のせいだよと言いたかったトネリ。間違いなくトネリは、シャナを意識してしまった。特に最後の口移しは、決定打となった。

異性どころか人間すら父親以外ほとんど関わったことのないトネリに、シャナの口付けは刺激的すぎた。

 

自分にこんな一面があると思わなかったトネリは、酷くうろたえていた。

 

「本当にごめんね。人質にされた挙げ句、その、きみの、その」

「ハッキリ言うってばね」

 

この子は、やっぱり滅茶苦茶だと思いながら、トネリはシャナの耳元に口を近づけボソッと言葉を発した。

 

「え、チュー? え、わたしが? 私チューなんてした覚えが……あ」

 

トネリの言葉を聞いて、シャナが少し顔を赤くする。いくらシャナでもキスくらいは知っている。それを酷く恥ずかしく感じる程度の羞恥心もある。

あれは口移しであり、口付けではないと否定するシャナ。父と母のキスを見てしまい、母からキスは本当に好きな相手にだけしなさいと教えられたことを思い出した。

 

「ノーカンだってばね」

「そうだね。そうしよう……あ、シャナ。ごめん、どうやら父さんの部下に見つかったらしい」

 

シャナの照れる表情を見ていたトネリだったが、父親の差し向けた傀儡達の気配を感じ、シャナとのお別れが来たのだと察した。

 

「じゃ帰るのかってばね」

「うん。心配もさせてしまったしね。一度帰らなくてはいけない」

 

もっと話や術の修行をしたかったシャナ。だが彼が帰るというなら仕方ないのだろう。どこか遠いところから来たというトネリ。

次会うことは可能かもわからない。そんなシャナの顔を心眼で見て、トネリはシャナの手を取った。

 

「もし僕がまた、この地に訪れたとき、また会って貰えるかい?」

「うん。また会いたいってばね」

 

そんな質問をされたシャナは、鮮やかな月の光ようにはにかんだ。その姿を見たトネリは、彼女の顔を目で見てみたいという思いにかられ、片膝をついてシャナの手に口付けをした。

 

「なら、これを受け取ってほしい」

 

トネリに口付けをされた手を見て呆然と立ち尽くすシャナに、彼は懐から取り出した小さな勾玉のような宝石をあしらったブレスレットを着けた。

右手にブレスレットをもらったシャナは首をかしげる。

 

「それは、僕がこの地に降りる際に、光るんだ。すぐには無理かもしれないけれど、それが光ったら月に向けてほしい」

 

そうすれば僕はまた君に会えるからと告げたトネリ。再び会う約束を取り付けたトネリは、シャナから離れ、森にいるという家族の元へと帰った。

シャナは、月の光に反射するブレスレットを見ながら、「綺麗だってばね」と上機嫌に宿へと帰ったのだった。

 

また会える約束を信じて。

 

ーーーー

自分を迎えに来た傀儡達に囲まれたトネリ。

 

「あの地上人の記憶を消さなければなりません」

 

上級格の傀儡がトネリが地上にいた記憶を消すと進言するも、トネリはその手をつかんで止める。

 

「問題ない。彼女と約束をしたんだ。それを忘れられたくはない」

「なりません。大筒木一族の最後の直系であるあなたの情報は、地上人に」

 

あくまで命令の遂行を目指す傀儡をチャクラで吹き飛ばしたトネリ。

 

「今は気分が良いんだ。だから一度は許そう。だが二度目はない。彼女は、僕の大切な人だ。手を出すな」

 

その命令に逆らえない傀儡達は、本来の使命である記憶の消去を取り止め、トネリと共に月へと戻っていった。

 

(いつか、君を迎えに来られたらいいのに。まずは父さんの説得かな。必ず、また会おうシャナ)

 

月に住む大筒木一族のトネリは、月へと帰ったのだった。

 

ーーーーーーー

 

温泉街から遥か離れた他国の洞窟内で、息切れをした男が横たわっていた。

 

それはシャナとトネリが倒したジゲンという男そのもの。彼は生きていた。それも無傷で。

 

「心象転写の術。便利ではあるが、力が全く出せない。だからあの二人に遅れをとるのだ」

 

シャナ達と戦っていたのは、生け贄を用いて自分の姿と能力を転写する術で作られた体だった。

便利な術だが欠点も多く、チャクラの消費が激しい上に使用時間の制限、性能の低下など数多くある失敗忍術だった。

 

シャナとトネリは強かったが発展途上。全力のジゲンなら勝てていたはず。だが強すぎる縛りの中で敗北を喫した。

なによりあのシャナとか言う小娘の能力は厄介極まりなかった。

組織の長であるジゲンにタオルを渡し、赤ん坊はどうするのか尋ねる部下。

 

「もうあの赤ん坊は諦めた。元より適合率は低い。あのうちはの小娘が出てくるのでは、割に合わない」

 

心底シャナのことが嫌いになったジゲン。少なくとも全力を出せるまでは、近寄らないことを心に決めていた。

 

温泉街の事件は、これで幕を閉じたのだった。




温泉街事件終了です。トネリとシャナの甘酸っぱいスタートでした。シャナはまだ意識してないですが、気の合う異性としては認識されてますね。
次回はいよいよ中忍試験です。
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