トネリとの再会から一週間後。
シャナとトルネと八雲の三人は、砂隠れの里の国境にいた。海に面したそんな場所に彼らが居るのには理由があった。
里から重大な任務を受けていたからだ。
それも中忍昇格と同時に、中々にリスキーな任務を与えられていた。
その任務の内容は、木ノ葉と戦争後降伏した砂隠れの里と新たに同盟を結ぶにあたって木ノ葉からの要求を届ける任務。
「明らかに適任じゃないってばね」
要は使者として使わされていると言うことだ。そんな政治色の強い任務は嫌だと思ったシャナだが、事情があったのだ。
まだ木ノ葉の里は砂を信用しきれず、砂から持ち掛けられた対談への返答を持っていく使者に、何があっても帰ってこられるであろうシャナが選ばれてしまった。シャナは嫌がっているが、木ノ葉の英雄扱いされており、政治的にも、シャナを向かわせることで砂に対する威圧と同時に、アピールするのだ。
木ノ葉は現在も、英雄を使者に送れるほど国力を持っていると。
もし砂が裏切れば、シャナは砂で暴れて報復してこいと言われていた。木ノ葉の上層部のご意見番たちにそう指示されたシャナだが「却下」の一言で任務を放棄しようとした。
ご意見番たちは、その事に激怒し、自分の立場をわかっているのかと説教しようとしたが、シャナの写輪眼に睨まれ、言葉に詰まる。
だが、八雲とトルネがシャナを抑えながら、意見書を届けるだけでいいなら受けると宣言。無駄な争いを助長するような発言をしないでほしいと懇願。
「我々は、あなたたちご意見番が偉かろうが知った事ではない。ただ、シャナを牽制するような態度はやめていただきたい。貴方達が何もしてない間に、彼女は命をかけて戦っていたんだ。その功績は、皆に認められたものです」
里は、反抗的なシャナが英雄扱いされるのを望んでいない。だが裏付けされた経歴が、シャナを英雄にした。そのことが気にくわないのだろう。そう感じたトルネは、上層部に警告した。
強く反論したトルネの姿は、シャナ達からも意外だった。一番冷静で責任感の強い彼が、里の上層部に嚙みついたのだから。
その後、シャナ達の不遜で傲慢な態度に腹は立てていたが、ご意見番二人も他にも仕事があり、それを水に流した。
国境まで行けば、砂の使者が意見書を受け取る手はずになっている。だがすぐには帰れず、砂のメンツもあり何日かは、持て成しという名の滞在することになるという。だが、砂の国境に近づいた時、何か嫌な胸騒ぎを感じていた。
「トルネ君、シャナ、少し休憩したいかな」
「わかった。今日はかなり頑張ったな」
「二人のスタミナの半分でも欲しいよ」
「私もお腹空いたってばね。お鍋食べたい」
国境に向けて歩いていたシャナ達だが、連日の移動のせいで疲労がたまった八雲が早めにギブアップ。その願いを聞いて、二人も荷物を下ろして、休憩をとる事にした。焚火を起こし、食事も済ましてしまおうと3人で鍋を囲む。味付けと調理はシャナが担当し、即席ながらも納得のいく味が出せた。
食事を終え、見張りも兼ねて、2人が起きて残り一人が眠ることになる。くじでトルネが一番目に眠ることになり、シャナと八雲は見張り役となった。
トルネから離れた場所で二人で時間を潰していた。
「面白くない任務だってばね」
「今回は政治色強すぎだよね。私もなんか緊張してやだなって思う」
「でも、久々にトルネと任務だってばね。八雲さんはその点についてどう思ってるってばね?」
「どうとは?」
シャナからの質問の意図がわからない八雲。
「最近距離が出来てるから、一気に近づくチャンスではないかと」
「シャナからそんな、言葉が出たことに驚愕だよ。今日地震起きない?」
シャナに自分の恋愛の心配をされている八雲。まさかあのシャナがそんな話をしてくると思わず、感知に集中してトルネのチャクラを感じ取る。どうやら熟睡しているらしい。
「だって、ヤマトも言ってたってばね。あの二人もどかしいって」
「嘘嘘嘘! なんでヤマト隊長まで知ってるの?」
八雲がトルネを好きな事を知らない人間はいないだろう。シャナとしても早くくっ付いてくれないかなと思う程に。稀に三角関係などと言われ腹が立つのだ。トルネの本心はわからないが、彼は八雲を誰よりも大切にしているだろう。
シャナだって負けるつもりはないが、親友の愛を向けられているのは間違いなくトルネであり、彼はそれを受けるに値する人間だ。だが紳士的な彼は、適切過ぎる距離感を取る。それゆえに距離を詰められないのだ。
(キスでもすれば、丸く収まるんじゃない?)
シャナがそう心で思いながら実は口に出してしまう。それを聞いた八雲がバシバシと顔を真っ赤にしてシャナの肩を叩き始める。
「え、口に出してたってばね?」
「------!!」
バシバシと叩かれ続けるシャナ。だが、八雲は長年の親友であるシャナの心境の変化に、ある考えが浮かんだ。
「もしかしてさ、シャナ、最近キスした?」
「した」
「え、誰と?」
八雲が尋ねれば、シャナは前に話した青年だと素直に話した。親友が同じ相手とキスしたと聞き、シャナを問い詰める。だが、シャナは八雲と違い、恥ずかしいことをしたとは思っていない。キスは少し気恥ずかしいが、愛情表現だと知っているからだ。
父と母もよくしていた。
「じゃ、付き合うの? 彼氏彼女になるの? 結婚するの!?」
「飛躍し過ぎだってばね!」
シャナは何故か月で、トネリがくしゃみをしたことを感じた。シャナは自分の気持ちがナルトや八雲に向ける気持ちとは違うものを感じたと伝えた。それが恋であると考え、その感情に向き合うと口にしたシャナ。まだ進展はしていないが、嫌われてはいないはず。
だから今後どうなるかはわからないと告げるが、八雲は違った。
(絶対両想いだよ)
親友の恋は、いろいろと難しそうながらも、シャナはどんな困難も乗り越えるだろうと思った。自分も負けたくないなと思った八雲。物想いにふける八雲の頬を指で突いたシャナ。
「私は応援してるってばね、八雲の初恋」
「うぇーん、シャナが大人のお姉さんみたいだよ」
「お姉さんが相談に乗ってやるってばね」
「うぐ、……あのねシャナお姉さん、私ね」
同い年で、恋愛なんて一生しないと思ってたシャナの変化。その変化に追い抜かれてしまった八雲は複雑だったが、素直にうなずく。シャナの冗談に乗っかり、八雲も軽い気持ちで相談していく。
そんな会話をしていた時、シャナは遠くからの視線を感じ、振り返る。急に振り返ったシャナに八雲は何かあったと感知を始めるが、何も感知できない。
だが、シャナは、海の方角を凝視し、暗い夜の海の海面に浮かぶ、青の輝きを目視する。それは写輪眼でなければ見えない距離だったが、シャナはその青い光が目だと気が付いた。
何故なら、暗い海で輝く青い光と夜でも輝くシャナの青い写輪眼の輝きが同じだったからだ。そして、それは間違いなく青い写輪眼と青い写輪眼だった。
「八雲、トルネを起こして!」
妙なプレッシャーを感じ、シャナは粒遁・天翔でその光に接近する。八雲から離れ、海を駆け抜けたシャナだったのだが、突然、海に壁のようなものが現れ、シャナの量子化した躰が激突。一方的に弾かれたシャナは、海面に落下する。
どうにか着地できたが、シャナの写輪眼には結界のようなものを展開している人物が写った。水面の上にも結界を展開し、その上に立っていた。
「私と同じ眼をした奴が居たのね。ハイドが私の生まれ故郷かもしれないと言ってたけど、あながち間違いじゃないのかしらね」
右目は閉じられ左目に青い写輪眼を持ったシャナより年上の女性。年齢は20くらいだろうか。薄い黄色のショートボブで、衣服は異国の白銀の鎧のような姿だった。全く見たことのない系統で、文化圏の違いを感じる。顔立ちは、端麗だが表情に狂気が宿っており、閉じられた右目に火傷の跡があった。
そして、その胸と両手の甲に、凄まじい密度のチャクラを宿した鉱石を装着していた。
「貴方、この国の人かしら?」
「違う。お前は何者だ。何故、写輪眼を持っている」
「シャリンガン? 私の目の名前なのね。そう、なるほどね。ここが故郷なのかな」
顎に手を当てながら、何かを考えている女性。シャナは、相手の正体がわからず、警戒心を高めながら女の周囲を観察する。何重にも張り巡らされた結界忍術を展開しており、その一つがシャナの粒遁を防いだ。
「そうだ、自己紹介するわね。私の名はラビリンス」
名を名乗った瞬間、女が独特な印を結ぶ。そうすれば、無数の結界の柱が、海面から浮上してくる。それらがシャナに向かって襲い掛かってくる。シャナは、火遁の術で迎撃するが、炎はすべて結界で作られた柱によって寸断される。
仕方なく体捌きで避けていく。
「あれ、見えるの?」
女の使う結界忍術はすべて、目視できない。目視できるのは、写輪眼などの特殊な瞳術を持つ者だけであり、シャナがその技を回避しているのを見て、驚いていた。そんな人間は初めて見たからだ。見えない盾が見える相手がいることは想定外だが、女は瞬時に攻撃方法を変更。
点ではなく面として結界忍術を膨張。シャナは、高速で迫りくる結界の壁を避けられず、結界に激突。そのまま勢いよく吹き飛ばされる。
だが、瞬時に泡遁の膜を全身を守るように展開。全身をシャボン玉で覆うことで衝撃を無効化。距離を取ったことでシャナのターンとなり、粒遁・天輪を発射する。3発同時に発射された天輪だが、女の周囲に展開されている結界に阻まれ、弾かれてしまう。四角い結界の角度を変え、角の部分でシャナの粒子砲の威力を分散させる女。
さらに元々の結界の強度も高く、シャナは粒遁奥義・天羽々斬で一刀両断にしようと考えるが、あの術は時間が必要であり、その隙を探る。
「厄介ね。この国の兵士は。カミラたちにも教えてあげなくちゃ」
シャナの粒遁の光と、ラビリンスと名乗った女の使う結界忍術の打ち合いが始まる。結界を瞬時に柱状に展開し、それらを音速で飛ばす女性。シャナでなければ回避できない攻撃を次々仕掛けながら、ラビリンスもすばしっこいシャナを捕まえる手を考えていた。
そして、二人で粒子砲と結界の柱を打ち合っていたが、やがてシャナの動きが止まってしまう。
「体が、重い」
「中のものを押さえつける結界だから当然よ。」
凄まじい重力に動けないシャナは、女が発射していた結界の柱の意図を知る。攻撃ではなくシャナを閉じ込める新たな結界の支柱となっていたのだ。
身を守るのではなく中にいる人間を縛る結界。ここまで立て続けに結界忍術で戦う忍を見たことのないシャナ。むしろ、結界メインで戦える忍など皆無だろう。未知の敵であり、シャナやコダマと同じ青い写輪眼使い。
その正体を探る前に、動けないシャナの体が縮小を始めた結界に押しつぶされ始める。そして、シャナの体が煙に変わる。
シャナは火遁の段階で影分身と入れ替わり、水中を泳いでラビリンスに接近。結界ごと女を始末しようと至近距離で螺旋輪虞を発動。もう片方の手には結界を砕いたのちに、止めに使うチャクラ刀が構えられる。
「粒遁・螺旋、く」
「お姉さん、甘くはないんだよ?」
しかし、螺旋輪虞を発動するより早く、女の青い写輪眼が背後のシャナを捉える。その写輪眼は、文様がウロボロスのような自分の尾を飲み込む蛇のような万華鏡写輪眼だった。にっこり微笑まれたことで死を悟ったシャナは、今できる全力の防御である須佐能乎を展開。
その選択は正しかった。ラビリンスの体を守るように、巨大なチャクラで構成された巨人が現れる。それは間違いなく須佐能乎であり、女の展開するそれは、斧を持ち、牛のような角を生やした巨漢だった。
「須佐能乎だってばね?」
「そんな名前なのね」
須佐能乎同士の戦いとなり、斧をふり下ろしたラビリンスの橙色の須佐能乎。それを6本の腕で受け止めたシャナの須佐能乎。結果は、シャナの須佐能乎の腕が砕けるというパワー負けをしてついてしまった。すさまじいパワーを誇るシャナの須佐能乎を上回るシンプルな怪力。それがラビリンスの須佐能乎の個性なのだろう。
攻撃を受けるのではなく、弾くべきだったと後悔するシャナ。しかし、シャナの須佐能乎は形を保てず彼女の体が大海原に投げ出されてしまった。
そして海に沈んでいくシャナ。
「逃げられたわね。私と同じ力に目、興味深いわね」
海に逃げたシャナを眺め、しゃがみながら頬に手を置いているラビリンス。だが、ラビリンスは自分の展開する結界に突き刺さったシャナのダガーを見つけた。吹き飛ばされる寸前に、シャナが粒遁のチャクラを込めて投げたそれは、彼女を守る結界を何枚も貫いて突き刺さっていた。
ただでは転ばないシャナらしい攻撃に、ラビリンスは驚きながら刺さっていたダガーを手に取る。
「面白い武器ね。お姉さんあなたの事、気に入っちゃったわ。また会えるといいわね」
ラビリンスはシャナのやっていたチャクラの動きを真似して、ダガーにチャクラを流す。そうすればダガーの刃を覆うように結界の刃が形成される。その刃をうっとりと眺めながら、自分を最後まで睨んできた歯車のような文様の万華鏡写輪眼を思い出す。
その負けん気の強そうな顔は、必ず再戦を挑んでくるだろうと彼女に感じさせていた。