シャナとラビリンスの戦いは、死闘という他なかった。
高速で動き回るシャナに対して、結界の防御を固め砦のように万全の態勢で攻撃を仕掛けていくラビリンス。シャナの牽制に行う生半可な攻撃では結界に阻まれる。
かといって大技を披露しようにも、地面からはやしてくる結界の柱と結界を飛ばしてくる遠距離攻撃。さらに逃げ道を塞ぐように檻のように結界が展開され、戦い難いことこの上ない。
「そのダガー返せってばね!」
「え?」
シャナは、粒遁と瞬身の術を駆使してラビリンスを翻弄しながら叫んだ。何故かお気に入りの武器のようにシャナのチャクラ刀を持っているラビリンス。
それは自分のものだから返せと叫ぶ。戦闘中に子供みたいなことを言うシャナにラビリンスはきょとんとする。
「いやよ。お姉さんこれ気に入っちゃったんだもの」
「大人しく返せば、命だけは助けてやるってばね」
会話しながらも無数の結界柱を地面に展開、シャナの命を摘み取ろうと的確な攻撃をしていく。シャナの動きは素早いが、写輪眼を持つラビリンスには、スローに見えてしまう。それでも仕留めきれないのは、シャナも写輪眼を持ち、ラビリンスの術を洞察できているからだ。
互いに術と速度で命を取り合ってるが進展がない。シャナは、火遁や粒遁・天輪での攻撃も仕掛けるが、結界に阻まれる。
一方で万全の防御態勢のラビリンスも遠隔攻撃では、シャナを捕まえきれない。詰将棋のように追い詰めていくはずなのに、最初の一手で射程圏外に逃げられる。感が良いにしても程がある。
(もしかしてだけれど、この子も何かが見えているのかしら。私の糸と同じような何かが)
シャナが未来を見えるように、ラビリンスにも人には見えないものが見えている。それは糸だった。人と人、物と物、何かと何かの繋がりを糸のようなビジョンで視認できるというものだ。それは確かな繋がりであり、簡単に切れる事のないではない。特に思い入れのある品物であれば、その執着が糸の強さと強度に影響を及ぼす。
僅かな物からでも相手につながる繋がりを辿れば大元にたどり着けるというもの。戦闘には役に立たないが、何かを探すことに於いて彼女より優れた人間はいないだろう。
そして、彼女にしかない能力は、まだあった。
「命は助けてやるって、お姉さんより弱いあなたが言うセリフじゃないわ」
「嘘!」
そう言いながら、距離を取って戦っているシャナの心臓と自分の持つダガーに伝う糸を、手繰り寄せた。すると、シャナの体が凄まじい力で引き寄せられる。シャナの写輪眼でも一切感知できない引き寄せにより、距離を強制的に縮められる。抗えない引力によって、砦と化したラビリンスの結界に引き込まれる。
何か術を使われた訳でもない。なのに引き寄せられる状況に、理解が追いつかないシャナ。
「粒遁・大玉螺旋輪虞!!」
引き寄せられる力に抗うことはできない。なら利用してやるまでと、シャナは引き寄せられた勢いを利用して加速。右手に通常の3倍はある巨大な螺旋輪虞を構成し、ラビリンスの結界を打ち砕こうとする。
(機転が早いわね。この子、本当に油断ならないわ)
ラビリンスが10枚にも及ぶ結界を展開し、防御態勢を取るが、シャナの繰り出した粒遁・大玉螺旋輪虞がその守りを次々に粉砕していく。あっという間に残り一枚となった結界。
「終わりだってばね!」
最後の結界が砕け散り、無防備なラビリンスの体に巨大な螺旋輪虞が触れそうになる。勝利を確信したシャナだが、その青い写輪眼は、突然未来を映し出した。シャナの意志にかかわらない本当の緊急時に発動する未来視。それが写したのは、シャナの右腕が肩から切断され、次の瞬間に首が体と泣き別れする未来。
突っ込み切る直前で制止したシャナ。するとシャナの右手にあった大玉螺旋輪虞が切断され真っ二つになる。
「あれ、なんで、躱せたのかしら?」
(こいつ、遠距離タイプじゃない。ガチガチの接近戦タイプ)
シャナはラビリンスの実力を読み違えていた。結界を用いた防御と遠距離攻撃主体の相手かと思っていたが、シャナのダガーを用いて作ったチャクラ刀を振るい、シャナごと螺旋輪虞を一刀両断仕掛けた腕から推察するに、近接タイプだと判断した。
相手の戦闘スタイルから勝手に接近戦は苦手だと思い込んでいたシャナは、自分の頬が切られていることに気が付く。
シャナが攻撃をかわしたことに違和感を覚えたラビリンスは、結界と同じ性質の刃を構えながらサーベルの構えを取る。
ラビリンスに対抗してチャクラ刀を構えるシャナ。だが、剣を構えたラビリンスに隙が見つからない。下手に動けば、剣術では圧倒的に劣っているシャナでは勝てない。たったの一振りを見ただけだが、剣術という分野において、ラビリンスを超える存在はいない。そう思わされるほど、惚れ惚れする腕前だった。自分に振るわれたのに、つい眺めたくなるような太刀筋だった。
「貴方お名前は?」
「……シャナ」
「シャナか。お姉さんこれから本気出そうと思うんだけど、色々話したい事、あるわよね?」
自分が本気を出せばシャナが死んでしまう。だから、今のうちに話を済ませておこうという提案。酷く舐められたものだと憤るが、ラビリンスは、シャナが戦った中で上位に位置する実力者。実際殺される未来もあり、彼女の言葉は自惚れではない。
そして、ラビリンスも自分と同じ青い写輪眼を持つシャナに興味があるのだろうか。
「参考までに聞きたいのだけれど私達、姉妹って訳じゃないわよね?」
「さぁ。知らないってばね」
顔は似ていない。同じなのは青い写輪眼だけ。シャナ自身自分のルーツを知らない。気が付けばあの忌々しい場所で虐げられていたのだから。ラビリンスも自分の過去を知らない一人だった。物心ついたころには、海を渡った先にある大陸で生きていた。
幼少から、繋がりの糸が見えたラビリンスは、その能力で自分の家族を探したことがある。だが糸は、細く掠れており、海を渡っていたため見つけられなかった。
だがこの数年の間に、自分から伸びた4本の糸に気が付いた。戦争の絶えない大陸の生活に辟易としていたラビリンスは、理想郷を築くというハイドの思想に賛同し、莫大なエネルギーを秘めた鉱石、ゲレルの石の鉱脈を大陸を渡りながら探していた。
そんな中で、3人ほど青い写輪眼を持つ少女と出会った。
一人は、白い長髪にバンダナを巻いた大柄な老人と赤毛の少女と旅をする車椅子に乗せられた幼い少女。全身を包帯で覆われ、僅かに覗くその青い写輪眼には、深い絶望の色があったのが印象的だった。そしてその身に何かどす黒い物の怪を宿していた。あの時は戦闘にならず、正直ほっとしていた。得体のしれない力を持つ子の名前はリトラと呼ばれていた。
一人は、傭兵稼業に勤しむシャナと同い年くらいのマント姿の女性だろう。なんと表現するべきか、まさに百獣の王だった。国家を跨いで手配されるほどの戦闘狂で、生きる事が戦う事というような奴だった。心底戦いを楽しみ、自由に生きている印象だった。
自分の力を試すためなら、国家にも喧嘩を売るような奴だった。名前は、グライア。こいつとの死闘でシャナが須佐能乎と呼ぶ能力に目覚めた。
一人は、なんというかアホの子だった。黒髪のツインテールを翼にして音速で飛行する少女。名前はコダマ。突然移動要塞に突撃したあの子は、大海の中心で方向がわからない、迷子になったと泣き喚きながら、警備兵を蹴散らして、移動要塞の一隻を沈めた。こちらとしても防戦だったのだが、敵対行為に対して敏感なのか、ラビリンスが追い払わなければ、計画が頓挫していた可能性もある。
自分と同じ目を持つラビリンスを見て、妙に懐かれたのが印象的だった。ハイドが組織に引き入れようとしたが、彼の目を見るなり「おじさん、性格悪いね。それに戦争を無くすのに必要なのは理想郷じゃないんだよ。世界に与える痛みだよ」と語りながら、どこかへ飛んで行った。
そして残った一人が、シャナだ。全員と出会ったラビリンスは、何かの繋がりを感じていた。