少し生活に余裕が出たので投稿です。
隠れている事に感づかれたトルネは、こちらから打って出るかと思案していた。だが相手側の戦力からして、全滅させることはできない。よくて一人だけを葬れると言ったところか。
(さて、どうする)
一歩一歩近づいてくる女。すでに戦闘態勢で、顔が犬のように変形していた。変化の術とは違う肉体変化のようなもので、昔戦ったコダマも似たようなことをやっていた。
絶体絶命かと思われた時、青い光が彼の眼前を通り過ぎた。そして、光は仲間との再会で油断していたテムジンを吹き飛ばすと真っすぐにラビリンスへと飛んだ。
「しつこいわね貴方」
「お前を殺して、私の宝物を返してもらうってばね」
青い光を結界で受け止めたラビリンスは光の正体である少女を青い写輪眼で睨む。同じく青い写輪眼を持つうずまきシャナもラビリンスを睨み付ける。何度か交戦している二人だが、決着らしい決着はついていない。執拗に追跡を続けるシャナにラビリンスもいい加減、堪忍袋の緒が切れそうだった。
シャナも自分の忍具を奪ったラビリンスを逃すつもりはない。そしてなにより、最強である自分に、本能的に勝てないと思わせた屈辱を晴らさなければいけない。
互いにチャクラ刀を構え、火花を散らし始める。突然の戦闘開始に反応の遅れたフガイ。彼女はラビリンスの助太刀をしようと、駆け出す。
(感謝するシャナ)
その隙を逃すトルネではない。脇腹を庇いながらも飛び出し、豪快な回し蹴りを叩き込んだ。
「くそっ」
忍犬並みの嗅覚でトルネの接近を察知したフガイは、直撃する寸前にガードするが、トルネの一撃で岸壁に叩きつけられてしまう。瓦礫に埋もれたフガイを見たラビリンスは、青い光となって連続攻撃を仕掛けてくるシャナを剣術で捌きながら、得意の結界を足元に展開。
空中に階段を作り、距離を取ろうとする。シャナが追いついてきたと言うことは、すぐに彼女の仲間も合流するだろう。
そうなれば、戦況は一気に不利になる。ようやく再会できた弟分であるテムジンの身柄の回収は難しい。彼はシャナによって意識を奪われ動けない。
シャナの写輪眼はラビリンスの一挙一動を正確に観察している。ラビリンスの意識がテムジンに向けば、人質に取られかねない。
(青い写輪眼を持つ女は、何でこうも厄介なのかしらね)
「フガイ!! 引くわよ!」
奥歯を噛みしめながら、撤退を選ぶラビリンス。ハイドの言う理想郷、その目的のために流された血は計り知れない。だが、ようやく悲願が叶おうとしている。
ラビリンスの声に応えるように、谷中に響くような爆音で狼が吠えた。瓦礫を蹴散らし、中から、狼人間が姿を現す。そのあまりの音にトルネとシャナは耳を塞ぐしかない。
その隙に、ラビリンスの作った結界による階段をフガイが駆け上がってくる。その顔は人間に戻っており、ラビリンスの撤退に不服といった表情である。
「なぜ逃げるんだい! 目的の場所はもすぐそこだっていうのに」
「だからよ。今は、慎重すぎて損はないわ。ようやく悲願が叶うのよ。取りこぼしてしまった、あの子たちの為にも……、必ず成就させる」
撤退を開始したラビリンスとフガイ。ラビリンスは谷に置き去りにしてしまったテムジンの姿を見つめながら、どうか無事でいてと願う他なかった。
そして、思い出すのは、剣を取った時の記憶と誓い。
―――――――――
数年前に、忍文化のない大陸で拾われ育てられたラビリンス。傍には、何時も子供たちが居た。年下の面倒をよく見た彼女に懐いた子供達は多く、平和に暮らしていた。その中にはテムジンや彼の友達もおり、彼女は、村の子供たち全員を家族のように愛していた。
だが、理不尽な暴力というものは突然牙をむく。野盗によって平和だった村は、壊滅させられた。その襲撃は酷いもので、女子供問わず皆殺しにされた。助けられるだけ助けようとしたラビリンスだが、戦う力の無かったラビリンスに救える命などなかったに等しい。
目の前で子供たちの命が奪われ、自身も片目を奪われ殺されかけた。だが、ラビリンスには、うちはの血が流れており、大切な家族の死は、彼女の力を開花させるに十分だった。
激情のままに力を振るい、テムジンたちだけでも救う事が出来た。だが、少女の身に突然湧き起こった力の代償は重い。瀕死の重傷を負ったラビリンスは、ただテムジンたちだけでも救えたことに満足だった。だが、テムジンたちや彼女を救い出した男が居た。
それがハイドという男だった。彼は孤児となった3人を拾い、傷の治療や衣食住を与えてくれた。他にも孤児がおり、彼はそんな身寄りのない子供たちを引き取り育てていた。
そして、自らの理想を語り、戦争による不幸を無くしたいという願いに力を貸してくれと頭を下げた。テムジンたちは、その理想に共感し、手を貸した。
一方、怪我と須佐能乎の後遺症により自分で立つことも出来なくなり、衰弱していたラビリンス。彼女は自分の命が長くないことを悟っていた。
そんな彼女の病室にハイドは訪れた。ハイドは、ラビリンスの弱り果てた手を掴むと、語りかけてきた。
「どうか、あなたの素晴らしい力を、私に貸してはくれませんか?」
人格者だと知っているのに、男の目に底知れない恐怖を抱いたラビリンスだったが、彼の目的は素晴らしいものだと理解できた。もし自分が健康であれば、手伝いたかったと伝えた。
だが寿命が短いゆえに、何もできないと伝える。自分に出来る事は、大切な家族(村の生き残りである二人)を彼に託すことだけだと。だが彼は、ゲレルの石に適合すれば、治ると伝えてきた。そのためには、苦痛に耐えねばならないが、自分の力でテムジンたちを守れると伝えられた。
大切なものを守るため、なによりも戦争による犠牲者を増やさないため、ラビリンスは兵器となる覚悟を決めた。
ゲレルの石は、彼女の失われた右目に埋め込まれ、完全に適合。テムジンと同じく、体の変質もなく力を純粋なエネルギーとして使用できた。その効果は覿面で風前の灯火だったラビリンスの命は、再び強く燃え上がった。
傷も完治し、暇があれば戦闘能力を磨き続けた。ラビリンスの中に宿る血筋が結界術を発現させ、天より授かった剣の才能も合わさり、天下無双となった。
だがいくら強くとも、ラビリンスに守れるものには限界がある。守ろうとしても、戦った孤児たちを救うことはできなかった。彼女に出来る事は、彼らの身を案じ、可能な限り戦うのみ。
何度泣いただろうか。理想郷を求め散っていった命に対して、彼女は陰で涙を流した。そして、自分たちの行いによって散らしてしまった命に対する罪悪感も彼女を襲う。
だが、託された願いと背負うべき贖罪が彼女を突き動かした。理想郷に至る。ゲレルの鉱脈を見つけ、その力でもって争いを無くす。究極の世界平和こそが、彼女の目的となった。
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ラビリンスたちが去った後、襲われたキャラバンに八雲が合流した。無事だったトルネを見つけた八雲は感極まり、トルネに抱き着き大泣きしてしまった。トルネは肋骨の痛みに耐えながら受け入れた。そして何度も無事だと念押しし、彼女をなだめる事になった。
そして、泣き止んだ八雲と、テムジンを縛り上げ、キャラバンにいた幼子をあやしていたシャナを傍目に、トルネは意外な人物と向き合うことになった。
「まさか此処でお前と会うとはな」
トルネの前にいる人物は、顔を包帯で包み、蓑を纏った忍。
「覚えていてもらえて光栄です。今は音ではなく、砂の忍ですがね」
トルネの前にいたのは、中忍試験で会った音隠れの下忍の一人。腕に装着したスピーカーを使った音使い、ドス・キヌタだった。だが彼の言葉通り額当ては、砂隠れのものだった。彼こそが砂から我愛羅の代わりに派遣された忍。
「話せば長くなりますが、僕は、シャナさんに命を何度も救われた。だから、個人的に貴方達に協力を申し出たのです」
シャナによって大蛇丸の魔の手から命を救われたドス。路頭に迷った彼だったが、大蛇丸への復讐とシャナに対する恩義から、あえて砂隠れへと亡命した。大蛇丸の情報や自らの命を糧に、砂に足を踏み入れ、報復を込めた酷い拷問にも耐えた。
そして、一切の自由と命を砂に預ける事で、どうにか受け入れてもらえた。そんな彼の初任務が、あろうことか恩人であるシャナの応援人員だったのだ。彼はトルネの捜索を手伝うために、馳せ参じたのだった。
今も全身に刻まれた呪印によって、何時でも命を奪われる状況下だが、恩返しと功績を立て、砂の忍と認めてもらうためには好条件だった。そして彼は並外れた聴覚によって、トルネを探し出したのだという。
そんな彼の身の上話を聞き、警戒しながらも協力者を得られた第四班の一行。
彼らは気絶したテムジンが目覚めたのち、キャラバンのリーダーである老人から改めてゲレルの石に対する話を聞かされるのだった。