テムジンが老人を誘拐、そして場所を聞き出したゲレルの鉱脈の在り処。
そこにたどり着いた時、彼はようやく悲願が成就するという喜びよりも、トルネの言葉が頭の片隅から離れなかった。
(俺は間違っていない。ハイド様なら、破壊の力を平和の力へ変えてくれる。……なのに)
これまで犠牲にしてきた仲間たちの顔が頭に浮かび上がる。彼らの死を無駄にしないために今日ここまで来たというのに、正しい事なのかわからなくなった。
テムジンは自分の不甲斐なさに苛立ちながらも、ゲレルの鉱脈が封印された古代遺跡へ足を踏み入れる。時代を重ねながらも繁栄の名残を感じさせる遺跡。その奥へ進み、ようやく何かの施設らしい広場にたどり着いた。
足場に古代文字が刻まれた広場で、ハイドの到着を待っていると、何者かの気配を感じて振り返るテムジン。
背後を見ればクナイを持ったトルネが存在していた。彼はそのクナイをテムジンの首に向け、ただ静かに「投降しろ」と告げた。
投降などしてたまるかと剣を構えようとしたテムジンだったが、トルネの回し蹴りを受けて地面に横たわる。
剣を取り落とし、ここまでかと思われた時、遺跡の壁を突き破り巨大な移動要塞が姿を現す。
その正体は、テムジンの仲間だ。警戒し距離を取ったトルネ。
そして、移動要塞のハッチが開き、中からラビリンスと狼人間のフガイ、そしてハイドが姿を現した。ハイドの姿を目にしたテムジンは跪く。
「ハイド様、ゲレルの鉱脈はこの下です」
「よくやってくれましたテムジン。おかげで理想郷はもう目の前です。では、皆さん参りましょう」
ゲレルの鉱脈に進もうとしたハイドに対して、火炎弾が飛来する。奇襲ではあったが、その炎は、ラビリンスの張った結界に阻まれる。そして、火炎を発射したのはシャナであり、敵意剝き出しの目をハイドやラビリンスに向ける。
「おやおや、随分と失礼なご挨拶ですね。たしか、シャナさんでしたか? 話は聞いていますよ」
「私も話は聞いてたけど、こんな胡散臭いおっさんだったとは思わなかったってばね」
「いい加減しつこいわねシャナ。ハイド、この子は私が相手するから、先に行って頂戴」
ラビリンスもシャナとの因縁に決着をつけたいのか、一番厄介な奴の相手を買って出る。シャナも望むところといった様子で「待ってたってばね」と受けて立つ。
ラビリンスが戦うのなら心配はいらない。そう考えたハイドだったが、突然トルネに呼び止められる。
「貴様に問いたい。ゲレルの石を手に入れて何をするつもりだ」
「何って、テムジンから聞いていませんか? 理想郷を作るんですよ。争いのない弱いものが虐げられない世界をね」
そう答えるハイド。だがトルネはその男の目を見て確信に至った。
「その割には、やっていることが真逆に見えるが? 無抵抗な村やキャラバンを襲いながら、よく言えたものだな」
「仕方ないのです。全ては真の正義を成すための布石です。私たちも此処に来るまでに、多くの犠牲を払いました。全ては、争いのない理想郷を作るための尊い犠牲なのです」
トルネは反吐が出そうだった。この目の前にいる理想を語る醜悪な男に。
「尊い犠牲か。お前を慕い、募った子供達を、そんな言葉で片づけるのか」
「わからない人ですね。何かを成し遂げるというのはそういうことです。理想郷を作ることは、私たち仲間の共通の夢なのですから。そのためには多少の犠牲は、仕方ないの、でグゥ」
そう断言したハイド。彼にトルネは飛び掛かっていた。第四班で一番大人しい筈のトルネの突然の行動。隠れ潜んでいた八雲やラビリンスと向かい合うシャナですら驚かされた。そして、強烈な一撃がハイドの顔面を捉え、彼を床まで殴り飛ばした。
「ハイド様!!」
テムジンがハイドの駆け寄ろうとした時、ハイドから謎のエネルギーが発生。ハイドを殴りつけたトルネを吹き飛ばし、壁に叩きつける。
「やってくれますねぇ」
起き上がったハイドは、口元の血を拭いながらトルネを睨み付ける。一方壁に叩きつけられたトルネも起き上がり、ハイドに敵意を露にする。
「お前の言葉全てが薄汚れているな。綺麗な言葉で繕わなければ、お前の本性が露になるのか? ならば大したものだ」
「随分と好き勝手言ってくれますね」
「仲間とは、共に進むもの。それぞれが違い、それぞれが別の道を歩もうとも、決して切れぬ繋がりだ。お前のように切り捨てる事しか考えない仲間など、仲間じゃない。少なくとも俺の仲間を、俺は決して切り捨てたりはしない」
感情的になるトルネ。子供の頃、その毒蟲の影響で孤独の中にいた。だが、ある日仲間が出来た。そして仲間と歩み仲間を守るために強くなった。自分の力を頼りにしてくれる仲間、自分を必要としてくれた仲間、そして同じようにトルネは第四班の仲間たちを家族だと思っている。
だから許せないのだ。目の前の男が。守るべき仲間を踏みつけ、それを当然のように語る男が。
ハイドとトルネが向き合っていると、自由になっていた老人が足元の装置を起動。遺跡が動き始める。
「何をした」
テムジンが隣にいる老人を問いただせば、老人は深刻な表情で「石を消滅させる。あんなものは存在していかん」と告げると、彼らが居た場所のみ、エレベーターのように地中深くへと降下し始めた。彼らが降下すると直ぐに巨大な蓋のようなものが現れ、進路を塞いだ。
「石を消滅させる? そんな方法何処にも」
ハイドは、老人の言葉を聞き、持っていたゲレルの書を開くが、そんな記述はない。怒りを露にしながら、降下した老人たちを追い、巨大な蓋を素手で粉砕した。そして宙を浮きながら、降下を始めた。
「ハイド様!?」
残されたフガイという女が要塞で向かうべきだと告げるが「間に合いません。露払いを頼みました」とハイドが告げる。そして、彼の指示を聞いたフガイは、鎧兵士たちにトルネの排除を命じる。
そして、天井を突然見上げ、狼人間へと変身するフガイ。
「私は、こそこそ隠れてるやつをやろうかね!!」
彼女の鼻はすでに、隠れている八雲とドスの二人を見つけていた。そして、巨大な咆哮を上げると、その音でもって壁を破壊した。
「ばれてたの!?」
「一先ず距離を取りましょう。貴方の幻術もこう距離が遠くちゃ効果が薄い筈です」
ドスの判断に従い、追跡してくるフガイから逃げる二人。一方、残されたトルネに襲い掛かる鎧兵士たち。だが、頭に血が上っているトルネは、上着を脱ぎ去り、その鍛え上げられた肉体を露にしながら、剛拳にて一撃で粉砕していく。
そして、地中奥深くへ向かった老人、テムジン、ハイドを追って壁を蹴りながら追跡する。
―――――――――
狼人間であるフガイは、匂いで決して相手を逃がしはしない。徐々に距離を詰めていく。もとより持久力に難のある八雲が疲れから移動速度が落ちる。その様子を見ていたドスが迎え撃つ判断を下す。音で相手を察知するドスも正確にフガイの位置を把握している。このままでは逃げ切れないと考え、どうにか迎撃しようと話す。
その提案に八雲も賛成を示した。八雲一人が見通しのいい場所に陣取る。
「おや置いて行かれたのかい。可哀そうに」
「可哀そう? 私が?」
八雲を舐めているフガイ。実際、八雲からは強者特有の匂いは感じられない。血の匂いがしないのだ。一ひねりで首を引き裂いてやろうと襲い掛かったフガイ。だがその爪は、突如硬質化した八雲の肌に弾かれる。
金属のような固さになっている八雲の肌は、鋼遁によって齎された防御力を持っている。すぐさま、幻術を発動しようとした八雲だが、フガイが野生の勘から大きく距離を取る。
「え」
(こいつ、何かヤバい。まぁいい、私の咆哮で吹き飛ばしてやる)
幻術に失敗した八雲。身構える彼女だが、爪が通じない八雲に接近戦をする気のないフガイ。息を大きく吸い込み、破壊力のある咆哮を放った。
このままでは、フガイの咆哮が硬質化したとはいえ体重の軽い八雲のことなど吹き飛ばしてしまうだろう。だが八雲の手にあった指輪の2つはすでに外されていた。
それは、フガイが八雲に急接近した際に外されたもの。
「待ってましたよ。お手柄ですよ八雲さん」
突然、何もない位置からドスキヌタが姿を現す。フガイの鼻では、はるか遠くに逃げていた彼が急に目の前に現れた。その事実に驚きながらも、必殺の咆哮の射線上に立っているドスごと八雲を吹き飛ばしてしまえばいいと、フガイは安心した。
フガイの必殺の咆哮を、中忍試験の時より巨大化した籠手で受け止めたドス。彼は片手で印を結びながらフガイの咆哮を吸収していく。
そして、フガイの咆哮が止むまで吸収し続け、彼女が息切れしている様子を愉快そうに見ていた。
「君の技が音でよかった。音であれば僕が最大活用できるからね」
フガイは、状況が理解できず枯れた声で尋ねる。八雲には聞こえないがドスの耳ならはっきり聞き取れた。
「八雲さんの幻術で、僕の姿と匂いを、君の五感から隠してもらったのさ。音に関しては僕は自分で消す事が出来るからね、君に気付かれずに接近しただけだ」
八雲が任されたのは、防御とドスの隠蔽。音で相手の行動を把握できるドスは、フガイが接近戦を止め、音による攻撃に切り替えた瞬間に、移動。莫大な音を音の忍術で吸収したのだ。
そして、ドスの持つ籠手は、吸収した音を何倍にも増幅する装置である。物理的な破壊力を持つ咆哮を何倍にも増幅すればどうなるか。それも音の操作によって方向を決められる彼から逃げる事は出来ない。
「く、くそがぁあ!!!!」
フガイの叫びは、ドスが自慢げに籠手から撃ち返した咆哮によって彼女ごと消し飛んだ。すさまじい勢いで吹き飛ばされたフガイは、激突し崩れた岸壁に潰されたようだった。
「決め手は、負け犬の遠吠えですかね」
「使い方へんじゃないかな? それより行くよ」
危なげなく勝利した八雲とドス。彼らは、トルネにある事を頼まれていたのだ。一つは、砂への連絡。これはドスが担当。もう一つは、テムジンから聞かされていた、戦争に利用されている子供たちの救助だった。
二人はその作業に取り掛かるのだった。