「ん、え、あれ、いって」
シャナが時空間忍術で連れ帰ってしまった少年が目を覚ます。肩に痛みを感じながらも、部屋を見渡し周囲の確認を行う。全く見覚えのない部屋のベッドで寝かされており、朦朧としていた意識が覚醒し始める。
少年は、気絶する直前の光景を思い出した。師匠と逸れ、強敵と一対一となり、負けてしまった。そして止めを刺されるかという場面で、何かがあった気がする。
自分は何故こんなところに来たのだろうか。
「やっべ、父ちゃんが! いってぇ」
自分の目的を思い出し、大慌てで飛び出した少年であったが、肩が痛むため蹲ってしまう。よく見ると肩に包帯が巻かれているので、誰かから治療を受けているようだ。
少年が騒いだことで家の主が、風呂場から現れた。
「思ったより起きるの早かったってばね。肩の調子はどう?」
シャワーを浴びていたのか、バスタオルを体に巻き、頭を拭きながら現れた女性。その蠱惑的な姿に、少年は顔を真っ赤にして固まる。刺激が強すぎたのだ。
少年の反応を見て、女性はようやく自分の格好に気が付き、すぐに着替えて出てくる。
警戒している少年に「安心しな。私は敵じゃない」と言いながら、お茶を用意し、向き合うようにカーペットに座った。
「さて、話を聞かせてもらおうってばね」
「話って、そういえば俺、ウラシキに襲われて、それで、なんで助かってるんだってばさ」
少年は、死を覚悟していた。ウラシキというのは、少年が直前まで戦っていた強敵の名。そいつに命を狙われたというのに、生きている事が不思議で仕方なかった。
「君を襲ってた奴なら、私が追い払ったってばね」
「え、ウラシキを追い払ったって、姉ちゃん一人で? あり得ねぇってばさ」
なんとも信じ難い発言。目の前にいる女性が、五影をも凌駕する相手を追い払ったとは思えない。疑わしいと言った目を向けてしまった少年。テーブルに肘を突きながら、「そういう反応は新鮮だってばね」と返す女性。
自分の実力に自信でもあるのか、強さを疑われたことに意外そうにしていた。
一方少年は、気絶する直前の記憶を思い出し始めていた。確かに目の前の女性が、割り込んできた記憶がある。だが、その時、女性の目は青い光を放っていたはず。だが今は紫の瞳をしている。
「あの薄気味悪い竿使い、ウラシキって言うんだってばね」
「そうだってばさ」
「ん? てばさ? 変な口癖だってばね」
女性にそう言われ、少年がムスッとする。
「そっちだって、変な口癖だってばさ! てばねてばねって」
「私の何処がおかしいんだってばね」
明らかに両方とも独特な口癖である。だが、二人とも妙に親近感がわいていた。両者共に知っているのだ。特徴的な口癖を持っている人物を。なんだかその人物と会話している気分になっていた。
「とりあえず、君の名前を教えてほしいってばね」
「名前、名前。ボルト。ボルトだってばさ」
少年の名はボルトと言うらしい。素性を尋ねるがどうも言いにくいらしい。まぁ何か事情があるのだろうか。敵に追われていたことと戦闘の跡からして、この子は忍だろう。それがシャナの見解だ。
「ボルトだってばね。私はシャナ」
「シャナさんか。よろしくだってばさ」
ボルトとの自己紹介を終えたシャナ。ちょうど弟であるナルトが帰宅したのか、隣の部屋が騒がしくなるのを感じる。いつもなら晩御飯を作って持っていくのだが、今は喧嘩中。好きにしたらいいと、放置を決める。
本来はナルトの分の夕飯だが、お腹を空かせたのか腹の虫の鳴ったボルトに振舞うことにした。むしゃくしゃするのでとびっきり手の込んだ料理を用意する。
「すっげー、これ食べていいの……いいんですか?」
「召し上がれ」
シャナは、初めて会った少年を持て成すほどお人よしではない。だが、見れば見る程弟にそっくりで、父親にも似ている少年を他人だと思えない。可笑しな感覚だが、シャナは自分の勘を信じている。この子は自分が守らなければいけない存在であると、どこかで理解している。
そして、今現在もシャナを襲う慢性的な頭痛。未来視は使えるが、その未来に何かが起こっているのか、常に痛みが生じる。時間の流れが著しく乱れているのだろうか。そんなタイミングで現れたボルトの存在と、あの奇妙な男。どうにも偶然とは思えない。
「ごちそうさま」
「お皿は置いておいて、あれ」
シャナが自分が洗うというより先に、ボルトが皿を運んで洗い物をすると言ってきた。
(馬鹿弟より可愛げがあるってばね)
ボルトはご馳走になった上、洗い物までさせられないと言うので、シャナは彼に任せて、リビングで寛いでいた。食事を終えたボルトは、用事があるので出ていくと言い出す。だがもう深夜で、敵の存在もあるためシャナが許可できないと伝えた。
そして、シャナはウラシキと言う男について聞き出せるだけ聞き出すことになった。ボルトとは敵対した勢力であり、その実力は忍の最高峰たる影にも劣らない筈だと教えられる。
ウラシキなんて実力者は聞いた事がない。だが、シャナは相手の能力と余力を残した態度から、あながち間違いではないと感じている。
(能力の相性で、私が有利だったのもあるってばね)
時を戻すなんて無茶苦茶な能力に時空間忍術。竿の能力も相手を一撃で戦闘不能にする反則じみたもので、身体能力も計り知れないだろう。先見の万華鏡写輪眼を使っても仕留めきれなかった事から、実力は申し分ない相手。シャナでなければ、今の木ノ葉でアイツに勝てる戦力はないかもしれない。
(あくまで勘だけど、あの男はまた来るってばね)
「けど、オレはいかなくちゃ」
「とりあえず、今日は泊っていくってばね」
里はサスケの里抜け以降警戒状態。子供とはいえ夜遅くに一人で歩いていては、怪しまれる事この上ない。シャナに説得され、日が昇ってから出かけると約束した。妙に過保護な人だと思いながらもボルトは、シャナの真剣な眼差しに、折れるしかなかった。
そして、シャナのベッドを使うわけにはいかないと、シャナが何か言う前にソファーを陣取って眠るボルト。寝相が良くないのか、すぐに掛布団を蹴飛ばしている彼を見て、シャナは掛布団をかけ直してあげた。
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シャナがボルトに掛布団をかけ、自分のベッドで眠る姿を、遠くから観察する視線が一つあった。
月明りもない夜に気配を消しながら、木ノ葉の住宅の屋根にたたずむ存在。闇に溶け込む黒いマントを羽織り、黒い帽子、そして同じく黒い髪の毛で左目を隠した男がそこにいた。
見回りの忍達にも察知されない見事な隠密で、彼はシャナの部屋で眠るボルトを眺めていた。
「厄介なことになったな。ボルトが無事なのは幸いだが、この時代、この里の人間と接触してしまったか」
男は、右手で小さな亀のような人形を眺める。そして、懐にしまうと、ボルトを保護したシャナをどうするか思案していた。彼は、自分をこの場に移動させた原因である、亀のような形である時間移動法具であるカラスキが残したメッセージについて考えていた。
『ここは、過去の木ノ葉であること。未来から来た事実を誰かに伝えてはいけない。この時間の人間には、あまり干渉しない事。それらを守られなければ、未来が変化してしまう危険性がある』
彼とボルトは、未来の世界でウラシキの企みを阻止するために、戦ったが、時間移動の最中の戦闘でボルトとウラシキが逸れてしまい、彼だけが別の場所に移動してしまった。ウラシキと同じ場所に移動したボルトが危険なため、里中を探索したが、何故かボルトは木ノ葉のくノ一の元で保護されていた。
(しかし、よりによってナルトの隣人か。それに)
男は、ボルトを保護した女性を見て、一切思い当たる事がなかった。あんなくノ一が木ノ葉に居たのかという疑問。全ての木ノ葉の忍を知る訳ではないため、たまたま知らない忍だったのだろうか。
「お前、何者だってばね」
「何」
ボルトと同じ部屋にいたはずのくノ一が、男の背後を取って、チャクラ刀を向けている。油断していた事は事実だが、この時代の里に、自分の背後を取れる忍が居るとは思いもしなかった。
「あの子を狙っている奴がもう一人いるとは、あの子もお前も何者だってばね」
「あの子を保護してくれた事には感謝するが、それは教えられないな」
瞬時に腰の刀を抜いた男は、雷のチャクラを刀に流し、背後のくノ一のチャクラ刀とつば競り合う。二人の刀がぶつかった瞬間、男のマントがなびき、左腕が存在しないことがくノ一の目に入る。バチバチと互いのチャクラ刀が干渉し、音と光を放つ。夜にこれだけ騒げば、他の忍達も駆けつけてくるだろう。
「場所を変えるってばね」
男の刀を弾き、そのマントを掴んだ瞬間。粒遁・天門によって二人ともその場から消える。