ソードアート・オンライン パラダイス・シフト   作:hirotani

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第9幕 ロンリー・ロード

 

   1

 

「しかし、ここまで酷いことになるとはね………」

 

 木目が血で塗られた床を眺めながら、アーウィンは溜め息をついた。所々に腕や脚、頭といった人体の一部が転がっている光景はわたしにとっては初めてではないけれど、それでも鉄が錆びたような血の匂いは鼻をつく。

 

 もはや状況にわたし自身が恐怖も感じないのは、単に二度目という慣れだろうか。それとも感覚が麻痺したのか、その麻痺は元からだったのか。

 

 戦場で血が流れる光景を見てきたアーウィンはともかく、常人ならばこのような光景のなか平静ではいられないだろう。隅っこで互いに寄り合って震えている子ども達のような反応が正しいのだ。

 

 生きている者と死んでいる者。両方から恐怖と憎悪の眼差しをその背に受け止め、セツナは立っていた。あれだけ血飛沫の舞う惨状を引き起こしておきながら、セツナの服には返り血らしきものが見当たらない。血で汚れているのは剣だけ。

 

 地の海と死体の山の上に立つ漆黒の人影は恐ろしいけど、わたしは彼に恐怖をも超えた感覚を得ずにはいられなかった。それは――

 

「お前………」

 

 何かを見つけようとしていたわたしの思考は、そこで一時中断される。声の主は、部屋の隅で固まっていた子ども達のひとり。痩せっぽちなその少女は手に細身の剣を重そうに引き摺りながら、セツナの足元に転がっているローズールへと歩いている。

 

「お前のせいで、お前のせいでお姉ちゃんは………」

 

 「やめろ!」とローズールは上ずった声で逃れようとしたのだが、踏ん張ろうとした足は虚しく床を滑るだけ。忘れていた。逃げられないよう足首をセツナが斬っておいたのだった。

 

 突如、少女の足が止まった。膝を折り顔を、正確には右目の辺りを手で押さえつけている。指間から、彼女の右目が赤く光っているように見えた。

 

「同じだ」

 

 右目が痛むのか、悶絶する彼女を凝視しながらアーウィンが呟いた。

 

「私もかつてオブシディア城を攻めようと企てた時、右目が酷く痛み出した」

 

 「どうやったら治まるの?」とわたしは訊いた。アーウィンは逡巡を経て、

 

「私の場合、考えることをやめたら痛みは引いた。思考しないだけで良いんだ」

 

 アーウィンが少女のもとへ駆け寄っていく。わたしも後に続き、彼女の痛みとそれを引き起こす思考を消そうと声を掛ける。

 

「落ち着け。その痛みは君がいま思っていることを止めれば消える」

「あの男が憎くても、いまは憎んじゃだめ」

 

 肩を揺さぶりながら意識に語り掛けても、少女はわたし達の声に耳を傾けている余裕など無いようだった。痛みか、それとも脳裏に駆け巡るローズールへの憎悪――それすらも超える殺意と呼ぶべき感情のせいか。

 

「大丈夫、大丈夫だ」

 

 背中をさすりながらアーウィンが囁いたことで、少女は興奮が冷め始めたのか荒げた息が徐々に穏やかになっていく。

 

 でも、とんだ横槍が入った。

 

「奴隷風情が………!」

 

 と粘着質な声を発したのは、芋虫みたいな動き方しかできないローズールだった。

 

「下等な魂に、この私を斬ることなどできるものか。知れ、お前など人の形をしただけの、虫けらと同等の魂として産まれ堕ちたのだ! 命は平等などとイスカーンの小僧はほざいていたが、そんなものはまやかしだ! 産まれたその時から生命の価値は決められている。貴様は外れの魂を引いたのだ。その日食う物よりも安い値しか付かん命をな!」

 

 この期に及んで、という呆れしか沸かなかった。貴族だとかギルドの幹部だとか、特権階級特有の自身の生命に対する絶対的自負は何なのだろう。何を根拠に何者も自身に刃を向ける事はできないと信じられるのだろうか。

 

 しかもローズールの(そし)りは、落ち着こうとしていた少女の裡を再び燃え上がらせてしまった。右目に赤い光が灯り、落とした剣を掴み無造作に振り回す。

 

 細腕には重い剣だから酷く遅い。だから傍にいながらもわたしは避けることができたけど、油断しきっていたのかアーウィンの腕を剣先が掠った。彼女の腕に入った1本の線から血が滴る。それを見た彼女の右目は元の色を取り戻し、手から剣を零した。

 

「あたし、人を斬った……!」

「違う、これは不可抗力だ。君は私を斬るつもりなんてなかっただろう」

 

 アーウィンの呼びかけは、少女には届いていないらしい。壊れたからくり人形みたいにしきりに首を左右に振り、荒げた呼吸がより激しさを増していく気がした。気がした、と曖昧になっているのは、その直後にローズールの悲鳴が聞こえたせいだ。

 

 振り向けば、彼の傍に恐怖の権化と呼ぶべき青年が立っている。ベクタの落胤と呼ばれた彼は、血の滴る剣を躊躇することなくローズールの背中に刺していた。

 

 吐き出された血泡が、ローズールの口元を縁取る髭を紅く汚していく。セツナは刺したまま剣を捻り、肉を抉られるローズールの悲鳴に眉一つ動かさない。剣が抜かれると、ローズールの身体が反動で僅かに跳ね上がった。

 

 間髪入れず、再び剣が突き刺される。今度は後頭部に。頭蓋を貫いた刃が右目から突き出してきて、押し出された眼球が剣先に筋一本でぶら下がっている。

 

 憐れなほどに痛めつけられてようやく、ローズールの天命は尽きた。でも同情なんて沸かなかった。彼の業を思えば、これは当然の末路としか言えまい。むしろ、裁きを下すのが遅すぎたくらいだ。為政者たちも天界の神々も、怠惰に在るうちに被害者が増えていったのだから。

 

 刃に付いた血を払い落とすと、セツナは剣を鞘に収めた。ゆっくりとわたし達のもとへ歩くその靴が、床を転がっていたローズールの眼球を踏み潰す。そんな事には気付かず、彼は言い放った。

 

「人を刺したところで何も変わらない。人は人のままだ」

 

 そう、確かにセツナは人の姿を保っていた。少なくともこの時点で数十人もの人間を斬り捨てていたのだが、黒い髪と瞳も白い肌も変わりない。

 

 窓から赤い光が射し込んでくる。僅かなソルスの光が降り注いだのだろう。暗黒界でも1日に何度か雲間から陽光がもたらされる時間があるのだ。その光を背に立つセツナは殺戮者として怖れるべきなのだが、無表情の彼からは恐怖を超越したものを感じられた。どこか美しくも見えたのだ。

 

 気付けば、少女が大粒の涙を流していた。本人は気付いていないのだろう。流れる涙を拭おうともせず、ただ目の前に立つ青年を見上げている。

 

「そうだ。これくらいの事で君の魂が汚れることなんてない。人を憎むことは罪でも何でもないんだ」

 

 アーウィンが付け足すように言葉を重ねる。少女に付けられた傷は薄皮1枚程度のものだったのか、既に血は止まっていた。神聖術を施すまでもなく、すぐに塞がるだろう。

 

 少女は声をあげて泣いた。まるで赤ん坊みたいに。彼女の胸中でどんな想いが昂ぶったのかは計り知れないが、少なくともセツナの言葉がきっかけだった事は確かだ。

 

 わたしは、さっき見つけようとしていたものが何かを悟った。人を殺すことが何故に悪なのか、それが赦される時とはいつなのか、その答えはセツナの中にあるように見えたのだ。人としての罪も罰も超越し、その穢れの全てを背負う器を持つ者としての姿は神聖さを伴う。

 

 つまりは、畏怖。

 

 怖れ、そして崇める者。

 

 

   2

 

 焚火を囲んだ子ども達が、夢中になってパンを貪りスープを啜っている。行儀も何もあったものじゃないけど、スープをよそう給仕係は何も言わず好きなように食べさせている。今は(しつけ)よりも、あの子たちを満腹にさせてあげることが彼の役割なのだ。

 

 食事の場のすぐ隣では、他の者たちが天幕(テント)を張っている。あらかじめアーウィンが呼んでおいた彼らの仕事は手早く隙が無い。ものの十数分ほどで、子ども達の寝食の場を完成させてしまうのだから。

 

 子ども達とは少し離れたところで焚かれた火に当たっていたわたしのもとに、遅れて食事が運ばれてきた。あの子たちと同じ献立のパンとスープ。3人分の器を乗せた大きめの盆を持って来てくれたのは、ローズールを斬ろうとしたあの少女だった。

 

「あの、食事を」

「ありがとう。あなたは、もう大丈夫なの?」

「あ、はい……」

 

 少し緊張した面持ちの少女から盆を受け取る。役目を果たした彼女は去る様子がなく、組んだ手の中で指をせわしなく動かしている。

 

「隣、どうぞ」

 

 何となく意図が読めたわたしは、隣に置かれた組立式の簡易椅子を手で指した。「ありがとう」と所在なさげに腰かけた彼女は当たりに視線を漂わせる。

 

「あの人は?」

「セツナのこと?」

「セツナっていうんですね、あの人」

「どこ行ったのか知らないわ」

「そうですか。お礼、言いたかったんですけど………」

「お礼?」

 

 わたしが訊くと、彼女は逡巡を置いてから話し始めた。

 

「あの時のこと。何だかあたし、赦された気がして………」

 

 紡がれる言葉はまるで彼女自身も探り探り選び取っているように聞こえた。彼女自身、まだ己の中に渦巻くものの整理が付いていないように。

 

「あの伯爵のこと、殺してやりたいくらい憎くて、でもそんなこと思った自分がひどく汚れたみたいで、もう生きていけないんじゃないかって思ったんです」

 

 とても敬虔な人だな、とわたしは感じていた。禁忌目録をはじめ法での禁止事項は実行することは勿論、それを起こそうと思考することさえ忌避する風潮は根強い。子どもだったら問題児として大人たちからありとあらゆる法を叩き込まれる。矯正されないまま大人になってしまうと、周囲からは罪人予備軍と白い目で見られるのが世の常だ。

 

「でもセツナさんがあたしの憎しみが罪じゃないって言ってくれて、分かった気がしたんです。あの人は自分が伯爵を殺すことで、あたしが犯そうとした罪を肩代わりしてくれたんだって」

 

 この時わたしは深く考えもせず少女の話を聞いていたのだけど、後から思い返せば興味深いものがある。

 

 憎しみは罪じゃない。この言葉はアーウィンが言ったものなのだ。セツナの「人を斬っても人は人のまま」という言葉の補足として彼女が発言したのだが、少女は自身に向けられた言葉の全てがセツナの口から出たものと認識していた。

 

 恐らく当時は気が動転していたあまり、事実をこのように曲解してしまったのだろう。ただの勘違いと言えばそれまでなのだけど、これは決して無視できるものじゃない。勘違いこそが、まだ先がある死神伝説を形作る根底になるのだから。

 

「彼、人界人なんですよね?」

「多分ね」

「多分?」

「彼はベクタの迷子なの。セツナっていう名前以外、何も覚えていないみたい」

 

 わたしの説明で、彼女はどこか腑に落ちたように明後日の方角を見た。次にふ、と笑みを零し、

 

「もしかしたら、本当にベクタの子どもなのかもしれませんね。そうでなかったら、あんな事できないもの」

 

 そう言って、少女は他の子ども達のもとへと戻っていった。わたしは運ばれてきたパンを齧りながら、彼女のまだ幼い背を見送りながら考えた。

 

 これはわたしの推測でしかないのだが、セツナによって魂の赦しを得た少女もまた、わたしと同じようにセツナへの畏怖を見出したのだと思う。あの時、死体の中で陽光を背に立つ彼を、神の遣いか神そのものに見えたのではないだろうか。

 

 そうなると彼女が流していた涙は安堵というよりも、人を超越した存在に邂逅したことへの感動と呼ぶべきものだったのではないだろうか。

 

 少女が後に死神伝説を触れ回っていたかは、名前すら知ることのなかったわたしには確認のしようがない。それに、伝説とは不特定多数の民衆が語り継ぐからこそ知れ渡る。そういう点では、いくら英雄と邂逅したとはいえ名前不詳の少女は伝説の伝播にさほど重要ではないのだ。

 

 スープを飲みながら、わたしはふと思い出した。少女から、右目が光ったことについて訊き忘れてしまったことに。

 

 

   3

 

 すっかり食事が冷めてしまっても、セツナとアーウィンは焚火のもとへ来なかった。ふたりの分も食べてしまおうか、という誘惑を振り払い、わたしは屋敷へと向かった。

 

 立派な建物があるにも関わらず外で野営用天幕を張ったのも、中に死体が放置されたままだからだ。血と肉の臭気に塗れた空間で、死者たちの視線に囲まれながら食事を摂るのは気分が良いとはいえない。

 

 屋敷の扉は蝶番が外れていた――セツナが強引に開けたせいで――から、半分ほど開かれていた。というより、これ以上は閉じられない、といった様子だ。だからわたしが中に入るのは容易だった。

 

 中には多くの人影が残っている。多くは死体。殆どが四肢をどこか欠損している。ぼんやり眺めていると、面識のない死体と目が合った。まだ他と比べたら生前の姿を保っているその人は、死んでも自分の身に何が起こったのか分からない、という顔をしていた。

 

 俺は何でこんな事になっている。俺の腕はどこに行ったんだ。俺が何をしたっていうんだ。

 

 そんな無言の訴えを聞いた気がした。その時は答えてあげる義理なんて無いから無視して奥へと進んだけど、もし答える用意ができていたら、わたしはこう言っていただろう。

 

 何をしたのか分からないのなら、それがあなたの死んだ理由だ。

 

 広いロビーの面影がある部屋の奥、そこにふたりの、生きている人影があった。窓辺のふたりが宵闇で姿が輪郭しか分からず、さながら存在そのものが影に見える。動かなければ、他の死体たちと完全に同化してしまいそう。

 

「ここもいずれ、《ステイシアの渓谷》や《テラリアの墓所》みたいに、奇跡の場なんて呼ばれるかもしれないな」

「奇跡?」

 

 アーウィンの声に、抑揚のないセツナの声が重なる。

 

「ただあんたの言った通りにやっただけだ。奇跡でも何でもない」

「いや、君がただの罪人ならこんな事は起こせないよ」

「あんたは俺に何を期待してる?」

「神として」

 

 深い溜め息が聞こえた。

 

「随分と汚れた神だな」

「浄化というものだよ。汚れきったこの世界を君は洗い流せるんだ。それが果たされたとき、君は新たな世界の創造主となる」

「生贄、じゃないのか?」

 

 ほんの数秒だが逡巡があった。アーウィンが答えあぐねている隙に付け入り、セツナは続ける。

 

「俺があんたの言う新しい世界のためにこんな事を繰り返さなきゃならないのなら、いつかは代償を払うことになる」

「確かに君は大勢を殺した。でも同時に救いもしたんだ。こいつらに弄ばれていた子たちを、それにナミエを地獄のような場所から救い出したのも事実だろう。その事実を救われた者たちは決して無視しない。殺めた分よりも多くを救えばいい話だ」

 

 「それに私も」とアーウィンは付け加える。

 

「私のように何もできない臆病者にとって、君のような存在は光なんだ。君は苦しむ者たちの代行者なんだよ。代弁者ではいけない。口では何とでも言えるからね。実際に行動できる事が重要だ」

「俺が苦しむ者たちの代わりに殺すのなら、彼らの業を背負って死ななきゃならない。それはもはや人身御供だ」

「そうはならないよ」

「何を根拠に」

「君が今こうして生きていることさ」

 

 断言するアーウィンの声には、不思議と澱みがなかった。澄み切った心のままに、彼女はセツナがこれからも殺し続けることを予言している。

 

「犯した罪に耐えられないのなら、君はとっくにその剣で自らの首を撥ねていたはずだ。でもそうはしなかった。記憶を失っても、どこかで君は理解しているんだよ。たとえ他者を殺めてでも果たすべき使命をね。だから君は今ここで死ぬことを拒んでいる」

「死ぬ覚悟がないだけ、だったらどうする? 俺がただの臆病者だったら、あんたは幻滅するか?」

「しないよ。君は死ぬことよりも生きることの方が苦しく困難だと知っている。それは臆病ではなく覚悟だ」

 

 今度はセツナが黙ってしまった。そうなるとアーウィンの番だ。

 

「セツナ、新しい世界には君が必要なんだ。あんな子ども達が惨い想いをしない世界を創り上げるには、君のように壊す者がいなければならない。壊す過程で大勢が死ぬだろうが、同時に多くの者が君によって救われる。それができるからこそ君は神なんだ」

 

 「もし俺が本当に神なら――」と零すセツナの声は、どこか悲しそうに聞こえた。ここにある死体の山を築いた人間にはとても思えない、慈愛すら感じさせるものだった。

 

「傍に居てほしい人を見つける」

「私では、それになれないのかな?」

「ああ、多分な」

「残念だよ」

 

 わたしは胸の奥が締め付けられるような不快感を覚えた。これじゃまるで、アーウィンが愛の告白を拒絶されたみたいじゃないか。

 

 忍び足で外へと急いだ。これ以上、アーウィンが女として惨めになってしまうのは見たくなかった。

 

 

   4

 

「近いうち出荷予定と思われる木箱が見つかったんだが、中身は土だった」

 

 わたしから遅れて屋敷からセツナと共に戻ってきたアーウィンは、わたしの知るアーウィンだった。凛々しく逞しく、多少の強引さを含んだ声色で部下に報告をする。

 

 「土、ですか」と部下の男はアーウィンが抱えてきた木箱の中身をすくいあげた。よく水分を含んでいるらしく、土は部下の手から零れずに転がっている。畑で野菜を育てるには、あまり向きそうにない。

 

「粘土だよ」

 

 と、アーウィンも手の中で土をこねた。

 

「この粘り気なら、暗黒術師は良いミニオンを作れるだろうね」

「ですが、ミニオン用の粘土は暗黒術師ギルドが管理しているはずでは? なぜ商工ギルドが――」

「納品先の顧客が暗黒術師、というのが自然だろうね」

「まさかギルドの裏切り者が?」

「裏切ったというよりは見限った、というのも有り得るよ。戦後烏合(うごう)の衆になったギルドを抜ける者は多いと聞く。私みたいにね」

 

 余計な発言を察した部下は苦い顔で口を真一文字に結んだ。アーウィンは溜め息をついたけど敢えてそこは追求することなく続ける。

 

「9年前のこともある。異界戦争で死んだと偽っていた術師が地下に潜って何か企んでいる可能性は十分にあるよ」

「人界の皇帝がミニオンとして蘇ったとかいうやつですか? まさか、暗黒術師がそれに絡んでいたとお考えなのですか?」

「連中の逞しさを舐めてはいけないよ。生き残り昇り詰めるためなら平気で尻を突き出すし、平気で裏切りもする。人界の皇帝や貴族と手を組んでいても、私は不思議に思わないね」

「しかし、何で今更になって――」

「それ以上のことは調べてみない事には分からないさ。中に顧客や納入先の名簿がまだ残っているかもしれない」

「了解しました。捜索にあたりますので、将軍はその間お休みください」

「済まないね」

 

 部下が敬礼して去るのを見送ると、アーウィンは簡易椅子に深く腰を降ろした。すっかり冷めてしまったスープを啜り、パンを口に運ぶ。

 

「こんなに疲れた日は久しぶりだよ。まさかここまでやるとはね」

 

 疲労を感じているのはアーウィンだけじゃないだろう。さっきの部下だって、あまりの惨状に屋敷へ入るのに時間を要していたほどだ。誰もが、あの死体の山をセツナが築いたことを信じられないでいる。一部で信じる者はアーウィンが思いついた《ベクタの落胤》なんて話を鵜呑みにしている。

 

 どちらにせよ、セツナが計り知れない人物であるというのは共通認識みたいだ。彼に用意された天幕には誰も近付こうとしない。彼に礼を言いたがっていたあの少女さえも。彼女の場合、神と話すのに畏れ多いのかもしれないが。

 

「さっき――」

 

 唐突なアーウィンの切り出しに、わたしは思わず一瞬だけ肩を跳ね上げてしまった。

 

「私とセツナの話を聞いていたね?」

「気付いていたの?」

「これでも元暗黒騎士だよ。すぐに分かったさ」

 

 当然の納得だった。歴戦の騎士に、剣すら握ったことのないわたしの忍び足なんてうるさかったことだろう。密談めいたやり取りを目撃されていたと分かっていながらも、アーウィンはわたしには優しく問う。

 

「ナミエ、私を狂信者だと思うか?」

「思わないわ」

 

 その答えは本心ながらも、内心でわたしはどう言えば良いのか迷っていた。セツナに神を説いていた彼女には、少し恐怖めいたものを覚えていたから。

 

「わたしも、セツナには人を超えたものがあると思うから」

「君がそう言うのなら、確かなのだろうね。彼の最も近くにいるのは君だ」

 

 わたしはかぶりを振った。傍に居ても、セツナのことは何も知らない。彼が何を考えていて、何を望んでいるのか、わたしは全く理解できていないのだ。

 

 アーウィンはこの質問をすることで、確信を持ちたかったのだろうか。自分の信じるものが、中身のない空っぽな男ではないと。誰だって自らの決断や選択の正否なんて分からない。無条件に正しいと信じられる絶対的存在だからこそ、神は神なのだ。

 

 そういう意味では、この時点でアーウィンを迷わせたセツナはまだ神に成りきれていなかったのかもしれない。

 

「将軍‼」

 

 怒声に似た声でアーウィンの部下が叫んだ。「何だ」と応じた彼女に、部下は「接近する影あり!」と上空を指さす。

 

 見上げると、そこに広がるのは暗闇が広がる夜空だ。厚い雲が蓋をし、星なんて見えない。

 

 でも、流星のような速度で空を何かが駆けている。影がどんどん大きくなってきて、ようやくそれが降りてきていると気付いた。

 

「退避だ! 皆戦闘に備えろっ‼」

 

 剣を抜いたアーウィンが指示を飛ばす。次々と皆も腰の剣を抜いた。空から降ってきたものが、地上との距離を詰めてくるに従ってその輪郭をはっきりさせてくる。

 

 左右に広がる巨大な翼。内部から燃えているかのような赤い鱗。鋭く尖った頭部から伸びる金色の双角。

 

 それは飛竜だった。

 






そーどあーと・おふらいん えぴそーど9


キリト=キ
アスナ=ア
シノン=シ


ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」

キ「解説のキリトです」

ア「今回も素敵なゲストに来てくれました。どうぞ!」

シ「こんにちは、シノンよ。因みにアバターはGGOでもALOでも好きな方を想像して頂戴。あ、UWのソルスでも良いそうよ」

キ「おお、早速のメタ発言だなシノン………」

ア「ようこそしののん! ずっと来てくれるの待ってたのよ」

シ「ああ、うん。ありがとねアスナ………」

ア「どうしたのしののん? 緊張してるの? しののんて結構シャイなところあるもんねえ」

シ「いや、リーファからヤバいって聞いてたから………」

キ「あっ(察し)」

ア「えーリーファちゃんが? このコーナーの何がヤバいのよ?」

キ「白々しいわ十中八九アスナだよ! 見ろシノンがドン引きしてるぞ!」

シ「大丈夫よキリト。仕事はちゃんとするから………」

ア「まあ仕方ないわ。読者の皆さんは怯えた沢○さんボイスをお楽しみください」

キ「声優さんを餌に読者さんを釣ろうとするな!」

ア「それでは今回のコーナーは、作中に出てきた用語の解説よ」

シ「そういえば本編で原作になかった用語があったわね。《ステイシアの渓谷》とか《テラリアの墓所》とか」

ア「このふたつは異界戦争から作中世界の10年間で呼ばれるようになったもので、本作オリジナルの設定ね」

キ「まず《ステイシアの渓谷》だけど、あれは原作でアスナが創世神ステイシアの地形操作で開けた谷だな。拳闘士たちが進軍のために綱渡りした印象的なやつだ」

ア「戦後のUWでは人界統一会議副代表のわたしが起こした奇跡として語り継がれてるわ。わたしが!」

シ「ああうん、分かってるから2度言わなくて大丈夫よ」

キ「人界統一会議の戦力を見せつけるために、アスナが開けた谷として大々的にPRして観光名所にもしてるんだ。アスナは恥ずかしがって最後まで反対して終いには谷埋めようとまでしてたけど」

シ「まあ、原作でのアスナならそうするわよね」

ア「原作って何よ? まるでここでのわたしが別人みたいじゃない」

キ「そう言ってるんだよ………」

ア「酷いわキリト君! わたしキリト君との事しっかり覚えてるのよ! キリト君がどんなプレイが好きだったかも――」

キ「やめろおおおおおおおおおっ‼」

シ「えー、しばしお待ちください」

 ~しばし~

ア「次は《テラリアの墓所》ね。これは《ステイシアの渓谷》のすぐ近くにあるわ」

キ「あー疲れた……。えーと、戦争終盤で地母神テラリアのアカウントでスグが戦ってた場所だな」

シ「確か、アメリカ人プレイヤーたちからオークと拳闘士たちを守っていたのよね」

キ「ああ、体中剣とか槍とかで串刺しになっても戦い続けたってイスカーンから聞いて血の気引いたよ」

シ「テラリアのアカウントってHP無限回服できるのに痛みそのままなんて設定だったものね。ほんとリーファ頑張ったわね」

ア「そんなオークと剣闘士を守ったリーファちゃんはUWでは《緑の剣士》として崇拝されて、死んだ場所にお墓が建てられているわ」

シ「それで《テラリアの墓所》なわけね。でも、現実世界じゃ普通に生きてるから直葉ちゃんとしては複雑でしょうね」

キ「俺なんて何度か墓参り行ったせいで変な気分になったよ」

シ「ねえ、気になったんだけど」

キ「ん?」

シ「わたしに因んだ場所は無いの?」

キ「え、いやーあのーその――」

ア「無いわよ」

キ「おおおいっ‼」

シ「清々しいくらい直球ね………」

ア「しののんのやった事って再ダイブしたカブリエル・ミラーの足止めくらいだったからね」

キ「いや重要な役だからね! シノンのお陰でアリス掴まる前に俺間に合ってるから!」

シ「キリト、そう言ってるくれるあんたが好きよ………」

キ「アスナもシノンに何の恨みがあるんだよ」

ア「妬ましいのよ!」

キ「ええ逆切れ……?」

ア「だってわたしは地形操作する度に頭痛かったしリーファちゃんだって不死身なのに痛み普通にあるのよ。しののんは太陽神ソルスのアカウントでそういう副作用的なのあった?」

シ「まあ、なかったわね……」

ア「それなのに空自由に飛べるとか当たりじゃない! そう簡単に出番くれてやるもんですか!」

キ「一応、戦後のUWじゃシノンも英雄になってるから、何も空気だったわけじゃないぞ」

シ「どうせソルスが天界からやってきたとかで、わたしのシノンていう名前はあまり知られてないんでしょ?」

キ「え、いやそんなことは………」

シ「分かってるのよ。原作でもメインだったファントムバレット編の後はキリトの愛人Bって立ち位置(因みにAはリーファ)でしかない自覚はあるわ。アスナみたいに王道な可愛さがあるわけでもないし、リーファみたいにグラマラスなわけでもない。リアルじゃ地味眼鏡で声以外はただのモブ。わたしは所詮正妻には勝てない、都合の良いときだけ使い潰され消費されるサブヒロインでしかないのよ」

キ「闇堕ちしてる……!」

ア「(肩ポン)分かったわしののん」

シ「アスナ?」

ア「ひと晩だけキリト君をあげる」

キ「え、俺の意思は?」

シ「アスナ………」

ア「しののん………」

シ「ひと晩じゃなくてずっと頂戴」

ア「それは駄目」

シ「アスナならそう言うと思ったわ(へカートがしゃん)」

ア「やはりここは、力で決めるしかないそうね(抜刀)」

キ「いやふたりとも、これサブコーナーなんだ――」

シ「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラあッ‼」

ア「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あッ‼」

キ「違う原作ネタぶっこまれたので今日はここまで! 声優繋がりだからって『そこに痺れる憧れるうッ』とか言わないからな。じゃあ、また次回‼」

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