ソードアート・オンライン パラダイス・シフト   作:hirotani

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第10幕 レッド・ドラゴン

 

   1

 

 赤い巨体が間近に迫ったところで、突風が辺りに吹き荒れた。飛竜が減速に、地上に向かって翼で風を起こしたために。

 

 焚火はひと吹きで消え、燃え残った薪と椅子が飛ばされ狂乱のように舞う。辛うじて子ども達が避難しただろう天幕は辛うじて支柱を立たせていた。

 

 灯りが消えてしまったが、周囲の様子はよく見えた。光源は飛竜自身。巨躯の内部が燃えているかのように、鱗の隙間から赤熱したような光が漏れ出ている。太陽神ソルスの眷属と言われたら信じるかもしれない。

 

「システム・コール――」

 

 団員の中に術師がいたのだろう。どこからか式句の詠唱が聞こえた。それほど難しい術ではないのか、すぐさま宙に半透明の表面が照りついた矢が出現する。

 

 素因のひとつである《水素》の矢。術師が何故水素を選んだのかは、単純に飛竜が炎を蓄えていると判断したからだろう。

 

「ディスチャージ!」

 

 式句に従い、水矢が飛竜目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。狙いは正確だ。矢は飛竜の頭へと、鋭い矢じりを突き立てる――はずだった。

 

 攻撃に気付いた飛竜は矢へと向き、大きく裂けた口を開いた。喉元から獰猛な唸りと共に炎が渦巻いている。吸い込まれるように冷矢は飛竜の咥内へと収まり、炎に触れると同時に蒸発してしまった。

 

 文字通り焼石に水だ。炎の塊というべき姿の赤き飛竜に、一筋の水なんてまるで意味がない。

 

「システム・コール。ジェネレート・クライオゼニック・エレメント」

 

 今度はアーウィンが詠唱を始めた。彼女の手の中で、光の粒子が崩れるように舞っている。神聖力――ここでは暗黒力か――を凝縮したものを砕いたのだろう。

 

 アーウィンを中心として寒くなっていく。空気が急速に冷えて、霧状になった風が吹き荒れている様子がよく見えた。

 

 これは、《凍素》――

 

 わたしが察したと同時、アーウィンの掲げた手に氷の粒を含んだ風が集まり球体状に凝縮されていく。

 

「フォーム・エレメント、バード・シェイプ。カウンター・サーマル・オブジェクト」

 

 さっきの術師は時間がないから式句の短い術にしたようだが、それが通用しないとなれば詠唱が多少は長くなろうと強力な術を使うのは致し方ない。

 

 アーウィンの手先に浮いている凍素が2枚の翼をはためかせる。まるで卵から孵化したように、アーウィンの身丈ほどもある鳥に姿を変えていた。

 

「ディスチャージ!」

 

 式句という命令を承った氷の鳥が、翼をはためかせて飛竜へと飛んでいく。迫りくる冷気に飛竜も先ほどの矢とは違うと察したらしく、再び口を開き喉の奥から体表と同じ光を明滅させる。

 

 氷の鳥が目前に迫ったと同時、飛竜の口から炎が放たれた。炎を全身に浴びた鳥が一瞬のうちにその形を崩壊させるが、存在そのものが凍素である鳥は周囲に自らの肉片――もとい氷の破片を撒き散らし、それらも熱で一瞬にして蒸発する。

 

 白煙にも似た濃い蒸気はものの数秒で飛竜の巨体を覆い尽くした。それでも、わたし達の方からは飛竜の体表から漏れ出た光が僅かに見える。

 

「逃げろナミエ!」

 

 アーウィンの声はしっかり聞こえていたけど、わたしは動くことができなかった。絶対的な力を前に、わたしの脚は震えて言う事をきかなかったのだ。蛇に睨まれたカエルの気持ちがよく分かる。

 

 空を斬る音がした。一瞬遅れて、線のような影が蒸気の中、飛竜へと飛んでいく。更に遅れて咆哮が聞こえた。

 

 強い風が巻き起こる。蒸気がすぐに吹き飛ばされ、視界が開けると大きく翼をはためかせた飛竜の姿が再び現れる。飛竜の首筋から伸びる一筋の鈍色の線が見えた。

 

 あれは、剣――

 

 飛竜が地面に巨大な足をついた。轟音と共に地面が震え、皆がたたらを踏む。獲物を品定めでもしようとしたのか飛竜が頭を垂れた瞬間、それを待ちわびていたかのように俊足で距離を詰めた人影がいた。

 

「セツナ⁉」

 

 アーウィンがその名を呼ばなければ気付かなかっただろう。気が付いたとき、セツナは既に飛竜の首から剣を引き抜いていた。栓を抜かれたことで飛んだ赤い飛沫で、わたしは何故か飛竜の血も赤いことを冷静に見る事ができていた。

 

 セツナの剣が水色の光を帯びる。飛竜の尖った顔面に、光の軌跡を描きながら剣を一閃した。振りかぶったところで更に一閃。十字線のような創傷を付けられた飛竜が虫でも払うかのように大きく頭を振るが、身体を反転させ紙一重で避けたセツナはすれ違いざまに上段から剣を振り下ろす。

 

 手首を返し、セツナが振り上げた剣尖が飛竜の下顎を斬った。4連の剣戟は凄まじいが、同時に動きも軽やかだった。それでも飛竜の硬い鱗に覆われた肉体を切り裂くには至らず、表皮に僅かな4本の傷を付けただけに過ぎない。

 

 ぐるる、と獰猛に喉を震わせる飛竜の声に混じって、それは聞こえた。

 

「おぬし………」

 

 よく通る声だったけど、誰のものか最初は分からなかった。男か女か判別が付きづらいが、不気味さは感じない響きが魂に直接語り掛けているかのような錯覚を覚える。

 

「なるほど、とんだイレギュラーユニットだな………」

 

 言語は間違いなく共通語なのだけど、その言葉が何を意味するかはまったく理解はできなかった。だけど確信できたことは、言葉に倣って飛竜が口を動かしていたということ。そのつまりを、アーウィンが驚愕と共に吐き出す。

 

「喋ったのか、飛竜が………?」

 

 飛竜が翼を大きく広げた。起こした風が吹き荒れてわたし達の足元がおぼつかなくなる中で、飛竜の巨体は自らの風に押し上げられて地から足を離す。

 

 見下ろした目は、未だ剣を構えるセツナに向けているように見えた。飛竜は喉を震わせ、獣の唸りを人の言葉に移し替える。

 

「近いうち、おぬしらに刃を向ける者が来る。その者を敵とするか同志とするかは、おぬしら次第だ」

 

 翼をはためかせ、強風と共に飛竜は夜空へと昇っていく。その巨体が夜の闇に溶け込んで完全に見えなくなるのに、そう時間は掛からなかった。

 

 

   2

 

 さっきは混乱のせいで気付きもしなかったが、保護した子ども達は恐怖に泣いていたらしい。いくら泣いても泣き足りず、しゃくり上げて呼吸すらできなくなった子もいたとか。

 

 女の団員たちが辛抱強くあやしてくれたお陰で子ども達も落ち着きを取り戻し、眠ってくれた後もわたし達年長者たちは呑気に寝ているわけにはいかない。もっともわたしはアーウィンから寝てもいいと言われたけど、流石に子守唄で眠れるほど幼くもなかった。

 

「何だったんだ、あの飛竜は?」

 

 簡単に修理した椅子で、焚き直した火に当たりながらアーウィンは額を手で覆った。

 

「アーウィン、暗黒騎士だったわよね?」

「ああ。相棒の飛竜もいたし、毎日世話をしていたよ。そこらの者よりも飛竜という生き物をよく知っているつもりだった」

 

 飛竜の専門家とも言える元暗黒騎士がここまで頭を抱えていることから、あの赤き竜がどれほど規格外なのかは察することができる。

 

「だが赤い飛竜など、今まで見たことも聞いたこともない。人界の飛竜は灰色で、暗黒界の飛竜は黒だ」

偶々(たまたま)そういう色の飛竜がいた、とかは?」

「それは考えにくい。野生の飛竜もいなくはないが、戦前から保護のために個体数を厳重に管理していたんだ。元々数が少ない種だったからね。人界も同じように保護していたらしい。色違いの亜種が産まれたら話はすぐに広まるはずだ」

 

 深く溜め息をついたアーウィンと焚火を挟んで座るセツナは、先ほどから無言でお茶を飲んでいる。ドクダミアンという人界産の薬膳茶葉らしいのだが、お世辞にも美味と言えないこんな飲み物をよく顔色ひとつ変えずに飲めるものだ。

 

 そんな感じで話など聞いているか分からない態度だったセツナが、ようやく重すぎる口を開いた。

 

「ドラゴンは喋るものなのか?」

「どらごん?」

 

 古代神聖語と察したわたしが「多分、飛竜のこと」と耳打ちすると「ああ」とアーウィンは納得し、

 

「喋れる飛竜も聞いたことがない。飛竜は賢く主の命令を理解できるが、意志疎通は言うなれば主からの一方通行だ」

 

 説明してすぐ、アーウィンは自身の言葉に引っ掛かりを覚えたのか眉を潜めた。虚空に視線を漂わせ、途切れ途切れながら再び話し始める。

 

「いや、大昔の人界では人語を話す魔獣がいたそうだ。公理教会の最高司祭が1匹残らず始末したと聞いたが」

「その時代の生き残りってことは?」

 

 わたしの率直な推測にアーウィンは「可能性はある」と肯定しつつも、慎重な声色を崩さなかった。

 

「だが、現状では何も分からない。あの飛竜も、飛竜が言っていた近いうちに現れるとかいう者も見当が付かないよ」

 

 刃を向ける者。敵となるか同志となるかはわたし達次第、と飛竜は言っていた。正直なところ、この先誰と出会っても飛竜の予言の人物と結び付けられる気がしない。何せこちらは、誰から刃を向けられても不思議じゃないセツナがいるのだから。下手をすればセツナの方が先に刃を向けてしまうかもしれない。

 

「今日のところは寝よう。あんな事があっては眠れないかもしれないが、今は寝ることしかできない」

 

 アーウィンの言葉に、わたしは頷いた。彼女の言う通り、今できることは眠ることだけ。再び赤き竜の襲撃が来るかもしれないと恐怖したところで、人は死すべき時には死ぬものだ。

 

 朽ちていくだけになったローズールたちも、そんな理不尽でこの日死んでいったのだから。

 

 

   3

 

 いくら恐怖しても、睡眠欲というものはそれを簡単に凌駕してしまう。過ぎてしまえば、たとえ嵐でも飛竜でも些末事になってしまうものだ。

 

 天幕から出ると、既に起床していたアーウィンの団員たちがせわしなく動き回っている。一部の天幕は撤収作業で畳まれているものもあった。

 

 わたしは衛士風の鎧を纏う団員たちの中から、昨晩から絶えず焚かれていた火の前に立つアーウィンを見つけた。

 

「おはよう、よく眠れたかい?」

 

 すぐ気付いたアーウィンに訊かれ、まだ眠気が抜けきっていないわたしは「うん」とぼんやり答えた。

 

「朝食だ。食べておくといい」

 

 そう言うと、アーウィンは傍に置かれていた盆をわたしに差し出してくれた。昨晩と同じパンとスープ。きっとわたしのために貰っておいてくれたのだろう。厚意に「ありがとう」と応えつつ、わたしは受け取ったパンを食べた。

 

 「食べながらで良いから、聞いて欲しい」とアーウィンは前置きを経て、

 

「報告があってね、昨日見つかった粘土はトルソ村に出荷予定だったらしい」

「トルソ村?」

「確かオーク族の村だったはずだ。何故そんなところにミニオン用の粘土が行くのか、これから調べに行く」

「セツナも連れていくの?」

 

 わたしの問いに、アーウィンは困ったように眉を潜めた。

 

「言いたいことは分かるよ」

 

 セツナも行く。それはつまり、また血が流れるということだ。わたしの不安にも似た予感をアーウィンは否定しない。

 

「事によっては、ナミエの考えている通りになる。私も穏便に済ませられるのなら、そうしたいが………」

「セツナは、どうしたいのかな?」

 

 何故そんな疑問が出たのか、わたし自身にも分からない。殺せと言われたら躊躇なく血の海を作り出す殺戮者の彼に、果たして自身の意思があるとは見えないのに。

 

 そんなセツナを理解しているかのようなアーウィンの口ぶりは、少しばかりわたしの中に引っ掛かるものがあった。

 

「彼にも覚悟があるはずだ。どれだけ殺めることになっても、その罪を背負うという覚悟がね」

「罪………」

 

 でも覚悟を決めたからといって、その罪を償う日はいつ訪れるのだろう。訊きたかったけど、わたしは敢えて喉元に押し留めた。多分アーウィンにも分からなかっただろうから。

 

 もし知っている者がいるとすれば、それは当の罪人であるセツナのみだ。

 

 近付いてくる人物を視界の端に捉えて目を向けたら、噂をすればというものかそれはセツナだった。寝起きかもしれないが、熟睡できたのか足取りもしっかりしている。表情はいつも通り無表情だった。

 

「やっと起きたか。間もなく出発する。身支度を整えてもらおうか」

「このままでいい。すぐに出られる」

 

 無骨に言い放つセツナの前にアーウィンは立った。殆ど背丈が同じふたりが向かい合うと、傍から見たら睨み合いに見えてしまう。ふたりともお世辞にも愛嬌があると言い難い顔立ちだから尚更に。

 

 アーウィンは不意にセツナの腰に提げた剣を引き抜いた。抵抗する素振りもなく武器を奪われたセツナには、彼女に殺意がないと分かり切っていたのだろうか。もしくは武器がなくても返り討ちにできると自負していたのか。

 

 「見ろ」とアーウィンの見せる刃には、一筋の亀裂が走っている。

 

「あの飛竜に使った秘奥義のせいだな」

「秘奥義?」

「君が使っていた技のことだ。まさか秘奥義のことも忘れたのか?」

「剣が光ったら何故か身体が勝手に動いた。別に不便でもないからやっていただけだ」

 

 これにはわたしも思わず持っていた食べかけのパンを危うく落としそうになった。師事もなく習得できないとされる秘奥義を、この男は知らず知らずのうちに行使していたと言うのだ。日々鍛錬しているだろうアーウィンの驚愕は、わたしの比ではなかったに違いない。

 

「では君は、自分が何の流派の剣を振っているのかも知らないのか?」

「そもそも記憶がない」

「あ、ああそうだったな………。君には驚かさてばかりだ」

 

 そう言ってアーウィンは額を押さえて苦笑を漏らしている。

 

「で、その秘奥義とかいうのを使ったら剣がどうなる?」

「ああ……。秘奥義はそれなりに優先度の高い武器で初めて使えるようになる。ましてや連続剣など、そこらの鍛冶師が打ったもの程度の剣で使ったら天命が一気に削ぎ落されてこうなる」

 

 とアーウィンはセツナの剣を眼前に突き出す。ウンベールを殺して奪った爵家の家宝ともいえる代物のはずだが、飛竜への攻撃が相当な無理を強いていたのか亀裂ばかりか鈍色の輝きを失い剣先は刃こぼれしている。

 

 アーウィンは柄に施されたジーゼック家の家紋に目をやり、

 

「これは、あの村の貴族の剣か。人界の貴族など単発の秘奥義しか使えないからな。剣も見てくればかりの(なまくら)か」

「なら新しい剣が欲しい」

「ああ、部下たちからなるべく優先度の高いものをあてがってもらう。ただし、連続剣はどうしてもという時以外は使わないでくれ。1発で剣が折れそうだ」

「約束はできない。自分がどんな技を使えるか俺は知らないからな」

 

 これにはアーウィンも笑うしかなかった。つまるところ、セツナはどんな秘奥義を繰り出すか1発勝負なのだ。光輝く剣が放つのは単発技か連続剣か、実際に剣を振ってみなければ分からない。

 

 「それと」とセツナの口から飛び出したものは、再びわたしとアーウィンに肩透かしをくらわせるものだった。

 

「優先度とは何だ?」

 

 

   4

 

 この日も暗黒界の大地は荒廃しきっている。こんな地で数百年もの歳月を、人や亜人種たちがよく生きられたものだと感心できるほどに。

 

 雨もなくソルスの恵みもない。家畜を育てようにも餌となる食糧も水もないから、荒廃した地で生き延びられるよう進化した魔獣を狩り、その肉を食らうことで闇の住人たちは飢えを凌いできた。次第に互いに住む土地を、そこにある僅かな食糧を巡る種族間での争いという、血生臭い歴史を暗黒界は辿っている。

 

 元より、暗黒界という地は死に満ちていたのだ。遠くで吹き荒れる砂嵐。その奥から歴史の中で地っていった者たちの瞳から睨まれているように錯覚した。

 

 そんな死臭漂う荒野を走っているのは、わたし達の乗る馬車だけしかない。商工ギルドの根城にいる他の団員は保護した子ども達を孤児院に連れていくため別れることになった。これから向かう村にはあくまで視察という名目だから、大挙して向かうほどではないという、アーウィンの判断だった。

 

 もっとも、セツナがいる時点で安心なんてものはないのだけど。

 

 馬車の進路上にある黒い地の一点で、白い塊のようなものを見つけた。馬車がその近くを通りかかると、その全容がよく見える。

 

 骨だった。昨晩の飛竜ほどではないけど、人の背丈を遥かに越える巨大魔獣の骨。1本毎はとても太いけど、骨格は既に崩れているから生前の姿は全く想像ができない。

 

 天命が尽きたのか、他の魔獣との戦いに敗れたのか、はたまたどこかの亜人族に狩られたのか。もはや過ぎて遠くなった骨は何も語らず、わたしには何も訴えてはこない。野ざらしにされた死体が語ることはひとつ。暗黒界では人も魔獣も関係なく、弱者が淘汰されるということ。まだ子どもだとかもう老齢だとか、病気だとか怪我をしていたとか、言い訳してもこの黒い大地は聞く耳をもってくれない。

 

「魔獣って、どこから来たのかな?」

 

 思わずわたしはそう呟く。単なる独り言として無視してもらえば良いけど、アーウィンは律儀に答えてくれた。

 

「ベクタが人界を追い出されたとき、民と共に動物を一部こちら側へ連れてきたと言い伝えられている。その動物たちの末裔が魔獣らしい」

 

 何の気無しな声音で答えたから、アーウィンのような暗黒界で生まれ育った者には幼い頃から親に聞かされていた昔話の一節なのだろう。

 

 セツナが不意に質問を投げかけた。

 

「動物と魔獣はどう違うんだ?」

 

 その質問に、アーウィンはしばし俯き考えていた。きっと今まで思いもしなかったのだろう。子どもの頃から動物は動物、魔獣は魔獣と教え込まれていたのなら、常識と刷り込まれた事を疑問に思ったりはしない。

 

 「まあ私個人の捉え方ではあるが――」とアーウィンは前置きし、

 

「気性が穏やかで飼い慣らせるのが動物で、狂暴で飼い慣らせないのが魔獣としている」

「それは野生動物と家畜の違いじゃないのか?」

「君の疑問はごもっともだが、魔獣をただ野に放たれただけの動物と見るのは危険だ。例えばこの馬車を引いている馬だが、あれが暴れたとしても2、3人で抑えることができる。だが魔獣は身体が大きく力も強い。10人がかりで戦っても死者が出るくらいだ」

「ただの力の差か………」

 

 そこでセツナは逡巡を挟み、

 

「オークやゴブリンは魔獣にカウントされないのか?」

 

 カウントという古代神聖語を、文脈から「分類」という意味に変換するのに数秒ほど要した。理解と共に、アーウィンは眉間に険しい皺を寄せる。

 

「同じ言葉を話す彼らも人と変わらない。姿が違うから別の生き物などと区別するのは傲慢だ。私は師からそう教えられた。まったく、そういったところは人界人の感覚だな」

「いや、暗黒界の人族が亜人族を対等と見ていたのが意外でな」

「亜人族は人族の奴隷とみなしていた時代もあった。だが彼らからの報復を受けてね。そこから鉄血の時代に突入したと言われている」

「侮れない相手と分かったから立場と対等にしたわけか」

「まあ、亜人族を下に見る人族もまだいるのは確かだがね」

 

 戦前の人界では、暗黒界の亜人族はベクタの眷属として創造された怪物とされていた。その認識が戦後の亜人族の人界への移住を阻んでいた原因である。人界人の魂にまで根深く刷り込まれた恐怖や忌避は容易に取り除けるものではないが、セツナの発言がそういった差別意識と同じものとは、わたしには思えなかった。

 

 そもそもこの殺戮者にとって、人族でも人と見ているのかが疑問だ。同族を殺すという倫理の垣根を躊躇なく飛び越える姿に、嘲りや蔑みといったものは未だに感じられない。

 

 そういう意味では、セツナはアーウィンよりも種族の捉え方が平等だったのだ。それどころか、人も亜人も魔獣も動物も、皆が同列の存在。剣で刺せば死ぬ。それだけのものでしかなかったのかもしれない。

 

 博愛ではなく無慈悲が平等性を得るとは、何とも皮肉だ。でもその見方ができるのが、神という存在なのかもしれない。

 

 深く溜め息をついたアーウィンは椅子に深く腰を預けた。

 

「もうすぐ着くだろう。間違っても、オーク達を魔獣呼ばわりしないでくれ。君だって余計に事は起こしたくはないだろう」

 

 窓から顔を出すと、遠くに家々の影が朧気に見えてきた。

 






そーどあーと・おふらいん えぴそーど10


キリト=キ
アスナ=ア


ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」

キ「解説のキリトです」

ア「さあ今回は新キャラ登場よ! 新キャラ!」

キ「ああ。今回登場した赤い飛竜は今後も重要キャラとして出していくつもりだから、皆よろしくな。あと名前もあるんだけど、まだ登場して間もないから後ほどのお楽しみだ」

ア「ちなみに作者は赤い飛竜のデザイン画を描く予定だったそうですが、ドラゴンをどうしても上手く描けなくて断念したそうです」

キ「まあイラストに時間かけて本編の原稿が遅れたら良くないからな。ただでさえ更新が遅いのに尚更読者さんを待たせたくないって判断だから大目に見てくれ」

ア「ビジュアルは『ドラッグオンドラグーン』ていうゲームに出てくるレッドドラゴンとまんま同じなので、気になった方は検索してみてください」

キ「適当だなおい!」

ア「あら、作者は最初から元ネタと同じデザインで描く予定だったそうよ」

キ「それってもうパクリじゃん!」

ア「失礼ねオマージュよ。元々ドラゴンが出てくるのが書きたいから本作はアリシゼーション編が舞台なのよ」

キ「ドラゴンが出てくるのって、もっと王道なファンタジーじゃないか?」

ア「アンダーワールドは仮想世界だけど作中人物の視点から見たら紛れもない剣と魔法のファンタジー世界よ」

キ「王道は?」

ア「作者にとっては王道です!」

キ「どこがだ! 思いっきり邪道を突っ走ってるじゃんか!」

ア「この作品はね、アニメや漫画やラノベといったエンタメが飽和状態にある今のご時世に、王道とは何かを問いかけるのもテーマにあるのよ」

キ「少なくとも主人公が人殺しでヒロインが性被害者な作品は王道とは言えないだろう………」

ア「原作だってキリト君は殺人やっちゃってるし、わたしだって須郷にヤられかけたわよ」

キ「何だろ、本当に王道が分かんなくなってきた怖いわ」

ア「今はコンプライアンスが厳しいんだから、こういうインディーズな場で発表できる作品でこそエッジを利かせないと。主人公はヒロインはこうあるべきなんてマニュアル作っちゃったら似たような作品が量産されて、それこそエンタメ業界の衰退よ」

キ「いや一理あるけどさ、本作に関しちゃエッジ利かせすぎじゃないか?」

ア「作者曰く賛否両論あるくらいが理想的みたいね」

キ「やり口が炎上系ユーチューバーと同じだ………」

ア「炎上系と一緒くたにされるのは心外ね。あっちは称賛と非難が1:9だけど、本作が目指す比率は5:5よ」

キ「そんでも半数に喧嘩売ってるんだな………」

ア「問題提起ってやつよ」

キ「もう倫理から外れない程度に好きにやっちゃって………」

ア「さあ新キャラも登場して、また更に新キャラが登場する予定です。今後も目が離せませんね!」

キ「作者も今後は更新を早めるつもりみたいだから、読者の皆さんも楽しみにしてくれよな」

ア「それじゃ、また次回!」

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