ソードアート・オンライン パラダイス・シフト   作:hirotani

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第11幕 シェイディ・ヴィレッジ

 

   1

 

「いやはや、お客人とはいつ振りでしょうな」

 

 村長のモレノと名乗った人族の中年男性は、朗らかにわたし達を自宅に招いてくれた。オブシディアでよく見かけた石造りの家だが、中は暖炉が焚かれているお陰で冷えずに済む。

 

 暖炉の中を凝らして見ると、揺らめく火も燃料の薪も見当たらない。炉の中に鎮座しているのは、赤熱した大振りの鉱石ひとつだけだった。

 

「熱素を込めたカンテラ石ですよ。珍しいですかな?」

 

 わたしの好奇心に気付いたモレノ氏が、お面白そうに笑う。「ええ、まあ」とわたしは曖昧な返事しかできなかった。男というものに関心を向けられると、どうにも身構えてしまう。

 

 促されるままソファにアーウィンと並んで腰かける。

 

「急に押し掛けてしまって申し訳ない」

 

 アーウィンの謝罪にモレノ氏は「いえいえ」と笑いながらかぶりを振り、

 

「お客人はいつでも大歓迎ですよ。何せ小さい村ですから、外の土産話ひとつでも聞かせてくれたら村の者にとっては良い娯楽です」

「外部との交流は?」

「商人が月に1度だけ。出来ることならもっと頻繁に来て欲しいものですが、あちらとしても客の羽振りが良い都市部のほうに流れてしまうようでしてな」

「どこの集落も厳しい状況のようですね」

「その通り。こんな辺鄙な地では、人界からの食糧支援も行き届いてきません。わたし達が訪れたときには、飢饉でオーク達が全滅する寸前でした」

 

 モレノ氏の妻だろうか、中年の女性がカップを乗せた盆を運んできた。わたし達それぞれの前に「どうぞ」と控え目に置かれたカップの中身が湯気をくゆらせている。モレノ氏とわたしとアーウィンの3人分。この場にいないあの黒装束の男は、今頃村を散策していることだろう。

 

「熱いうちにどうぞ。人界産のシナルモ茶です。砂糖はいりますか? 生憎ミルクは出せませんが」

 

 「いや、結構です」とアーウィンは断りを入れつつお茶を啜る。わたしもそれに倣ってお茶をひと口飲むと、熱いはずが冷気のようなひんやりとした感覚が舌を刺激し、危うくむせ返りそうになった。

 

 わたしの反応にモレノ氏はさぞ愉快そうに笑い自分のお茶を飲んでいる。

 

「面白い味でしょう? 人界の茶葉は土地によって味が違うそうですよ。しかもどれも美味いときた」

「人界産というだけで、値は張るでしょうね」

 

 若干皮肉を交えながら、アーウィンは再びお茶を啜る。あまり慣れない味だからか眉間に微かな皺を寄せていたけど。

 

「そうえいば、トルソ村は元々オーク族の集落だったと聞いていますが」

「ええ。私たちは、異界戦争後に退役した商工ギルドの私兵部隊です。五族平和条約が締結されてから、おいそれと戦も出来なくなりましてね。早々に見切りをつける形で、ギルドを抜けた者たちで新天地でも開墾しようかと土地を探していたときに見つけたのが、この村です」

「随分と思いきりましたね。終戦直後はどの村も働き手を一気に失って困窮したと聞きますが」

「まあ、戦争で大勢が犠牲になりましたから。仰る通り種族、ギルド、村問わずどこも人手不足です。我々の持ち込んだ物資で再建に協力すれば、オークの者たちも受け入れてくれるのでは、という期待を持ってのことですよ」

「それで、見事に村を再建してみせたと」

 

 モレノ氏は照れ臭そうに顎髭を撫でた。

 

「いやいや恐れ多い。オーク達は私たち人族に友好的ですから、そのお陰で滞りなく復興できたのですよ」

「リルピリン族長の勅令、ですか」

「ええ、緑の剣士が人族だったという理由だけで、彼らは私たちに歩み寄ってくれました。その誇り高さは、人族以上かもしれませんな」

 

 お茶を啜ると、モレノ氏は「ああ、いかんいかん」と思い出したように、

 

「久々の客人につい長話をしてしまいました。それで、アーウィン殿は一体ここへ何の御用で?」

「ああ失礼、私もつい忘れてしまうところでした」

 

 相手のおとぼけに合わせてアーウィンも微笑を零す。

 

「先ほど商人が月に1度来ると聞きましたが、商人は商工ギルドの者ですか?」

「ええ、そうですが」

「商品はどんな物を?」

「殆どが食料品です。人界と提携しているとかで人界産の野菜や果物も売ってくれますが何せ高値でしてね、多くの者がオーガ産のイモばかり買います」

「建物用の資材とかは? 例えば、壁に塗る土とか」

 

 尋問じみたアーウィンの声音に、モレノ氏も流石に違和感を持ったようだ。

 

「アーウィン殿、一体私に何を疑っているのですか?」

「そうですね。回りくどい訊き方をしてしまい失礼しました」

 

 アーウィンは懐から少し焦げ付いた羊皮紙を取り出して広げる。

 

「この村にミニオン用の粘土が輸送される予定だったそうです」

 

 モレノ氏は羊皮紙を食い入るように見つめる。

 

「送り主は……ローズール? あのローズール伯爵ですか?」

「同じ商工ギルドに居たのなら、面識は?」

「いや全く。私はギルドでの序列は下位でしたから。ローズール伯爵など雲の上の存在です」

「では、交流はないと」

「ええ。それにミニオン用の粘土など、何故この村に送られるのか私が驚いています」

「村民に元暗黒術師は?」

「いません。この名簿も書き間違えか、同じ名前の村なのではないですか? 戦後は村を開拓する動きも活発になっていますから、似た名前の村も増えているのかも」

「そう、かもしれませんね………」

 

 ここまで頑なに否定されれば、アーウィンにこれ以上追求する余地はない。あの男を使って拷問し吐かせるという手もあるだろうが、それはローズールのように確証のある相手じゃないとただのいわれのない暴力になってしまう。

 

「わざわざご足労いただいたのに申し訳ない」

 

 そう言ってモレノ氏は笑った。よく笑う人だな、とわたしは思った。商工ギルド出身だからか、客に対する礼儀としての笑顔を心得ているようだった。良くも悪くも他の表情を隠す儀礼的なものに見えてならないのは邪推だろうか。

 

 人は嘘を吐かないと多くの者が信じるだろう。根拠は法で嘘を吐いてはならないと定められているから。帝国基本法、村の掟、司令官の勅令。色々な法を辿った頂点に位置する禁忌目録において虚偽についての法が明記されている以上、人々はそれが順守されるものだと信じる。

 

 それはまさに、自分たちを護ってくれる神のように。

 

 わたしが法の順守をどうしてもまやかしと感じてしまうのは、ひとえにわたしが神というものを信じていないことに他ならないのだ。

 

 モレノ氏はまた笑う。

 

「せっかくいらしたんです。くつろいでください」

 

 

   2

 

 村の中央にある広場――広場といっても何かがあるわけでもない。ただ何もない、村で最も広い吹きさらしの空間――で、セツナは無感情な顔で村の様子を眺めていた。

 

 彼の目は監視しているかのような険しさだったけど、通りを行き交う村人たちの方も人界人の白い肌を持った黒装束の来訪者を不思議そうに一定の距離を保ち見返している。傍から見たらセツナの方が監視されているようで、どこか滑稽だった。

 

 こういった不要な警戒心を周囲に抱かせてしまうところが、村長の屋敷に連れて行かなかった理由だ。常に不穏な雰囲気を放つこの男がいるよりも、女ふたりの方が先方も警戒を緩めるというアーウィンの判断だった。

 

「無駄足のようだ」

 

 アーウィンの簡潔な報告に、セツナは「そうか」とだけ返す。試しにわたしは訊いてみる。

 

「あなたは何か分かった事ある?」

「いや。ここで待っていただけだからな」

 

 こっちもまた簡潔な報告。アーウィンはこれに苦笑した。

 

「まあ君に調査の才があるなんて期待はしていないがね」

「下手に探りを入れたらかえって怪しまれる」

「一応配慮はしてくれたのか。助かるよ」

 

 彼なりの配慮か単に面倒だったのかは別として、改めて村の様子を見渡して見る。

 

 普通の村だ。煉瓦を積み上げた家々に、通りを行き交う農具を抱えた人々。村人の多くは畑作をしているらしい。その行き交う人に、人族とオークの区別は感じられなかった。オークは人族に道を譲らなければならないとか、そんな隷従しみたものは伺えない。

 

「ミニオンも暗黒術師も、今のところは影も形もないな」

 

 アーウィンが溜め息交じりに呟いた。

 

 ミニオン。それが何なのかは村への道中で彼女から説明を受けている。暗黒術師が土から生み出す疑似的な生命体。意思なんて無いに等しく、主の命令に従うだけの土人形でしかない。肉弾戦では不利になりがちな暗黒術師ギルドが尖兵として編み出した術らしい。

 

 とはいえ、見た目は人を模した醜悪な姿と評したアーウィンにとって、あまり良い印象ではないそうだが。異界戦争では暗黒術師たちによる大量のミニオン部隊で人界へ攻め入る作戦があったのだが、人界整合騎士の大規模神聖術によって術の発動前に潰されてしまった。

 

 上空より飛竜に跨り味方を屠っていく整合騎士の姿をアーウィンは目撃したのだが、不死の化け物と聞いていた話には不相応に美しい、黄金の髪と鎧を纏った女騎士だったらしい。

 

“その美しさが、かえって恐ろしかったがね”

 

 当時まだ少女だったアーウィンにとって、その恐怖はどれ程のものだっただろう。後から知った事だが、その金の髪の整合騎士こそが、ベクタ帝が所望していた《光の巫女》だったらしい。ベクタがその女騎士を手に入れてどうするつもりだったかは、当人がいない今となっては分からない。

 

 ただ、闇の神または皇帝と称されたベクタが、黄金の“光”を求めていたというのは皮肉なものだ。

 

「どうする。ここを出るのか?」

 

 セツナが訊いた。アーウィンは「いや」とかぶりを振る。

 

「2、3日ほど調査してみよう。幸い村長も協力的だからね」

 

 

   3

 

 テーブルに隙間なく並べられた料理は見栄えこそ色彩鮮やかだ。主にイモが多い。ふかして潰したイモを少ない野菜と和えたサラダ。粗めに潰したイモを成形した小判焼き。具が大振りなイモと豆のスープ。

 

「さあ、遠慮なくどうぞ。イモばかりですが、飽きないよう味の変わり種は豊かですぞ」

 

 グラスを掲げたモレノ氏に、わたし達も同じように自分のもとに置かれたグラスを持つ。食事を始める際にグラスを当てて鳴らすのが、ならわしというものらしい。

 

 控え目にかちゃん、と音を立てたグラスの中身は少し黄色みがかった半透明の液体なのだけど、ひと口含んでみると喉が焼けるような感覚が突き抜けた。

 

「この酒もイモで作られたのですか?」

 

 酒に強いのか顔色ひとつ変えないアーウィンが訊くと、モレノ氏は昼間のお茶の時と同じく愉快そうに笑った。

 

「その通り。痩せた土地でもイモは逞しく育ってくれます。酒にでもしなければ勿体ない。まあ、味のほうはご愛敬といったところですが」

「いえ、美味しいです」

 

 そう言ってグラスの中身を一気にあおるアーウィンに、モレノ氏はさぞ愉快そうに瓶を取りおかわりを注ぐ。

 

 濃い味付けのイモ料理を肴にちびちびと酒を飲みながら、わたしは忌まわしい故郷での酒を思い出した。作物なんて碌に取れなかったから酒を作る余裕なんて無い。だからウンベールから気まぐれに秘蔵のワインを与えられると、領民たちは酒瓶1本でお祭り騒ぎになるほど喜んだものだった。

 

 貧しい者に1杯の酒は腹と心を満たしてくれる。その満腹がほんの一時の幻想だったとしても、幸福を与えてくれる酒という神の雫はどこの土地でも重宝されるのだろう。

 

 ただわたしのまだ幼い舌では酒の有難みを感じることはできない。隣のセツナも酒を飲む年齢だと思うのだが、相変わらず無表情のままグラスを傾けている。

 

「いやあ大したものですな。その若さで活動を興すなんて」

 

 すっかり上機嫌になり頬を上気させたモレノ氏に、アーウィンは苦笑を返す。

 

「大それたことではありません」

「いや、素晴らしいことです。騎士団に居続ければ安泰だったのに信念を取ったのですから」

 

 オブシディアを拠点としている五族支援団体。それがわたし達の身分ということになっている。人界からの食糧支援が十分に行き届いていない現状を伝えるべく、各地を視察し嘆願書を近く統一会議へ提出するという設定だ。

 

 その設定通りに思考しこの村に評価を下すとしたら、まずこの食卓から支援は必要なしだろう。濃い味付けでもイモの土臭さは完全に抜けてはいないけど、十分食べられる味になっている。むしろ酒を作れるなら裕福な方に区分されるのではないだろうか。

 

「私は、ただ見て回るだけです。飢えている者たちの腹は満たせませんから」

「それだけでも、人々にとっては救いとなります。何もしないよりは、する方が断然尊いものですから」

「私の行動が実際に実ってくれたら良いのですが。まだ何の結果も出ていないので、この先どうなることやら」

「どこも先行きは不安でしょうな。この村も今はイモの収穫で賄っていますが、いつ地力が枯れてしまうか分かりません」

「暗黒界がどこも、似たような状況なのですね」

「ええ。深刻さは実際に見てきたアーウィン殿の方が詳しいでしょう」

 

 ふとわたしは、この村長はアーウィンにすり寄って支援を要求しようとしているんじゃ、と思った。元とはいえ商工ギルドにいた身だ。利益ある所に群がろうとする習性は残っているだろう。アーウィンから金の匂いを感じ取っていたとしても何ら不思議はない。

 

「モレノ村長がいれば、ここは心配なさそうですね」

 

 アーウィンもそのがめつさに気付いたのか、やんわりとそう告げる。「買いかぶり過ぎです」とモレノ氏は笑った。お世辞と気付かないほど、まだ彼も酔ってはいないだろう。

 

「お、やっと来ましたな」

 

 夫人が運んできた大皿にモレノ氏が頬を綻ばせる。台所から運ばれてきたそれがテーブルに置かれた瞬間、湯気と共に運ばれてきた臭気にわたしは思わず鼻を手で覆ってしまった。

 

 料理は肉だった。焼いて滲み出た肉汁と脂が照りついている。こんなご馳走があるのなら尚更支援など不要だが、そんな冷静な思考をすぐ打ち消してしまうほどに臭い。甘ったるい腐敗臭とか酸っぱい発酵臭とはまた違う。獣臭というものか。魔獣の肉も臭みが強いが、この肉はそれを遥かに凌ぐ。

 

「失礼ですが、これは生焼けではないですか?」

 

 アーウィンが訊いた。鼻をおさえてこそいないが、笑みが引きつっている。本来なら腐っているのでは、と訊きたいだろう。生焼けという発言は彼女なりの気遣いだ。

 

 「どれどれ」とモレノ氏はフォークで肉をひときれ刺して躊躇することなく口へ運んだ。噛む毎に溢れ醸し出す肉汁の臭いが咥内に充満するのは容易に想像できるのだが、モレノ氏は涼しい顔で咀嚼し飲み込んでしまった。

 

「しっかり火は通っていますよ。皆さんも遠慮せず食べてください」

 

 とはいっても、臭気のせいですっかり食欲が削がれてしまった。吐き気すら催す。アーウィンとセツナも同じらしく、ふたりともフォークを取る気配すらない。アーウィンが恐る恐る訊いた。

 

「これは何の肉なのですか?」

「魔獣の肉ですよ。確かに臭いはきついですが、慣れるとやみつきになりますよ。酒のあてには最高です」

 

 とモレノ氏はまた肉を口へ運び酒のグラスをひと口。食文化は種や集落それぞれだ。虫を食べる地域だってあるし、文化は否定されるべきものじゃない。だとしても、この肉は倫理観を押し潰してしまうほどに臭いのだ。こんなもの食べるくらいなら何故イモで満足できないのか。

 

「食べませんか?」

 

 厚意なのは違いないだろうが、わたし達は誰もそれに応えられそうにはない。「さあ」とモレノ氏はセツナの方へ皿を寄せる。

 

「ええとセツナさんでしたかな。肉は力を付けてくれます。仕事は身体が資本なのですから体力を付けませんと。そのような細腕ではアーウィン殿に逆に守られますぞ」

 

 護衛という説明を信じ切っているモレノ氏の標的にされたセツナは、ただでさえ悪い人相を更に険しくした。わたしは思わず身構えてしまった。料理が臭いというだけで剣を抜いて殺してしまいそう。そんな馬鹿な真似をする者はまずいない。だがセツナはやってしまいそうなのだ。

 

 胃から込み上げてくるものを飲み込むように結んだ口を、セツナは開いた。

 

「俺はヴィーガンなんだ」

 

 その古代神聖語に、テーブルについていた者全員が表情に疑問符を浮かべた。「何だそれは?」とアーウィンが小声で訊くと、セツナも何故分からない、と言いたげな顔で答える。

 

「菜食主義だ」

 

 なるほど、その言い訳があったか。言葉自体は知っていても馴染みがないからすっかり忘れてしまっていた。そもそも慢性的な食糧難の暗黒界において、肉を食べないなんて選り好みをしている余裕はないのだ。こんな言い訳にモレノ氏が納得してくれたのも、セツナの容姿が食糧に困らない人界人だったからだろう。

 

「ほお、確か人界にはそういう方もいるそうですな。動物も人と同じステイシア神の創りたもうた命なのだから殺すべきではないとか」

「我々からしたら、とんだ皮肉ですね」

 

 アーウィンが堪えきれない笑みを漏らした。動物を殺すなと主張する男が実はつい先日も人を大量に殺していたなんて、何て趣味の悪い冗談だろうか。

 

「いやあ私も以前、整合騎士殿からその話を聞いた時は信じられませんでした」

 

 モレノ氏の何気なく発した世間話に、アーウィンは身を乗り出す勢いで質問を飛ばした。

 

「整合騎士とは、人界の整合騎士ですか?」

「ええ、そうですが」

「整合騎士がこの村に?」

「統一会議の大使として月に1度、村に来るのです」

 

 

 「そうですか」とだけ返し、アーウィンは酒を口に含んだ。この時わたしは、人界からの視察が来るのならこの臭い肉の問題を早期解決してほしい、とうんざりしていた。けど、事はそんな単純ではなかったらしい。

 

 

   4

 

 辺境の村だから宿屋なんて商売が成立するはずもなく、そうなると必然的に教会がたまに訪れる旅人の休息所になる。

 

 そういった事情もあり、モレノ氏が話を付けてくれた村唯一の教会は快く空き部屋を寝床として提供してくれた。3人同室なのかと思ったら、それぞれに個室をあてがってくれた待遇の良さにわたしは深く感謝した。

 

 教会は戦前ではベクタを祀っていたそうだが、戦後になってから安置されていたベクタの像は若草1本を植えた鉢に挿げ替えられていた。

 

「これは我ら一族を救ってくださった《緑の剣士》の没した地に生えた草花の1本です」

 

 瑞々しい緑を色付けた草を眺めていたわたしにそう語りかけてきたのは、オークの司祭だった。かつて会ったことのある妻子を殺された彼がそうだったように、オークは種として言葉の発音が拙い。だが司祭は職業柄よく口を使うからか、流暢に言葉を紡いでいた。

 

「この教会に移して10年、水もソルスの光も与えていないのにこの草は天命を保ち続けています。どうです、美しいでしょう」

 

 たったの1本。木でも花でもなく草。それでも確かにそれは美しかった。穂が揺れる度に、辺りに生命力のようなものを振り撒いてくれる力強さが感じられた。

 

「緑の剣士、リーファ様は言葉を通わせる我らオークもまた人と認めてくださいました。そして一族を外なる敵から護り、その命を散らしたのです。この草はリーファ様の天命を授かった尊きものなのです」

 

 慣れた口調で語る司祭の言葉を聞きながら、そのリーファという英雄はよほど慈愛に満ちていたのだろう、とぼんやり考えていた。

 

 同じ言葉と同じ容姿の紛れもない人族であっても、同族とみなさず虐げる者は確かに存在する。同族だから好意を抱くのではなく、同族だからこそ主従をはっきりさせたがる輩がいて、法を傘に支配体制を厳重に組み立てていくのだ。

 

 同じ人同士だと区別が付け難いから、身分という肩書きで従うか従わせるかの基準を設ける。平等なんてものはない。それは学のない大衆を騙すための方便でしかないのだ。

 

 リーファはそういった欲とは無縁だった。同じ言葉を話すオークを同族であり友とした。亜人と蔑まれてきた歴史を想像するのに容易いオーク族にとって、自分たちの尊厳を肯定した英雄の存在はどれほど崇高なものだっただろう。

 

 他人事ながら、英雄が死んでしまったことは残念だ。もしリーファが戦争を生き抜いたら、この世界は今よりもましになっていたかもしれない。

 

 もし生きていたとしても、腐敗していく世界に見切りを付けていた可能性もなくはないが。

 




そーどあーと・おふらいん えぴそーど11


キリト=キ
アスナ=ア


ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」

キ「解説のキリトです」

ア「さあ今回は人族とオークが共存するトルソ村のエピソードよ。冒頭の変な味のお茶に臭い肉とか、独特の食文化のある村ね」

キ「因みにシナルモ茶はシナモンティーに似た味なんだ」

ア「そういえばアンダーワールドの食文化って、あまり原作じゃ深堀りされなかったわよね」

キ「基本的に現実世界と変わらないからな。人界編での舞台だった北帝国は欧米と似たパン食文化だったから」

ア「地域によって違いとかはあるの?」

キ「勿論あるぞ。ここからはあくまで本作オリジナル設定だけど、人界の国は東西南北で分けられているから、それぞれの国特有の文化があるんだ。例えば西帝国は北と同じ欧米だけど地中海みたいな海鮮が豊富で、東帝国は東アジアみたいな米食。そんで南帝国は南米みたいな亜熱帯地域でイモ食文化って設定なんだ」

ア「ふーん。麦とかお米とかイモとか、それぞれの土地で採れる食材が違ってくるのね。そういえば西は地中海風って言ってたけど、アンダーワールドって海あるの?」

キ「そこは作者も気になったところで、原作に載ってたアンダーワールドの世界地図によると海はないんだ」

ア「じゃあ塩とかはどうしているの?」

キ「西帝国に塩水の湖があって、塩はそこで生産されてるんだ。湖からは現実世界でいう海水魚が獲れるから、シーフードが充実してるってこと」

ア「ダークテリトリーは?」

キ「岩塩で賄ってるって設定にしてあるな。とれる量が少ないから塩でも貴重だけど」

ア「そういえば劇中で肉だされた時にセツナが菜食主義って設定になってたけど、アンダーワールドにも菜食主義とかあるのね」

キ「あるぞ。原作でも、俺がルーリッドの教会で厄介になってた頃の食卓は殆ど野菜中心だったのが元ネタになってるんだ。まあ菜食主事っていうより、シスターや司祭が贅沢を控える修行目的ってところだな。僧侶の精進料理みたいな感じで」

ア「ダークテリトリーは、確かオブシディア煮っていう料理があったわよね?」

キ「ああ、あれは癖になる味だったな。劇中でナミエが何度か言及してたけど、食糧難のダークテリトリーじゃ食える物は何でも食うって感じだからその辺にうろついてる魔獣の調理法も普及してるな」

ア「何か変なもの食べてそうよねあっち側の人たち」

キ「えーと作者曰く、ダークテリトリーじゃ魔獣の他にも虫とか土とか、あと保存食として肉や魚を殆ど腐るまで発酵させる食文化があるらしい」

ア「うわゲテモノじゃない。趣味悪いわあ虫とかわたし無理い」

キ「よその食文化を悪く言うなって。あと作者によると人界でも一部地域じゃ犬とか猫を食うってことになってるらしいぞ。どこかは具体的に決めてないけど」

ア「ああ分かったわ、趣味が悪いのは作者の方ね!」

キ「それに関しては同意だ……。あと俺は日本食に近い東帝国の料理が好みで、卵かけご飯食ってたら整合騎士たちにドン引きされたエピソードが裏設定としてあるらしい」

ア「現実でも卵の生食文化は日本だけって言うものね。衛生大国ならではの文化ってことね。あ、それと作者の中じゃキリト君はダークテリトリーによくお忍びで昆虫料理食べに行くことになってるみたいよ」

キ「おい作者! なんつー設定足してんだ‼」

ア「何でもタランチュラの卵がお気に入りだとか」

キ「作者の中で俺はどうなってんだよ!」

ア「肉食じゃないの? 何人も女の子はべらせてるし」

キ「それ食の趣味じゃないから女の子の趣味だから! てか俺は女たらしじゃない‼」

ア「そういった風評被害はハーレム系主人公の宿命ってやつよ。受け入れましょう」

キ「読者の皆さんは本作の設定が必ずしも原作準拠な設定じゃないってことを忘れないでね。俺そんな酷い男じゃないはずだから。原作じゃ割と王道の主人公だから!」

ア「読者さんたちは原作に足りなかった毒の要素を本作で楽しんでください」

キ「何かこれ以上話を展開させたらどんどん俺のトンデモ設定が追加されそうだから今回はここまでだ。それじゃまた、次回をお楽しみに!」

ア「ばいばーい」

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