ソードアート・オンライン パラダイス・シフト 作:hirotani
1
そこへ近付くにつれてまだ正体を知らない騎士は臭いに顔をしかめるに留めていたけど、既に何があるか知っているわたしは再び込み上げる吐き気を堪えるのに必死だった。
戦いで破壊されてはいたけど、肝心な箇所はまだ残っていた。ぽっかりと穴の空いた地下室は換気が行き届いているけど、それでも強烈な臭気は鼻をつく。
両手を縛られた騎士は鼻を押さえるのも叶わず、あまりの臭さに咳き込んだ。
「ここは食糧庫か。酷い臭いだな。腐ってるんじゃないのか?」
なんて呑気なことを言いながら、騎士は地面に散らばった家畜らしきものたちの肉を眺めている。その間、わたしは解体前の人たちが押し込まれていた牢屋を見ていた。
鉄格子はアーウィンが破壊したから、奥にはもう誰もいない。自由になれた者たちの反応は一様とは言い難かった。歓喜する者もいれば、戸惑う者もいた。外で二度と会えないはずだった我が子を抱きしめ涙する者や、これまでの恐怖がぶり返して赤子のように泣き出す者もいた。
「まさか……!」
肉の容貌で何となく騎士も察しがついたらしい。皮を剥がれ内臓を抜かれてはいるけど、でっぷりとした体躯は獣のものとは明らかに違う。
「有り得ない! こんなことが――」
「現実だよ」とアーウィンは冷たく言い放つ。
「この村はオークを家畜として食っていた」
「そんな……、私は何度もここへ視察に………。モレノ村長から村のことを詳しく………」
「その村長が人界から落ちぶれてきた貴族だったことを、君は知っていたか?」
「人界の貴族?」
「一等爵家のモレノ・シーキュカンバー。その妻は暗黒術師のイー・ジェイ・エム。何度も村に来ておきながら知らなかったのか?」
騎士はもう涙目になっていた。それでもアーウィンは容赦がない。
「信じられないか? これが現実だよ」
「知らなかったんだ……。私は何も――」
「知らなかっただと? 知ったつもりでいただけだろう!」
我慢の限界だったのだろう。怒鳴ったアーウィンは無造作に騎士を突き飛ばす。
「これは君の怠慢が起こしたことだ。自分が、自分の属するものが正しいと信じ込み疑わなかったツケが巡り巡ってこうなったんだ」
熱くなったことを自覚してか、アーウィンは深呼吸した。少しばかり落ち着いた口調だけど、やはり収まり切らないものがあるのだろう。
「視察も支援のためという名目だったのだろうが、人界統一会議の支援などいつも上辺だけだ。肝心なところは目を背け、救うべき者たちを救わない。同胞のはずの人界人でもな」
「それは、どういう……」とがらんどうに訊く騎士に、アーウィンは返答代わりにわたしへと視線をくべる。
「そこにいる彼女も、貴族の慰み者にされていたんだ」
騎士が見開いた目でわたしを見上げた。まるでおぞましい魔獣でも見るかのような目で、わたしは耐え切れず目を背けた。すぐにアーウィンが「済まない」と抱きしめてくる。
「君を引き合いに出すつもりはなかった。それなのに………」
微かに涙声になっていたアーウィンに、わたしは何て言葉を返せばいいか分からず無言のままだった。自分が汚れてしまった存在であることはとうに分かっていたことだ。
わたしがこの惨状にアーウィンのように怒れないのは、食べられていたオーク達と同類だったからだ。権力者に弄ばれ天命を握られていた者の虚無は、理解できてしまう。
2
「システム・コール――」
式句を唱えると、かざした手の先に小さく光が灯った。優しげな小さい光が目の前にあるカンテラ石に触れると、一気に暴力的な赤へと燃え上がる。
初めて神聖術で火を起こすことができた記念的瞬間なのだけど、それ以上にほんの微かな熱素で炎を燃やす鉱石の便利さに意識が向いてしまう。
それに興味をあまり持てないのも、今日の二度もあった戦いに疲弊していたせいだろう。誰もが疲れていた。アーウィンもわたしも、襲撃してきた騎士も、あまり疲労を顔に出さないセツナでさえ。いや、戦いを請け負っていたのはセツナだから、彼が疲れるのは当然だ。
最も憔悴した表情を浮かべていたのは、整合騎士ユーリィ・シンセシス・トゥエニワンだった。もはや抵抗の意思なしと判断され縄を解かれた彼女は背負った槍を再びわたし達へ向けることなく、呆然と目の前の炎を見つめ続けている。
村の倉庫から引っ張り出してきたイモを差し出しても、ユーリィは力なく首を横に振って拒否する。その様をアーウィンは皮肉るように、
「不老の整合騎士は食べる必要もないか」
「整合騎士だって飲まず食わずでは天命が減るし、眠りもする。天命が自然減少しない以外は、お前たちと変わらない」
反論する声にも力がなく、もはや投げやりに聞こえてしまう。死にもするんだ、だから殺してくれ、とでも言うように。
「なら何故食べない? 天命が減るぞ」
「食事が喉を通るのか? こんなところで」
周りには死体。半壊した地下室には食肉として解体されたオーク。確かに食欲を誘うような場ではないだろう。わたしだって少し時間が経って落ち着けてから空腹を覚えた。
「生憎、死体はもう見慣れている」
そう言ってアーウィンは火で炙っただけのイモを食べた。村の倉庫から引っ張り出してきたものだ。干し肉もあったけど、何の肉なのかは分かり切っているから手を出す気にはなれなかった。
「君だって異界戦争で死体は散々見てきたはずだろう?」
「戦争では山脈の警護にあたっていた。前線には出ていない」
「そうか……、戦時中の公理教会も一枚岩ではなかったようだな。最高司祭が死んで混乱していたんだろう」
「何故それを――」
そこでようやく、ユーリィの声に力が戻った。
「私の師が術で偵察していたんだ。術師ほどではなないが、暗黒騎士だって術の心得はある」
「戦前から、我らは盤石ではなかったのだな」
自虐気味に笑うユーリィだけど、同調の笑みを誰も零さないだけに尚更虚しさが漂う。
「私は裁かれるのだろうか?」
がらんどうにユーリィは呟いた。縋るような彼女の瞳に、アーウィンは口にイモを詰めながら冷たく答える。
「私たちが知るはずないだろう。はぐれ者なんだからな」
「なら私はどうしたらいい? どうすれば村人たちに償えるのだ?」
「人界の央都に帰って懺悔するがいいさ。そうすればお望み通り、代表剣士殿が君に罰を与えてくれる」
「それで、私は赦されるだろうか?」
「だから知らんよ」
ユーリィの視線がわたしへと移った。わたしに一体どんな答えを期待しているというのか。食われていたオーク達と似た立場として、被害者としてどう償ってほしいか答えを持ち合わせているとでも。
「罰も償いも意味なんて無い」
唐突に横から入ってきたのはセツナの声。完全に不意打ちだったから、わたしもユーリィも何も返せなかった。セツナは更に続ける。
「罪を埋め合わせるために何をしたところで、犯したことが消えるわけじゃない。償いと何かして赦されたと感じたとしても、それはただの勘違いだ」
ユーリィは息を呑む。
「それにあんたのしようとしてることは償いじゃない。自分のすべきことを他人に決めさせて責任を丸投げしているだけだ」
「知ったふうなことを!」
沸々とした怒りに身を任せて、ユーリィは槍の切っ先をセツナに向けた。咄嗟にアーウィンも剣を抜きセツナの前に立つ。まるで守護者だ。王または神に忠誠を誓った騎士。当のセツナが丸腰な姿勢を崩さないから尚更そう見えてしまう。
「貴様が償いを語るのか。この神をも恐れぬ殺人者が!」
「神は死んだそうだ」とアーウィンが代わりに答える。
「成すべき事は神に求めず己で考えよという意味らしい」
「ならそいつは何をもって償いとするのだ! そいつの言っていることはただの開き直りだ。裁きが免れないのなら何をしようと構わないと言っているようなものだ!」
「そりゃ、セツナは裁く側だからね。たとえ殺したとしても彼はそれ以上の者たちを救うのだから」
「何なんだこの男は! 一体何者だというのだ!」
「ベクタの迷子だ」と言い飽きたとばかりにセツナは答えた。「違うよ」とアーウィンが訂正する。
「神だよ。旧い神が死んだこの世界を正すために遣わされたのさ」
逡巡がふたりの間を駆け抜けていくようだった。ユーリィの眼差しがアーウィンとセツナへ交互に向けられていく。訳が分からない。表情からその言葉がすぐ理解できた。
「その男が神?」
「ああそうだ。ある意味で、彼を神として擁立することが私の償いなんだよ」
アーウィンの口から語られる罪と償いの弁を遮る者はこの場にはいなかった。
「私は師から意志を受け継いだ。だがそれを果たすどころか踏みにじられる不条理がこの世界には多すぎて、私ではどうすることもできなかった。知りながら何もできなかったのは私の罪だ。でもセツナなら私に成せないことを成せる。彼ならこの世界に1撃を与えられるんだ。民衆の目を覚ます1撃をね」
傍から見れば随分な心酔ぶりだが、アーウィンの目に狂気じみたものはない。彼女は正気だ。正常に働く頭でじっくり思考した後に、この結論へと達したに違いない。
「だから私たちの邪魔をしないでもらう。救済への道はまだ遠いんだ」
「救済……、それが奴の償いなのか?」
「償いに意味はない」とセツナは再度言う。
「俺は何故俺がここにいるのか、知るまでには死ねない。そこら辺の死体はその邪魔をしたから殺した」
「何て身勝手な……!」
「そいつらも身勝手に他人を殺し食った。同情なんてない」
深いため息をついて、ユーリィは黙った。言いたいことは喉元まで出掛かっていたのかもしれないが、もはや何を言っても無駄と諦めたのかもしれない。
「君は?」
ユーリィが問いを向けたのがわたしと気付くのに数瞬遅れた。完全にわたしは話題の外にいたから。
「君は何でこの者たちと一緒にいるのだ?」
わたしはアーウィンとセツナへ視線を向ける。ふたりは何も言わなかった。セツナはほぼ無関心といった顔で、アーウィンは好きに言えばいい、と何も強制してこない。
だからわたしはありのままに言った。成り行きではあるけど、どうしてこのふたりと共に居るのかを。
「正しい場所に行くため」
「正しい場所? それはどこに?」
ユーリィが訊く。「さあな」と無骨に答えたのはセツナだった。
「行ったら分かるかもしれない」
3
扉を開けると、溢れてくるのはたくさんの笑い声だった。人だろうと亜人だろうと関係なく、澱みや皮肉のない笑顔がそこにある。オブシディアへの長い帰路を経たわたし達に気付くと、子どもたちは乳歯の抜けた歯並びを恥ずかしげもなく見せながら寄ってくる。
アーウィンは大人気だ。次々と子ども達を軽々と抱き上げたり、肩車をしたり。降ろされたらもっと、とぐずりだす子もいる。中にはアーウィンの豊かな胸に小さな手を沈める子も。
わたしは大部屋の隅に目をやる。以前来た時と同じように、彼女はそこに座ったまま。わたし達という来客に他の子たちが騒いでいる様子に気付かず虚空を見つめている。
細い枯れ木のような手足も伸ばし放題の髪もそのままだ。まるで使い古された人形みたい。散々遊ばれた挙句、飽きられたら無慈悲に捨てられ後は朽ちていくまま。
「あの――」
近くで子どもの服を着替えさせていた職員に聞いた倉庫へ目的の物を取りに行き、大部屋に戻ってくると子ども達の興味はわたしの手にある物に集中する。
「何それ?」と舌足らずに言いながら寄ってくる子たちが足元にしがみ付いてくる。曖昧に下手な笑顔を返すと、わたしは喧騒を意識から追いやりバイオリンを奏でた。
わたしの手にある木から出た音色に驚いてか、あれほど騒がしかった子ども達の声が一斉に止んだ。本当にこの楽器は不思議だ。音を出すと皆を立ち止まらせ振り向かせる。絶世の美女みたいだ。ありとあらゆる人々を魅了し虜にさせ、時に不幸へと突き落とす。
でも不幸に陥るのは、邪な心と肉欲に溺れた者だけだ。美しさがそこにあることだけを望み、それ以上を望まない純粋な者が幸福を得られる。
そんな存在が、果たしてあるだろうか。無い、とわたしは知っている。そんなものはまやかしでしかない、と。だからバイオリンを弾くのだろう。せめて音楽だけは美しく在れ、と。邪な者には分からない、純粋な者のみが美しいと理解できる産物であってほしい、と。
ちらりと目をやると、部屋の隅であの少女が頭を揺らしていた。ずっと半開きだった口元から歯が覗いている。笑っていた。そう、彼女が笑ったのだ。
この事実を知っているのはわたしだけだった。施設の職員も、他の子たちも、アーウィンも気付いていない。わたしと彼女自身と、そしてバイオリンだけが知っていたこと。
演奏を終えると、子ども達は不思議な音を出す楽器に触れようと群がってくる。それを制止するのに職員もアーウィンも大忙しだった。すぐわたしが布に包んでその姿を隠すと、子ども達はすぐに別のものへ興味を移す。子どもの好奇心もまた忙しい。
隅の彼女は、元通り虚ろに座っているままだった。また弾けば笑ってくれるかな。そんな淡い期待を胸の奥に秘めながら、わたしの視界に入り込んできたのは子ども達と遊んでいる、というより遊ばれているユーリィの姿だった。
「君にあんな特技があったとは驚いた」
褒めてもらえるのは素直に嬉しいのだけど、マントにぶら下がられたり肩によじ登られ髪を引かれたりしているその出で立ちに思わず訊いてしまう。
「大丈夫?」
「何がだ?」
「いや、その――」
どう言ったら良いのか迷っていると、横からアーウィンが皮肉を飛ばす。
「整合騎士様も子どもの扱いは慣れないかな?」
「馬鹿なことを。子どもを抱いたことくらいはある」
「なら抱いてやったらいい? その子たちも騎士様に抱っこしてもらいたいみたいだよ」
気に障ったらしく、唇を引き結んだユーリィは髪をいじっている少年の首根っこを掴んで目の前に掲げてみせる。
「日頃から鍛錬を積んでいるのだ。子どものひとりやふたりくらい軽い」
「それは抱いているとは言わないよ」
呆れ顔をしながら、アーウィンはユーリィの手から子どもを引き取って抱きかかえる。
「こうして優しく、持ち上げるんじゃなくて腕に乗せるように抱くんだ」
「ほら――」とアーウィンが腕の中の少年を返そうとしたのだが、
「よせ!」
まるで汚いものでも寄せられたように、ユーリィは鋼で包まれた手で振り払った。突然の大声に驚いてか、少年が泣き出してしまった。慌ててアーウィンが身体を揺すり、背中を撫でてあやす。
目を背けたユーリィはマントを翻し、しがみ付いていた子が振り落とされるのも構わず足早に部屋を出ていった。
「まあ、あんな固い鎧に抱かれたとしてもこの子は泣いていたかもね」
皮肉を零すアーウィンの胸に抱かれて、少年は幾分か落ち着いたらしい。それでも泣き過ぎてしゃっくりを起こしているのだが。
わたしには気にかかるものがあった。手を振り払ったときのユーリィの顔。あれがどうしても、汚物を見るものには思えなかった。何か別の、彼女の心の奥深くにまで踏み込んだような――。
気付けばわたしはユーリィを追っていた。この好奇心の先に何があるのかなど、考えもせず。ここにいる子ども達のように、思い立ったらという衝動に身を任せ彼女を追いかけた。
でも探す必要はなかった。大部屋を出てすぐの、中庭にある長椅子のもとに彼女はいた。長椅子には既に先客のセツナが腰掛けていて、トルソ村から持ち帰ってきた大振りな剣を布で磨いている。身の丈ほどもあって、艶のない刀身はまるで鉄の塊みたいだった。
「済まなかった」
そうユーリィがか細い声で言ってようやく存在に気付いたのか、セツナは彼女を見上げる。
「何のことだ?」
「それは………、お前があの子らのために手を汚していたと――」
「それは違う。俺はただアーウィンに言われるまま殺していただけだ」
セツナは首元を見せる。飾り気のない首輪だけど、それは常に彼の天命を文字通り縛っている。
「それは?」
「術を唱えればこれが爆発する仕組みらしい。俺だっていつ死んでもおかしくない」
驚いたような、でもどこか納得したような表情をユーリィは浮かべていた。この男は首輪をして手綱を握っておかなければ、いつ牙を剥くか分かったものじゃない。その危険意識は共通しているらしい。
「確かにお前には必要かもしれないが、使えるのかそれは?」
「どういうことだ?」
「ダークテリトリーでも殺人は禁忌なはずだ。彼女はお前のように殺すことはできないんだろう?」
「じゃあ、これはダミーなのか?」
「ダミー?」
「偽物かもしれないってことだ」
ユーリィはセツナにじっと視線を注ぐ。彼女も気付いたようだ。あの男の話し方が、わたし達とは微妙に異なることを。
「ますますお前のことが分からない。代表剣士殿と副代表剣士殿も、お前のように古代神聖語をよく使っていた」
「そのリアルワールドというはどこにある?」
「分からん。騎士や司祭たちは天界のことではないかと噂している。副代表剣士殿はあまりの美しさにステイシア神の生まれ変わりと信じる者もいるんだ」
「天界とは、神の国とかそういう類の場所か」
「ああ、この世界を創造した神々の住まう世界だ」
「なら俺もその天界から降りてきた神か?」
「ふざけるな。貴様のような神がいてたまるか」
死神が何故法や禁忌に縛られることなく殺人を犯せたのか。伝説化された後世で、その問いに大半の者はこう答えている。
天界からやってきたから。
高位の存在たる天界から降りてきた神なのだから、この世界の法に縛られるわけがない。死神が従うべきは天界の秩序であり、殺めた者たちの末路は天界で決められた事なのだ、と。
神だから。その理由は実に便利だ。どんな奇跡の所業も、法から逸脱した行為でもそのひと言で片付いてしまうのだから。
「ふう」という溜め息にわたしが振り向くと、アーウィンが部屋から出てきたところだった。子ども達の相手で少し疲れたのか首を揉んでいる。
「済まなかった」
罰が悪そうにユーリィが言った。アーウィンはかぶりを振り、
「あの子のことならいい。無理強いした私にも非はある」
「そうじゃない。その……、君たちのことを誤解していた」
「誤解?」
「賊だと思っていたが、君たちにも事情があったのだな」
「そうか。その気付きを統一会議に持ち帰ってくれたら嬉しいね」
「でも」
ユーリィの口調が険しくなった。いかにも騎士然とした声で彼女は言う。
「君たちのことを認めるわけにはいかない。いかなる理由があろうと殺人は赦されざる行為だ」
「ならどうする?」
「私も君たちと同行する」
その言葉にアーウィンは「ほう」とだけ返し、セツナの方は無関心とばかりに剣の手入れを続けている。この男の場合、鬱陶しければ殺せばいいとか考えていそうだが。
「君たちが罪を犯そうならば私が阻止する。たとえ騎士の資格がなくても、それが私の使命だ」
宣言する整合騎士をアーウィンは見据える。かつては自身も同じ騎士だったという親近感からだろうか。向けられた想いを否定することなく、彼女の答えは「分かった」だった。
「どうしてもセツナを赦せないのなら止めればいい。私が君を止める。君にとって自分の行いが絶対的に正しいと思うのなら迷うことなく――」
そう、アーウィンも同じ騎士だったのだ。かつて抱いていた志や覚悟というものは、騎士団を去った後も彼女の裡に脈打っている。
「その時は私を殺せ」
言葉の重みに、わたしは背筋に寒気が走るのを覚えた。いくら整合騎士でも天命の全損はできないとか、そんな不遜なことをアーウィンは考えないだろう。
彼女には覚悟がある。ユーリィも同じく。わたしには何の覚悟もない。貫く想いというものがないのだから、当然ではあったのだけど。
「早速だが、次の目的地について私から提案させてもらう」
新参者に場を仕切られたことに特に不満もないらしく、アーウィンは「ああ」と頷く。
「私としては、ナミエを人界の故郷に返すべきと考える」
「わたし、自分がどこで生まれたのか知らない」
「人界の教会はどこだろうと身寄りのない子どもの面倒を見てくれる。そこで厄介になりながら探していけばいい」
ちらりとユーリィはアーウィンへと視線をくべながら、
「少なくとも君はここにいるべき人間じゃない。人界で生まれたのなら、そこが君の居るべき正しい場所だ」
「それに」と今度はセツナへと向く。
「その男が何者か、代表剣士殿に会わせてはっきりさせたい」
「だそうだが、どうする?」とアーウィンが当人に訊いた。セツナは剣を磨く手を止める。その目はいつも通り無表情なのだけど、やはりどこかで自身の過去を知りたいという想いがあったのか、少しばかり揺れ動いた気がした。
「ああ」とセツナは言った。
そーどあーと・おふらいん えぴそーど15
キリト=キ
アスナ=ア
クライン=ク
ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」
キ「解説のキリトです」
ア「今回はゲストが来てくれたわよ。どうぞ!」
ク「よう! 原作じゃキリトの兄貴分、愛の武士クラインでーす!」
キ「ようクライン、来ちゃったんだな………」
ア「クラインさん大丈夫ですか? 何か顔色悪いですけど」
ク「おうアスナ、心配ご無用だぜ。ちょっと本編とこのコーナーがやべえと聞いてただけだからよ。こんなもん武者震いだ」
キ「クライン、あんまり無理はするなよ」
ク「キリの字……、出番は欲しいがこんな登場はしたくなかった………!」
キ「耐えてくれ………!」
ア「もうふたりともしっかりしてよ。今回晴れてパーティメンバーが増えたんだから」
キ「ああ、そうだな。仲間って言えるかはともかくとして」
ク「にしてもこれの主人公、セツナだっけか。こいつの周りも女の子だらけだな。ナミエにアーウィンに今度はユーリィなんてよ」
キ「前回最後にアスナが本作はハーレムものなんて言ってただけに、このパーティは最初から決まっていたみたいだ」
ク「羨ましい、ていつもは言う所なんだが、セツナに関しちゃあんまり羨ましくねーな」
キ「うん、俺も………」
ア「えー何よふたりとも。美女たちを揃えているのに贅沢ねえ」
ク「いやでもよお、こいつら一触即発じゃねえか」
キ「確かに。関係性が複雑すぎるよな」
ア「セツナを神呼ばわりし始めたアーウィンに、セツナを悪人と断じるユーリィ。セツナを巡っていつおっぱじめるがわかったもんじゃないわね!」
ク「ないわね! じゃねーよこんなラブコメどこに需要あんだ!」
ア「乙女にとって恋とは戦いなのよ。わたしだって愛人たちと水面下で常にバトってるんだから。本作はそこを突き詰めた構成なのよ」
キ「どこ突き詰めてんだ!」
ア「作者曰く最初はお固く主人公の英雄譚として構想していたのよ。ただそれでプロット組んでいくうちに何か味気ないことに気付いたから、エンタメ性を重視してハーレム要素を入れる事にしたのよ」
ク「英雄色を好むっていうもんな………」
ア「流石クラインさん、分かってるわね!」
ク「いや分かりたくねえけどよ。何かラブコメなのに嫌な予感するのどっかで見た事あるような………」
キ「奇遇だな。俺も同じ事思ってたんだ。何かヒロイン同士殺し合いでもしそうな………」
ク「そのヒロイン同士が取りあう主人公がものすげークズなような………」
キ「それって………」
ア「スクールデイズね」
ク「それだー‼」
キ「ヤバい! とんでもない結末になる!」
ア「大丈夫よ作者はハッピーエンド保証してるから」
キ「こんな信用できないハッピーエンドがあるか!」
ア「長く付き合ってくれた読者さんに嫌な想いはさせない、て作者は始める前から決めていたんだから」
ク「収集つかねーだろこれ! どこをどう転んだらハッピーエンドになんだ!」
ア「さあ次回からはいよいよ人界編。セツナハーレムの行く末やいかに!」
ク「おい俺の出番ツッコミだけか!」