ソードアート・オンライン パラダイス・シフト   作:hirotani

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武器物語(ウェポンストーリー)

鉄塊剣(てっかいけん)

世界で最も巨大と称されたこの大剣は歴戦の猛者たちによって振るわれてきた。
巨大な鋼は時代を越え、世界を越えて血錆の赤を増していった。

一人目の猛者は竜と契約した王子だった。
二人目の猛者は「死」を失った騎士だった。
三人目の猛者は花を咲かせたウタヒメだった。
四人目の猛者は白の書を携えた人モドキだった。
五人目の猛者は己の心を殺し続けた機械人形だった。




第16幕 ファーゼスト・マウンテン

 

   1

 

 オブシディアから人界には1本の道で繋がっている。街道なんて整備されてなくただ荒野が広がっているばかりだが、人界への旅路を往く馬車や旅団が自然と一列に並ぶ。人々が荒野に転がる石や岩を退けていくうちに、一筋の道が形作られたのだ。

 

 《東の大門》が開かれて10年――更に述べればこの手記を書いている頃の20年、この人の列が途絶えたことはないらしい。大半が人界を目指す観光客や物資の輸出に勤しむ交易商だ。

 

 反対に人界から暗黒界に出る者は著しく少ないという。人界から来るのは食糧を積んだ公理教会のお役人たちくらいだ。わざわざ豊かな地から痩せた地に出る理由はない。人界で居場所を失わない限りは。

 

 どれほど時間が経とうが、暗黒界の民にとって人界が新天地という認識は薄れることがない。歴史の開闢から長くそこへ至ることが悲願とされていたのだ。たとえ用がなくても、暗黒界人ならば無条件に人界へ行きたいという願望を抱く。

 

「全ての道はローマに通ず、というものか」

 

 馬車の中でアーウィンから交流事情を聞いたセツナが放ったのは、そのひと言だった。どういう意味なのかわたしは分からなかった。きっとアーウィンとユーリィもだろう。それを察したらしく、セツナはそれ以上何も言わなかった。

 

 人界に行くにも手順が必要だ。オブシディア城の五族会議に往来の届出をしなくてはならない。名前、人数、入界目的、滞在予定日数を事細かく。その上でイスカーン総司令の署名を受け取ることで、晴れて東の大門を渡ることができる。その手続きだけでも1カ月は掛かるらしい。あまりにも申請が多すぎて処理が追いつかないのだとか。

 

 五族会議の承認を得ていない非合法支援団体のアーウィンを筆頭に、およそ善良な民間人とは言えないわたし達。申請を出しても許可が下りなさそうなこの集団がこうして馬車に乗り人界へ続く列に並ぶことができた理由はいたって単純。人界行きの旅団にいくらか払って馬車に乗せてもらっただけ。

 

 理由は訊かず自分たちを乗せてほしい。

 

 アーウィンがそう言って更に金額を上乗せすると、旅団の長らしき男は「乗りな」とだけ無愛想に言った。

 

 とはいえわたし達にあてがわれたのは貨物馬車だ。綿の詰まった革張りの椅子なんてなく、板張りの床に座り尻の痛みをどうやり過ごすかを考えなくてはならない。

 

 まっとうな道程でも旅は長い。何度か人界へ行ったことがあるという旅団のひとりに訊いたら、オブシディアから東の大門へ辿り着くまで早くても一週間は掛かるらしい。馬車を全速力で走らせたら短縮できるが、生憎道は行列で埋まっている。亀のようにのっそりと進むしかないのだ。

 

「これでも交易が解禁された当初よりはましだよ。その頃は皆こぞって人界へ行きたがってたから、道が渋滞して3日間立ち往生なんてこともあったらしいからね」

 

 とアーウィンは笑いながら言っていた。「そんなにか?」と訝しむユーリィに「整合騎士様には飛竜という特権があるものな」と皮肉を飛ばしていたが。

 

「そもそも、君は何故機竜なんてものに乗っていたんだ?」

「私の相棒だった飛竜の天命が尽きてな。代表剣士殿が性能検査も兼ねてほしいとあれを寄越したのだが………」

「とんだ(なまくら)だったわけだ」

「壊したのは貴様らだろう」

 

 ユーリィの半ば怒気を含んだ声に、流石のアーウィンも言い訳のしようがないらしく曖昧に笑いながら頬を掻いた。

 

 水と油のようなこのふたりが一緒に過ごしてもう5日経とうとしている。今にもユーリィが背負った槍に手をかけそうな殺伐さは薄れる気配がなかった。不安と尻の痛みの誤魔化しになるかは疑問ながら窓の外へ目をやる。

 

 目を細めなければ見えないほど遠くで梯子のようなものが横たわっている。とても長い。先が見えないほどだった。

 

「線路か。もう東の大門は近いな」

 

 わたしの背後から窓を見たユーリィが何の気なしに言った。「線路?」とわたしは訊いた。

 

「あの上に機関車というものを走らせるらしい。完成すれば、飛竜ほど速くはないが多くの物資や人を運ぶことができるみたいだ」

「その機関車って、どんなものなの?」

「巨大な荷台らしいが、どんな仕組みで走るのか私も代表剣士殿から話を聞いても全く理解できなかった。あの方のしようとしている事は我々の想像を遥かに越える」

 

 例えば、もし多くの食糧を一度に運ぶことができれば、支援の行き届いていない集落の人々の飢えを満たせるのかもしれない。満たされれば、この荒涼とした地の各地で起こっった――もしくは今も起きている――悲劇を防げたのかもしれない。

 

 少なくとも、村民を食らうなんて狂気は起こらなかったはず。

 

「人界にこちらの民を何割か受け入れてくれれば、あんなもの造る必要もないだろうに。人界はまだ土地に余裕はあるんだろう」

 

 アーウィンが棘のある声音で呟いた。そう、食糧支援は有難いことだが、移住者を受け入れてしまえば解決する事もある。人界側にとっても線路のような新規事業を始めるのなら、移住者を労働力として雇用できるのだから。

 

 「仕方がない」とユーリィがかぶりを振った。

 

「人界もまだ未開の地が多い。おいそれとそちらから移住者を受け入れたところで、住まわせる土地がないのだ」

「機竜やら機関車とやらを作っている暇があるなら、土地を開いて畑を耕すべきだろう」

「移住者を受け入れれば、移住できなかった者たちとの格差が生まれてしまう。そうなればまた戦争の火種になると代表剣士殿はお考えだ」

「暗黒界の民は永遠にこの地に留まれという事か」

「そうじゃない。代表剣士殿が機竜の開発を急ぐのは《終わりの壁》を越えるためだ」

 

 アーウィンもわたしも「は?」と思わず同時に声をあげた。終わりの壁。人界を囲む暗黒を、更に囲んでいるようにそびえ立つ絶壁のことだ。孤児院にあった絵本におとぎ話として書いてあった。その壁は頂が見えないほど高く、またとても硬く傷ひとつ付けられないから穴や階段を掘ることもできない。だから数百年もの間、誰ひとりとして壁を越えた者はいない。闇神として君臨していたベクタでさえも。

 

 だからそこは世界の果てとされている。壁が世界の終わり。だから《終わりの壁》と呼ばれている。

 

 文字通り前人未踏の地への挑戦だ。成功すれば未来永劫、歴史に名を刻む。まだ顔も見たことのない代表剣士の志に、アーウィンは乾いた笑い声をあげた。

 

「よほど探求心が強いとみえるな。両世界の問題解決よりも冒険が優先とは」

「違う。終わりの壁の先にあるとされる地を亜人たちに国として与えようと――」

「建前などいくらでも後付けできるさ。ベクタを討った代表剣士は事実上暗黒界も支配したようなもの。ならば次の侵攻先は終わりの壁の先ということだ」

「我らがまた戦争を起こすと言いたいのか?」

「整合騎士なんてものを未だに残しているのが証左だよ。戦後に整合騎士団の規模は縮小するどころか数を増やしているようだしね。次の戦いに備えていると勘繰るのは自然なことさ」

「貴様!」

 

 顔を真っ赤にしたユーリィが槍を掴んだ。ただでさえ狭い馬車の中なのに、長物なんて振り回されたらたまったものじゃない。それなのにアーウィンも頭に血が上ったのか止めるどころか抜刀して構えだした。

 

「ちょっと、止めてよ」

 

 わたしは隅でふんぞり返るセツナに言ったのだけど、返ってきたのは「俺を巻き込むな」というものだった。普段無表情な彼も、この時ばかりは面倒臭いという顔を隠さなかった。

 

「あのー!」

 

 そんな声が馬車の中に飛び込んできたのは、アーウィンとユーリィが武器を振り上げる寸前での時だった。窓から顔を出した肌が白く恰幅のいい中年女性は強気な声で早口に言う。

 

「随分と難しい話してたみたいだけど、外まで丸聞こえだよ。長旅で苛ついてるからってそんな物騒なもん振り回してんじゃないの。御者さんが怖がってるじゃないか」

 

 肝が大きそうなおばさんに言われたふたりは大きく肩を落とし、それぞれの武器を仕舞った。

 

「まあいい。貴様も代表剣士殿に会わせてやる。彼の考えを直接聞けばいい」

「話の分かる者だと良いけどね」

 

 それぞれ皮肉を飛ばし合いながらも一旦休戦に落ち着いたところで、おばさんは顔のしわが深まるのも構わず笑顔を浮かべた。

 

「さ、そろそろお腹も空いてきた頃だろ。央都名物のハンバーガー。イモの素揚げと飲み物付きで50シアだ。あ、ベックでもいいよ」

 

 と籠の蓋を開けて中身を見せてくる。サンドイッチとは違う、丸いパンに肉や葉物野菜を挟んだ食べ物だった。とても香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。道中での食糧は固パンに干しイモと乾きものばかりだったから、水気を含んだものを舌が欲していた。

 

 「美味しそうだね」と籠を覗き込むアーウィンも、食欲を刺激されたらしい。

 

「わざわざ売りに出ているのか?」

「ああ。ダークテリトリーの人たちは人界の食べ物とあれば喜んで買ってくれるからね」

「どれも味は絶品だからね。4つ貰おうか」

「まいど」

「ひとつ20ベックにまけてくれないかな?」

「それはできないよ」

「だろうね」

 

 硬貨を受け取ると、売り子のおばさんは4人分の包紙をアーウィンに渡して後ろの馬車へと足早に歩いていった。なるほど、店でお客を待つんじゃなくて自らお客のもとへ足を運ぶ。上手くできた商売だ。さっき言っていたように暗黒界人なら誰もが肥沃な地で育てられた人界のものを食べたがる。

 

 手に取ってみると収まりきらないほど大きかった。イモの素揚げも結構な量がある。食べきれるか不安になりながらもひと口かじると、挟まれた肉から溢れる汁が甘辛いソースと混ざり合い喉を伝った。

 

「美味しい………」

 

 思わず出たひと言に「うん、美味いな」とアーウィンが応じる。

 

肉はしばらく食べる気がしなかったけど、空腹となるとどうしても美味に感じられるものだ。嫌なことを思い出しても味が変わることはなく、わたしはすぐにハンバーガーなるものを平らげてしまった。

 

 イモの素揚げも、少しふやけているが振られた塩が丁度良い塩梅になっている。口の中の油を流そうと、皮水筒に注がれた飲み物をひと口含む。咥内に流れた瞬間、無数の針で舌を小突かれたような刺激と匂いに思わずむせ返ってしまった。

 

「何これ?」

 

 わたしの反応を不思議そうに見ていたアーウィンも飲み物を口に含むと、むせ返りはしなくても顔をしかめた。

 

「何だこの味は? それに何か、舌が痺れる。おいユーリィ知っているか?」

 

 問いを投げられたユーリィも咳き込みながら何とか答えようとしている。

 

「これは確か……、代表剣士殿の故郷の味だとかいう………」

 

 身体が異物とみなしたのか、ユーリィはごほごほと激しく咳き込んだ。唯一涼しい顔で飲んでいるセツナが、ひと言だけ発した。

 

「コーラだな」

 

 「そう、そんな名前だった」とユーリィがまだ喉を唸らせながら言った。

 

「飲んだことがあるのか?」

 

 アーウィンが訊いた。味を知っているということは、益々セツナが人界代表剣士と同郷という仮説も現実味を帯びてくる。

 

「分からない。ただこの味は知っている」

 

 確かめるようにセツナはコーラを顔色ひとつ変えずに飲んだ。ハンバーガーの食べ方も、彼はまるで馴染み深いもののように食べている。

 

 リアルワールド。人界代表剣士と副代表剣士の国とされている場所。セツナもそこから来たのだろうか。

 

 一体何のために。

 

 記憶を抜かれて。

 

 

   2

 

 人界と暗黒界の交易が始まってから、玄関口である東の大門には関所が建設された。要は入界許可証を持っているかを確認し不法入界を防ぐための施設なのだけど、人界人と暗黒界人が行き交うのに目を付けて様々な商人が店を出す複合施設になっている。

 

 料理に服に工芸品。現地に行かなくても土産物はここで全て買えてしまう。1日で全ての店を回ることは到底できず、それも見越してか宿屋まで充実している。その喧騒はひとつの建物なんてものでは収まらず、さながら街というべきだ。

 

 今は客引きや談笑の声が行き交うこの地で、かつて咆哮や断末魔に満ちていたことを人々は忘れてしまったように見えた。10年前にここは戦場だった。門の崩壊と同時に暗黒界側が侵攻し、人界側はそれを死守した。両陣営ともに多大な犠牲を出した悲劇は、今や巨大な箱型の建物で隠されている。

 

 まるで大地から漂う死臭に蓋をしているみたいだ。

 

 はあ、とわたしは深く溜め息をつく。平和になった証拠なのに、素直にそれを享受できない自分がひどく歪な人間に思えてしまう。まっとうな人生を送っていないことは、自覚できているけど。

 

「どういうことだ?」

 

 人が多い中、受付で荒ぶるユーリィの声はよく通った。対応している職員の男は呆れた口調を隠さない。

 

「許可証が無いんじゃ入界させるわけにはいかない。たまにいるんだよ。手続きを知らずに気まぐれで門を越えようとする輩が」

「私は整合騎士だぞ。公理教会人界統一会議整合騎士団所属ユーリィ・シンセシス・トゥエニワン」

 

 長い所属を噛まずに述べるとユーリィは肩にあるマントの留め具を突き出し、

 

「これを見ろ、貴様は統一会議の紋章を知らないのか?」

 

 職員は眉を潜めながら留め具にあしらわれた紋章を一瞥し「よくできた偽物だな」と言い放つ。

 

「本物の騎士様なら飛竜でひとっ飛びできるだろ」

「任務先で機竜が故障したのだ。だからこうして陸路で帰還すべく――」

「はいはい分かった分かった。とにかく人界に行きたいならオブシディアで入界申請書を提出して、申請通ったらまた来て」

 

 人界最強の騎士団に所属している立場上、こんなぞんざいな扱いを受けたことがなかっただろう。ひどく立腹した様子のユーリィは槍を抜いた。

 

「そうか信じられんか。なら完全武装支配術を見せたら騎士の証明になるか?」

 

 「システム・コール――」と詠唱を始めるが、それは背後から頭に手刀を見舞われたことで阻止された。金属鎧の手刀を繰り出したアーウィンは頭を抱えたユーリィの首根っこを掴む。

 

「済まない。迷惑をかけた」

 

 それだけ言って受付卓から引き離すと、長椅子で待つわたしとセツナのもとへと引き摺ってくる。ようやく解放されたユーリィの第一声は「何をする!」だった。アーウィンは「落ち着け」となだめつつ、

 

「あそこで暴れて怪我人でも出してみろ。君が罪人として連行されるぞ。ああ、でもそれなら手続きなしで簡単に央都へ行けるか」

「貴様どこまで私を愚弄すれば気が済むのだ!」

 

 整合騎士は老化を止められているらしいけど、そうなると精神の成長も止まるのだろうか。口に出したら間違いなく怒らせそうなことを思いつつ、わたしはユーリィの怒りを遮るように口を挟んだ。

 

「でもどうするの? 戻って申請が通るまで待つ?」

「いや大丈夫だ」

 

 短く言って出口へ向かう彼女をわたし達は追いかけた。広い玄関口には入界審査を待ちわびる行列が地平線まで伸びている。わたし達もあの列を辿ってきたのだと思うと不思議と感慨深い。

 

 関所のすぐ隣には酒場が併設されている。順番を待つ間、ここで酒を飲んで暇を潰すのだとか。両世界の連絡口というだけあって様々な客が来て繁盛しているらしく、外からでも賑わいが聞こえてくる。

 

 その酒場の入口に立っていた全身毛で覆われた亜人が、アーウィンに気付くと大股な足取りで近付いてきた。

 

「お待ちしておりました、将軍」

「将軍はよしてくれ」

 

 人間の身体に狼の頭を乗せた容貌は、確かオーガ族だったか。オーガの、多分青年はわたし達ひとりひとりに視線をゆっくりと這わせていく。セツナを見たとき、突き出した鼻に深くしわが寄った気がした。獣の嗅覚じみたものが、彼の異端さを嗅ぎ取ったのだろうか。

 

 でも深く追求はせず、オーガはアーウィンに向き直る。

 

「数はこれでよろしいですか?」

「ああ、頼む」

 

 「おいどういうことだ!」と歩き出すふたりの背にユーリィが声を飛ばした。足を止めないままアーウィンは振り返り、

 

「こうなるだろうと思って、前もって頼んでおいた」

 

 皮肉たっぷりな言い方にユーリィの鼻息が荒くなるのを感じるも、早足で追いかけながらわたしは訊いた。

 

「どこに行くの?」

「詳しくは馬車で話す」

 

 しばらく歩いて馬車置き場に着くと、オーガは迷うことなく自身の馬車を見つけわたし達を荷台に促してくれた。旅団の貨物荷台よりは各段にましな布張りの椅子に深く腰を沈めると、ユーリィが訊いた。

 

「どこに向かっている?」

「果ての山脈。門が通れないなら山を越えるしかない」

「不可能だ。10年前にダークテリトリーと繋がる山道は全て塞いだ。山脈の警護にあたっていた私も漏れがないかくまなく調べたのだ」

「なら戦後も警護を続けておくべきだったな。東の大門が開かれたからといって、馬鹿正直に皆があそこを通るとは限らない」

「これじゃ密入界だろう!」

「人界に行くと言い出したのは君だ。こちらは手伝ってやったのだからもっと感謝してほしいね」

 

 背もたれに寄りかかり、ユーリィは天井を仰いだ。板の先、更に空の先で見下ろしている天界の神に懺悔しているように見えた。そんな整合騎士にアーウィンの皮肉は止まらない。

 

「整合騎士なら禁忌目録はいくらか免除されているんだろう?」

「整合騎士だからといって好き勝手やっていいわけではない。それに私は違反にならなくても貴様らは明らかな違反行為だ」

「お堅いことで」

 

 窓から顔を出すと、視界に収まり切らないほどの岩山がそびえ立っている。戦前は亜人たちがこの岩を掘って坑道を拓き人界へ攻め入ろうとしていたらしい。大抵は整合騎士によって阻止されていたそうだが、

 

 《終わりの壁》はこれよりも高いと言われている。想像なんてつかないけど、山脈を越えられる飛竜でも不可侵のものとなると、もはや雲や太陽よりも高いのではないだろうか。そうなると天界にまで伸びていそう。

 

 神のみぞ知る壁の先にあるもの。代表剣士が壁を越えようとするのは、ある意味で神への挑戦なのかもしれない。

 

 

   3

 

 馬車で壁を伝って2日で、ようやく坑道の入口らしきものに到着した。

 

「こちらです」

 

 オーガがそう手で指し示すのは、岩の切れ目にしか見えない隙間だった。人ひとりが何とか潜れそうなほどの大きさしかなくて、鎧を着ているユーリィは難しいかもしれない。

 

 「ありがとう」とアーウィンはオーガと握手をした。

 

「それでは、後は頼むよ」

「はっ」

 

 オーガの馬車を見送り、わたし達は岩の切れ目を潜っていく。案の定、ユーリィは鎧と槍が引っ掛かって四苦八苦していた。

 

「だから密入界はやめろと言ったのだ!」

「なら戻るか? 馬車は行ってしまったから徒歩で」

 

 アーウィンの嫌味が効いたのか、甲高い鎧の打ち鳴らす音を立てながら無理矢理ユーリィは身体を埋め込み、ようやく潜ることができた。

 

 足を踏み入れてみると、洞窟の中は外の乾いた空気と打って変わってとても湿っぽくひんやりしていた。背筋にも寒気がするのは、真っ暗闇でろくに視界が機能していないせいだろうか。

 

「システム・コール。リット・スモール・ロッド」

 

 アーウィンが式句を唱えると光が灯った。焚き火用の枝を触媒としたらしい。周囲を薄く照らす程度だけど、進むことはできる。

 

「さあ行こうか」

 

 灯りを持っているアーウィンを戦闘に岩の中を進んでいく。どこから沸いているのか、時折天井から背中に落ちてきた滴の冷たさが心臓に悪い。地面も湿っているものだから、気を抜いたら転んでしまいそうだ。

 

「こんな洞窟をいつの間に掘っていたんだ………」

 

 呆れ半分、といったようにユーリィが呟いた。入口こそ小さかったけど、道は結構余裕がある。もし敵と遭遇したとしても、何の支障もなく剣が振れるくらいに。

 

「こちらは数百年もの間、どうやって人界を攻めるか策を巡らせてきたんだ。これくらいのことはするし、崩されたくらいでは諦めんよ」

 

 アーウィンの言葉に、ユーリィも言い返す気はなかったらしい。豊かな実りと平和を謳歌している間、すぐ傍まで来ていた脅威を想像するとわたしも思わず鳥肌が立った。

 

「止まれ」

 

 不意にアーウィンが足を止めた。「何だ」と零すユーリィを「静かに」と小声で制す。異常事態と察してか素直に黙ったユーリィに倣って、わたしも口を固く結んだ。

 

 洞窟は静寂に包まれている。わたし達という侵入者なんて無視するばかりに。天井から落ちてくる滴と、岩の隙間から吹いてくる風の音だけが響く。

 

 風の音。いや、これは風の音だろうか。ユーリィも気付いたらしく目を剥く。そう、騎士だった彼女とアーウィンにとって、これは馴染み深い音だったのだ。

 

 腰の剣に手をかけたアーウィンは静かに告げた。

 

「飛竜の声だ」

 






そーどあーと・おふらいん えぴそーど16


キリト=キ
アスナ=ア


ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」

キ「解説のキリトです」

ア「今回はただ移動しているだけの回になったけど、本作オリジナルの設定がたくさん出てきたわね」

キ「ああ、人界とダークテリトリーの交易事情とかな」

ア「人界からダークテリトリーへの観光客がいないっていうのが、何だか生々しいわね」

キ「ダークテリトリー人にとって人界はずっと理想郷って言われてたけど、人界人からしたらダークテリトリーは地獄って言われてたからな。すき好んで観光に行く人は少数派なんだ」

ア「まあ行ったとしても荒れ地ばっかりで料理もゲテモノだものね」

キ「現地にとっちゃ貴重な食糧だよ………。まあ人界の食糧支援でダークテリトリーの食文化も進歩したんだ。冷蔵庫を発明してからは人界の料理店が海外出店みたいな感じでオブシディアでも店を出すようになったからな」

ア「本編でもハンバーガー売ってたのもそれなのね」

キ「そうそう。サンドイッチは元々アンダーワールドにあったんだけど、バンズとか肉をサンドするのは無かったみたいだ。裏設定だけど、アスナが試作してセントリアの店で出したら人気になったんだ」

ア「元からある料理に似ているのもあって流行りもあっという間だったってことね」

キ「原作のムーン・クレイドル編で魚の紙包み焼きっていう蒸し料理を作ってたけど、あれからもアンダーワールドの料理システムを研究して色んなものを世間に広めたんだ。カレーとかラーメンとかは特に流行ったな」

ア「タピオカも出したのよね」

キ「秒で消えたけどな」

ア「まあカエルの卵食べてるみたいで気持ち悪いって評判悪かったものね」

キ「それは子どもの頃見たカエルの産卵がトラウマになった作者の話だろ」

ア「キャラ達のリアクションから見るにコーラも流行りそうにないわね」

キ「おいおいそりゃないだろ。俺ずっと味見してたんだぞ。俺がこだわり抜いた味なのに」

ア「わたし達からすればお馴染みの味だけど、考えてみればコーラって変な味じゃない。甘くして誤魔化してるだけで」

キ「あの味の良さが分からないなんて人生損してるぞ!」

ア「そうは言っても本作のキリト君はタランチュラの卵が好きなゲテモノ好きって設定になってるんだから」

キ「結構前のおふらいんネタ持ってくるな!」

ア「そんなゲテモノ好きが作った飲み物が大衆ウケするわけないじゃない。劇中で何食わぬ顔で飲んでたのセツナだけよ」

キ「はあ、俺の味が分かったのはセツナだけか………」

ア「単に現実世界で飲んでただけに決まってるじゃない」

キ「え?」

ア「え?」

キ「いまとんでもないネタバレ言っちゃったよこの人⁉」

ア「何のこと?」

キ「セツナが現実世界から来たってサラっと言っちゃったじゃん!」

ア「そんなの序盤からもう読者さんは気付いてたわよ。禁忌目録破り放題で英語話しまくりそんでコーラ知ってるなんてもう俺現実から来ましたって自分から言ってるようなもんじゃない」

キ「そんでも謎にしておくもんだろ記憶喪失系主人公の醍醐味がなくなっちゃったよ」

ア「何か作者曰く、そろっと正体明かしたいんだけどあんまりストーリー進まないからこのコーナーで晒すのもありかなって思い始めてるみたいよ」

キ「やめろ! 書け続きを!」

ア「さあ、人界編始まると思いきやまさか今回は入れませんでした。次回こそ入れるでしょうか、それともまだ入れないでしょうか、こうご期待!」

キ「ちゃんと人界行くから待っててください!」

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