ソードアート・オンライン パラダイス・シフト 作:hirotani
1
「じゃあ、生き残った人はいないんですか?」
わたしの質問に、壮年のシスターは苦い顔で答えた。
「ええ、酷い有様だったそうです。整合騎士様が駆けつけた頃には既に備蓄の食糧は全て持ち去られ、村人は全員が殺されていたと」
教会の裏に墓地が広がっているなかで、一際大きな墓標が建てられている。それは10年前のゴブリン襲撃で非業の死を遂げてしまった、当時の村人たちの慰霊碑だった。
墓石には村人たちの冥福を祈る簡単な銘文のみで、誰がこの下に眠っているかまでは刻まれていない。取り敢えず死体を集めて燃やすなりの処理をして、混ざりに混ざった骨を雑多に埋めたのだろう。
この下にわたしの両親が葬られているかもしれない。想像してみるけど、何の感慨も沸かなかった。当然だ、覚えていないのだから。村のフォーラストという名前を聞いても、特に琴線に触れるようなことはなかった。
わたしが訊いてもいないことを、シスターはべらべらと喋り続ける。
「あの頃は酷いものでした。果ての山脈近くにある集落の多くでダークテリトリーの襲撃があったとか。しかもすぐ戦争が起きたでしょう。そのこともあって、この村はしばらく廃墟同然だったんです。統一会議による農業推進政策のため各地から移民を集めてようやく今日まで復興が進みました」
時折目を潤ませるシスターの顔がどこか芝居がかったように見えて、わたしは少し苛立ってしまう。神に仕える身なのだから、たとえ他人事でも悲劇には弔いの涙を。そんな教育を受けてきたように思えてならないのだ。
同時に言い訳にも。
わたし達はダークテリトリーからの襲撃に遭いました。事実多くの人々が死んできました。
だからもう来ないでください。
わたし達の美しい人界を荒らさないで。
人界はソルスの光もテラリアの恵みも十分すぎるほどあって、暗黒界人たちは神話の時代からその恩恵を狙っていた。その殺意を人界の人々は感じ取っていたのかもしれない。
あの雲海を突き抜けるばかりにそびえ立つ山の向こうには、わたし達を狙う化け物たちが住んでいる。だから整合騎士は闇の国からの進撃を赦してはならない。そして人界に住む者は闇の大地に踏み入れてはならない。
この頃のわたしはまだ知らなかったが、戦後になって禁忌目録もいくつか改正され、その中には暗黒界への進入禁止撤廃も含まれている。暗黒界へ人界人の視察大使や食料支援を送るために必要な措置だったのだが、民衆からすれば自分たちを縛り付ける法のひとつがなくなったという喜ぶべきことだった。
でも、東の大門へ続く道で見たように、人界から暗黒界へ行く人は殆どいない。わざわざ観光へ行くほどの場所がないとか、食べ物が合わない――そもそも食べるものがない――とか、ごもっともな理由はたくさん並べられる。
でも根本的な理由としては、人界人が未だに暗黒界への恐怖があるということ。暗黒界には化け物が住んでいると誰もが子どもの頃から教えられる人界人の裡には、亜人と褐色肌の人族への偏見が深く打ち込まれているのだ。
だから人界統一会議がいくら暗黒界からの観光客を歓迎したとしても、人界の人々は密かに拒む。赦すのは一時の滞在だけだ。長期滞在と永住したいとなれば話は別。
「村にはどれ程いらっしゃるのですか?」
シスターに訊かれて、「準備ができ次第、行きます」と答えを濁した。シスターはにっこりと微笑み、
「ゆっくりしていってください」
教会を訪ねたとき、このシスターが暗黒界人であるアーウィンに向けた怯えの視線をわたしは目撃している。職業柄かすぐ慈愛の微笑を浮かべてはいたけど、張り付いたように同じ顔をずっと見ていてはかえってそっちのほうが嘘くさい。
墓地を出て、わたしはあてもなく村を散歩した。建ち並ぶ家はどれも新しく、天命減少による汚れや変色は殆ど見られない。一見すれば開拓されたばかりのようだけど、家に対して路地の石畳はそれなりの年季が入っていて、所々に傷や欠けた部分がある。
家は燃やされても、炎で石の天命は減らない。復興に際してこの石畳にこびり付いていた煤や血は磨き落とされたのだろか。
村の辿った悲劇の歴史を覆い隠し忘れようとしている。そんな印象だ。新しい家々も、焼かれた土地を再び耕しただろう金色の麦畑も。
かつての村を知る者はひとり残らず死んでしまったのだから、もう新しい村としてやっていこう。
昔ここで虐殺があったって?
そんなの昔のこと。俺たちの知ったことじゃない。
忘却を促す村の復興に異議はない。かつて流された血も涙も、自分たちのものじゃないのだから。唯一の生き残りかもしれないこのわたしでさえ、顔も知らない父と母の死に涙も出ない。
ばりばり、と何かが裂けるような音がした。続けて何かが地面を叩いたような音と微かな地響きも。
見れば、まだ耕されていない更地に巨大な樹が横たわっている。周りには農夫たちがざわめいて、その中心には身の丈ほどの槍を携えた鎧装束の整合騎士が立っている。
「ほえー、たまげた」
農夫たちの中で、そんな呆けた声がした。
「さっすが整合騎士様だ。これなら来年は豊作だぞ!」
ちょっとしたお祭り騒ぎになっている男たちの中へ紛れ込み、わたしはユーリィを呼んだ。
「ああ、ナミエか」
「何してるの?」
ユーリィは倒れた樹を槍で指し、
「ここに畑を耕すのにこの樹が邪魔らしくてな。天命が膨大で斧じゃ倒せないらしいから、手伝ったのだ」
樹木というのは大きい故に土からテラリアの恵みを多く取り込んでしまうから、周囲に作物が育ちにくいのだとか。端がささくれ立った切り株は確かに太い。村民たちが煩わしく思うのも頷ける。
「それより聞いてくれ」とユーリィは言った。
「村長が馬車を手配してくれるそうだ。これで央都まですぐ行けるぞ」
「本当に?」
「ああ。私が整合騎士と信じてくれたんだ。流石、話の分かる者は違う」
思わず苦笑してしまった。長槍を背負った自称整合騎士の女を体よく村から追い出したかったんじゃないか、というのは邪推だろうか。
2
子どものようにはしゃぐ農夫たちの話し相手に忙しいアーウィンと別れて、わたしは教会へ戻った。何人かいるシスター達は学校へ子ども達に勉強を教えに行くから出払っている。さっき墓地で村の悲劇を語っていた壮年シスターの他には、わたし達という来客しかいない。
村で最も大きな建物の正面扉に手を触れようとしたとき、中から扉が軋む音を立てながら開けられた。扉の陰から出てきたのはセツナだった。わたしに気付き立ち止まった彼の背中にある大剣に眉を潜める。
「どこ行くの?」
「散歩だ」
「そんなの持って出歩くつもり?」
「変か?」
「物騒」
衛士でもそんな飛竜の首すら撥ねそうなものは持たないだろう。暗黒界なら自衛として何かひとつ武器は持つべきだけど、ここは人界だ。人は理由なく他人を傷付けず、怪しい来訪者たちを無人同然の教会に居させるのを良しとする。人は善なるものと無根拠に信じられる、信じるべきという教えがある世界なのだ。
セツナは少し迷うように幅の広い剣へ振り向くけど、結局降ろさなかった。
「あんたはどうする?」
思いもよらない質問にわたしは「え?」と訊き返す。
「ここはあんたの故郷なんだろ。残るのか?」
逡巡して、わたしはかぶりを振った。
「わたしを知ってる人はいないみたいだし、何も思い出せないから。帰ってきたって感じにはなれないかも」
「ここは正しい場所じゃないのか」
「多分ね」
それだけ言って、わたしは教会の中に入った。礼拝堂を歩いているとき、懐から声がした。
「あやつらと往く道を選ぶか」
ばたばたと小さくなった翼をはためかせた飛竜が、わたしのスカートから出てくる。
「顎門……、いつの間に」
「100年もの間、人の目を逃れてきたのだ。これくらい造作もない。それで、お主は故郷に残らぬのか?」
「うん」とわたしは頷いた。ユーリィに言えば村長に事を説明してわたしを村に置いていくだろう。そうなればこの教会が家になり、学校で教育を受けて今までの分を取り戻す人生を送るのかもしれない。
想像できる限りでは穏やかな毎日だ。金色の麦畑を眺めて、大人になればどこかの家に嫁ぎ子を産み育てる。それこそが幸福なのかもしれない。
でも、わたしはどこかでそれを拒否した。
「約束された幸福に目を背けることであると、理解はしているのだな?」
見透かしたように言う顎門への対抗心で、ついわたしは言い返してしまった。
「分かっていたから、わたしを選んだんでしょ?」
「もし平穏を往くことになろうと、我は止めぬ。お主の選んだことだ」
「もしかしてだけど、あなたは全部知ってたんじゃないの? ユーリィの過去も、アーウィンのことも」
「ああ、知っていたとも。お主が人界の貴族から辱めを受け続けていたこともな」
悪びれもせず、小さな赤き飛竜は言ってのけた。
「異端な思考を持つ者、異端な境遇に置かれた者としてお主らを見出したのだ。世の行く末を決す者としてな」
「助けようとは、思わなかったの?」
わたしは沸々とした怒りが裡から沸き上がっているのを自覚する。この飛竜は世界を滅ぼすほどの力を持ちながら、それを救済に使おうとせず高みの見物を決め込んでいたのだ。
この飛竜に悪意がないことは知っている。でも、どうしても煮え切らないものがあるのは仕方ない。わたしは感情のままに、顎門の小さな身体を掴んだ。飛竜は慄くことなく、雄弁に語る。
「人の世を作るのは人だ。我の介入すべきところではない」
「それでも救えたものはあったはず」
「我が救い、人がそれを奇跡と崇めたとしよう。それでも時が過ぎれば人は奇跡すらも忘れるし、隠そうとする。後者は整合騎士が良い例だ。禁忌目録を破るのは人界の者からすれば奇跡の所業だが、アドミニストレータはその奇跡を大罪と断じ自らの人形に作り替えたのだ」
悪意がないが、人への慈しみもない。顎門の語りは、あくまでも裁定者という1歩を引いた物だった。
「代表剣士がベクタを討ったという奇跡も、民の記憶から薄れていくのはそう遠くない。辛うじて保たれている今の平穏を続けていくには、また奇跡が必要だ」
「わたし達がその奇跡を起こすっていうの?」
「奇跡とは限らん。悲劇かもしれぬ」
「どうなるかも分からないのに、あなたはちっぽけな存在に世界を投げ出すつもり?」
「奇跡だろうと悲劇だろうと、どちらでも良い。我が見届けるべきは衝撃と、それに対して人が何を選択しどこへ進むかだ。その衝撃を起こす可能性が高いとみたからこそアーウィンをお主のいた村に向かわせ、ユーリィをお主らに会わせたのだ」
愕然として言葉も出なかった。ずっと世界を、わたし達を見てきた。それは比喩とかではなく言葉通りだった。こうして小さくなって、わたし達の苦しみや怒りを傍で見続けてきて、蓄積した感情が世界に一撃を与えるとして邂逅を仕組んだのだ。
「お主の怒りはもっともだ」
無機質に顎門は言った。
「だがその怒りを向けるべきは我ではなく、世を作り上げた民と権力者だ」
手の中が熱くなり、咄嗟にわたしは手を離した。顎門の身体が仄かに赤熱している。
「我はどうしろと命じない。お主が従うのはお主の心だ。何を望むのか、自らに問い答えを決めよ」
顎門は流れるように宙を飛んで、扉を身体で押し開けると外へ出ていった。セツナの服へ戻るつもりなのだろうか。顎門を掴んでいた手は少し火傷したようだったけど、神聖術を施すほどのものでもない。2、3日すれば治癒するだろう。
窓から日差しが射しこんでくる。もう夕刻も近いらしい。眩しさに目を背けながら、わたしは客室への階段を上った。
部屋に入ると、ベッドでアーウィンが腰掛けていた。村に入ってすぐ、小さな女の子から暗黒界人だと泣かれたからずっと部屋にいたのだろうか。
いや、それよりも気になるのは彼女が全裸ということだ。
「アーウィン?」
声を掛けてようやく、彼女は「ああ、ナミエか」とわたしの姿を認めた。こんなことは初めてだ。ほんの数メル距離があったとしてもわたしの存在に気付けるはずなのに。
わたしはアーウィンの横に腰かけ、「どうしたの?」と訊いた。
「セツナに振られてしまったよ」
言葉の意味がわたしにはよく分からなかった。アーウィンは察したのか、乾いた笑みを零す。
「契りをと迫ったんだが、断られた。私としては一世一代の告白だったのだがね」
深く溜め息をつくと彼女の豊かな胸が揺れた。見れば見るほど魅力的な体躯をしている。すらりと長い四肢に、筋肉質だけど硬さを感じない肉付きの良い褐色の肌。一糸纏わずこんな肢体で誘われれば、大概の男は食いついてしまうのではないだろうか。
少なくともわたしが相手してきた男たちはそうする。そして子ども体型のわたしは捨てられる。
「こんな骨太な女では欲情しないか」
「そんなことは、ないと思う」
この姿のまま外に飛び出してみたら、きっと村の男たちは禁忌など知るかと彼女の肉体を好き放題するかもしれない。
いや、気にするところはそこじゃない。気にすべきはアーウィンが自らの身体を差し出そうとしたのがセツナだったということ。
「セツナのこと好きなの?」
直球な質問に、アーウィンは逡巡した。しばらくの沈黙の後に彼女は無言のまま頷く。少女のような反応に、わたしは内心で驚いていた。男には困らなさそうな容姿なのに。
「最初は単に憧れだった。私にできないことをやってのける。私も彼のような強さが欲しいと」
頭に思い浮かべてみる。手にした剣で、迫りくる敵を次々と物言わぬ肉の塊に変えていく黒装束の男。黒い髪を揺らし、黒い瞳はただ目の前の殺すべき者のみを捉えている。
そして築いた屍の山に立ち、それを祝福するかのように空から微かに降りてくる陽光を浴びる。
創造主たちの世界から遣わされた使者。
法も罪も超越した存在。
「でもいつしか、私はもう力を望まなくなった。私が望んだのはセツナ自身だった。ただ彼がそこに居てくれさえすればいい。願えば、私を包み込んでくれはしないかと」
顎門の言っていた、世に衝撃をもたらす存在。アーウィンはセツナにそれ以上の、神としての役割を見出した。言うなれば彼女は彼の信者だった。でも、彼女は神に対していささか行き過ぎた望みを抱いてしまった。
神に等しい存在を目の前にしたとき、人はどんな欲望を抱くのだろう。自らの願いを叶えてと祈るのか。それとも神を我が物にしようと目論むのか。
アーウィンは神と契りを交わすことを望んだ。受け入れられれば、それは祝福だったのかもしれない。例え汗だろうと唾液だろうと鼻水だろうと、神の肉体から出たものが汚いはずがない。それを自らの体内に与えてくれるのは、至上の悦びなのだ。
「まあ、良いさ」
ベッドの上に投げ出された衣服たち。アーウィンはその中から下着を掴んだ。少し濡れていたが、構わず彼女は履いてしまう。
「もし彼が受け入れていたら、怖気づいていたかもしれない。覚悟は決まった。これで良かったんだ」
その声はもう、いつもの精悍なアーウィンだった。
「覚悟?」
「すべきことをする決心がついたということだよ。彼に迫ったのは願掛けのようなものさ」
服を着た彼女は背筋をしっかりと伸ばす。腰に携えた剣の鳴らす金属音は、彼女の剣士としての姿勢を正していた。
ふと、アーウィンがわたしをじっと見つめてくる。
「君の髪、光を浴びると赤く輝くんだね」
唐突に言われ、わたしは戸惑いながらも自分の髪を手に乗せる。「ほら」とアーウィンが窓から射す夕刻の橙色になったソルスの光の下へ、髪を乗せたわたしの掌を移動させる。陽光を浴びた黒髪は確かに、赤みを帯びた光を反射させている。
気が付かなかった。当然か。ずっと暗黒界にいたのだから。
「やはり人界の者は、人界にいてこそ輝くんだろうね。とても綺麗だ、羨ましいよ」
アーウィンの髪はソルスの光を浴びても灰色のままだった。剣士として、騎士として剣の道を進んできた彼女は、この一時だけは女であることを望んでいるように見えた。そう思った根拠は、彼女の目尻から零れた涙だ。
わたしにはそれを拭うことも、慰めの言葉をかける気概もなかった。
3
一夜明けて、東の空からソルスの光が覗くとすぐに出発することになった。フォーラストの村人たちは仕事熱心だ。夜明けと共に畑に出てくる。暗黒界への支援のため、畑はどんどん耕せというのが統一会議の方針らしい。
村長があてがってくれた馬車に揺られながら、わたし達はシスターから餞別として貰った朝食を摂っていた。炒り卵と葉物野菜を挟んだサンドイッチと簡単なものだったけど、パンがとても柔らかくて美味しかった。シスターから天命が長持ちしないから早めに食べるようにと言われたのも頷ける。
「まずは央都のセントラル・カセドラルへ行く」
食後のコヒル茶を飲みながらユーリィが言った。
「そこでナミエと、セツナの処遇を決めてもらう」
「なら、私は代表剣士殿に暗黒界への支援をもっと充実させろと頼んでみるかな」
アーウィンの茶化しを「すればいい」とあしらいつつ、ユーリィはわたしに微笑を向けた。
「大丈夫だ、不安がることはない」
そんなにわたしは暗い顔をしていたのだろうか。ユーリィは更に言う。
「もし故郷が見つからなくても、私が見習い神聖術師としてセントラルに居させるよう進言してみる。君は素質があるようだからな」
「そんなに?」とわたしは訊いた。確かにアーウィンとユーリィから教わっていくつかの術は使えるようにはなった。浅い切り傷程度だったら治癒できる。
「確かに」とアーウィンも同意を示す。
「ナミエの飲み込みの速さは才能と言っていい。普通なら式句を覚えても発動できるようになるまでひと月は掛かる」
そういえば初めて術を教わった夜も、アーウィンはわたしに素質を見出していたようだった。その時は単なるお世辞かと思っていたから、気にも留めていなかったけど。
初めて教わった光を灯す術は1週間ほどで習得できた。神聖術でも暗黒術でも基本中の基本らしいから、誰でもすぐできるものだと思っていた。
式句を唱えているとき、わたしには周囲に漂っている何かが自分に集まってくるような感覚があった。それが掌の中に集束し、光や火として顕現するような。
「術で何を起こしたいのか、頭に思い浮かべると上手くいくことが多いかな」
そう呟くと、ユーリィは「そうだ」と首肯する。
「想像力が大事だと、代表剣士殿が言っていた。何の目的で術を使うのかを頭の中で思い描けなければ、式句が正しくても意味がないらしい」
「ナミエは想像力が豊かなんだろう。しっかりとした場で学ぶのも良い」
この時のアーウィンとユーリィはよく喋った。ふたりの裡に渦巻く想いを知ってか、隠すための振る舞いなのではと勘繰ってしまうほどに。
ユーリィの忠義への疑惑。
アーウィンの女としての望み。
気遣いを求めるほど器量の狭いふたりじゃないことは知っているけど、気まずさは否定できなかった。
「――で、この馬車で央都までどれくらいかかるんだ?」
アーウィンの質問に、ユーリィはそういえば、と顎に手を添える。整合騎士であるユーリィの移動手段といえばもっぱら飛竜だったはずだ。
「まあ、道は間違っていないんだ。そのうち着く」
と、返ってきたのは何とも頼りない答えだった。盛大な溜め息をつくアーウィンに、流石にユーリィもいつものように噛みつく気も起らなかったらしく押し黙った。
「途中で街か村があったら食糧の買い出しをしておこう」
皮肉たっぷりにアーウィンは言った。馬車に積んだ食糧といえば、さっき食べてしまった朝食のサンドイッチだけだったのだから。
幸いにもここは人界だから、道中出くわした野生動物を狩るという手もある。問題は、この馬車がひどく足取りがゆっくりということだ。
村の方角から《時告げの鐘》の旋律が聞こえた。結構進んだと思っていたけど、道のりは思っていたよりもずっと長いらしい。
何気なく聞いた《時告げの鐘》に違和感を覚え、わたしは耳を澄ませた。公理教会から貸し出された神器の鐘で、定刻になるとひとりでに音を奏でるという。人々は鐘の音で1日の流れを読むらしい。
そんな鐘の音に雑音が混じっているような気がしたのだ。ユーリィも同じ違和感に気付いたらしい。日常の中に鐘の音があった彼女にとっては見つけやすかったことだろう。窓から顔を出した彼女は上擦った声をあげた。
「あれは………!」
わたしも窓から村の方角へ目を向ける。まだ見える家々の屋根。その間から煙が空へ立ち昇っている。人界の澄んだ空気の中で、その灰色の柱は明瞭に視認できた。
「村に戻るぞ!」
アーウィンが馬車から出て、のっそりと歩く馬に跨る。驚く馬の手綱を引いて踵で尻を蹴ると、馬は前肢を振り上げ身体の向きを変えて来た道を走り出した。
そーどあーと・おふらいん えぴそーど19
キリト=キ
アスナ=ア
ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」
キ「解説のキリトです」
ア「さあて、今回はナミエの故郷らしき村に来たわけですけど、正直はっきりしなかったわね」
キ「本来なら感動的な回になるはずなんだよな。生き別れた両親との再会とか」
ア「そうそう。もっと色々あるはずなのよね」
キ「一切ないな。親は多分死んでますで済ませてるし。ある意味斬新だよここでナレ死ぶっこんでくるとか」
ア「まあここしばらく顎門の登場とかユーリィの過去編とか情報量の多い回が続いたものね。ここでナミエの故郷とか入れたらもう読者さんそろそろ終盤に入ろうとしてるんじゃ、て勘繰っちゃうわよ」
キ「まあでも、肝心なセツナの正体もまだ分かってないからなあ」
ア「正直もうどうでも良いんじゃない? 現実から来たって分かっただけでもうお察しみたいなものだし」
キ「いやいやまだ謎が多いじゃん。何のためにアンダーワールドに来たのかとか、何で記憶がない状態で送られたのか。あとどうやって来たのか」
ア「まあ、いくら考察したところで遠くないうちに正体分かるだろうから読者さんは続けて読んでくださいね」
キ「おい投げてんじゃねえか!」
ア「だってこれ書いてる作者だってもう正体分かり切ってるのにさも知らないみたいに書くの疲れるのよ」
キ「メッタメタだなあ」
ア「作者もようやく終わりが見えてきたんだからラストスパートかけたいのよ」
キ「見えてきたって今回19話でストーリーの進捗どれくらいなわけ?」
ア「3割くらいらしいわよ」
キ「進んでねーじゃん!」
ア「更に言えば作者は作品書くとき大体終わりを決めてから始めるそうです」
キ「じゃーもう最初から終わりへの道は見えてんじゃん」
ア「つまりはそういうこと! そんなわけで今回あんまり話が進まなかったのも予定調和なわけ」
キ「ただでさえ情報量多いのに1話で詰め込もうとするからだよ」
ア「そうそう、今回アーウィンがセツナに迫ったのだって重大なことなのにほんのワンシーンで済まされちゃうのよ」
キ「それに関してはもっと生々しく書こうとしたけどそしたらR-18になるから短くライトな表現に抑えたらしい」
ア「もう、一応ハーレムものなんだからそこの所をしっかり書くべきなのに!」
キ「ジャンルがハーレムものってネタじゃなかったんだな………」
ア「作者としては大真面目にハーレムとして書いてるそうよ」
キ「ハーレムものにしては何でセツナがモテるのかしっかり描写すべきと思うんだけど」
ア「え、キリト君大丈夫?」
キ「何が?」
ア「セツナのモデルはキリト君だから、セツナがモテる理由が分からないなんて言ったら遠回しにキリト君自分をディスることになるわよ」
キ「大ダメージ食らうようなこと言わないで!」
ア「因みに作者はもし現実にキリト君みたいな人がいたとしてもモテるかは疑問だそうです」
キ「おい作者あ‼」
ア「いやディスってるんじゃないのよ。作者はキリト君を雰囲気イケメンと解釈してるんだから」
キ「ダメージ変わってないわ! じゃあ俺がモデルのセツナも雰囲気イケメンってことか!」
ア「えー作者曰くセツナは現実だと女の子に困らないくらいはイケメンだそうです」
キ「リア充ズラってことか………(血涙)」
ア「まあ説明は最後まで聞きなさない。セツナはイケメンなんだけど目つきの悪さやアンダーワールドでの価値観から劇中でイケメン扱いする予定はないそうです」
キ「じゃあ要らないんじゃないかイケメン設定は」
ア「だってビジュアル的に主人公がブサイクだとキツイわよ。ブサイク主人公のハーレムなんてその手の趣味の大人なビデオじゃない」
キ「例えに気を付けてね。一応R-18じゃないんだから」
ア「というわけで、これからの作品の見どころはセツナの正体と、セツナを巡る女たちの戦いになります!」
キ「作者は大真面目に本編書いてるから誤解しないでくれよー」
ア「村に上がった火の手は何なのか! そして次はどんな殺戮が繰り広げられるのか! こうご期待」
キ「お楽しみにー」