ソードアート・オンライン パラダイス・シフト 作:hirotani
1
村に戻って最初に出会ったのは、腹から臓物を零した農夫だった。
斬られてすぐ絶命できなかったらしく、苦悶の表情を固めている。哀悼の意を、なんて慈悲は持てなかった。村中の至る所で人が死んでいるのだから、ひとりずつに黙祷を捧げていたらわたし達まで死者に仲間入りしてしまう。
村を出て戻ってくるまで数十分程度だったのだが、襲撃者たちが村を壊滅状態に追い込むには十分だったらしい。遠くから見えた煙はわたし達が泊まっていた教会から出ていた。燃え盛る炎の中にわたし達の食事を用意してくれていたシスターがまだ残っているのか、確認する術なんてなかった。
通路のあちこちで死体が転がっているが、まだ殺戮が完了したわけではなかった。村の中央へ向かっていたわたし達の進路上からはまだ生き残っている村民たちが雪崩れ込んできて、その奥へ視線を辿ると巨人たちが闊歩している。
文字通り巨人だった。人間の倍以上はあろう筋骨隆々な体躯には鎧の類といった防具はなく、腰布1枚だけを纏っている。あまりにも巨体なものだから、歩くだけで通路を囲む家に接触してしまう。それでも巨人にとっては取るに足らないらしく、家々の壁と屋根を抉りながら行軍を続けている。
「ジャイアントか!」
ユーリィが叫んだ。暗黒界の亜人種で最も巨体で力に秀でた種族。聞いていた話に違わず丸太ほどある剛腕は鉄槌を軽々と振り回している。
ジャイアントが鉄槌を下から振り上げた。まるで枯草を薙ぎ払うみたいに、何人かの村民が血を撒き散らしながら宙を舞う。再び鉄槌が振るわれると、飛んでいた村民のひとりに直撃した。成す術なく打ち付けられた全身が空中で分解され、血と臓物と四肢を飛散させていく。
「何故………!」
歯ぎしりしながらユーリィが声を絞り出す。この状況で分かる事といえば、村民たちがジャイアント族に殺されている事のみ。疑問が脳裏に渦巻きながらも、整合騎士はすべきことを知っている。
背中の革留めから外した槍を手に取ると、ユーリィは神聖術の詠唱を始めた。紡がれる式句は口早ながらはっきりとしている。彼女の口から次々と溢れ出す神への祈りの言葉の連なりに呼応するように、手にした神器から何かが胎動しているかのような錯覚を覚えた。
「エンハンス・アーマメント!」
一度に数人は葬ったけど、それは敵の半分程度に過ぎない。それどころか、敵の軍勢にわたし達という抗戦勢力が現れたことを知らせるようなものだった。
「余計なことを」
とセツナが皮肉を飛ばす。
「注意を逸らしたのだ」
というユーリィの反論にセツナはふん、と鼻を鳴らす。確かに敵の意識をわたし達へ向ければ、村民たちが逃げる時間を稼げる。合理的といえば合理的なのだけど、戦えないわたしとしては歓迎できるものではなかった。
「整合騎士だ!」
「殺せえええ‼」
目論見通り、ジャイアント達の殺意たっぷりな声が背後にそびえ立つ果ての山脈にこだまする。
逃げる村民たちの間を人影らしきものが凄い速さで駆け抜けてくるのが見えた。明らか人を超えた速度で近付いてくるそれが馬車の陰に消えたと同時、車体が急に傾きわたし達の身体が跳ね回る。
車輪をやられた。恐らくはあの陰に。場数のせいか、わたしはそんな冷静なことを考えることができていた。「ここは危険だ」とアーウィンに抱えられて窓から出た。
わたし達の事なんてどうでもいいとばかりに村民たちが通り過ぎていく。でもわたし達に興味がありそうな者が、毛で覆われた尾をしならせ鋭い視線を送ってくる。
毛で覆われたのは尾だけでなく全身だった。顔は狼だが、4足じゃなく後ろ足の2足で立っている。手持ち無沙汰になっている前足の片方には剣を握っていて、新たな役目を与えていた。
「オーガまで……!」
ユーリィが槍を構えた。そう、オーガ族。暗黒界側で果ての山脈までわたし達を案内してくれた青年と同じ種族だった。
オーガは大きく裂けた口を開け、まさに獣のような咆哮をあげた。人とは違う、何かの思惑や駆け引きなんてない。純粋な、獲物を仕留めるという研ぎ澄まされた殺意が空気を震わせる。それに慄いたわたしはアーウィンの腕にしがみ付いた。
だがこちらも、殺意を研ぎ澄ました者がいる。やはり殺す者として感じ取るものがあったのか、セツナに逡巡はなかった。
背中の大剣を構え、その重さで少しばかり緩慢な動きではあるもののオーガに肉厚な刀身を振り下ろす。向こうも獣並の脚力は伊達ではなく、難なく剣を避けて一瞬の隙に背後へ回り込む。
オーガが剣を構えて肉迫しようとしたとき、セツナの突き出した右足が毛の薄い腹に食い込む。ごぼっ、と奇声じみたものを吐き出すオーガの胴に、セツナは大剣を横薙ぎに振るい両断した。
上半身と下半身に分けられた獣人が無造作に地面を転がる様に目もくれず、セツナは次の敵を見据える。真っ直ぐわたし達へ向かってくるジャイアントへと。
わたしは「システム・コール」と式句を口ずさんだ。暗黒界だと空間神聖力が希薄だから簡単な術式を組むのもひと苦労だけど、ここは人界。神聖力は湯水のようにある。
でも、わたしの口はアーウィンによって塞がれた。不意のことに目を見開くわたしの耳元で彼女は囁く。
「大丈夫、私の傍にいれば安全だ」
わたしを安心させようとするには、手に込めた力が強すぎる気がした。違和感を覚えながらもわたしに抗うことなんてできず、成すがままアーウィンに身を寄せる。
わたしの助けなんて必要なかったらしく、セツナは自分の倍はある太ったジャイアントに跳びかかり、その太鼓腹に大剣を一閃した。ぱんぱんに膨れた腹から内臓を溢れ出させて、ジャイアントは膝を折る。
重い大剣は威力こそあってもセツナの動きをどうしても鈍くしてしまう。背後から鉄槌を振り下ろそうとしたジャイアントに気付くも、既に間合いに入ってしまっている。
だがその難点はユーリィが補ってくれた。背後のジャイアントの更に背後を取った彼女が、背中に跳びかかって槍を深々と突き刺す。気を取られたところで、セツナは大剣で敵の両足を切断した。
残る1体が「うがああああ!」と人型とは思えないほど獰猛な声をあげながら走ってくる。セツナが振りかぶった大剣が白銀の光を放ち始める。それを認識してか、ジャイアントのほうも手にした鉄槌を振り下ろしてきた。
一瞬遅れて、セツナが下段から大剣を振り上げる。触れ合った金属同士の甲高い衝突音が鐘のように響いた。
剣の放つ光の眩しさにわたしは目を瞑る。どすん、と巨大なものが倒れる音と土煙の匂いがして、ゆっくりと目を開く。予想していた通り、倒れたのは鉄槌ごと右腕を真っ二つに裂かれたジャイアントの方だった。正確には、裂かれた創傷は右手の先から肩へ、更に顔面にまで達している。
まだ後方で村民たちの悲鳴や呻き声が聞こえているけど、大分静かになったように感じられてしまう。呻き声は近くでも聞こえていた。
ただし、村民のものじゃない。
「白イウム……、殺す………!」
「殺す、食う………」
「おれは……死んでねえ………」
まだ怨嗟や闘魂逞しい声がちらほらと息吹いていた。
腹から零れる臓物を押し戻そうとする巨人。
両脛の下を失っても立とうとする巨人。
顔の半分を裂かれても起き上がろうとする巨人。
しまいには、下半身を失ってもまだ剣を取ろうとする獣人までいる。
その光景にわたしは吐き気を催す。トルソ村で見た、皮を剥がされ肉を裂かれ血と臓物を抜き取られたオーク達を思い出してしまった。
彼らは間違いなく死んでいた。天命を絶たれた上で生命から肉という物質に変えられていた。
それに対して、今わたしの前に広がっている者たちはまだ生きている。
臓物を零しているのに。
ぼたぼたと血抜きをされているのに。
皮を裂かれて肉の繊維を露にしているのに。
まだ心臓が脈打ち、呼吸していて、殺意に満ちた視線をわたし達へと光らせている。まるで生きながら肉にされる工程に晒されているかのような生々しさに、生理的な嫌悪がわたしの背筋を凍らせた。
「何だこいつらは………」
似た嫌悪を感じたのか、ユーリィも口元を押さえている。今まさに死にゆく者の姿というのは、どうにも見るに堪えないものがある。いや、違う。わたしが抱いていたものはそんな慈愛じみたものじゃない。
不気味なのだ。すぐ息絶える程の傷を負ったにも関わらず、まだ戦意を保ち続けている光景が。傷なんて些末事であるかのように。何らかの手当てをしなければ間違いなく死ぬだろう自身の肉体よりも、獲物であるわたし達へ彼らの意識は向いていた。
まるで――
「痛みがないのか」
わたしの予想を代弁するかのように、セツナが口を開く。彼の顔には嫌悪も恐怖もない。いつものように無表情だ。無表情のまま大剣を担ぎ、生き残りの天命を削ぎにかかる。
ひとつ、ふたつと首を絶っていく。腹が裂かれようが足を失おうが、他の怪我の程度に関わらず首さえ斬ってしまえば問答無用に天命は全損する。ふたりともまともに動けないから抵抗のしようもなく、斬首は淡々と作業されていった。
顔の半分を裂かれた巨人も。まともに喋れない口を懸命に動かしていたが脳天をカボチャのように割られてとうとう沈黙した。
残った上半身だけで這いずるオーガも止めを刺そうと近付いたが、獣人の口走った言葉にセツナは突き立てた剣を静止させる。
「申し訳ありません、将軍………」
その目は紛れもなく、わたし達へと向けられていた。わたし達の、わたしの傍に居るアーウィンへと。
「いや、十分だよ。よくやってくれた」
アーウィンの口から出たのは反論や拒絶じゃなく、穏やかで優しい言葉だった。オーガの目から光が失せる。虚空を見つめる顔から生命の喪失を感じ取ったのか、セツナは剣を引いた。
わたしは咄嗟に掴んでいたアーウィンの手を振り払う。足取りがおぼつかないわたしの手をユーリィが引いてマントの陰に隠すように後ろへと回した。
アーウィンは地面を転がっていたジャイアントの首へと歩き出し、そんな彼女にユーリィは槍を向けた。
「一体どういうことだ。わたし達を
「君と私は同志じゃないだろう。違うか?」
ユーリィの問いに返したのは、そんな冷たい声音だった。続けて質問したのはわたしだったのだが、困惑のあまり声が震えてまともに喋れなかった。
「アーウィン、どうして………?」
「総司令官の勅令で殺しが禁じられているのは、東の大門を渡る場合だ。この者たちは果ての山脈を越えてきたんだよ。私たちの通ったのとは別の坑道をね」
的外れな答えに怒号を飛ばしたのはユーリィだった。
「方法じゃなく、こんな事を起こした理由を訊いている!」
「理由ね」とアーウィンは蒼穹を仰いだ。そこに答えが漂っているかのように。
「依然から、漠然とこういう事を成さなければとは思っていたよ。でも、統一会議は支援を充実させてくれるかもしれないという期待もあって踏み切ることができなかった」
「代表剣士殿は徐々にだが支援物資の量を増やすよう手配している。待っていれば、貴様の望み通りダークテリトリー全域にまで支援は届くはずだ」
「ああ、そうかもしれないな。だがそうやって足踏みしているうちに誰かが死んでいく。気付かれることなく惨めにね」
アーウィンの言う死んでいく者とは誰なのか、わたしは気付いた。
「オークの村」
食糧不足を解消するために、自らの命を捧げたトルソ村のオーク達。人族に膝をつき豚であることを――家畜であることを受け入れた憐れな亜人。
その事実は村の秘密とされていた。定期的に視察に来ていたユーリィにも隠され、当然人界統一会議も知らない。人々が穏やかに畑仕事に精を出す地下で、オーク達は人知れず殺され解体されていた。
「そうだよ、ナミエ」とアーウィンは悲し気な顔に無理矢理に笑顔を作る。
「トルソ村の惨状を知り、私は決意したんだ。こんな悲劇もう2度と起こしてはならないと」
「なら何故、貴様が悲劇を起こすのだ!」
ユーリィの声が悲痛に響く。
「私と共に央都へ行き、代表剣士殿に村のことを知らせれば、我らも何らかの措置を――」
「言っただろう。足踏みしている間にも誰かが死んでいくと。私たちの目の届かないところで罪のない者たちが食い物にされているんだ」
「それがどうして、貴様がこんな事をする理由になるのだ!」
「馬鹿どもに分からせるためさ」
はっきりと告げたアーウィンの簡潔さにユーリィも言葉を詰まらせる。
「貴様らの行為など何の意味もないと。私たち暗黒界の蓄積させてきた怒りや憎しみは、いつでも人界に牙を向けられると分からせてやる必要がある。重い腰を上げさせるには、人界で血を流してやらないと馬鹿は理解しない」
痛みなくして、変革はない。変わらないのならば、変えざるを得ない状況を作り出すしかない。依然から考えていただけあって、アーウィンがそれを決断してから実行に移すまでは恐ろしく迅速だったに違いない。
きっとオブシディアに戻った時に、かねてから進めていた準備の仕上げにかかったのだろう。いや、準備はとうに済ませていた。後は、周囲に転がっているジャイアントやオーガに指示を飛ばすだけだったのだ。
「システム・コール」とアーウィンが短く式句を唱える。攻撃術かとユーリィは身構えたが、アーウィンの手中で生成された火球は上空へと打ち出され、程なくして破裂音を響かせながら空中に爆炎が花開く。
「これでは終わらないよ。控えている同志たちは沢山いる。この村の生き残りたちも、じき根絶やしにされるだろうね」
アーウィンは悲しそうな顔をしていた。しっかりと理性を持った顔で、犠牲になった者たちへの哀悼の意思を湛えている。
幾重もの咆哮が、果ての山脈から下ってくるのが分かった。狼煙を確認したアーウィンの「同志たち」が村を更に破壊し尽くそうと迫ってくる。
「人界の民には申し訳ないが、償いはしてもらう」
「償いだと?」
「ああ、私たちの飢えを食い物に安穏と暮らしていた責任を取ってもらう」
山脈の果ての奥に広がる荒涼とした大地。そこで土を貪り泥水を啜りながら生きてきた者たちがいる。そこは闇の国と、住人たちは暗神の眷属と見放された。
いくつもの戦乱で流れた血と散った亡者たちの魂を背負って、人界人たちにとって「世界の終わり」だった山から獣人たちがやってくる。
四足で駆け下りてくる様は狼そのものだった。革の胸当てとか、背中に担いだ剣とかは人の真似事に見えてしまう。獣ならではの連携力か、オーガ達はわたし達を包囲し退路を塞ぐ。
「退くつもりはないのか?」
ユーリィの問いにアーウィンは「ない」と即答し、
「後戻りできないのは覚悟の上だよ」
「そうか」とユーリィは深く嘆息し、槍を構え直す。
「ユーリィ・シンセシス・トゥエニワン、参る!」
宣言した瞬間、オーガ達が一斉に吼えた。同時、数人の首が撥ねられる。大剣を振りかぶったセツナを先の獲物として捕らえようと、獣人の群れが彼に向かっていく。
「アーウィン・イクセンティア、参る!」
剣を抜いたアーウィンも宣言し、同時に駆け出したふたりはそれぞれの間合いに入ると武器を打ちつけ合う。
緋色の光を放ったアーウィンの剣が、槍を持ち主ごと弾いた。間髪入れず肉迫し横薙ぎの一閃を放ち、間一髪で避けたユーリィの背後に建つ民家を両断してみせる。
「実を言えば、君とは手合わせをしてみたかったんだよ。師から与えられたこの剣が、整合騎士に通用するかとね」
光が消えた刃を指でなぞりながらごちるアーウィンに、ユーリィは構わず槍を突き出す。視認すら難しい鋭い突きだが、アーウィンは身を屈めて避けつつ足を払うよう剣を振る。
それを見越していたのか、跳躍したユーリィの爪先を剣が掠め火花を散らす。宙を跳びながら突き出された槍と地上から振るわれた剣が衝突し、反動によって互いに後ろへと追いやられる。
先に体勢を立て直したのはアーウィンのほうで、肉迫し振り下ろした剣はユーリィが咄嗟にかざした槍の中腹で受け止められ拮抗する。
いつ崩れるかも危うい鍔迫り合いで、ふたりは互いに闘志のこもる眼差しを交わしていた。異界戦争のような、人界と暗黒界の敵同士なんて単純なものじゃない。
「武器に躊躇を感じるぞ」
煽るようにアーウィンが言う。
「私に情けをかけている余裕があるのか?」
「情けなど……!」
癇に障ったらしく、ユーリィは力任せにアーウィンごと剣を弾いた。反動で痺れるのか、アーウィンは手を振りながら言う。
「君は――君たち整合騎士はもしや、暗黒界の民を殺すなと命令されているんじゃないか?」
その問いにユーリィは逡巡した。「図星か」と彼女の心中を察し、アーウィンは更に告げる。
「戦前は私たちが果ての山脈を越えようとすれば問答無用に殺していただろうに。これも代表剣士の方針か?」
「代表剣士殿はようやく結ばれた和平が永遠に続くことを望まれている。あの方にとって、ダークテリトリーの者たちも護るべき民なのだ」
「慈悲深いな。だがその慈悲による命令で、君は護るべき民が殺されながらも見ていることしかできないわけだ。君に私は殺せないからね」
アーウィンは両腕を広げた。戦いの中ではひどく無防備な仕草だ。でも彼女は確信している。目の前の整合騎士が決して自分の天命を一定以上減らせないことを。
「気になるのは、君が出合い頭にジャイアントを殺せたことだ。彼らも民なのに何故――」
眉を潜めて思案の表情を浮かべるが、すぐに得心したように緩む。
「ああ、魔獣と同じ類と見ていたのか。残念だよ」
そこでわたしには気付いたことがあった。
「人を殺せないのはアーウィンも同じはず」
わたしの言葉に彼女は「暗黒界ではね」と答える。
「イスカーンの発した勅令は暗黒界の民同士で殺し、盗み、騙しを働いてはならない。ここは人界で、私が相手しているのは民ではなく整合騎士だ」
「屁理屈を!」とユーリィが怒声を発した。法の抜け道を突くなんて、民を苦しめてきた貴族と同じじゃないか。同類じみた行為にアーウィンが嫌悪を覚えなかったはずはない。
「でもねユーリィ、私は君を殺す気はない」
その言葉にユーリィは口を結んだ。ふたりの沈黙で、背後で繰り広げられている剣戟の音がよく聞こえた。肉と骨を絶つ音が。
それらの血生臭い音に負けじと、アーウィンは再び声をあげる。
「私の目的はあくまでこの村を滅ぼすことだ。邪魔さえしないのなら剣を引く」
「騎士である私に、こんな蛮行を見過ごせというのか!」
「出来ないだろうね。私に君を殺す理由はないが、君には私を殺す理由と大義があるはずだ」
「侮るな!」
ユーリィが槍を突いたが、アーウィンはいとも容易く剣で払ってしまう。
「さっきから急所を外して狙っているのが丸分かりだ。どうした? セツナに君のような迷いはないよ」
その言葉に、ユーリィは背後を振り返った。わたしも同じ方向へ視線を転じる。
斬り飛ばされた毛だらけの腕や脚が、そこら辺に散らかっている。積み上がった死体はどれも身体の一部を失っている。五体満足なものが見当たらなかった。
そんな状態になっても、まだ生きている者がいる。彼らの口から出ているのは苦痛ではなく、まだ戦おうとする闘志に満ちた唸り声だった。
さっきのジャイアント達と同じだ。まるで痛みを感じていないかのように、自分の手足がなくなったことに気付いていないかのように、間違いなく死への階段を踏みながらも彼らは生きている。
「痛覚を奪われているが故、あのような姿でも生き永らえておる。何とも憐れなものよ」
いつの間にか、わたしの傍に顎門がいた。口振りの慈悲深さがどうしても紛い物に思えてしまって、わたしは何も言い返したりはしなかった。
セツナはそんな痛々しいオーガ達を冷静に「殺して」回っていた。敵から奪ったのか、軽そうな細身の剣を彼らの頭に突き立て確実な止めを刺していく。ひとり、またひとりと息の根を止められて、屍になり損ねた者たちの呻き声が徐々にだけど静かになっていく。
吐き気がしそうな光景をアーウィンはしっかりと見つめている。それが決して目を逸らしてはならない、神聖な儀式であるかのような眼差しで。
「確かに彼の所業は残酷だが、守護者としては正しい。君はどうだ? ユーリィ・シンセシス・トゥエニワン」
アーウィンへ向き直ったユーリィは怒りの形相を浮かべる。だがすぐ、その表情が崩れた。右目を押さえた彼女の指間から垣間見えるのは、赤い光。
「ユーリィ?」
わたしが呼びかけても、ユーリィは苦痛に呻くだけだった。
「私を止めたいのなら、その忌々しい右目を抉り出すしかないぞ。さあどうする?」
そーどあーと・おふらいん えぴそーど20
キリト=キ
アスナ=ア
ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」
キ「解説のキリトです」
ア「それにしても、今年は原作『ソードアート・オンライン』のアニメ放送開始から10周年なのね」
キ「今更だけど、まあそうだな。割と最近のアニメっていう印象だったけどもう10年経ってたんだなあ」
ア「感慨深いわよね10年の間に映像もどんどん進化していって。まだゴミみたいな作画のアニメが量産しているなか、高品質で世に送り出されるのは本当に嬉しいわね」
キ「アスナさん、他のものをけなして褒めるのはやめようか………」
ア「公式のほうは10周年アニバーサリーとして色々な企画があるみたいね。『プログレッシブ』の劇場版とか」
キ「みたいだな。まだまだ原作小説も続いてるし、これからも盛り上がりそうだ」
ア「ねえキリト君――」
キ「ダメだ」
ア「まだ何も言ってないじゃない!」
キ「どうせこっちでも何かやろうとか言うんだろ? 作者キャパオーバーだよ」
ア「違うわよ。この二次創作をあたかも公式外伝小説であるかのように掲示板に書き込んだりSNSで宣伝するのよ。作者絵も描けるんだからイラスト付きで信憑性アップ!」
キ「デマじゃねーか! このコンプライアンスが厳しいご時世にそんなのできるか!」
ア「分かってないわねキリト君は。物事はタイミングよ。公式が盛り上がっている時期に大々的に宣伝すればバズりやすいのよ」
キ「宣伝じゃなくて民衆騙してるから。てかこの作品原作の10周年記念で出すような外伝じゃないからね」
ア「どこがよ? 立派なSAOの二次創作じゃない」
キ「中身実質的なオリジナルじゃねーか! 世界観と設定だけで作風別物だし。原作キャラ名前しか出ないし!」
ア「ああキリト君もやっぱり出番がないの気にしていたのね。そうよねえ原作主人公だもん」
キ「いやそこは気にしてないよ。てか俺出たくないよこんな血生臭い話に」
ア「もう、じゃあこっちはどうするの? これからも今まで通り鬱展開な話を更新していくつもり?」
キ「鬱な作品はひっそりと始まってひっそりと終わるのが1番なんだよ。作者としては『さよならを教えて』みたいなネットの伝説になるのが望みらしい」
ア「何言ってるのよメジャーを目指しなさい! 若者はネットじゃなくリアルに出るべきなのよ!」
キ「俺たち、ネトゲテーマ作品のキャラだってこと忘れてない?」
ア「わたしが言いたのは、作者は本当にこの作品を世に広めるつもりがあるのかってことよ!」
キ「作者から伝言預かってる。『ない』ってさ」
ア「ええ⁉」
キ「バズるとか関係なしに自分が書きたいように書くって方針みたいだ。清々しいまでのマイペースだな」
ア「所詮はアマチュアってことね」
キ「利益とか契約とか考えず自由に書けるのがインディーズ活動の強みなの。ああそれと、あんまり盛り上がるような話題じゃないけど近々新キャラが出るそうだ」
ア「また出るの?」
キ「ああ、2人出るみたいだ。そんでもってイラスト付ける主要キャラは次の2人で最後みたいだな」
ア「ぽんぽんキャラが増えるわね」
キ「おい楽しみにと思って情報解禁したのにリアクションそれか?」
ア「だってロクな目に合わなそう」
キ「それは同感………。まあ先月のお盆でストーリー進められたから、作者としても予定より早く出せるみたいだ」
ア「鬱展開の犠牲になるお仲間が増えるってことね」
キ「あながち間違ってない言い方なのが悲しいところだな」
ア「新キャラも気になるところだけどまず本編ね。敵になっちゃったアーウィンとの戦いはどんな行方になるのでしょうか」
キ「次回をお楽しみに!」