ソードアート・オンライン パラダイス・シフト   作:hirotani

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第21幕 シールド・アニムス

 

   1

 

 コード871。

 

 以前にもユーリィを苦しめた右目の痛みは、その奇妙な名前の封印式を付けられている。誰が、どんな意味を込めて命名されたのかは分からないが、何のためにわたし達の魂に術式が組み込まれたのかはユーリィから聞いている。

 

 この世界に生きるわたし達を隷属させるための術式。法を犯そうとすれば苦痛によって思考を制限させられる。

 

 この時ユーリィの脳裏にあったのは、間違いなく整合騎士として村の虐殺を止めなければならないという大義だろう。

 

 大義があれば行動を起こすのは簡単なこと。だけどユーリィのありふれた大義を成すには不可侵の障壁があった。

 

 虐殺を止めるために必要なのは、惨劇を手引きしたアーウィンを無力化――即ち抹殺すること。

 

 だがユーリィは、人界代表剣士の命で暗黒界人の天命を一定以上減らせない。

 

 護らなければならないが殺すことはできない。その板挟みが右目の痛みに現れてしまっていた。

 

「どうする? 整合騎士」

 

 アーウィンは再度問う。

 

「その神器で私を突かなければ、私自らの手で残りの者たちを殺しに行くぞ。それともそこにいるベクタの落胤に代行を頼むか?」

 

 とセツナへ視線を向ける。既にあらかたオーガを殺し終えて返り血塗れになった彼は、手持ち無沙汰に突っ立ったままでいる。

 

「俺は下手に手出しできない」

 

 セツナは突き放すように言いながら、首元を捲り着けられた首輪を見せる。簡単な術式で爆発するから、ある程度距離があれば詠唱は済んでしまう。殺せるからといって、セツナも無敵というわけではなかったのだ。

 

「やれるのは君だけだぞユーリィ。前に言ったことを覚えているか?」

 

 アーウィンはユーリィの前で膝をつき、同じ目線で彼女の赤い右目を覗き込む。痛みに悶絶しているユーリィに聞こえているかは分からないが、アーウィンは構わず告げた。

 

「君の行いが絶対的に正しいと思うのなら、迷わず私を殺せと言ったはずだ。今がその時だ。違うか?」

 

 ユーリィは無事なほうの左目でアーウィンを睨む。右目の封印が彼女の裡に沸き上がる感情に反応し、更に光を強めた。

 

「君は真実を知りながら何故騎士であることを続ける?」

 

 今にも触れ合いそうなほどに、アーウィンは顔を近付けた。

 

「永劫の時に縛り付けられ愛する人の記憶を奪われておきながら、その宿命を受け入れたのは命令されたからか?」

「貴様……、聞いて………」

「済まないね。盗み聞きするつもりはなかった」

 

 涎を垂らしながらも反論しようとするが、赤い右目がそれを赦さず更に苦痛をユーリィに与える。

 

「君の意思ならば、それを証明してみせろ。自ら選んだ使命を果たせユーリィ!」

「私は……!」

「何のためにその神器を取る? ただそれを振るだけの人形か?」

 

 アーウィンは問い続ける。どこか諭しているようにも見えた。その違和感をわたしが探るより早く、ユーリィの怒号が響いた。

 

「私は騎士だあああああああああ‼」

 

 見開かれた右目が飛び出すほどに膨れ上がり、弾けた眼球から鮮血を散らした。飛沫が目の前にあったアーウィンの顔を濡らし、彼女の目を眩ませる。

 

 それを残った左目で捉えたユーリィは、絶叫しながら槍の切っ先を彼女の腹に突き立てる。アーウィンは咄嗟に剣をかざし防御態勢を取ったけど、間に合わなかった。

 

 腹を串刺しにされたアーウィンの肉体が力を失っていく。ユーリィは呆然と、自身の行動が遠い幻か夢であるかのように、まどろみの中に目の前の女剣士を見下ろしていた。

 

 

   2

 

 戦闘行為そのものが終わっても、惨状は終わらなかった。

 

 生き残った村民は半数にも満たなかった。多くの者たちがなぶり殺され、中にはオーガに食われた者もいたとか。それを裏付けるように、道端に打ち捨てられた骸には開かれた腹の中身が文字通り空っぽで骨と僅かな肉といった「食べ残し」があるだけのものもあった。

 

 目の前で妻を貪り食われたという農夫は、処理に困るほど大きなジャイアントの死体に農作業用ピッチフォークを何度も突き刺していた。

 

「ダークテリトリーの化け物が!」

「返して! あの子を返して‼」

「死ね! 死ね! 死ね‼」

 

 そういった復讐で死体蹴りをする者たちは多い。子を殺された夫人、親を殺された幼子。彼らは涙を流しながら怨嗟の言葉を吐き、物言わず反撃もしてこない肉と骨を殴打し刺し続けている。

 

 執拗にオーガの頭をこん棒で叩いていた少年は、頭蓋骨が割れて裂けた毛皮から溢れてきた血と脳漿に吐き気を催していた。勝手なものだ、とその光景を見ていたわたしは思った。自分が脳味噌をぶちまけたのに嫌悪を覚えるなんて。

 

 戦前は化け物とされていた暗黒界の亜人も戦後になっては人として扱われ、禁忌目録には亜人に対する危害を禁じる項目が加えられている。にも関わらず、何故いたぶる村民たちに右目の封印が発動しないのか。

 

「死体だからだ」

 

 失った右目に服を千切っただけの即席包帯を巻いたユーリィが、わたしの疑問に答えてくれた。まだ痛むのか眉間にしわを寄せながら、

 

「禁忌目録にある危害とは天命を減らす行為。死んでしまえば、天命も何もない」

「死体は物というわけか」

 

 セツナが皮肉なんだか分からない感想を漏らす。敵の増援がないかわざわざ果ての山脈まで行って確認してきたからか、顔は無表情ながら疲労の色が見えた。

 

「騎士様」

 

 力のない声に振り返ると、すっかり憔悴しきった様子の村長が立っていた。

 

「馬車の修理が終わりました」

「分かった。協力に感謝する」

「我々は、どうしたら……、村は………」

 

 怯えが露になったその顔に、村の長としての威厳はすっかり削ぎ落とされていた。故郷に帰る手もある。10年前のゴブリン襲撃で当時の村民たちが皆殺しにされているから、この村が生まれ故郷の村民はいないのだ。離れるのに心理的な枷もないだろうに。

 

 ユーリィは自分よりも大柄な村長の肩に手を置いた。

 

「私たちが今日中にストピリアへ着けば、明日には守備軍の者が来る。済まないがそれまで辛抱してくれ」

「………はい」

 

 何だか初めてユーリィの騎士らしい姿を見た気がした。こんなこと本人には言えないけど。

 

 村の入口に停めてあるという馬車へ向かう間、すれ違うのは僅かな村民たちとその他大勢の死体だった。

 

 不意に旋律が響く。まだ炎が収まらず燃え続ける教会から時告げの鐘が時刻を知らせていた。既に柱を焼かれ崩れてしまった建物に埋もれながらも、意思のない鐘は自らに与えられた使命を果たし続ける。その身の天命が尽きるまで。

 

 わたし達も同じなのだろうか。天職という役目を与えられ、法に背けば苦痛で屈服させられ、世界や社会といった枠組みを維持するために生涯を捧げなければならない。その生き方に、どこまでわたし達の意思という自由が介在しているのか。

 

 思考がおかしな方向に偏っている。ユーリィの右目が吹き飛ぶ瞬間を見てからずっとだ。些細なことで答えが見つからない問いが脳内を駆け回っている。

 

 馬車のもとへ着いて荷台に乗ると、馬がゆっくりと前進した。急ぎであるという事情を汲んで荷台を引く馬を2頭に増やしてもらった。これなら馬の天命消費を抑えられて、休憩の頻度を減らせる。

 

 馬車の中でも、ゆっくりくつろげるような空間ではなかった。その原因が、手足を縛られながらもうっすらと笑みを浮かべている。

 

「罪人を護らなければならないとは、皮肉なものだね」

 

 槍で貫かれたアーウィンの腹は、跡こそ残ったものの穴がすっかり塞がれていた。ステイシアの窓に表示された彼女の天命はものすごい速さで減少し真っ直ぐ死へと向かっていたのだが、それはわたしとユーリィが回復術を施し続け全損寸前で阻止した。ユーリィが持っていた神聖力の結晶を全て消費し、自らの天命を分け与えるという高等術まで行使してようやく、アーウィンは意識を取り戻した。

 

「まだ私に情けをかけるのか?」

「勘違いするな。貴様には公正な審問を受けてもらう。ここで私の独断で処刑するわけにはいかない」

「立派なものだよ、本当に」

 

 穏やかなアーウィンの声音とは対象的に、ユーリィの声はとても冷たかった。どんな感情を向けられようが全て跳ね返すように。

 

 アーウィンの治療と保護を言い出したのはユーリィだった。生き残った村民たちに亜人たちと戦った剣士と彼女の身分を偽り、治療の強力を呼びかけた。整合騎士であるユーリィの言葉を村民たちは信じ切って、治療のために無事な民家のベッドを貸してくれて神聖力の触媒になりそうなものをかき集めてきてくれたのだ。

 

 虚偽の禁止は禁忌目録にあるはずなのだが、ユーリィは躊躇なく村民たちを騙していた。ユーリィ自身も自らの行動に戸惑っているように見えたのは、果たしてわたしの気のせいだっただろうか。

 

 アーウィンが訊いてくる。

 

「この馬車はどこへ向かっているのかな?」

「ストピリア。央都ほどじゃないがそれなりに大きな街だ。そこの守備軍に村のことを伝え、央都に伝令を飛ばし整合騎士に貴様を迎えに来てもらう」

「何だ、君が連れて行ってくれるんじゃないのか」

「出来ればそうしたいが、飛竜のない私では央都にいつ着くか分からん」

「じゃあ、これが最後の旅か」

「楽しむ暇はないぞ。街に着くまで訊きたいことは山ほどある」

 

 これから始まるだろう尋問にアーウィンは肩をすくめた。その態度への苛立ちを顔に出すも、溜め息と共に吐き出したユーリィは静かに質問をする。

 

「貴様が連れてきたオーガとジャイアント達は痛みがないようだった。何をした?」

「言わないと言ったら?」

 

 瞬間、ユーリィの爪先がアーウィンの腹を蹴飛ばした。くの字に身体を曲げて胃液を吐き出しながらも、アーウィンは笑っていた。

 

「容赦ないね……、さっき腹を刺されたばかりの人間に………」

「罪人だからな」

 

 アーウィンの纏められた髪を掴み無理矢理起き上がらせる。口端から唾液を垂れ流す彼女に、ユーリィは冷たく告げる。

 

「さあ、言ってもらうぞ。あの者たちに何をした?」

 

 まだ込み上げてくる胃液を飲み下し、アーウィンは息もまだ整っていないが話し始めた。

 

「暗殺ギルドが作っていた痺れ薬だ。本来なら相手を動けなくするためのものだが、薬の配合を調整すれば痛覚をなくすことができる。思考能力も多少落ちてしまうが、そっちのほうが戦士としての力量を発揮できる」

「暗殺ギルドがこの件に関わっているのか?」

「あのギルドはベクタが目覚めてすぐに頭目が死んで、それからは烏合の衆さ。私に協力してくれたのは運よく生き残った奴だ。かなりの臆病者でね。探し出すのに苦労したよ」

 

 「その話はいい」とユーリィが無理矢理に話を打ち切った。「ねえ、わたしからも良い?」と恐る恐る挙手をする。ユーリィは黙って頷いてくれた。

 

「村を襲った人たちは、薬のこと知っていたの?」

「ああ、彼らは自分がどうなるかも、向かうのが死地であることも理解した上で薬を飲んでくれた」

「そこまで人界を憎んでいたの?」

「ああ、彼らは2年前の飢饉で故郷を失った者たちだ」

 

 「飢饉だと?」とユーリィが眉を潜め、

 

「そんな話聞いたことがない。人界の支援で暗黒界の食糧問題は改善しているはずだ」

「それは統一会議が把握している集落での話だ」

 

 アーウィンの声は鋭く、身柄を拘束させているにも関わらずユーリィを怯ませた。

 

「統一会議やこちらの五族会議に存在すら知られていない集落はごまんとある。大半が亜人の村だ。そういった村の者たちが次々と飢え死んでいった。ろくに調査もせずオブシディアや種族の里周辺にだけ物資を送り支援したつもりの貴様らのせいでな!」

 

 怒りのあまり唇を噛んだのか、アーウィンの口端から血が垂れる。

 

「風の噂で聞いた食糧支援を、石を食いながら待ち続け痩せ細っていった者たちの無念が分かるか? 分からないだろうな。そこに居たと為政者に気付かれなかった者たちだ。その死も表には知られることがない。イスカーンも代表剣士も、犠牲があったことを知らず――知ろうともせず自らの功績を吹聴してばかりだ」

 

 アーウィンの口から止めどなく、暗黒界に蔓延る非情な現実が溢れ出ていた。この手記を書いている現在は戸籍登録として、出生時と死亡時には教会に届出が義務付けられている。

 

 だけど戦後10年のこの時代では、発足して間もない人界統一会議と暗黒界五族会議の組織整備と目下の問題――旧貴族やギルド幹部によって腐敗した社会の法改正が優先されていた。

 

 だからそれぞれの国で毎年何人が産まれ何人が死んでいるなんて人口管理にまで手が回らなかったのだ。ウンベールのように暗黒界へ流れた人界貴族が放置されていたのは、その辺の事情が絡んでいる。

 

 どん底に身を置いている者がいることが知られていない。人界とか暗黒界とかは別で、豊かな世界と貧しい世界に分断されていたのだ。

 

「……事情は分かった」

 

 積年の憎悪をぶつけられても、ユーリィは今までとは別人のように冷静だった。自らが仕える代表剣士を侮辱されたにも関わらず。

 

「調査をより正確に行うよう、代表剣士殿に進言しておこう。だがそれとこれとは別の話。貴様は自らの主張のために無辜(むこ)の民を虐殺する手引きをした。それは言い逃れが赦されない罪だ」

「ああ、私も覚悟の上だ。村人たちには申し訳ないことをしたし、同志たちも死なせてしまった。私ひとり生き残るなんて、そんな都合の良いことがあってはならないよ」

 

 アーウィンの言葉に、わたしの胸の奥が痛く疼いた。セツナがウンベールに処刑されるのが決まった日、わたしの母親になろうとした彼女も似たようなことを言っていたのだ。

 

 

 ――誰かを殺しておきながら何食わぬ顔で生きるなんて、そんな都合の良い話はないよ――

 

 

 エメラ、とわたしは裡で決して母と呼ばなかった人の名前を呼んだ。あなたも何かの覚悟を決めていたの、という問いは答えてくれる相手がいない。

 

「我からも訊きたい」

 

 不意にセツナの服から出てきた顎門が、アーウィンの前で静止した。

 

「お主、右目の封印を破るようそそのかしおったな?」

 

 その質問に右目を吹き飛ばされたユーリィが、残された左目を見開く。わたしはというと、脳裏で何かが合致したような納得があった。

 

 顎門の言うように、あの時のアーウィンは諭すような語り口だった。今すぐ右目のコード871という封印を解き自分を殺せと言っているかのように。

 

「流石は第2の最高司祭の使い魔だ」

 

 アーウィンは笑った。その笑みがユーリィを苛立たせる。

 

「何故そんなことを? 私がいつそれを頼んだ!」

「自分で考えてはどうだ? もう人形じゃないんだ」

 

 

   3

 

 街の入口で警備にあたっていた守備軍の兵士は、整合騎士ユーリィ・シンセシス・トゥエニワンの姿を認めると彼女の要求通り守備軍庁舎へとわたし達の馬車を案内してくれた。

 

 ストピリア。大きな街とユーリィから聞いてはいたが、どこを見ても建物や人が必ず視界に入る光景にわたしは息を呑んだ。

 

 央都と果ての山脈麓の中継地という位置付けらしいが、路地を行き交う人々は休息に訪れた旅人だけじゃなくこの地に定住しているだろう軽装の者も多い。

 

 とはいえ、ひと目で観光客と分かる顔ぶれも多い。例えばゴブリンやオークとかの亜人。明らかこの街が故郷でない者も盛んに行き交っていた。

 

 本来なら喜ばしいことなのかもしれない。人界と暗黒界の交流は順調そのもの。なんの確執もない。

 

 でも、それが真実でないことをわたしは知っている。そのことに心を痛め虐殺なんて事態を引き起こした者がいる。

 

 嘘っぱちだ。暗黒界人たちの腹は満たされていない。人界から流れた貴族どもが彼らの地を荒らした。彼らは人界統一会議に感謝するどころか憎しみを募らせている。

 

 わたしが見てきた事実をこの街で声高に主張したところで、どれだけの人々が耳を傾け信じてくれるだろう。いないだろうな、と容易に想像できる。統一会議が「演出」する政治の恩恵を受けた彼らにとって、この豊かな街の姿こそが現実で世界という枠組みの全てなのだから。

 

 馬車が止まった。窓から顔を出すと、目の前には質素ながらも大きな箱型の建物が鎮座している。

 

「ここに居てくれ」

 

 それだけ言って庁舎へ入っていったユーリィが戻ってくるのに10分も掛からなかった気がする。慌ただしく扉から出てきた大柄でいかにも戦士という出で立ちの青年は、馬車の扉を開けてわたし達ひとりひとりに当惑の目を向けている。

 

 その視線がユーリィに留まった。

 

「あのダークテリトリー人ですか?」

「ああ、そうだ」

「このふたりは?」

「経緯が少し複雑でな、今は奴を頼む」

 

 多少の疑問は喉元に止め「はっ」と応じた兵士はアーウィンの足の縄を剣で斬った。腕を掴み立たされる強引さに、彼女は一切の抵抗を見せず応じた。

 

「急ぎフォーラストに調査団を。あと央都にも伝令を頼む。できれば整合騎士を寄越してほしいと」

「はっ、直ちに」

 

 威勢よく返し、兵士はアーウィンを伴って庁舎へと戻っていく。

 

「私たちも休もう。流石に疲れた」

 

 ユーリィは深く溜め息をつく。「そうね」とわたしは頷いた。夕刻なのにまだ賑わうこの街の喧騒から少しでも離れたい。1日のうちに地獄絵図と平和な光景の両方を見させられるのは、何故かとても精神を擦り減らされる思いだった。

 

 死体だらけの村と笑顔だらけの街。どちらがわたしの居るべき「正しい場所」なのか分からなくなる。自分が産まれた人界なのに、ここに自分がいることが酷く場違いに思えた。

 

 宿はすぐに見つかった。ストピリアは央都への中継地という土地柄もあって、行商人向けの宿屋が充実している。暗黒界との交流が始まってからは観光客向けに宿泊業が更に拡充されたらしく、通り一帯にある建物が全て宿屋なんて様相を作り出していた。

 

 ユーリィは建ち並ぶ中で最も安い宿を選んだ。整合騎士に路銀を持ち歩く習慣がないというのは本人談だ。飛竜と共にいれば人界のどこへ赴こうがその日のうちにセントラル・カセドラルに帰ってこられる。だから宿に泊まるといったことは殆どないのだとか。

 

 宿屋の主人が腕を振るったという夕食は流石人界の料理というべきか、とても美味しかった。

 

 ニンニクの香りが効いたパスタという小麦生地を練った麺料理。フリットという白身魚の揚げ物。鮮やかで瑞々しい色をした葉物野菜のサラダ。

 

「なんせ安宿だから、こんな貧相なもんしか出せねえけどな」

 

 そう言ってのける主人の顔に卑屈さはなく、清々しいほどに笑っていた。「とても美味しいです」とわたしが言ったら気を良くしたのか、

 

「嬉しいねえ。美人な嬢ちゃんにはおまけだ」

 

 奥に引っ込んだ主人はすぐ戻って来て、わたしにコヒル茶を出してくれた。何とか笑顔を返し、パスタを口に運びながらわたしは自分の貧乏舌に呆れてしまう。

 

 きっと人界では何を食べても美味しく感じるだろう。街の広場にいたハトにさえ食欲が湧いたほどだ。ゴブリンの子どもが美味そうと言って親に叱られているところを見たから、決して口には出さなかったけど。

 

 これが普通の旅だったらどれほど楽しいことだろう。ふと、そんな無意味な想像が頭をよぎる。わたしが密かに姉のような親しみを覚えていた彼女が居てくれたら。

 

「ねえユーリィ」

 

 全くと言っていいほど会話が無かったから、ユーリィはフォークを動かす手を止めて意外そうにわたしを見た。

 

「アーウィンに会わせて」

「………分かった」

 

 そんな訳で、わたし達は食事を終えると再び庁舎へやってきた。待っていると言ったユーリィを玄関口に残して、夜勤の兵士に案内してもらって地下牢へ降りていく。

 

 法に厳しい人界なだけあって、牢屋に人気は全くと言っていいほどなかった。建物の築年数はそれなりにありそうだが、人界で法を犯し自ら牢屋に入ろうとする者なんて皆無だったのだろう。

 

「ここって、最後に使われたのはいつなんですか?」

 

 試しに訊いてみると、兵士は記憶を探るように頭を掻きながら、

 

「20年前だったかな? いや50年前だったかも。まあ少なくとも俺がはっきり知ってる限りじゃ、あの女が初めてだな」

 

 兵士は指をさす。この牢屋に唯一習慣されているアーウィン・イクセンティアという暗黒界人を。

 

「多分何もないとは思うが、奴が妙な真似したら呼んでくれ」

 

 どこか間の抜けた声で言い上へ戻っていく彼の背中を見ながら、何て不用心なのかとわたしは酷く呆れた。法を破る者が殆どいないからといって、これでは兵士が常駐している意味がない。

 

「全く、不用心にも程があるな」

 

 牢屋に敷かれた粗末な茣蓙(ござ)に座ったアーウィンが、わたしと同じことを言う。ここに押し込まれた以外に酷い扱いは受けていなかったらしく、弱いカンテラ光の照らす彼女の身体にこれといった傷や痣は見当たらなかった。

 

 ああ、この人はもうすぐ死ぬんだ。ここに来てようやく、わたしはその残酷さを実感した。まだ判決が下っていなくても、処刑を免れないことはわたしでも予想できる。

 

 一緒に来たセツナも分かっていただろうし、アーウィン本人も分かっていたに違いない。彼女は亜人たちを果ての山脈に呼び入れた時点で、既に覚悟を済ませていただろう。

 

 出会ってそう経っていないけど彼女と過ごしてきた日々、彼女がわたしにしてくれた事が次々と脳裏を駆け巡り、やがて彼方へと去っていく。

 

「あなたに、勝手に思ってた。もしわたしに姉がいたら、アーウィンがそうなんじゃないかなって………」

「奇遇だね。私も君のことは妹みたいに思っていたよ」

 

 冷え切った裡を溶かしてくれた人からそう言われ、気付けばわたしは泣いていた。涙と願望を抑えることができない。それがたとえ叶わないと理解していても。

 

「お姉ちゃんになって欲しかった………」

 

 わたしは鉄格子に手をついた。格子の隙間は狭く、手を差し入れることもできない。すぐそこにいるのに触れられない隔たりは、触れたいという想いをより強くし目頭を熱くさせた。

 

「済まないね、ナミエ」

 

 とても悲しそうな声でアーウィンは言った。村ひとつ滅ぼそうとした大罪人だけど、家族の親愛めいた情を持つこともあるし、恋焦がれることもある。

 

 むしろ、情の強さが惨状を起こしてしまったことを想うと、尚更に悲壮が増していく。

 

「最後に、訊いてよいか?」

 

 セツナの服から顎門が顔だけを出した。

 

「何故、あの整合騎士に右目の封印を解かせたのだ?」

「当ててみるといい」

「我は神ではない。人の心など覗けるものか」

「それでも私たちを導いたあなたなら分かるはずですよ、顎門」

 

 悪戯っぽく笑う彼女は、心からこの時間を楽しんでいるように見えた。これから待ち受けることを想ってか、それとも密かな恐怖を隠したいからなのか。心の深淵は当人の胸に留めておくに限る。それをわざわざ表に引きずり出そうとするのは、最も残酷なことに思えた。

 

「ナミエ、それと顎門も。済まないが外して欲しい。セツナとふたりで話がしたい」

 

 涙を拭いながら、わたしはスカートを捲って顎門を招き入れる。アーウィンの顔をもっとよく目に焼き付けておきたかったけど、そうしたらせっかく治まった涙がまた溢れそうになったから断念した。

 

 最後の話し相手がわたしじゃなかったことに少しばかり嫉妬を覚える。でも、ここはセツナに譲ってやるのが情けだ。最後くらい、アーウィンに女として過ごさせてやるのが。

 






そーどあーと・おふらいん えぴそーど21


キリト=キ
アスナ=ア
ユージオ=ユ


ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」

キ「解説のキリトです」

ア「今回のゲストは凄い人が来てるわ、どうぞ!」

ユ「こんにちは、ユージオです。こういう場ってあんまり慣れてないから緊張するけど、頑張ります」

キ「ユ、ユージオ……!(号泣)」

ユ「どうしたんだいキリト⁉」

ア「あー原作でのこと思い出して泣いちゃったのね。気にしないで」

ユ「アスナ⁉ 良いのそれで!」

キ「良いんだユージオ……、ネタコーナーでもお前が生きているだけで………」

ユ「ちょ、アスナどうにかして! 早くも収拾がつかないよ!」

ア「もう豆腐メンタルなんだから。ふたりで背中さすってあげましょ」


 ~~原作主人公のメンタルが回復するまでしばらくお待ちください~~


ユ「落ち着いたかいキリト?」

キ「ああ、うん………。ごめんなユージオ」

ア「はいはいBL空間はそこまでにして」

キ「何もしてないわ!」

ユ「BLって何?」

キ「知らなくていいからなユージオ。お前は純粋なままでいてくれ。作者あ! ユージオの設定改悪すんじゃないぞお!」

ユ「誰に言ってるんだい?」

ア「さあ本編のプレイバックいくわよ。いやー今回は凄いことになったわね! 凄いわよヤバいわよパナいわよ!」

キ「落ち着け興奮しすぎて語彙力死んでるぞ!」

ア「だってだって、ユーリィ右目の封印破っちゃったわよ!」

ユ「キリトの奥さんて、面白いね……(苦笑)」

キ「原作とは別人と思ってくれ………。まあでも、右目の封印を解いたのは素直に凄いことだな。人界じゃユージオやアリスに次ぐ快挙だ」

ユ「え、アリスも封印を破ったの?」

キ「あー、そういえばユージオは最後まで知らないままだったっけな」

ユ「まあ碌な説明もないままアドミニストレータと戦ってたからね、仕方ないよ」

キ「ごめん、ごめんなあユージオ……(泣)」

ユ「いちいち泣かないでやり辛いよ! あ、ほら他にも封印を破った人はいたのかい?」

ア「ナイスアシストよユージオ!」

ユ「アスナ余計なこと言わないで!」

キ「あの後の異界戦争で右目の封印を破ったのはイスカーンとリルピリンのふたりだな。アリスは現実世界に行ったから、ユーリィを入れてもアンダーワールドでA.L.I.C.E.に進化したのは3人しかいないことになる」

ア「考えてみればユージオが封印破ってから10年の間に4人もA.L.I.C.E.に進化してるのよね。それより前に封印破った人はいなかったの?」

キ「アドミニストレータが統治してた時代は自動化元老院が人界を監視していたからな。禁忌目録違反しようもんなら目ざとく見つかって整合騎士にされてたから、封印を破った人物が現れることはなかったんだ」

ユ「ダークテリトリーは?」

キ「あそこは力こそ全てなシンプルな支配体制だからな。イスカーンやリルピリンみたいに上官の命令に違反するのが封印発動のトリガーなんだけど、命令違反すれば問答無用で殺される世界だったから封印破ってもあんま意味なかったんだ」

ユ「なるほど……」

ア「正直、封印破ったからといってメチャクチャ強くなれるってわけでもないもんね。ただ自由に行動できるってだけで」

キ「うん。自由意志の獲得っていうのは法を厳守するアンダーワールド人の社会でこそアドバンテージを発揮するんだ。社会生活の中だと異端扱いされかねないから、それが強みになるかはまた別の話だけどな」

ユ「確かに、修剣学院時代のキリトは寮の門限とか破りまくってよくアズリカ先生に叱られてたもんね。同期の間でも浮いてたし」

キ「え⁉ あれってライオスやウンベールが他の奴らに圧力かけてたんじゃ――」

ユ「いや、あのふたりから目を付けられる前からもう浮いてたよ。変わり者とか関わるのが面倒くさいとか」

ア「ユージオ、そこまでにしてあげて。知らなくていい真実もあるの」

ユ「え……あれ? キリトどうしたの?」

キ「俺……、アンダーワールドでもぼっちになるとこだったんだな。うん、ありがとうユージオ。本当にお前が居てくれて良かった………」

ユ「あーうん、どういたしまして(ペカー)」

ア「純真って怖いわね。考えてみれば、ユージオとアリスはキリト君の影響で右目の封印を破ってるのよね」

ユ「確かに、僕は何年もキリトと一緒にいたせいで身勝手さがうつっていたから」

キ「せめて自由と言ってくれ………。そういやアリスも俺が整合騎士の真実を話したのをきっかけに封印破ってたな」

ア「ふたりともキリト君ていう現実世界からのイレギュラーユニットの影響だったのよね。そう考えると、今回ユーリィの場合セツナの影響ってあんまりないわね」

ユ「うん、アーウィンが煽っていた感じだよね」

キ「セツナただオーガ達を惨殺してただけだしな」

ア「そういう意味でもこの作品が異質ということよ。大した影響のない主人公に、勝手に暴走していくキャラクター達。その化学反応こそが小宇宙(コスモ)を――」

キ「もういい! 訳わかんなくなってる!」

ユ「まあ確かに挑戦的というか個性的というか………」

キ「ユージオ、気遣いなんていらないからな。作者に向けてはっきり言ってやれ」

ユ「………登場人物が色々と破綻してると思います」

キ「よーく言った! それだよ‼」

ア「もう何勝ち誇ってるのよ。作者曰くストーリーはこの先更に混迷していくわよ」

キ「え⁉」

ユ「読むの疲れそうだね………」

ア「ここ2、3話あたりでストーリーが大きく動くわよ。それじゃあ次回、ご期待!」

キ「なあユージオ、また来てくれるか?」

ユ「あはは、体調によるかな」

キ「!(吐血)」
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