ソードアート・オンライン パラダイス・シフト   作:hirotani

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第23幕 ハッピー・バースデイ

 

   1

 

 アーウィン・イクセンティアという名は後の世において大罪人として記憶されている。

 

 人界南端の村へ亜人を率いて虐殺を起こしたという罪状もさることながら、世に傷跡のごとく名を残したのは最期だった。

 

 死神という名を付けた女。

 

 後世において彼女の名は罪状よりも、この事実のほうがよく知られている。死神によって大衆の前で処刑されたけど、何の罪で処されたのかは知らない、なんて人も多いのではないか。

 

 わたしが調べた限りでは、黒衣の殺人者が死神と呼ばれたのはアーウィンの処刑以後だ。それ以前となると彼の呼び名は実に多彩だ。

 

 最初の殺戮劇が繰り広げられたウンベールの村では《ベクタの迷子》、襲撃したローズール率いる商工ギルドの一派からは《ベクタの落胤》と闇の皇帝に因んだ呼び名だった。他にも《悪魔》《殺人鬼》《大罪人》と様々な呼ばれ方をしていたのが、ようやく《死神》に落ち着いた。

 

 初めてその名を呼んだアーウィンがどんな意味を込めたのかは、本人亡き後では確かめようがない。ただ単純に死をもたらす存在だから、そう名付けたのかもしれない。

 

 アーウィンは《死》よりも《神》という響きに重きを置いたとわたしは考えている。法に縛られず、貴族だろうと騎士だろうと関係なく、セツナにかかれば死体に変わる。死という平等性を証明するその姿に、アーウィンは新たな世界を創造する神としての役割を期待したのかもしれない。

 

 人が人を殺すなど有り得ない。鳥篭のような山脈と壁に庇護された人界なら尚更。その価値観は死神の登場で揺らぎ始めた。法という人々を縛り付けてきた絶対的存在に、綻びが生じ始めていたのだ。

 

 アーウィンはその綻びを確かなものとするために、大衆の前で死神に首を差し出したのだろうか。何度も述べるが、当人亡き後は確認しようがない。だけど、恩人という情からわたしはどうしても死者の意図を考察し、自身を納得させたがる。これはあくまでわたしの気持ちの整理だから、勘弁願いたい。

 

 でも、皮肉なものだ。アーウィンは人界に対する攻撃として死神を擁立したのに、後世でその死神は人界統一会議の味方として語り継がれることになるのだから。

 

 死神という名が世に知られたきっかけは、アーウィンの処刑だった。だけど執行人が神格をもって伝説化するのは、もっと時期を待たなくてはならない。

 

 伝説とは、ある日突然紡がれるものじゃない。事実が起こり、それが長い時間をかけ人々に広く浸透していくことで教典として成立する。人界北端の村ルーリッドの英雄ベルクーリがそうだったように。

 

 死神伝説はある日突然に出現したのではなくいつの間にか人々に語られていた。囁かれる噂は伝説となり、ある者にとっては心の拠り所となって新たな信仰を生んだのである。

 

 

   2

 

 あの処刑の後の話に時系列を戻そう。

 

 目が覚めたとき、じんわりとした心地良い温かさが全身を包んでいるのを感じた。

 

 目蓋を開くと広がっているのは知らない白亜の天井だ。上体を起こすと、わたしはベッドで寝ていたのが分かった。とても大きな寝具だ。両手両足を広げても余裕があって、布団も柔らかくわたしの身体を包み込んでくれる。

 

 部屋にある他の調度品も、わたしの素人目から見ても明らかに高価そうなものが揃えてある。ウンベールから人界の屋敷から持ち込んできた家具やらワインやらを自慢されてきたけど、ここにあるものは爵家のものとは比較にすらならなそうだ。

 

 机も絨毯も壁紙も、花の装飾が施され染みひとつない。姿見は曇りなくわたしを映していて、楕円に縁取られた鏡の中にいるわたしは何も着ていなかった。はだけたシーツから乳房が露になって、他に誰もいないけど咄嗟にシーツをたくし上げた。

 

 念のため確認したけど、辱められた痕跡は見当たらなかった。慣れたものだけど心底安堵した。

 

 ドアが開かれ、前触れのないことにわたしは声にならない悲鳴をあげた。入ってきたのは、それは美しい中年の女性だった。

 

 化粧で誤魔化し若作りした感じがなく、加齢による深みや妖艶さを前面に押し出している。彼女のような美貌でいられるのなら、老化も悪いものではないと思えるかもしれない。

 

「目が覚めたのね」

 

 口元に微かなしわを浮かべながら彼女は優しく微笑んだ。

 

「服はそれを着ると良いわ。あんな娼婦みたいな恰好は見たくないもの」

 

 と彼女が指さした先の机に、綺麗に畳まれた服が置いてある。でも、わたしはベッドから動けずぼう、としていた。何がどうなっているのか、全く状況が呑み込めないのだ。

 

 疑問符が頭の中に多く浮かび上がってくる。訊きたいことが山ほどあって、どれから解消すべきか処理に追われているうちに、「立てる?」と女性から背を支えられ起こされる。

 

 促されるままベッドから降りたわたしに、女性は服を着せてくれた。強制するような力の込め方がなく、優しい手つきにわたしはされるがまま着せ替え人形のように大人しくしていた。

 

 服は白のブラウスに赤く長い丈のスカート。今まで着ていた生地の毛羽立つ感じがない滑らかな肌触りは良好な着心地だけど、慣れないせいか落ち着かない。

 

「よく似合ってるわ」

 

 でも女性は満足そうで、紅を引いた唇に笑みを浮かべると部屋の外からワゴンを引いてくる。

 

「お腹は空いてない? 紅茶は好き?」

 

 ワゴンの上にはサンドイッチやクッキーといった軽食とお茶の道具一式が乗せられている。女性はカップにポットのお茶を注いで、輪切りにされた黄色い果物を入れた。確かレモンといったか。

 

「いらっしゃい」

 

 カップをテーブルに置いた女性に言われてようやく、わたしは重い足を動かすことができた。椅子に腰かけてお茶をひと口啜ると、温かく程よい苦味が口の中に広がる。美味しい、という感慨が溜め息となって宙に霧散していくようだった。

 

「探してたわ、ナミエ」

 

 まだ名乗っていない名前が彼女の口からでたことに驚愕しながら、わたしは質問を絞り出した。

 

「あの、あなたは………?」

「ヘスティカ。それがこの姿での名前よ」

 

 どういう意味なのか。そう思っていると、更に彼女は告げた。

 

「私はあなたの母親なの」

 

 「え――」と声を詰まらせた。唐突の告白に、どんな反応をすれば良いのか分からない。それを見越したように、ヘスティカと名乗る彼女は語った。

 

「ええ、驚くのも当然よね。確かにあなたを産んだ代理母はゴブリンが村を襲ったときに死んだわ」

「どういうことなんですか?」

 

 彼女が言葉を重ねれば重ねるほど訳が分からなかった。ヘスティカはしばし目を伏せ、

 

「ナミエ、これから話すことは複雑で、下手をすればあなたの心が壊れてしまうかもしれない。それでもあなたは、自分のルーツを――どうやって産まれてきたのか知りたい? 知る勇気はある?」

 

 今まで自分の生い立ちにさほど興味なんてものはなかった。知ったところでわたしがされてきたことは何も変わらない。知ったところで生きる道が見えてくるとも思えなかったから。

 

 でもこの時、わたしは確かに胸の高鳴りを覚えていた。母と名乗るこの美しい女性から真実を知れば、こんな汚れたわたしの生命にも意味があるように信じることができたのだ。

 

 たとえ自分の心が壊れようが、その時はその時。後になって思えば、その衝動は若気の至りだったのだろう。わたしは躊躇なく頷いていた。

 

 ヘスティカは「そう」と溜め息交じりに漏らし、紅茶をひと口啜って喉を潤すと告げた。

 

「あなたは、正確には私の娘のクローン――つまりは複製なの」

 

 そのクローンとか複製とかの意味もまだ分からなかったのだが、ひとつだけわたしの中で確信めいたものがある。先ほどからの彼女の口調。古代神聖語を織り交ぜた話し方が、彼と重なった。

 

「その話し方……、あなたは神界の人なんですか?」

「………もう、そこまで知っているのね。そう、私はこのアンダーワールドの人たちが神界と呼ぶ世界から来たの。私は元いた世界ではマヒロ・ナオコという名前よ。そしてあなたも、そこでマヒロ・ナミエという私の娘として産まれた」

「じゃあ、どうしてわたしはこの世界に?」

「死んだからよ」

 

 簡潔かつ、残酷とも言える回答にわたしは息が詰まった。心臓が掴まれたかのように縮み上がる。

 

「向こうでのあなたは15歳で死んでしまったの。当然、私と夫は悲しんだわ。冷たくなったあなたを抱きしめながら散々泣いて、骨になった後もずっと肌身離さず抱えていた。あなたはひとり娘で、まさに我が家の太陽のような子だったから」

 

 当時を思い出してか、ヘスティカはハンカチを取り出して目元に当てた。かと思えば急に呻き始め、左胸を抑えつけるように手を当てている。

 

「大丈夫、ですか?」

「ええ、ごめんなさいね。あなたを喪ってからろくに食事も睡眠もとれなくて、そのせいか心臓の病気になってしまったの。この世界での身体は仮初だけど本当の身体とリンクした――連動した状態だから、病気の痛みも持ち込んでしまったのね」

 

 落ち着いたのか、ヘスティカは胸から手を離して深呼吸する。

 

 正直、わたしの裡に実感と呼ぶべきものはなかった。目の前の女性の娘として産まれたことも、一度死んだということも。

 

「一時はそのままあなたの後を追うことも考えたけど、希望があったわ。もしかしたら、死者を蘇らせることができるかもしれないって」

「死者を蘇らせる?」

「ええ。私たちの世界では、人の魂を人工的に生み出すことができるの。女がお腹に宿さなくてもね。まだ一般に普及するどころか成功例もない技術だけど、幸い私はそれに介入できる地位も財産もあったから、あなたの魂を再生させるよう研究機関に働きかけることができた」

 

 ヘスティカの語るものが何となくミニオンや使い魔のような術式とは全く異なり、そして遥かに高等だということは理解できた。

 

 その死者蘇生の成功例がわたしなのだということは察しがついたし、事実ヘスティカの言葉はその通りだったからだ。

 

「まっさらで無垢な赤ちゃんの魂に生前のあなたの話し方や仕草、私と夫の遺伝子情報を組み込んでようやくあなたの魂は完成した。だけど、すぐに15歳のナミエとして目覚めさせることはできなかった」

「法で許されなかったから?」

「それもあるけど全てじゃないわ。法なんてあってないようなものよ」

 

 さらりと言ってのけたその言葉で、わたしはヘスティカが神界からの来訪者であることを確信できた。わたし達の世界において法とは、姿の見えない神の現身のような絶対的存在なのだから。

 

「実はコピ――複製された魂というのは、自分が複製という事実に耐えられないらしいの。私も実際、研究員の複製された魂が、自分が本物じゃないと分かった途端に発狂して壊れてしまう様を見せられたわ。怖かったの。再びあなたを喪ってしまうことが」

「じゃあ、今こうしてわたしに真実を話すのは?」

「私はあなたに自分が作られた存在だと隠し通すことも考えた。だけどこうも思ったの。あなたは娘の完全な複製じゃない」

「あくまであなたの娘に似せただけだから、真実を伝えても壊れないってこと?」

 

 言葉の先を越されたことに驚いたのか、ヘスティカは少しばかり目を見開いた。

 

「理屈としては、ね。でも再現は成功したみたい。向こうでのあなたも頭が良い子だったから」

 

 目を潤ませる彼女に、正直今のところ母という認識は持てない。代わりにわたしの裡にあったのは、忘れかけていた怒りというべき感情だった。

 

 「何で……」という問いがぽつりと零れると、後は止めどなく言葉の波が溢れてくる。

 

「何でわたしをこの世界に置いてったの? 苦しかった! 親がどんな人かも分からないで、その日の食べ物すらもままならない毎日で、男にずっと好き放題されて………」

 

 母と姉。家族になってくれる可能性のあった人々を喪ったことはあまりにも辛い記憶で、口からぶちまけることができなかった。アーウィンが死んだ事実はまだ日が浅く、彼女の首が落ちていく光景は鮮明にわたしの脳裏を駆けた。

 

 心というものを忘却または知らないふりを決め込んだところで、完全に無視することはできない。自分を騙せるほど完璧な嘘つきじゃないのは、法で嘘が禁じられる世界に生きていたからだろうか。

 

 不意にヘスティカが身を乗り出してわたしを抱きしめていた。耳元にすすり泣く声が聞こえる。

 

「ごめんね、本当に。辛いのに、よく生きていてくれて。私がもっと早く来てあげていれば………」

 

 わたしの身体を包むヘスティカの手はとても温かく、抵抗する意思すら芽生えなかった。

 

 母の温もり。それがどういうものか知らないのだから、ヘスティカから感じられる熱がそれという確証はない。だけど確かなのは、それがとても心地よかったということだ。人の体温が心地よいと思えたのは、この時が初めてかもしれない。

 

 だけど愛情というものはなかなかに重いもので、抱かれる力の強さに「苦しいです……」と呻くと慌ててヘスティカは「ごめんなさいね」と椅子に腰を戻した。

 

「当初は、私がこの世界で赤ちゃんからまたあなたを育てるつもりだった。でもそこまでの介入は研究機関側から拒否されたの。だからこの世界のどこかの夫婦の子として、あなたが産まれるよう操作することしかできなかった」

 

 まるでカッコウという鳥みたいだと思った。別の鳥の巣に自分の卵を潜ませ気付かない親鳥に育てさせる。

 

 代理母、とヘスティカはわたしの産みの親を形容していた。まさに言葉通りだ。自分の血を受け継いでいない他人の子を孕まされていたなんて。

 

 神の御業、いや母の愛とは奇跡的だけど残酷でもある。代理母に選ばれた女性は気付いていただろうか。多分気付かなかったことだろう。何人の男に抱かれようが、夫婦の祝福を受けた夫とでなければ子は成せない。その節理はわたし自身の身体で体験している。

 

「あなたがどこにいるか大体の居場所は掴めていたけれど、すぐに迎えに行けなかった」

「どうして?」

「セツナよ」

「彼を知ってるんですか?」

「ええ、よく知っているわ。彼は私の協力者だったから」

「協力者?」

 

 ヘスティカはこめかみに指を当てながら、深く溜め息をついた。

 

「私ひとりであなたを見つけるのは難しいから、彼にも協力してもらっていたの。でも問題が起こったわ。いざこの世界に来るとき、彼はあなたを見つけたら伴侶にすることを要求してきた。勿論私は拒否したわ。だけど彼は研究員を人質にとったの」

 

 その話をするヘスティカは少し疲れたように目を伏せる。正直、人質なんて手段をセツナが選択したことを意外に思った。あの男は問答無用で殺しそうだから。

 

「彼は、私の世界では凶悪な殺人鬼だった。何人もの人々が彼に殺されたわ。女性の被害者には乱暴された人もいた」

「あなたはそれを知っていたんですか?」

「ええ、知ってたわ」

「ならどうして彼を?」

「研究機関との取引だったの。無垢な魂に人格を書き込めるのなら、既に人格が規定された魂も書き換えができるんじゃないかって」

 

 わたしは予想できたことに悪寒めいたものを背に感じながら、恐る恐る訊いた。

 

「じゃあ、セツナはその実験の?」

「ええ、私があなたの再生を依頼した見返りとして、先方はセツナの身柄を要求してきた。悪人を善人にするための実験体として」

 

 魂の上書き。ヘスティカの語る実験で思い浮かんだのは、かつての為政者に記憶を奪われ都合の良い人形として仕立てられた、ユーリィたち整合騎士だった。

 

 神と謳われる者たちの世界だ。それくらいはできて当然なのかもしれない。

 

「私たちは何とか彼を拘束し、緊急の措置として記憶を消去してこの世界に送り込んだわ。だけど間の悪いことに転送先があなたの居た村の近くになってしまって、下手に動けば何かの拍子で彼の記憶が戻ってしまうかもしれない。だから、あなたと彼が離れる機会をずっと待っていたの」

「わたしをずっと追跡していたってこと?」

「ええ、知っていたわ。あなたが受けた仕打ちも全部。知っていたのに、何もできなかった自分を呪った」

 

 また、ヘスティカの目から涙が零れた。目元の化粧を巻き込んだせいで黒い涙になってしまっているが、そんなことに気付いていないのか、それとも気にしていないのか成すがまま流し続けている。

 

「本当に、よく生きていてくれたわね。ずっとあなたに会いたかった」

 

 椅子から立ち上がった彼女は再びわたしの身体を抱きしめた。やっぱり熱い。そして力が強く少しばかり苦しくもあった。

 

「もう苦しまなくていいわ。これからは幸せに暮らせるのよ。私が幸せにしてみせる」

 

 この時のわたしにあったものは、戸惑いという言葉が最も相応しい。

 

 母の愛。それを感じ取るのに、様々なものを学ぶ機会がなかったわたしにとって、まだ実感の伴うものではなかった。

 

 

   3

 

 ヘスティカが拠点としている場所はどこかの屋敷もしくは城のように豪奢だけど、どちらでもない。飛空艇、と彼女は言っていた。風素と熱素の神聖術で、建物を丸ごと空に飛ばしているのだという。

 

 にわかには信じられない話だけど、窓に広がる景色はわたしにその事実を誇示してくる。

 

 外の景色が一望できるガラス張りの広間に案内されたわたしは、ヘスティカが所用のために去ってもひとり目に映るもの全てに見入っていた。

 

 どこまでも広がっていく蒼穹。色彩は蒼と雲の城だけの、単純さを突き詰めた美しさだった。でも、無駄なものが一切ないというわけでもない。蒼を越えた先には赤い暗黒界の空が広がっていて、その遥か彼方に朧気ながら影があった。

 

 あれが終わりの壁。ユーリィは人界代表剣士が越えようと試みていると言ったが、雲を突き抜けるあの壁を越えられる者がいるだろうか。

 

 まあ、気にしても仕方のないことだ。わたしはもうじきこの世界を去ることになるのだから。ヘスティカが居た世界へと。

 

 わたしはさっき聞いた説明を、自分なりの解釈を交えながら頭の中で咀嚼し反芻した。

 

 ヘスティカがこの世界に来る際、セツナとは別の問題が発生して簡単に元の世界に戻ることが叶わなくなったという。問題解決にどれ程の時間が掛かるのか分からない上に、この世界と向こうでは時間の流れが大きく違う。あちらでの数分が、こちらでは数年という差らしい。しかも伝達手段もないのだとか。

 

 だからヘスティカは、向こうから迎えに来てくれる時を待つことにした。わたしと自身を特殊な神聖術で深い眠りに落とすことで老化を止める。そうすればどれ程の時間が経とうが、今のままの姿でリアルワールドに行けるらしい。

 

 リアルワールド。わたし達アンダーワールドの住人が神界と呼ぶ世界。人界代表剣士と副代表剣士、そしてセツナが生きていた世界でもある。

 

 セツナはどうなるのか、わたしはそれとなく訊いた。答えたとき、ヘスティカは逡巡した様子を見せていた。

 

「彼はあまりにも危険すぎる。この世界に死ぬまで閉じ込めるわ。元々、もし実験に失敗しても被害が出ないように彼をこちらに送ったのよ」

 

 その事にわたしが安堵していたのかは自分でも分からない。確かに彼は恐ろしい殺戮者で、故郷の世界でも同じだったことは容易に想像できる。でも、それだけでないような気もしていたのだ。ただ殺すだけの人間であることが、彼の全てだったのかと。

 

 わたしのこんな感情を、彼はかつてストックホルム症候群と言っていた。相手がいくら恐ろしい悪人でも情が移ってしまう。馬鹿げた感情だ。彼の言う通り一種の病気かもしれない。

 

 仮にわたしがそれを認めたとしよう。だからといって、ヘスティカに彼も一緒になんて言えはしない。わたしに決められることではないのだ。

 

 思えば、わたしのこれまでは全て他の誰かに決められていたように思う。アーウィンやユーリィ。今はヘスティカ。異議を挟む余地もなく、わたしは他者の決めた自分の処遇を実感も伴わないまま受け入れてきた。

 

 思わず笑みが零れる。我ながら主体性のない人生だ。でも、こればかりは受け入れても良いだろう。わたしを死んだ娘の現身とみるヘスティカに着いていく。彼女と共に往く世界は未知の領域だけど、悪いようにはならないはずだ。

 

 わたしはどん底にいた人生から抜け出せる。そう思っても、光というものを知らないからやはり実感が湧かなかった。わたしはどこまでも無知だ。

 

 部屋に戻ろうと広間から廊下に出たところで物音がした。何かがぶつかる音。間隔を開けて並ぶドアのひとつから、それは聞こえた。

 

 聞き覚えのある音だ。かつてわたしが戯れとして受けていた、人が人を殴る音。ゆっくりと音を立てないようドアを僅かに開けると隙間から音と、そして声が明瞭になる。

 

「その目は何? いつも反抗的な目ね」

 

 ヘスティカの声だった。さっきわたしに向けた慈愛なんて一切感じられない、虐げる声音を向けられているのは、床に倒れた黒い影だった。

 

 その姿にわたしは危うく声を出しかけた。それは、セツナを破りわたしをここへ連れてきたのだろう黒衣の男だった。この時もフードを被っているから口元以外は暗闇に覆われている。

 

 ヘスティカの爪先が、黒衣の男の腹に突き刺さった。胃液を絨毯にぶちまけ悶絶するその惨めな姿を前にして、ヘスティカはドレスの肩ひもに指をかけて慣れた所作で脱ぎ捨てる。

 

 痩せ過ぎずある程度に肉のある肢体をさらけ出して、未だ苦しむ男の服に手をかけた。これから起こるだろうことのおぞましさに耐え切れず、わたしは注意深くドアを閉める。閉まりきる直前に、ヘスティカの声がするりと聞こえてきた。

 

「お仕置きの時間よ」

 






そーどあーと・おふらいん えぴそーど23


キリト=キ
アスナ=ア


ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」

キ「解説のキリトです」

ア「いやー、ようやくナミエの正体が分かったわね!」

キ「いやまあ驚きといえば驚きだけど、何だかなあ………」

ア「何よキリト君。言いたいことがあるならはっきり言いなさい。そのためのコーナーなんだから」

キ「いやまあ……『オーディナル・スケール』と同じネタだなと………」

ア「そう、その通り!」

キ「自覚あったのかよ!」

ア「作者もネタ被りは承知の上で書いていたわよ。まあでも、死んだ身内をAIやロボットとして蘇らせるネタなんて腐るほどあるし、そういう点では『オーディナル・スケール』も斬新な設定とは言えないから開き直ることにしたのよ」

キ「おい公式様をディスるな! 原作者様並びに原作ファンの皆様申し訳ございません!」

ア「まあ、ネタ被りしても作風が全く違うんだしまんまってことはならないわ」

キ「まあ確かにそうだけど………そうなるのか? よく分かんなくなってきた」

ア「ちなみに作者は『オーディナル・スケール』をまだ観ていないそうです。設定に関してはネットで既にネタバレしてるけど」

キ「ええ⁉」

ア「観て感動したら似たようなの書いちゃいそうだから敢えてまだ観ていないそうよ。この作品が終わったら観るそうです」

キ「むしろ影響受けてくれればこの作品がいくらかマイルドになりそうなんだが………」

ア「鬱に振り切っていきます! 今回明かされたセツナの正体みたいに!」

キ「ああ正直ナミエの正体のほうが大きかったから何かオマケな感じだったなセツナのほうは」

ア「原作でキリト君やわたしの記憶を消すことができたから、なら改竄して別人格にもできるんじゃね、ということでセツナ人格矯正というネタができたみたいね」

キ「ラースならできそうだけど、菊岡さんがそんな実験するかな?」

ア「あの人なら魂いじくってもおかしくないじゃない腹の底見えないんだから」

キ「否定できない………」

ア「それでは次回についてだけど、投稿が遅れます!」

キ「今回も遅かったけどな」

ア「それは作者のモチベーションの問題よ。次が遅れるのはキャラデザのためです」

キ「ヘスティカと黒衣の男のか」

ア「そう。やっとストーリーも佳境に入ろうとしている頃なので、シーンが浮かびやすいよう新キャラふたりのビジュアルを読者様に知ってもらいたいという作者のこだわりよ」

キ「次はいつ投稿になるかな……」

ア「多分めっさ遅くなるわ!」

キ「堂々と宣言することじゃないわ!」

ア「それじゃあ次回、お楽しみに!」

キ「気長に待っていてくれよー」
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