ソードアート・オンライン パラダイス・シフト   作:hirotani

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武器物語(ウェポンストーリー)

寄葉(ヨルハ)機剣(きけん)・二号式B型》

これは心を禁じられた機械人形の物語。

【極秘】ヨルハ機体E型運用計画

アンドロイド運用に際し、部隊内部からの機密情報漏洩の危険性が指摘された。シミュレーション上では知能スペックを高く設定されたスキャナーモデルの機体がヨルハ計画の全容を把握する可能性が高い。

機密情報の拡散を防ぐべくエクセキューショナーモデルの開発を立案。担当任務はヨルハ計画を知った機体および部隊を離反した機体の処分。任務内容の特異性から運用する機体はメンタリティが強固なモデルを採用する必要がある。

特にアタッカー二号の後継モデルが適任とされ、本モデル運用のためパーソナリティデータの調整を進めるものとする。




第24幕 ラバーズ・コンツェルト

 

   1

 

 あてがわれた部屋でどれ程ぼうっとしていただろうか。四角く切り取られた窓の奥に広がる空を眺めていたときにドアが叩かれ、がらんどうに「はい」と返事をすると入ってきたのはヘスティカと、あの黒衣の男だった。

 

 思わず身体が強張るけど隠せたらしく、ヘスティカは相変わらず優しく美しい笑みを湛えている。

 

「調子はどう? 何か欲しいものはある?」

「いえ、何もいりません」

「そんなかしこまらなくたっていいのよ。親子なんだから。私のこともお母さん、て呼んでほしいわ」

「えっと、それは………」

 

 言い淀んでいると、ヘスティカは少し寂しそうに眼を伏せた。

 

「そうよね。会ったばかりなのに急すぎたわ、ごめんなさい」

「いえ、そんなこと――」

「良いのよ。これから親子になっていけばいいんだから」

 

 ヘスティカが傍に控えていた男の背中に手を添えると、彼は1歩前へ出た。

 

「何か用があれば彼に言って」

「その人は……?」

「リアルワールドから一緒に来てくれた、私の従者よ。怖いかもしれないけど大丈夫。あなたに悪い事しないよう言いつけているから」

「はあ………」

 

 黒衣の男は微動だにせず、直立不動を貫いている。こんな時でもフードを脱がず顔を隠しているのは、何か理由でもあるのだろうか。さっきヘスティカに服を剥ぎ取られていた彼の顔は見ていないから、影の下でどんな表情を浮かべているのか窺い知ることができない。

 

「その人、とても強いんですね。セツナをやっつけるなんて」

 

 わたしが言うと「そうでしょう」とヘスティカは得意げに応えた。

 

「もしセツナが暴れたとき、あなたを守るためにこの子にも来てもらったの」

 

 つまり彼は、セツナに対抗するための戦士だったわけだ。強いはずだ。

 

「セツナのことは忘れなさい」

 

 ヘスティカの毅然とした声に、わたしの身体は身震いした。彼女は慈愛なんて込めず、冷たく告げる。

 

「これから彼を探し出して、この子に始末させる。連れてきた責任として、アンダーワールドに彼を野放しにしておけないわ」

「彼は、自分が過去に何をしたのか思い出せないまま殺されるんですか?」

「記憶をなくしても、過去が消えるわけじゃないの。あなたも見たでしょ? 自分が何者なのか分からなくても、彼の身体にはかつての殺しの術がしっかりと刻み込まれている」

 

 斬撃と悲鳴。それらの耳障りな騒音が消えた後の視界に広がっているのは血とばらばらにされた人体。彼にまつわる記憶にはそれらの吐き気を催すほど物々しい光景がまとわりつく。

 

 セツナ自身、自分の過去がまともなものじゃないことの自覚はあった。その予想が的中していたというだけの話。法に縛られないからといって、剣を握り躊躇なく人を殺めることができる理由にはならない。真っ当な人生を送り道徳を学んだ者ならばしないだろうことを、彼はやってのける。

 

「罪は償わないと。それは私の世界も同じ」

 

 そう言ってヘスティカは出ていった。部屋にはわたしと黒衣の男のみが残される。わたしは顔が見えない彼を見つめるけど、相変わらずその場から動く気配がない。まるで置物だ。ただそこに居るだけの人形。

 

 いや、とわたしは思い直した。人形なのはわたしも同じじゃないだろうか。死んだヘスティカの娘に似せて造られた存在。そうあるべきと魂と容姿を意匠され、このアンダーワールドに産み落とされた。

 

 この瞬間、わたしが実は造られた子どもと分かっても、その事実に動揺はなかった。その空虚じみた心も、最初からヘスティカにとって都合の良いように形作られたとしたら。そんなことを想像しても、やはり何も湧き上がるものはない。

 

 それよりも気になっていたのはこの黒衣の男。セツナを倒すほどの強さを持ちながら、ヘスティカからの暴力に反撃すらしなかったことへの疑問だった。

 

「あなた、さっきあの人に何されてたの?」

 

 わたしが訊くと、少し逡巡を挟みながらも彼はフードから辛うじて見える口元を動かし、声を発した。

 

「修正」

 

 短い返答だった。訊いておきながらまさか答えるとは思わなかったので驚いた。それに声も。思春期の変声期を迎えたばかりの、甲高さを微かに残した少年の声だった。

 

「修正?」

「俺が気に入らないことをすれば教育する。同じ間違いを繰り返さないように」

「そのためなら殴られても構わないの?」

「ああ」

 

 胸の奥にざわつきのような不快感を覚えた。まるで自分自身を見せられている気分だった。貴族の癪に障れば暴力を振るわれ、身体まで弄ばれる。隷属を身体に染み込ませ、逆らう気力を奪われ理不尽をされるがまま享受する、歪んだ迎合。

 

「痛いのは嫌って思ったことない?」

「痛みは慣れれば軽くなる」

「それでも痛いじゃない。逃げたいと思ったことは?」

「マザーに尽くすことが俺の役目だ」

 

 マザーとはヘスティカのことか。その些細な疑問は飲み下しつつ、わたしは更に尋ねる。

 

「あの人のもとが、あなたの正しい居場所?」

「そうだ」

 

 男の答えには逡巡を感じさせる間がなく、そして明確だった。

 

 ある意味で羨ましい。自分の正しい居場所が分からないわたしに対して、この男は在るべき場所を知っている。それがたとえ自分に苦痛を与える場だとしても。

 

 わたしはこれからの事に一抹の不安を覚える。ヘスティカと共にリアルワールドに行けば幸福が得られるはず。ヘスティカはそう約束した。

 

 だけど、以前と何も変わらない気もしたのだ。他人に自身の行き先を決められ、逆らうことが赦されない世界が待っている予感が、裡で大きくなっていく。

 

 ごうん、と大地が轟くような音と共に、部屋が大きく揺れた。立つこともままならず膝を折る。立ち姿勢を保っていた黒衣の男はわたしの腕を掴み「来い」と立ち上がらせる。

 

 部屋を出ても揺れと轟音は断続的にやってきた。その度にわたしは千鳥足になり、男に支えられ強引に足を進めさせられる。

 

「ナミエ!」

 

 どこかの部屋から出てきたのか、ヘスティカがわたし達に合流した。「どうしたんです?」と訊くと、ヘスティカは早口に答える。

 

「赤い飛竜よ。どうしてここが――」

 

 連れ込まれたのは、さっき空を見ていたガラス張りの部屋だった。ここなら外で何が起きているのか見やすい。

 

 雲しかないはずの蒼穹。その蒼の中に赤い影が翼を翻して旋回しているのが見えた。影が急速にこちらへ接近してきて、飛竜としての輪郭をはっきりさせる。

 

「伏せよ!」

 

 顎門の声が聞こえ、咄嗟にわたしはその場にうずくまって頭を手で覆った。直後、硬質の薄膜が砕ける甲高い音が響いた。同時にとてつもない強風が吹き荒れる。

 

 顔を上げると、部屋のガラスが綺麗さっぱりなくなっていた。体勢を崩したのか床を転がるヘスティカを黒衣の男が抱きかかえて、廊下のドアへと運んでいる。

 

「ナミエ! ナミエを早く!」

 

 ヘスティカがそう喚いても、黒衣の男は彼女の保護を優先しているようで実直に歩みを止めはしない。その姿がドアの奥に消えた。見計らったかのように、顎門がガラスのなくなった部屋の下に接近してくる。

 

 風に足を取られそうになりながらも立ち上がって眼下にいる赤い巨体を見下ろす。その背にセツナがいた。

 

「跳ぶのだ」

 

 顎門が言った。その背に跨るセツナも、わたしへと届かない手を伸ばす。

 

「俺を置いていくな!」

 

 それは初めて聞く彼の大声だった。吹き荒れる風の音を貫くように、その声はわたしの耳に届いた。彼の顔を見つめると、そこには今までに見たことのない、まるで渇望するかのような感情めいたものが確かにあった。

 

「システム・コール」

 

 背後から式句が聞こえた。次の瞬間、鉄の矢がわたしの横を飛び顎門の首元に突き刺さる。飛竜にとっては大した攻撃でもないはずだが、不意打ちに体勢が崩れたらしく顎門の身体が飛空艇から離れていく。

 

 振り返ると、ヘスティカが次の式句を唱えようと手をかざしていた。そんな彼女を「危険です」と黒衣の男が再度ドアの奥へと押し込んでいる。多少の押し問答があったが、力比べでは分が悪かったらしくヘスティカは無理矢理に通路へと追いやられてしまった。

 

 強風の中を平然と歩き、黒衣の男はわたしへ近付いてくる。

 

「他に居場所なんてない」

 

 手を差し伸べて黒衣の男が言う。

 

「あんたも俺と同じだ。マザー以外のところで生きることはできない」

「あなたと同じ?」

 

 更に問いを重ねようとしたが、黒衣の男は唐突に剣を抜いた。次に揺れが来て、わたしは対処できず床に倒れる。また顎門だ。飛空艇に体当たりしてきて、その衝撃は黒衣の男でさえ体勢を保つのにやっとなほど強いものだった。

 

 巨体の背からセツナが跳び降り、剣を抜いて真っ直ぐこちらへと疾走してくる。両者が剣を打ち合い、一瞬の拮抗の後にセツナは黒衣の男をわたしから引き離すように押しやった。

 

 剣を弾かれても、男の動きは早くすぐさま反撃に転じて剣を立て続けに突き出してくる。それら全て軌道を逸らすことで捌き、それでも迫る剣を渾身の一手で弾いた。

 

 すぐに男は横薙ぎに剣を振るのだが、セツナが跳躍したことで刃が虚しく宙を空振る。背後に着地したセツナはがら空きの背中に剣を振り下ろすが、咄嗟に男が後ろ手に剣を回したことで阻まれてしまう。

 

 男の蹴りがセツナの腹をしたたかに打ち付け、その身体を離す。身を翻し向き合って、両者は剣を構え直す。

 

 先に動いたのはセツナだった。今度はセツナのほうが絶え間なく剣を突き出していく。数度の剣の応酬の後、男はセツナの剣を受け止め鍔迫り合いに持ち込んだ。そのまま受け流しつつ、力の流れを読んでいたかのように剣を絡め、そして弾いた。

 

 相手の動きに翻弄されて剣を宙に泳がせたセツナだったが、殺気でも読み取ったのか咄嗟に後方へ跳ねた。直後、その足元に男の剣が突き刺さる。中腹の近くまで床に刺さったから容易に抜けなさそうだが、それを利用してか男は剣を軸にして身体を回し、その勢いのままセツナの顔面を蹴飛ばす。

 

 蹴られた顔から床に伏したが、セツナはただでは起きなかった。床に両手をつき、上へと伸ばした足先が男の顔面を打つ。

 

 セツナがすぐ起き上がり、膝を折った男に剣を振りかざすが、咄嗟に腹から身体を持ち上げられ一瞬にして床に組み伏せられた。その勢いに乗じて剣を引き抜いた男が、セツナに馬乗りになって剣を持ち上げる。

 

「ディスチャージ!」

 

 わたしの発した声に、男は狼狽えたように見えない顔を向けた。あらかじめ唱えていた神聖術で生成した熱素の鳥が、わたしの手から飛び立っていく。行く先は男の胸元で、服に触れた瞬間に熱素が爆ぜた。

 

 追い打ちに顎門が翼をはためかせ、ひと際強い突風を生じさせる。足場が安定しないのも手伝って、男の身体がセツナから離れて床を転がっていく。

 

 起き上がったセツナはわたしの手を掴んだ。

 

「来い」

 

 腕を引かれるまま彼と共に走った。床の縁で同時に跳んで、空に躍り出たわたしはセツナにしがみ付く。

 

 冷たい湿り気のある風が顔に突き刺さるようで痛かった。雲の中に入ったがそれは一瞬のことで、霞みかかった視界はすぐに開けて、下に翼を広げた顎門の赤い背中が見えた。

 

 背中はわたし達の身体を受けて止めてはくれたけど、鱗が硬くてお世辞にも優しくとはいかなかった。打った肩や膝の痛みを堪えながら、セツナとふたり何とか腰を落ち着ける。

 

 「良いぞ」とセツナが言うと、顎門は翼をはためかせる。

 

「飛ばすぞ。しっかり掴まっておれ」

 

 一気に加速した顎門の背中で、わたしはセツナの背にしがみ付いているのに精いっぱいだった。少しでも顔を上げたら押し寄せる突風にそのまま吹き飛ばされてしまいそう。

 

 整合騎士たちは皆こんな乗り心地で平気なのだろうか。平気じゃないから重厚な鎧や兜を身に纏うのだろう。

 

 少しでも身じろぎしたら振り落とされる。その恐怖のまま、わたしはただセツナに掴まり急速に乾く目を潤そうと目蓋を閉じた。

 

 

   2

 

 飛空艇から逃げ切れたのか、顎門が速度を落としてくれてようやくわたしは目を開くことができた。

 

 視界に霞が掛かっている。雲の中を飛んでいるようだった。なるほど、これなら地上からも空からも見つけにくい。

 

 風の音に負けじと、問いの声を張り上げる。

 

「どうしてあそこが分かったの?」

「お主があの剣士に攫われるとき、我の鱗をお主の服に忍ばせておいた。後は追跡術であらかたの居場所は分かる。空にいると知ったときは、流石の我も驚いたがな」

 

 「まるで発信機だな」とセツナの呟きが聞こえた。どういうものかは分からないが、おおかたリアルワールドにある技術なのだろう。今度は顎門のほうから質問が飛んでくる。

 

「して、あの者たちは何者だ。あの空飛ぶ風船も、我は見たことがない」

「リアルワールドの人。剣士のほうはよく分からないけど、女の人はわたしの母親って言ってた」

「リアルワールドの母だと? お主はイレギュラーユニットではないはずだ」

「そこのところは、わたしもよく分からない」

「全く、次から次へとイレギュラーが舞い込んでくるな」

 

 100年の時を生きた竜のぼやきに、わたしは「そうね、本当に」と返すしかない。真実を知れば知るほど、分からないことが増えていく。

 

 「良いのか?」とセツナが訊いてきた。

 

「せっかく母親が見つかったんだろう」

「あなたが来いって言ったんじゃない」

 

 「左様」と顎門が笑い混じりに言った。

 

「ナミエを探すと言ったのはセツナであろう」

 

 「そうだったの?」とわたしが訊いてもセツナは無言を貫いた。返答代わりか、顎門の鱗を剣で小突いた。

 

 降下して雲を抜けると、緑に満ちた人界の景色が広がっている。所々に壁で丸く囲まれた都市が点在しているのが見えた。

 

「適当な場所で降ろすぞ。我はしばらく飛び続け、奴らの目を撒こう」

 

 そう言って顎門は更に降下する。果ての山脈をなぞるように飛んでいく。

 

「ナミエ、風素術で落下速度を抑えよ。ありったけの術をな」

「分かった」

 

 セツナが腰に手を回してきて、躊躇なく顎門の背からわたしもろとも滑り落ちる。すぐ真下には森が広がっていた。一瞬でも遅れたら地面に叩きつけられる。ただ式句を正確に告げるよう唇に意識を集中させ、もう眼前にある樹々に向けて風素を放った。

 

 小さな竜巻が起こり、跳ね返るようにわたし達の身体が宙で一瞬だけ静止する。再び落下が始まるけど、それはとても緩やかなものに感じられた。いくつかの枝を折ってようやく、草地に投げ出された。

 

 いくら風の緩衝材を作り、またセツナが下になってくれたお陰で地面との衝突が避けられたといっても、それなりに節々が痛んだ。

 

 草地は柔らかいけど、セツナはわたし以上に痛かっただろう。天命も少し減っているかもしれない。わたしはセツナの首に手を回して、その胸に顔を埋めた。せめて痛みが引くまでの間だけでも、そうしていたい気分だった。

 

 

   3

 

 ようやく立ち上がれるようになって、まだ関節がぎこちないながらもわたし達は森を歩いた。跳び下りる前、森の近くに集落が見えた。方角さえ合っていれば辿り着けるはず。

 

 しばらく歩くと時告げの鐘の音が聞こえて、軋む足を速める。途中に《悪魔の樹跡地》と倒れかけの看板が建てられた大きな切り株を見つけたからそこで少し休憩を挟み、再び歩き始めてからそう時間を要すことなく森を抜けることができた。

 

 森を抜けた先は丘になっていて、そこには金色に色付く麦畑が広がっていた。かつて住んでいた村よりも遥かに広大で、そして豊作だった。暗黒界よりも芳醇な麦の香りを感じながら、ならされた道を進むと背の低い石造りの塀が見えてくる。

 

 近くの川から引いているのか、村は水路に囲まれているようだった。透き通った人界ならではの水にしばし見とれながら木製の門を潜ろうとしたとき、傍に立っていた詰所らしき小屋から大柄な男が出てきた。

 

「こんな村に客なんて珍しいな」

 

 剣を腰に提げていたら身構えてしまったけど、体躯に不釣り合いなほど穏やかな声色に拍子抜けしてしまった。齢は三十路を迎えていそうな男は頭を掻きながら笑い、

 

「ああ驚かせて悪いね。俺はジンク。この村の衛士長さ。ようこそ、ルーリッド村へ」

 

 「君たちみたいな若い客はそう来ないよ」と語るジンクは衛士長の職に就いて長いらしく逞しい体躯をしていたが、実際に剣を抜くような事態は滅多に起こらないというのは本人の談だ。

 

 衛士という職業はかつて暗黒界からの侵略から村を守るために存在していたのだが、異界戦争後に交流が始まってからその役目はすっかり廃れ、今や人員は人界守備軍に流れてしまっている。

 

 この頃だとルーリッドの衛士はジンク氏を含め4人と少なかったらしい。かくいうこの手記を書いている頃には、衛士隊は守備軍に完全併合されている。

 

 わたし達に村のことを話してくれたジンク氏は衛士というよりも、さながら観光案内人のようでもあった。

 

「見ての通り畑以外何もない村さ。天職制度が廃止になってから、ガキは学校出たら農家なんてやだとか生意気言って都市部に出るもんで、働き手はどんどん減っちまう。少し前は富農たちがギガスシダーの切り株を観光名所にしようだなんて言い出したけど、切り株なんて見てもつまんないから村おこしはお察しの通りさ」

 

 なるほど、とわたしは村に来る途中で見た巨大な切り株について納得できた。あの看板は忘れ去られた村おこしの遺構だったわけだ。

 

「まあそれでも暮らしていけるだけ良いさ。異界戦争が始まる直前でゴブリンに襲撃された日は、もう終わりだと思ったよ。整合騎士に助けてもらって何とか村は存続できたんだ」

「整合騎士が村に居たんですか?」

 

 わたしが訊くと、ジンク氏は寂しそうに笑いながら「ほんのしばらくの間だったけどな」と答え、

 

「ずっと礼を言わなきゃって思ってたんだけど会えず仕舞いでさ。多分戦争でも前線に出てたんだろうけど、ちゃんと生きて帰ってこれたのかな、あいつ」

 

 まるで古い友人を懐かしむような声音だったけど、それ以上の追求はしなかった。思うことがあるのだとしたら、初対面のわたし達に簡単に話せることじゃない。

 

 ジンク氏がわたし達に案内してくれたのは、村に唯一ある宿だった。宿といっても《ハナグマ亭》と小さい看板が掛けてあるだけの、遠目から見たら木造2階建ての民家だ。

 

 家の前で椅子に腰かけパイプを吹かしていた中年の男性がわたし達に気付く。

 

「どうしたジンク。サボりか?」

「そんな言い方あるかよ。客を連れてきてやったのに」

「客だあ?」

「ほらお客様に何て口のきき方だよ。安さしか売りがねえんだからせめて愛想よくしろっての」

 

 「お客さんだって?」と宿から恰幅のいい女性が出てくる。夫婦で経営しているのだろうか、夫の頭をひっぱたき「ほら部屋の掃除!」と中へと引っ張っていく姿に思わず笑ってしまった。

 

「ありがとう」

 

 わたしが礼を言うとジンク氏はかぶりを振った。

 

「いや大したことじゃないさ。何て言うかそこのあんた、前この村にいた奴に何となく似ててさ。少し懐かしくなったんだ」

 

 今までひと言も発さなかった「そこのあんた」がようやく口を開く。

 

「俺が?」

「ああ、奇妙な奴でな。最初会ったときはベクタの迷子で、ギガスシダーを切り倒した刻み手の奴と一緒に央都に出てったんだ。それから2年振りくらいかな、今度は整合騎士と一緒に戻ってきたらうんともすんとも言わなくなっちまってたんだ」

 

 青年の回想する若かりし頃、というより幼き頃と呼ぶべきか。その思い出はあまり良いものではなかったらしく、どこか悲しみを浮かべた目でセツナを見ていた。

 

 セツナとよく似たベクタの迷子。聞いた限りだと、その人はセツナよりも遥かに善良そうだ。ジンク氏から血生臭い話が出てこない限りは。

 

「悪いな。つまんない話聞かせて」

 

 それだけ言ってジンク氏は詰所へと戻っていった。

 

 ジンク氏の安さが売りと言う弁に違わず、宿はなけなしの路銀でも食事付きで泊まることができた。商売が成立するのか心配な値だったけど、収入の大半は畑の麦で宿は観光客向けのおまけと女将が笑いながら言っていた。7人いた子ども達が全員央都に上って部屋が余っていたから宿を始めたらしい。

 

 客室はベッドとテーブルのみの質素なものだったけど、これくらいで丁度いい。豪華な装飾に彩られた部屋だとかえって落ち着かない。

 

 窓から果ての山脈の陰に沈みかけた茜色のソルスを眺めていたセツナに、わたしは訊いた。

 

「ねえ、どうしてあんなこと言ったの?」

「何をだ?」

「置いていくなって」

 

 セツナはゆっくりとわたしへと振り向く。いつも通りの無表情だけど微かに、寂しそうなのがわたしには分かった。今にも泣いてしまいそうな。

 

 逡巡を経てセツナが出した答えは「分からない」だったが、「ただ――」と言葉を繋げる。

 

「離したらあんたが二度と戻ってこない気がして……とても怖かった」

 

 初めて、彼の口から弱音めいた言葉を聞いてわたしは内心で驚いていた。同時に、彼になんて言葉をかけたら良いのかも迷っていた。そんなとき視線を降ろしたわたしの目に入ったのは壁に立て掛けられたセツナの剣。

 

 我が物顔で彼がずっと持っていたのは、アーウィンの細剣だった。一時とはいえ忘れることができた悲しみがぶり返してくる。同時にセツナへの、今にも暴発しそうな想いも。

 

「あなたはアーウィンを殺した。それは赦せない」

「ああ」

「それなのにわたしに居て欲しいの?」

「ああ」

「あなたが憎いのに?」

「償い切れる罪じゃないならせめて、受け止めることしかできない」

 

 頭の中で色々な感情がない交ぜになっていて、今にもおかしくなってしまいそう。この男はわたしの恩人を殺したけど、この男もまたわたしの恩人なのだ。あの地獄のような、いつ死ぬかも分からない閉ざされた村からわたしを血塗れになりながら引っ張り出してくれた。そこからわたしの「正しい居場所」を見つける旅が始まったのだけど、それはすぐ傍にあったのだと思える。

 

 矛盾していて、歪んでいる。わたしも彼も、やはり何かが欠落した人間なのだろう。人が本来なら持つべきものを持たず、持つべきでないものを手にしてしまっている。わたしの場合は、この魂が造られたものだからなのかは微妙な線引きだ。

 

 差し伸べられたセツナの手に、わたしは抵抗しなかった。抱き寄せる彼の手は力強かったけど、優しくて温かくもあった。これも酷い矛盾だ。多くの人間を殺めてきた手が、ひとりの女を壊さないよう包んでいるなんて。

 

「名前を呼んでくれ」

「セツナ」

 

 アンダーワールドでは聞き慣れない響きの名前を囁く。

 

「わたしのほうも、名前で呼んでよ。あんたじゃなくて」

「ああ、ナミエ」

 

 わたし達は向き合い、互いの顔を眺める。思えば互いの名をしっかりと呼んだのも、この時が初めてだった。約1カ月と短いながらも、ずっと一緒に居たというのに。

 

 どちらからともなく更に顔を近付けて唇を重ねる。同時にソルスが山の陰に隠れて、完全に世界は夜の(とばり)を降ろした。

 






そーどあーと・おふらいん えぴそーど24


キリト=キ
アスナ=ア
ユージオ=ユ


ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」

キ「解説のキリトです」

ユ「また呼ばれてきました、ユージオです」

キ「ユージオ、また来てくれたんだな………(泣)」

ユ「キリトいちいち泣かないで開始早々疲れるよ!」

ア「さあて、今回は胸の熱くなる展開だったわね!」

キ「ああ。攫われたヒロインを主人公が助けに来るのは王道だよな。あと今回で初めてセツナが飛竜に乗ったわけだ」

ユ「いやあこういうのって見ててわくわくするよね。子どもの頃、アリスがデュソルバートさんに連れていかれた時を思い出すよ」

キ「ああうん、俺たちがアリスを助けられなかった時ね。一気に空気重たくなっちゃったよユージオ………」

ア「作者曰く原作との対比も兼ねて救出劇になったそうです。お子様だったふたりと違ってセツナには助けるだけの力があるから」

キ「俺たちの古傷を抉るな! にしてもセツナが戦った黒衣の剣士、凄い戦い方だな。剣術だけじゃなくて蹴りとかの体術まで使うのか」

ユ「アンダーワールドじゃ純粋に剣のみで戦うのが美徳とされているから邪道だよね」

キ「ああ、それにソードスキル――秘奥義を一切使わなかったことも特徴的だな。アインクラッドでもハイレベルなプレイヤー同士のデュエルじゃ、互いにソードスキルの動きを読まれるから使うことは滅多になかったけど」

ユ「そうなんだね。修剣学院での稽古じゃ、秘奥義の動きが分かっても避けるよりも技の受け止めとかを教わるのが多かったかな」

ア「アンダーワールドの剣技は実戦的とは言えないわよね。そういう意味でも、現実世界から来たセツナや黒衣の剣士の戦い方はかなり異様ね」

キ「作者としては技の打ち合いだと絵的に単調になるから、アクロバットな戦い方を演出することにしたみたいだ」

ユ「いくら邪道な戦い方でも、ナミエが神聖術で助けてくれなかったらやられてたと思うと相当危なかったんだね」

キ「ああ、あの剣士はかなりの強敵だぞ。素性含めて今後どう出てくるかも注目だな」

ア「で、ふたりが辿り着いたのは何とルーリッドの村! 久しぶりの故郷を見た感想はどうユージオ?」

ユ「10年経ってもあまり変わりないみたいで、少し安心したかな。僕が倒したギガスシダーの切り株が観光名所になっているなんて少し照れ臭いけどね」

ア「すぐに寂れちゃってたけど!」

キ「余計なことは言わなくていい。にしても天職制度を廃止したことで村の過疎化が進んじゃってるのも複雑な気分だよな」

ユ「誰もが好きな道に進めるようになったなら仕方ないことだよ。僕だって子どもの頃は剣士や騎士に憧れてたしね」

キ「ダークテリトリーへの支援のために農業はもっと拡大していきたいところなんだけどな。安定供給って意味じゃ、天職は理に叶っていた制度だったんだな」

ユ「それを分かってても、キリトは廃止したでしょ?」

キ「まあな。よく分かってるじゃないか」

ユ「親友だもの」

ア「はいはい乳繰り合わないの」

キ「しとらんわ!」

ア「せっかく懐かしのジンク君が登場したのにいつまでも話題に出なくて可哀想じゃない」

キ「ああジンクね。あのアリスに気があってユージオに対抗心燃やしてたモブ君の」

ユ「すっかり大人になってたよね。昔馴染みが成長してるのって見てて和むよ」

ア「劇中では出なかったけどジンクは結婚して子どもがいることになってるわ。あと喋り方も、作者はユージオに少し似せるよう意識したそうよ」

ユ「え、僕に? 子どもの頃はよく僕をからかってたジンクがどうして?」

キ「憧れってやつだよ」

ユ「ジンクが? まさか」

キ「いや、ユージオをからかっていたのはアリスと仲良しだったことへの僻みだよ。年月が経つにつれて自覚して、それがいつしか憧れや尊敬になって口調を真似るようになったわけさ」

ア「村を出るユージオに剣で負けちゃってるものね。それもあって心の奥ではユージオの強さを認めてたのよ」

ユ「何か、照れるな………」

キ「伝えようにもユージオはもういないから、せめて代わりとして村を守ろうってことなんだ。他の若者たちみたいに央都に上らず村に残ったのも、それが理由なんだろうな」

ユ「本当に大人になったんだね、ジンク」

ア「さあそして今回一番の山場よ! セツナとナミエ、とうとうくっつきましたヤッタあああああ‼」

ユ「あああアスナ⁉」

キ「落ち着け! 崩壊してるキャラが更に酷くなってる!」

ア「だってやっとよ? 主人公とヒロインがやっとベッドでオホホになったのよ。これはもうお赤飯よ!」

ユ「因みにだけど、その……接吻の先はしてるのかい?」

ア「あらユージオ聞いちゃうそれ? あなたも好きねえ」

キ「今度はおばちゃんみたいになってるぞ。ユージオもそういうこと聞くもんじゃないぞ。そこを敢えて本編でぼかしてだな――」

ア「ヤってるわよ、最後までしっかり」

キ「おおい俺のフォロー!」

ア「読者さんの想像に任せるって言ったって皆もう分かりきってるわよ。逆にヤらなかったらヘタレじゃない」

キ「いやまあそうだけどさ………」

ユ「凄いよねえ。僕はそういう展開もなく死んじゃったから………」

キ「本当にごめん、ユージオ……」

ア「大丈夫よユージオ。あなたが再会したアリスは幼馴染とは別人みたいなもんなんだから。あんな暴力女アリスを抱いたところで意味なんて無いのよ」

ユ「ねえキリト、僕は慰められてるのかい?」

キ「うん、一応アスナなりのフォローなんだ。ごめん、本当はもっと気遣いのできる人なんだよ。作者の悪ふざけでこうなってるだけで」

ア「さて、それでは新キャラふたりのビジュアルができたので公開するわよ! まずはヘスティカです!」

【挿絵表示】

キ「ふーん」

ユ「本編でも容姿に触れられてたけど綺麗な人だね」

ア「今まで女性キャラはスリーサイズまで設定していたけど、ヘスティカに関しては身長168センチとしか記載がないわ」

キ「珍しいな、今までラブライブのキャラと似た体型にしてたのに」

ア「ラブライブは皆女子高生だけど、ヘスティカは熟女なのでスリーサイズなんて需要ないだろうという作者の配慮です」

キ「どうせ面倒くさいだけだろ………」

ア「まあ見た目グラマラスだけど年取ったら垂れちゃうし、別に知らなくてもいい情報よね」

キ「今までも必要不可欠ってわけじゃなかったけどな」

ア「何言ってるのよ。ギャルゲーなんてヒロイン全員のプロフィールにスリーサイズは必須じゃない」

キ「いやこれギャルゲーじゃないから。至って真面目な小説だからね」

ユ「キリト、僕あまりリアルワールドの文化とか分からないんだけど」

キ「お前は知らなくていいんだユージオ。どうかそのままでいてくれ………」

ア「真面目な解説だと、アドミニストレータとは別ベクトルの美貌という人物設定みたいね。アドミニストレータはハイティーンの若さと美貌を持つキャラなのに対して、ヘスティカは美魔女という設定になってるわ」

キ「大人の女性であることを前面に出してるわけか。でもあくまでこの姿はアンダーワールドでのアバターなわけだよな」

ア「その通り。でも作者としては、現実とメイクが違うだけであまり変わらないそうよ。わたしもスーパーアカウントでログインしたけど、容姿は現実とあまり変わらなかったわけだし」

ユ「このヘスティカもスーパーアカウントみたいに、特別な能力を持たされてるってことはあるの?」

キ「うーん、まだ詳しくは明かせない段階だけど、スーパーアカウントほどじゃないにしてもそれなりの能力はデザインされているみたいだ。ナミエを見つけたらディープフリーズするつもりだったことから、神聖術ではかなりの権限を持っていることになるな」

ア「娘をAIとして復活させるためにアリシゼーション計画に関わっているってことは、現実世界でもかなり地位がありそうね」

キ「それは間違いないな。アリシゼーション計画は極秘だったわけだし」

ユ「作中だと娘さんを亡くした可哀想なお母さんって感じだけど、所々で底知れない雰囲気があったよね」

キ「ああ、まだまだ出てきそうだな」

ア「さあて、次は黒衣の男よ!」

【挿絵表示】

キ「おお、いかにもアサシンて感じだな」

ユ「キリトこういう服好きそうだね」

キ「やっぱ黒は身が引き締まるからなあ。そこのところは作者のセンスに共感するよ」

ア「単にセンスないだけでしょ」

ユ「アスナ、やめてあげて。キリトが落ち込んじゃってる」

キ「ええと……、まあこいつもまだ謎が多いキャラだな………」

ユ「そうだね。今のところはセツナと互角に戦えるくらい強いってことくらいだよね。一度は勝ってるわけだし」

キ「もうひとつ分かってるのはヘスティカに従順なことだな。黒衣の男の正体についてはまだ明かせないみたいだ」

ユ「ナミエはまだ少年くらいって思ってたけど、実際どうなんだろうね」

ア「それもまだ明かせないわ。本当、謎だらけって面倒くさいキャラ設定よね。作者も設定分かりきってるのにこういう裏話でどこまで情報出せばいいか迷っちゃってるし。お陰でセツナもある程度正体分かってきてるのにまだ出していいか分からない情報多いのよ」

キ「メタな愚痴はやめろ! やっと色々と謎が明かされて伏線回収に入り始めてるってのに」

ユ「まあセツナとナミエが無事結ばれたってことで、これからどうなるかに注目だね」

キ「いや油断できないぞユージオ。この作者ほのぼのを許さないからな………」

ユ「やっと分かりやすい幸せな描写が出たのに……。いや、幸せなのかな? よく分からないね」

ア「さあ、今回はここまで! これからどんな鬱展開が待っているのか、こうご期待!」

キ・ユ「ばいばーい」
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